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聖女三姉妹 ~本物は一人、偽物二人は出て行け? じゃあ三人で出て行きますね~  作者: 日之影ソラ
次女カリナ

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34/50

十二

「はぁ……」


 朝からため息が止まらない。

 そんなわたしを心配して、アイラとサーシャちゃんの二人が見つめている。


「カリナお姉ちゃん、どうしちゃったのかな?」

「仕事で何かあったのね。カリナ?」

「ううん、何でもないよ」


 二人は不安げにわたしを見つめる。

 ごめんなさい。

 何でもないなんて嘘をついた。

 でも、こんな話は教えられない。

 だって……だって――


 プロポーズされたなんて恥ずかしくて言えない!


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「僕と婚約してくれ」


 博士はまっすぐにわたしを見つめてそう言った。

 その瞳からは迷いを感じない。

 彼はわたしの答えを待っている。


「わ、わたしは……」


 言わなきゃ。

 ちゃんとした答えを。


「は……は――」

「カリナ?」

「保留で! お願いします」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 結局、あの時はハッキリ返事が出来なかった。

 博士のプロポーズにただただ動揺したわたしは、勇気を出せずに中途半端な回答を口にしてしまった。

 そんなわたしを見て、館長は呆れていたと思う。

 博士はというと……


「わかった。ならば今は良い。結論が出たら、また教えてくれ」


 いつも通りの説明口調でそう返した。

 博士にとってプロポーズは、ただの宣言でしかないのだろうか。

 そう思ってしまえるほどあっさりしていて、ちょっと複雑な気分だ。

 

 保留にしておいて複雑とか。

 わたしは何ておこがましいのだろう。

 そんなことを思える資格なんて、今のわたしにはないのに。


「はぁ~」


 何度目かわからないため息が出る。

 もうそろそろ出勤の時間だけど、身体が重くて仕方がない。

 昨日からずっと、博士の顔が頭に浮かんで離れないし。

 それに、純粋な疑問もある。

 博士はわたしのことを、どう思っているのだろうか?

 あのさらっとしたプロポーズに、どれだけ想いがこもっていたのかわからない。

 もしも……もしも博士がわたしのことを――


 なんてロマンチックなことを考えながら、トボトボと家を出て図書館に向った。


 図書館に到着して、午前中は普段通り仕事をこなす。

 館長とも話したけど、彼女もいつもと変わらない態度だった。


 そして――


 午後は研究室に顔を出す。

 正直に言って、とても緊張していた。

 昨日の今日だし、博士と会うのが気まずい。

 でも博士だし、きっと気にしていないはず。

 と思いつつも、いつもと違った反応を期待している自分もいて、もうよくわからない。


「よし!」


 わたしは整理がつかないまま、無理やり気合を入れて研究室に降りた。


「こんにちは、博士」

「ん? 来たかカリナ」


 挨拶は普段通りに出来た。

 博士の反応も昨日から変化していない。

 変に意識はしているけど、これなら何とか頑張れ――


「さっそくだが、僕とデートしてくれるか?」

「……えぇ!? で、でで……デートですか?」

「そんなに驚くことか」

「だ、だって博士が……」


 デートなんて言葉が出るなんて、一体誰に想像が出来ただろう。

 博士はふむと頷き、唐突な誘いの理由を語る。


「実はあの後、ミーアから言われてな。せっかくならデートに誘えと……半ば強引に」

「あ、そ、そうなんですね」


 そういうことか、と納得する。


「で、どうだ?」

「はい?」

「はい?じゃない。デートに行こうと言っている」

「あっ……」


 冗談とかではなく本気だったらしい。

 わたしはそれに、はいと答えた。


 館長の許可はすでに出ている。

 わたしたち二人は図書館の外に出た。

 そこで博士がぼそりと言う。


「さて、デートとは何をすればいいんだ?」

「えっ?」

「誘ったのは良いが、僕にはその経験がないからな。デートをしろと言われても、何をすればいいのかわからない。カリナは知っているか?」

「わ、わたしですか? ちょっ、ちょっとなら……」


 恋愛物のお話も読んでいるから、博士よりは知っている。

 とはいっても、わたしもデートなんてしたことがない。


「ならば教えてくれ。何をすればいい?」


 そんなのわたしに聞かれても……

 本音が口に出そうになったけど、何とか堪えて別の言葉を出す。


「と、とにかく歩きましょう」

「そうか」


 とりあえず、わたしが知る限りのデートを再現しよう。

 一緒に街を回って買い物をしたり、食事をしたり、後は何だろう?

 お互いの趣味とかに合わせて……なんて無理だ。

 博士の趣味に合わせたら、研究室へ逆戻りになる。


 二時間後――


 わたしたちは図書館近くの喫茶店で一服していた。


「ふむ、デートはよくわからないな」

「そ、そうですか」


 なんでわたしが博士を案内しているんだろう?

 誘われたのはこっちなのに。

 もう何だか疲れちゃったよ。


 疲れは感覚を麻痺させる。

 わたしは博士の顔を見て、疑問に感じたことを思い出す。

 それは聞きたいけど聞けなかった質問。


「博士は、わたしと本気で婚約するつもりなんですか?」

「そのつもりだが?」

「じゃあ……博士はわたしのこと、ど、どう思っているとか……」

「どう思っているか。色恋について経験がない、その辺りは自分でもよくわからん」


 博士は徐に空を見上げる。


「ただ……君といると落ち着く」


 博士がわたしに対して感じていること。

 口に出して聞いたのは、これが初めてかもしれない。


「なんというか、自分でも上手く説明できないのだがな。もし仮にそれが永遠に続くのだとしたら、君なら良いと思う」


 心が動く。

 胸の鼓動が強くなる。

 博士の気持ちを聞いて、わたしは答えを出せていない。

 

 言わなきゃ――今度こそ。


「わ、わたしは……」


 勇気を出して、今のわたしが言えることを。


「博士のこと……き、嫌いじゃないです」


 これが私の精一杯。

 自分でも頑張ったほうだと思う。


「そうか。なら良かった」


 そんなわたしを見て博士は、清々しく笑った。

 わたしはその顔に見惚れて……


「こ、婚約じゃなくて」

「ん?」

「その前の……恋人から始める。というのはどうでしょう?」

「ふっ、君がそれでいいなら、僕だってそれで構わないさ」


 紆余曲折はある。

 博士もわたしも、人付き合いは得意なほうじゃない。

 相手の気持ちを察するとか、空気を読むなんて出来ないと思う。

 でも、そんな二人だからこそ、通じ合うものがあったのかもしれない。

 未来は保証されていない。

 

 だからこそ、きっと――


 わたしたちの恋は、ここから始まる。

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― 新着の感想 ―
[一言] いよいよアイラ編? 逃げられた王国編も見たいです
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