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聖女三姉妹 ~本物は一人、偽物二人は出て行け? じゃあ三人で出て行きますね~  作者: 日之影ソラ
次女カリナ

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28/50

 世の中にはいる。

 一つのことに夢中になって、周りが見えないくらい頑張れる人が。

 わたしには、そんな彼らの気持ちがわからない。

 だから、知りたいと思った。

 彼がどうして、身体を追い詰めてまで頑張れるのか。


「どうしてとは? 研究のことか?」

「はい」

「それが僕の仕事だからだ」

「……仕事だから、無理してまでやるんですか?」

「当たり前だろう……と、言いたい所だが、それだけではない」


 博士は小さく息をもらす。

 数秒何かを考えたような素振りを見せ、顔を上げてわたしに言う。


「まぁ良いか。君にだけ色々と聞いて、自分のことは話さないでは不公平だな。少々長い話になるが構わないか?」


 わたしはこくりと頷く。

 すると、博士は「そうか」と言い、改まって話し出す。


「僕の生まれは、ここよりずっと小さな村だった。今の僕を見て、どこかの貴族か国の役人の生まれだと勘違いする者も多いが、元々はただの村人だったんだよ」


 僕は母と二人で暮らしていた。

 父の顔は知らない。

 物心つく前に、幼い僕と母を置いてどこかへいなくなってしまったらしい。

 とんだろくでなしだったが、僕は気にしていなかった。

 優しい母と二人で暮らせるだけで、僕は満足だったからだ。

 

 そして、僕が十歳になる頃にグレンベルへと引っ越した。

 小さな村では仕事も少なくて、食べていくのも精一杯だったからだ。

 母が仕事に勤しむ間、僕は図書館に入り浸っていた。

 幼い僕は、世の中の不思議や様々な現象に興味を持ち、それを解き明かしたいと思っていた。

 母はそんな僕を天才だとほめてくれた。

 いつか凄い研究者になって、多くの人から感謝されると。


 僕はその時、初めて将来の夢を見つけた。


 だが、悲しい別れは突然やってきた。

 元々身体が弱かった母は、仕事の疲れから病に倒れてしまう。

 それも偶然流行していた新種の流行病で、治療法も満足に確立されていなかった。

 僕は必死に調べたが、所詮は子供の脳みそだ。

 いくら調べ考えても、治療法なんて見つからない。

 母はみるみる弱っていき、身体を動かせない程になってしまった。

 ベッドで横になり、食事もわずかしか喉を通らない。

 

「ごめん……母さん」


 僕がもっと賢ければ。

 もっと大人で、わがままを通せる力があれば。

 苦しむ母を救えたかもしれないのに……と、何度も後悔した。

 そんな僕に、母はこう言った。


「泣かないで。あなたは立派な子……私の自慢の息子よ」

「母さん……」

「大丈夫、私はずっとあなたを見守っているわ。あなたはきっと、たくさんの人たちに愛される人になる。そういう力があるのよ」


 そんなことはどうでもよかった。

 他人にどう思われようとも、僕には関係ない。

 ただ一人、母が笑ってくれているのなら、それだけで幸せだった。


「ナベリス……たくさんの人を救える……そんな人にあなたは成れるわ」


 それが最後の言葉だった。

 かすれた弱々しい声で、母は僕に言い残したんだ。

 

「多くの人を救う存在になれ。それが母の残した言葉だった。だから僕はここにいる。母の願いを叶えるため、多くの人が救われる研究をしている。それが僕の理由だ」


 博士の話を聞いたわたしの瞳からは、涙が溢れそうになっていた。

 準備していた心が受け止められない悲しい話だったから。

 そして、彼の話から確信が持てた。

 彼は……とても優しい人だ。

 変な人だけど、口は悪いけど、彼の心の根幹には優しさが詰まっている。

 亡くなったお母さんの遺言を守るため、彼は身を粉にして働いているんだ。


「凄いなぁ……」


 わたしには、そんな大層な理由はない。

 聖女として人と関わっていた時も、言われたからやっているだけだった。

 それでも良いと思っていた。

 でも、今はそんな自分が恥ずかしく思える。


「なぜ君を助手にしたのか……だったか?」

「えっ」


 突然、博士の口から出た言葉にわたしは驚く。

 眠っているときにぼそりと漏らした言葉を、博士は聞いていたらしい。

 急に恥ずかしくなって、わたしは目を逸らした。

 そんなわたしに、博士はハッキリという。


「君が自分をどう思っているか、他人がどう考えているかなど、僕には関係のないことだ」

「……」

「ただ、私には君が必要だった。だから助手にしたんだ」


 その瞬間、全身に電流が走ったような感じがした。

 わたしを必要だと言ってくれた。

 他の誰でもない、わたしが必要なのだと。

 ずっと言ってほしかった言葉を、博士はハッキリと口にしてくれた。

 心の底から嬉しさがこみあげてくる。


「最初にも言ったが、君に拒否権はないのだからな。勝手にいなくなられたら困るぞ」

「……はい」


 そんなことはしない。

 今のわたしなら、ちゃんと本心からそう思える。

 

 この人のために頑張ってみよう。


 わたしは生まれて初めて、頑張る目的が出来た気がした。

ブクマ、評価はモチベーション維持につながります。

少しでも面白い、面白くなりそうと思ったら、現時点でも良いので評価を頂けると嬉しいです。


☆☆☆☆☆⇒★★★★★


よろしくお願いします。

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