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 小さい頃の私は、貴族とか王族の暮らしに憧れていた。

 清潔で豪華な衣装を着て、煌びやかな屋敷に暮らして、優雅なひと時を満喫する生活。

 物語に登場するお姫様のように、運命の出会いもあったら良いなと想像していた。

 女の子なら、一度はそういう願いを持ったことがあるんじゃないかな?

 かくいう私もその一人で、今でも夢に抱いている。


「あれ? アイラお姉ちゃんどこいくの?」

「国王陛下の所よ」

「王様? 何で?」

「もう、忘れたの? 今日は定期報告の日でしょう」

「あぁ~ そうだっけ」


 十日に一度、国王陛下に謁見することが定められている。

 内容は近況報告が主で、私たち三人のうち一人が出れば良い。

 何事もなければ数分で終わる謁見だから、それほど心配することはない。

 ただ……


「サーシャも偶には来る?」

「えぇー嫌だよ~ だってあの人も一緒にいるんでしょ?」

「まぁ……そうね」


 問題、というか不安なことが一つある。

 私はともかく、二人はあの人のことが苦手で、大体いつも陛下と一緒にいるから報告に行きたがらない。

 必然的に私が報告へ行くことが多い。


「わかってると思うけど、外では悪口とか言っちゃダメだからね?」

「うぇ~ でもでも、アイラお姉ちゃんだって苦手じゃんか」

「苦手でも仲良くはしておかないとね。私たちの立場が危うくなるわよ」

「うぅ~ ボクはいいよぉ~」


 サーシャはいつもこんな感じだ。

 カリナは大聖堂に出ているから不在だけど、似たような反応をすると思う。

 正直なことを言えば、私だってあまり会いたくない。


「はぁ……」


 ため息も出る。

 でも、頑張らないといけない。

 私の夢を実現するためには、必要なことの一つだから。

 そう自分に言い聞かせ、私は一人で王城へと足を運んだ。


 王城はいつ見ても大きくて立派だ。

 この国で一番偉い人たちが暮らしている場所だし、当然なのだけど魅入ってしまう。

 そんな場所に堂々と入れるのも、聖女になった特権だろう。

 城内へ入ると、使用人の一人が案内してくれた。

 私が向かっているのは玉座の間と呼ばれる部屋。

 陛下の謁見の際に使用される大きな部屋で、扉を開けると赤いカーペットが敷かれている。

 その先の玉座に座っている人こそ、この国の王様――


「聖女アイラ、よく来てくれたね」

「はい。リンテンス国王陛下」

「うむ。さっそく近況を聞かせてもらえるかな?」

「はい」


 話は数分で終わった。

 頷きながら聞いていた陛下が、私に向けて言う。


「ありがとう。今後も良き活動を心がけたまえ」

「はい。お任せください」


 私は頭を下げた。

 今更だけど、陛下の隣にはお付きの騎士がいる。

 普段はもう一人、噂のあの人もいるはずだけど、運よく今回は不在のようだ。


「アイラよ、この後はデリントの所へ行ってくれるかな?」


 と、ほっとしたのも束の間……

 私は心の中で、やっぱりかとつぶやく。


「会いたがっているようだよ」

「かしこまりました」


 私はあまり会いたくありません。

 なんてことが言える立場じゃないから、素直に従うことにする。

 玉座の間を出て二つ先の部屋に、彼が待っているそうだ。


 トントントン――


 扉をノックし、声をかける。

 すると、中から声が聞こえてくる。


「デリント様、アイラです」

「――入りたまえ」


 私が扉を開けると、一人の男性がこちらを振り向く。

 整った身なりと細身で、髪は明るい茶色。

 彼は私の顔を見ると、満面の笑みを浮かべて言う。


「いやぁ~ よく来てくれたね! 会えてうれしいよ、アイラ」

「はい。私もお会いできてうれしく思います。デリント王子」


 そう。

 彼こそは、イタリカ王国第一王子デリント様。

 そして一応……私の婚約者となる予定の人でもある。


「前回の謁見ぶりかな? 君は変わらず美しいね」

「はい。ありがとうございます」

「しかしまた君一人かな? 他の二人とも話をしたかったが、まぁ良しとしよう」


 そう言って、デリント王子は私に歩み寄る。

 徐に右手を握って、手の甲にキスをして言う。


「君一人でも十分私を満たしてくれるよ。私の愛しいアイラ」

「……ありがとうございます」


 ちゃんと笑えているだろうか?

 顔の筋肉がひくついている気もするけど、彼は良い表情のままだし誤魔化せているかな。

 見ての通り、というか聞いての通り。

 デリント王子はちょっとあれだ。

 私たちのことを好いてくれるのは嬉しいけど、表現の仕方が独特で……直球で言えば気持ち悪い。

 本人に自覚がないのが一番困る。

 カリナとサーシャにもこういう態度でくるから、二人は毛嫌いしてしまっている。


「さぁ色々と話を聞かせておくれ。楽しい話をしようじゃないか」

「……はい」


 ここから一時間と少し。

 彼の部屋で延々と話をさせられる時間が続く。

 変なことをされないだけましだけど、時折身体を触ってきたり、髪の匂いを嗅いだりする。

 そういう所さえなければ良い人なんだけど……


「また来てくれたまえ! いつでも歓迎するよ」


 私の夢。

 煌びやかな生活を送るためには、彼と友好な関係を崩すわけにはいかない。

 聖女であると言っても、この立場が永遠に続くわけではないのだから。

 そう……わかっているのだけど、やっぱり気持ち悪いわ。

ブクマ、評価はモチベーション維持につながります。

少しでも面白い、面白くなりそうと思ったら、現時点でも良いので評価を頂けると嬉しいです。


☆☆☆☆☆⇒★★★★★


よろしくお願いします。

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