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聖女三姉妹 ~本物は一人、偽物二人は出て行け? じゃあ三人で出て行きますね~  作者: 日之影ソラ
三女サーシャ

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22/50

 悪魔を見るのは初めてだった。

 でも、一目見ただけで、それが良くない者だと理解できた。

 目と目が合う。

 たったそれだけで、背筋が凍って震える恐怖が襲う。


 悪魔がボクを見ている。


「サーシャ!」


 おじさんの声が響いた。

 悪魔は空を蹴り、結界へ突進している。

 とてつもないスピードと衝撃で、結界付近にいた人たちは吹き飛ばされてしまう。

 

 悪魔はまだ、ボクを見ている。

 その他大勢の人なんて気にもしていない。

 ボクを殺そうとしている目だ。

 

 逃げなきゃ……


 本能がそう叫んでいる。

 でも、身体は恐怖で竦んで動けない。

 結界がひび割れ、眼前に悪魔が迫って尚、ボクの身体が動いてくれない。

 

「させるかぁあああああああああ」


 悪魔の手が弾かれる。 

 おじさんの剣がボクを守ってくれた。

 そこから怒涛のような連続攻撃を浴びせる。

 さながら鬼のように、悪魔に攻撃の隙を与えない。

 ボクが初めて見るおじさんの激昂。


 でも――


 片腕を失った今の彼では、悪魔と対等に戦うには不足だった。

 悪魔の左腕が、おじさんのお腹を貫く。


「ごほっ」


 そんな……

 

「タチカゼ!」

「お……おじさん!」


 悪魔の手がおじさんのお腹から生えている。

 貫通し、背中から出ている。

 明らかに重症だった。

 悪魔はニヤリと笑ったように見える。


「うおおおおおおおおおおおおおおお」


 おじさんが吠えた。

 悪魔は手を抜こうとするが、おじさんがそれを許さない。

 剣を至近距離で振るい、腹に刺さった腕を斬り落とす。


「ジュード!」

「おう!」


 ジュードさんがすかさず攻撃を加える。

 おじさんも加わり、左右から攻める。

 さすがの悪魔も、片腕を失った状態で、二人の攻撃はさばききれない。

 二人は止まらない。

 悪魔を斬り裂き、消滅させるまでは終わらない。

 気迫極まる二人の表情は、悪魔すら怯えさせる。


 そして――


「終わりだコノヤロー!」


 二人の剣が、悪魔の首を撥ねとばした。


「はっ……ざまぁ見やがれ」


 消滅していく悪魔を見ながら、おじさんは満足げに倒れ込む。

 ジュードさんが駆け寄り、ボクも慌てておじさんの元へ走った。


「おじさん!」

「サーシャ……無事だったか」

「待ってて! 今助けるから!」


 悪魔を倒したことで、おじさんの腹に刺さっていた手も消滅している。

 代わりにぽっかりと空いた穴から、地面が見えている。

 流れ出る血の量が、致命傷だと告げていた。


「あぁ~ またドジったな」

「しゃべっちゃだめだよ!」

「どっちみ駄目だろ」

「そんなことない! ボクが絶対助けるんだから!」


 そう言いながら、手は震えて頭は現実を見ている。

 出血の量が多すぎる。

 傷も深くて、ボクの祈りでも治癒は出来そうにない。

 現に祈りを捧げているのに、傷口はまったく塞がってくれない。


「どうして……何で!」

「そんな顏するな。せっかく可愛い顏してんのに台無しだぞ」

「今……そんなこと言わないでよ。やだよおじさん……死んじゃヤダ」


 ボクの瞳からは涙が溢れ出ている。

 そんなボクを見て、おじさんは手を伸ばし、頭を撫でてくれた。

 そうして語り出す。


「思い……出したんだ。オレが旅をしていた理由を」

「えっ?」

「別に剣を極めたかったんじゃない……オレは、オレにはそれしかなかったから」


 別のものが欲しかった。

 他の騎士たちのような愛国心も、よそ者の自分にはない。

 あるのは剣術の才能だけ。

 だから、それを極める道しかなかった。

 それでも、本当に欲しかったものは別のものだったんだ。


「オレはただ……守りたいものがほしかったんだ。命を捨て出ても、生涯をかけて守りたい何かを……オレは欲していた」

「おじさん……」

「なぁサーシャ、お前は無事だよな?」

「……うん」

「そうか、だったら満足だ。お前は……眩しいからな。もっとたくさんの人を照らせるだろ」


 おじさんは笑っている。

 言葉通り満足げに、満ち足りたような笑顔だった。

 ボクはそれが嫌で叫ぶ。


「嫌だよ! ボクはおじさんと一緒にいたい……この先もずっと、一緒にいたいんだ」

「サーシャ……」

「ボクの全部をあげるよ。だからお願い……死なないで」


 ボクの唇と、おじさんの硬い唇が重なる。

 初めてのキスだった。

 ムードの欠片もないけれど、今はこれしかない。

 聖女の力の全てを、彼の中に直接流し込む。

 祈りで足りないのなら、ボクの全部を捧げてでも助けてみせる。

 

 繋がり、祈りを込める。

 ボクの力を流し込まれた身体は、淡い光に包まれる。

 全てを捧げるという誓いが、祈りの力を強化した。

 時間が巻き戻るように、傷がどんどん癒えていく。

 神秘的とも呼べる光景に、誰もが声を忘れ、魅入っていた。


「こりゃ……驚いたな」

「おじさん」

「サーシャ……ありがとな」

「うん!」


 ボクの祈りが、想いが命を繋いだ。

 この時、ボクは生まれて初めて聖女で良かったと思えたんだ。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 その三日後――


「おじさーん!」

「おい、だからおじさんは止めろって」

「えっへへ~ とう!」

「っと! 急に抱き着くな」


 ボクらは変わらずギルドにいた。

 ドラゴン討伐も終わり、その後の事件も落ち着き、ようやく戻って来た日常。


「ねぇおじさん」

「ん?」

「あれってボクのファーストキスだったんだよ?」

「そうかい」

「ちゃんと責任取ってよね」

「は? あれはお前から……いや、ずるいな。あの状況じゃ反論できねぇだろ」


 おじさんはわしゃわしゃと自分の髪を触っている。

 そのまま、顔を逸らし照れながら言う。


「まぁ仕方ないか……。お前は良い女になるだろうからな」

「えへへっ」


 ああ、やっぱりボクは――この人が大好きだ。


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― 新着の感想 ―
[一言] 腕も生えるかと思った!(笑)
[良い点] 面白かったです(o^-^o) [気になる点] 治癒だけなのかな? 腕が再生とかしてもよかったのになあ。 [一言] 続きを楽しみにしています!
[一言] 左腕は蘇生しないの? もしエピローグで結婚式をするのならお姫様だっこ出来なのだが、片腕でする気か?
感想一覧
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