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「ねぇおじさん、ずっと気になってたことがあるんだけど」

「ん? 何だよ」

「おじさんって昔は騎士さんだったの?」

「ああ、一応な」

「何でやめちゃったの?」

「それはまぁ……色々あったんだよ」


 おじさんの言い方には含みが感じられた。

 色々の中には、本当にたくさんの事情が隠されていそう。

 

「じゃあさ! おじさんのこと教えてよ!」

「急だな」

「だってせっかく時間があるんだもん」


 ボクらは依頼を終えて冒険者ギルドにいる。

 普段よりも依頼が早く片付いて、帰る時間まで暇になってしまった。

 いつもの場所で座ってのんびり過ごしていて、ふと思い出す。


 そういえばボク、あんまりおじさんのことを知らないんだよね。

 前に助けた貰った時も、結局聞けなかったし。

 ちょうど時間もあるから、おじさんのことが知りたいな。


「ダメかな?」

「別に駄目じゃねぇけど」

「本当? じゃあお願いします!」

「う~ん、でもなぁ。自分語りは面倒臭し、大して面白くもないしな。やっぱなしだ」

「えぇー!」


 おじさんは気だるげにそう言った。

 ボクはガッカリして、顔をムスッとさせる。

 すると――


「ならば私から話そうか?」

「ん?」

「誰?」


 声をかけてきたのは、フードを被った怪しい男性だった。

 ボクにも怪しいってことがわかるくらい、全身をマントで隠している。

 ただならぬ雰囲気を感じるけど、一体誰なんだろう。

 と思っていたら、おじさんが言う。


「ジュードか」

「久しぶりだね、タチカゼ」

「おじさんの知り合い?」

「ああ。現王国騎士団の団長さんだ」

「き、騎士団ちょ――!」


 おじさんがボクの口を慌てて塞いだ。


「声がでかい!」

「あっははは、すまないね。隣に座らせてもらうよ?」

「おう。何しに来たんだ?」

「その前にタチカゼ、彼女を離してあげたらどうだ?」

「ぅ~」


 ボクは口を押さえられたままだ。

 苦しくてじたばたしている。


「あっ、悪いな」

「ぷはー! もう死ぬかと思ったよ」

「お前がでかい声で騒ごうとするからだろ」

「うぅ~ ごめんなさい」

「いや、謝らなくてもいいさ。私が不用意に声をかけたのが悪い」


 フードから見える顏は、とても優しくて綺麗だった。

 とても騎士団のトップには見えない。


「初めまして、私はジュード・クレイス。アトワール王国騎士団の団長をしている」

「ぼ、ボクはサーシャって言います!」

「うん、よろしくね。サーシャちゃん」


 声や話し方も丁寧でやさしい。

 なんというか、大人の男性って感じがする。

 おじさんの知り合いみたいだけど、全然違うタイプの人だ。


「あの、おじさんとはお知り合いなんですか?」

「そうだよ。私と彼は騎士団の同期でね」

「どうき?」

「同じタイミングで騎士団に入ったってことだ」


 おじさんが付け加えてくれた。

 よく聞くと、年齢も二人は同じらしい。

 ボクはじーっとおじさんを見つめる。


「何だよ」

「おじさんって……老けてるの?」

「ぶっ! こいつと比べるな! こいつが若々しすぎるんだよ!」


 慌てるおじさんも可愛い。

 そんなボクたちを見て、ジュードさんは笑っていた。


「おいジュード、何笑ってるんだ?」

「いやすまない。そんな風に取り乱すお前を見るのは、久しぶりだったものでな」

「ジュードさんは昔のおじさんを知ってるの!?」

「もちろんだとも。共に剣を磨き、高め合った戦友だからね。まぁ彼は王国にほとんどいなかったが」


 そう言いながら、ジュードさんはおじさんに視線を送る。

 ボクはおじさんに質問する。


「そうなの? おじさん」

「まぁな。色々あって騎士にはなったが、オレには合ってなかった。そんで適当にいろんな場所を回って、ついでに悪い奴らを斬りまくってたんだよ」

「そうして噂が広まり、最強の遍歴騎士と呼ばれることになっていたよ」


 遍歴騎士とは、様々な目的で各地をあるいた騎士のこと。

 おじさんの場合は、自分の剣技を極めるための旅だったらしい。


「何でやめちゃったの?」

「……まぁ色々あったんだよ」

「タチカゼ、話して上げてもいいんじゃないか? この子はお前を信頼しているようだし」

「ジュード……そうだな。別に隠すことでもない」


 そう言って、おじさんはなくした左腕に触れる。


「十年前、この国を悪魔が襲ったんだよ」

「悪魔!?」

「そう。めちゃくちゃな強さでな、当時の騎士団長も殺された。この街の近くまで攻め込んできたから、オレとジュードで戦ったんだ」

「ああ」

「そんときにヘマしてな。片腕をもっていかれちまった。何とか勝ったものの、半年くらいまともに動けなかったよ」


 おじさんは自分の剣技を極めたかった。

 その夢が、片腕を失ったことで遠のいてしまった。

 次に動けるようになったときは、何もかも面倒になっていたという。


「もういいやってなってさ。騎士団も辞めて、冒険者に転職した。そんで今に至るってわけだ」

「……そう、なんだ」


 話している時、おじさんは切なげな表情をしていた。

 ボクにはおじさんの気持ちがわからない。

 だけど、辛かったんだろうとは思う。

 おじさんはボクの暗い表情を見てため息をこぼし、頭をポンと叩く。


「なんて顔してんだよ」

「おじさん」

「もう終わったことだ。別に後悔もしてないし、お前が落ち込むことじゃねーだろ」

「……うん」


 おじさんの手は大きくて優しい。

 この手でたくさんの人たちを守って来たんだと思うと、やっぱり悲しくなる。

 

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