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聖女三姉妹 ~本物は一人、偽物二人は出て行け? じゃあ三人で出て行きますね~  作者: 日之影ソラ
長女アイラ

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 メルフィスは去っていく。

 その後ろ姿を、ハミルは覚悟を胸に見つめていた。


「必ず……認めますよ、兄上」


 不足しているものはわかっている。

 王子である自分と釣り合うだけのものが、今の彼女にはない。

 聖女であることは、この国では大きく影響しないからなおさらだ。

 方法ならいくつかある。

 ほとんどが偶然を始まりにしているから、何とも言い難いけど。

 まぁその前にちゃんと、自分の想いを告げないとな。

 ただ、もう少しだけ――


「待っていてくれるかい? アイラ」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「ありがとうございました! 聖女様」

「全ては主の御業です。貴女がこれまでに積んだ善行が、今の貴女を救ったのでしょう。これからも良い行いを心がけてくださいね」

「はい!」


 最後の一人が聖堂から去っていく。

 時計の針が午後五時を告げて、ちょうど鐘の音が鳴り響く。


「聖女様、お疲れさまでした」

「はい。ユレスさん、皆さんもありがとうございます」

「お疲れ様ですアイラ様! 今日もとっても素敵でした!」

「ふふふっ、ありがとうミスリナ」


 私の役目はここまでだ。

 後の片づけや掃除は、修道女の彼女たちがやってくれる。

 いつもならすぐに帰宅する。

 二人が帰ってくるより前に、夕飯の支度を済ませておきたいから。

 でも、今日はちょっとソワソワしていた。


「メルフィス王子は本当に来られるのでしょうか?」

「殿下は嘘つきません。来られるとおっしゃられたなら、まず間違いなく来られます」

「では、しばらく待ちます」

「いいや、待たせることはないよ?」


 聖堂の扉がガチャリと開いた。

 噂をすれば、メルフィス王子の姿がある。

 彼を見た途端、修道女たちはすぐさま膝をつく。


「いいよ。君たちには仕事があるのだろう? 私に構わずその役目を果たしておくれ」


 メルフィス王子は優しく修道女たちにそう告げ、私のほうに目を向ける。


「こんばんは、聖女アイラ」

「こんばんは、メルフィス王子」

「務めは終わったようだね? この後少しだけ時間はあるかな?」

「はい」

「それは良かった。昼にも伝えたと思うけど、君に話したいことがあったからね」


 私とメルフィス王子は向かい合う。

 何度見ても、やっぱりハミルによく似ている。

 兄弟だから当たり前なのだけど、何だか不思議な気分だ。


「ユレス司教、奥の部屋を貸してもらえるかな?」

「はい。ご自由にお使いください」

「感謝するよ。では聖女アイラ、少々ご一緒していただけるかな?」


 そう言って、メルフィス王子は手を差し伸べてきた。

 まるで姫様にダンスを誘うかのように。

 私は少し照れながら、その手をとって二人で応接室に向う。

 応接室に入ったら、私たちは向かい合って座った。


「さて、お務め疲れているのにすまないね」

「いえ、お気になさらないでください。私もメルフィス王子とは、こうして一度お話をしたみたいと思っておりましたので」

「へぇ、それはまたどうして?」

「ハミ――」


 あれ?

 これって話してもいいことだったかしら?

 でも私を推薦してくれたのはハミル王子だし、交流があるのは不自然じゃないか。

 

 と、悩んでいるとメルフィス王子から言う。


「ハミルから聞いていたかい?」

「えっ、あ、はい。そうです」

「そうか。変なことを言っていなければいいが」

「変なことなんて一つもありません! ハミル王子はメルフィス王子のことを心から敬愛しておりました」


 だからこそ、私も一度はこうして話してみたいと思っていた。

 ハミルが話すお兄さんが、どんな人なのかをこの目で見てみたかったから。


「ならばよかったよ」

「あの、メルフィス王子はどうしてこちらに? 確か王子は今、大切なお仕事で国外にいると」

「ああ、ちょっと用事があって戻って来たんだよ。そのうちの一つ、ハミルへの縁談話をさっき済ませてきた所さ」

「え、縁談!?」


 思わず声に出して驚いてしまった。

 そんな私を見て、メルフィス王子は笑う。


「はっはははは! あいつも君も、本当にわかりやすいな」

「っ……も、申し訳ありません」

「謝ることではないさ。しかしそうか、君も……」


 メルフィス王子は切なげな表情をして目を伏せる。

 彼の表情の意味も気になったけど、今はそれ以上に知りたいことがある。


「あ、あの、ハミル王子は縁談を……」

「受けるしかないよ。今は特にね」

「そう……ですか」

「ただ、あいつは受ける気なんてサラサラないようだ。生意気にも私にそう言ったからね」

「そ、そうなんですか?」

「ああ。それにしても、君はあいつ以上に表情が軽いな」

「えっ、あ――」


 嬉しさが表情に出てしまっていたようだ。

 慌てて戻そうとしても、見られているから手遅れ。


「その顔見れば、君があいつをどう思っているのかわかる」

「……」

「だが、あいつが王子である以上、簡単にはいかない道だ。あいつなりに考えてはいるようだったが、中々どうして難しい。私もあいつも、王子だからな」


 その言葉の意味を、私は深く理解している。

 簡単じゃない。


「私から一つだけ助言をしよう。君に足りない実績を、君自身で掴み取りなさい」

「私……で?」

「そうだ。あいつと一緒にいたいのなら、周りを納得させる理由がいる。それを作るには、あいつの立場が邪魔をしてしまう。権力や金を使えば、いくらでも誤魔化せる立場だ。快く思わない者も少なからずいる」

「だから私が……」


 隣に立てる人間になるには、足りない物が多い。

 それはきっと、彼一人でも補えない。

 要するにメルフィス王子は、私にも頑張れと言ってくれているんだ。


「私からは以上だ。お邪魔したね」

「メルフィス王子! 私……頑張ります!」

「ああ、期待しているよ。それとこの話は、あいつには内緒でね?」


 メルフィス王子いたずらな笑顔を見せる。

 今までの笑顔が作り物だったかのような、無邪気で楽しそうな笑顔だ。 

ブクマ、評価はモチベーション維持につながります。

少しでも面白い、面白くなりそうと思ったら、現時点でも良いので評価を頂けると嬉しいです。


☆☆☆☆☆⇒★★★★★


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