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聖女三姉妹 ~本物は一人、偽物二人は出て行け? じゃあ三人で出て行きますね~  作者: 日之影ソラ
次女カリナ

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30/50

「お疲れさまでした。博士」

「うん」

「それで……わかったんですか?」

「……そうだな。まずは場所を変えよう。研究室へ戻るぞ」

「はい」


 検視を終えた博士と、王城敷地内を出る。

 普段からあまり話す人じゃないけど、帰り道はずっと無言だった。

 表情に見せないだけで、精神的な疲労もあるのだろう。


 研究室に戻った博士は、自分の席に座る。

 小さくため息をもらし、腕を組んで話し出す。


「わかったか、だったな」

「はい」

「わかったことはある。だが……わからなくなったこともある。というのが検視の結果だ」


 博士は意味深な言い回しをした。

 わたしは意図を掴めず、疑問から首を傾げる。

 すると、博士は続けて説明する。


「検視で選んだ三人の遺体……選んだ基準は偏に進行の度合いだ」

「症状の進み具合」

「そうだ。遺体をざっと調べたが、聞いていた症状の進行には個人差が見受けられた。その差を調べるために、僕は三人の遺体を借りた」


 一人目の遺体は、進行が完全に進んだと思われる人。

 全身が紫色に変色し、写真と同じ状態になっていた遺体。

 

 二人目の遺体は、進行途中で亡くなられた人。

 紫色の変色が全身の半分程度で止まっていた者を見つけた。


 そして三人目は……


「まったく症状が進んでいなかった方の遺体……ですか」

「うん。症状の進行が命を削っているのは間違いないだろう。だが、それにしては差がありすぎる」

「確かに……でもそれは、年齢とかにもよるのでは?」

「そうだな。僕もそう考えて遺体を全て確認した。だがおそらく、進行の度合いは年齢と比例していない」


 老人だから進行が早いことも、成人だから遅いこともなかった。

 もちろんその逆も然り。


「まぁ逆に共通点もあった」

「何ですか?」

「肺の炎症だ。三人全て、左肺上部に炎症の痕跡があった。一人に関しては右肺下部にも炎症が見られたが、おそらくあれは誤嚥性によるもの。今回の病とは無関係だ」

「でも、つまり新しい病は……」

「ああ、肺炎。ただし、一つではないと僕は予想している」


 肺炎を伴う病と、全身が紫色に変色する病。

 その二つが混在している可能性が高いと、博士は説明してくれた。


「そうでなければ、症状のばらつきに説明がつかない」

「そうですね。じゃあ原因は?」

「さぁな。肺炎のほうは細菌性かウイルス性か、どちらかだとは思うが、変色のほうは現状では見当もつかない」


 博士がそう言い切るのは珍しい。

 それくらい異様な状態だということだろう。

 わたしはごくりと息を飲む。


「だから、それをこれから調べに行くぞ」

「えっ? 調べるって村に行くんですか?」

「ああ。それが一番真実に近づける」


 直接見て、調べて、考える。

 それが真実にたどり着く近道だと、以前に博士が言っていたのを思い出す。

 ただ、わたしは少し不安だった。

 たくさんの遺体が眠っていた場所に行って、平常心でいられる自信がなかったから。

 でも――


「君にも来てもらえると、僕は非常に助かるのだが」


 博士がそう言ってくれた。

 わたしが必要だと、まっすぐにめを合わせて。


「どうする? 無理強いはしないが」

「行きます!」


 そんな風に言われたら、わたしは行くに決まっている。

 少しでも良い。

 博士の役に立てることをしよう。


「決まりだ。ならば早急に準備を進めてくれ。出来れば今日中に出発したい」

「わかりました」


 わたしは急いで準備をした。

 感染予防のため、特殊な防護服とマスクも用意する。

 荷物がかさばらないように配慮して。

 準備が完了したのは午後一時半。

 馬車は王城が手配してくれて、二名の騎士も同行することになった。


「準備はよろしいですか?」

「ああ。出してくれ」

「わかりました。一時間弱で到着すると思われます。しばらくお待ちください」


 馬車に揺られ四十分。

 少し早く到着したわたしたちは、さっそく防護服に着替えた。


「君たちは馬車に残っていてくれ。調査は僕たち二人でする」

「わかりました。くれぐれもお気を付けください」


 わたしと博士は馬車を降りて、ハレスタの村へ入る。

 村は聞いていた通り、建物は十軒以下で、小さな畑と家畜小屋がある。

 少人数での生活が頭に浮かぶ質素さ。

 ただし今は、一人すらいない。

 異様な静けさが、ただならぬ雰囲気を醸し出している。


「外観だけはわからないな。部屋の中を見て回ろう」

「はい」


 建物の一室に入る。

 中は整っていて、生活感も感じられる。

 博士は棚や机を無造作に探し出す。


「かってに触っては」

「別に構わないだろう。僕たちは遊びに来たのではない。調査をしに来たのだ」

「そうですけど……」

「もしも例の病がクレンベルに広まったらどうする? 現状の医学では太刀打ちできなければ、ここと同じ惨状になるぞ」


 そう思うと、ぞっとする。


「わかったら君も手を動かせ。生活の中に、何かしら手掛かりがあるかもしれない」

「……わかりました」


 渋々だけど、わたしも棚を探したりする。

 他人の家を漁るなんて気が引けるけど、博士の言う通りだ。

 そう思って探していると……


「これ……」


 紫色の花?

 

 引き出しの中に、綺麗な紫色の花で造られた押し花を見つけた。

ブクマ、評価はモチベーション維持につながります。

少しでも面白い、面白くなりそうと思ったら、現時点でも良いので評価を頂けると嬉しいです。


☆☆☆☆☆⇒★★★★★


よろしくお願いします。

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