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聖女三姉妹 ~本物は一人、偽物二人は出て行け? じゃあ三人で出て行きますね~  作者: 日之影ソラ
次女カリナ

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29/50

 博士の研究は、王国を豊かにする。

 生活で便利な魔道具を始め、国を守る軍事面の強化、さらには病に対する薬の開発。

 これまで様々な発明品が、国を、人々を救ってきた。

 だから時々、彼に対して依頼が舞い込んでくることがある。

 その日も突然だった。


「博士」

「ん? 何だ?」

「その、王城から騎士の方がお見えに」

「……わかった。五分後にそっちへ向かう」

「わかりました」


 わたしは一人で研究室を出る。

 図書館の受付には、重苦しい騎士の格好をした男性が待っていた。

 騎士がわたしに気付いて振り向く。


「どうでしたか?」

「五分後に来てくださるそうです」

「そうですか。良かった」

「ではこちらへ。先にお部屋へ案内いたします」


 研究室で話を聞くわけにはいかない。

 あそこの合言葉を知っているのは、ごく一部の人間だけ。

 騎士であろうと、それを知ることは許されていない。

 わたしが案内したのは、図書館の奥にある応接室。

 来客が来た時に使われる部屋だ。

 以前にわたしが館長と面接したのも、この部屋だったりする。


 五分後――


 応接室に博士が入ってきた。


「待たせてすまない」

「いえ、急な訪問に対応して頂きありがとうございます。ナベリス博士」

「うん、で用件は?」


 博士が騎士と向かい合って座る。

 わたしは博士の後ろに立ち、その様子を見守る。


「これをご覧ください」


 騎士が一枚の紙をテーブルに出した。

 それには文章と、特別な魔道具で移された写真が載っている。


「ぅ……」

「これは……中々酷い状態だな」


 見せられた写真を見て、わたしは背筋が凍るような寒気を感じた。

 そこに写っていたのは成人女性の……おそらく遺体だ。

 ただの遺体ではなく、全身が紫色に変色し、血管が浮き出ている。

 開いた瞳孔と飛び出しそうになっている眼球。

 髪の毛も半分くらいは抜け落ち、見るも無残な状態で横たわっていた。


「毒……もしくは薬の類か?」

「いえ、今のところは確定できませんが、おそらく新種の病だと思われます」


 博士がピクリと反応を見せる。

 その反応の理由を、わたしは察することが出来た。


「詳しく聞かせてくれ」

「はい。最初の発見は一月ほど前になります――」


 クレンベルの南には、ハレスタという小さな村がある。

 人口は百人ちょっとで、ほとんどが老人と子供。

 豊かな森に囲まれたその村で、一人の女性が変死を遂げた。

 写真に載っていた女性は、ある日急激な吐き気と幻聴に苛まれた。

 翌日には四肢の先端が紫色に変色を始め、翌々日には全身へ廻り、苦しみながら息を引き取ったという。


「初めての死者が出てから、同じような症状に見舞われる方が増えたそうです」

「同じというのは、吐き気と幻聴か?」

「はい」

「その後の経過は?」

「個人差はあるようですが、同様に変色が進み亡くなられた方がほとんど」

「そうか、一応聞いておくが……生き残りは何人いる?」


 博士が険しい表情を見せる。

 騎士は一瞬だけだまり、重い口を動かす。


「いません。我々が調査に向った時には、全員が亡くなられていました」

「そんな……」


 騎士の話によると、異変の知らせが届いたのが一週間前。

 その二日後に感染症に対する予防を整え、現地へ向かった時には、手遅れだったという。


「知らせが遅すぎたのだろうな。今の話だけでも、症状は二日から三日で急激に進行する。それでは間に合わない」


 博士は冷静に分析していた。

 でも、表情はとても険しいままだ。


「遺体は?」

「全て王城の安置室に保管してあります」

「検視の許可は?」

「すでにおりています」

「わかった。ではすぐに向かおう。カリナ、準備をしてくれるか」

「はい」


 そうしてわたしと博士は、王城へ向かうことになった。

 と言っても、城の内部には入らない。

 同じ敷地内にある小さな建物に入り、地下へと続く階段を下る。

 そこには鉄で出来た扉があって、棺がたくさん並べられている。

 安置室……埋葬前の遺体を一時的に保管する場所。


「全て例の遺体か?」

「はい」

「ならば検視で数体持ち出したい。手を貸してくれ」

「わかりました。どの遺体を?」

「それを今から確認する」


 そう言って、博士は躊躇なく前へ進む。

 棺を開き、中の遺体を確認していく。

 わたしも特に考えもなく、博士の後に続いて中身を確認してしまった。


「うっ……」


 失礼なのはわかっている。

 それでも、変色した遺体は衝撃的過ぎて、思わず吐きそうになった。

 今更だけど、人の遺体を見たのも、これが初めてだった。


「無理をするな。こういうものは見慣れていいものではない」


 そう言っている博士は、臆することなく遺体を見て回っている。

 まるで、自分のようにはなるなと言っているみたいだ。


 その後、博士は三人の遺体を運び出す様に命じた。

 検視は別室で行われたが、わたしはそれを見ていない。

 遺体を見ただけで吐き気が酷くなったのだから、検視なんて直接見られない。

 博士はそんなわたしに、外で待機しているように命じた。

 

 二時間後。

 博士は検視を終えて部屋から出てきた。

 僅かに残る異臭。 

 それでも普段通り、顔色一つ変えていない。

 わたしはそんな彼を見て、少しだけ怖くなった。

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少しでも面白い、面白くなりそうと思ったら、現時点でも良いので評価を頂けると嬉しいです。


☆☆☆☆☆⇒★★★★★


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― 新着の感想 ―
[一言] >ならば検視で数体持ち出したい 新種の病なら伝染病とか疑わないの? 場合によっては焼却が必要かもしれないのに、死体からは感染しませんとでも思い込んでいるのだろうか。
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