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 お兄さんたちと合流したボクは、依頼を受けて森へ向かった。

 二日目となると要領もわかってくる。

 順調に依頼内容をクリアしていって、予定時刻よりも早く全て達成した。


 すると、リーダーのお兄さんがボクに言う。


「早く終わったし、せっかくだから少し奥までいかないかい?」

「奥ですか?」

「ああ。追加報酬目的で、魔物を何体か狩りに行こう」

「我々は穴場をしっているんですよ」

「そうなんですか?」


 時間はちょうど正午が過ぎた所。

 今から戻っても、丸まる午後が暇になってしまう。

 魔物を倒して結晶を納品すれば、追加報酬をもらえるのは聞いていた。

 これから冒険者として働く上でも、穴場があるなら教えてほしい。

 親切に教えてくれるなら、もちろん行くと答える。


「わかりました!」


 そう。

 親切だと思っていた。

 お兄さんたちは優しく微笑み、森の奥へ進んでいく。

 比較的明るい森も、深く進めば徐々に暗くなる。

 不気味さを増していく森の中を、ボクたちはまっすぐに歩いて行った。

 そうしてたどり着いたのは、ぽっかりと開いた自然の洞窟だった。


「ここですか?」


 お兄さんたちは頷き、先頭に立って洞窟内へ入っていく。

 ボクも遅れないように後ろへ続いた。

 中は明かりもなくて、薄暗くて肌寒い。


「そういえば、集合前にあの人と話してたよね?」

「え、あっはい」

「何を話していたのかな?」

「大した話はしてませんよ。おじさんが誰なのかとか聞いたんですけど、全然答えてくれなかったんです」

「なるほど」

「でもでも! 気を付けてねって言ってくれたんです! 戻ったら名前を聞かなくちゃ」

「そうか……残念だけど、戻ることはないよ?」

「えっ――」


 チクっと何かが首に刺さる。

 次の瞬間、全身の力が抜けて、ボクは地面に倒れ込んでいた。

 身体がしびれて動かない。

 見上げて見えるのは、お兄さんたちの笑顔。

 今まで見せていた優しい笑顔ではなく、いやらしくねっとりとした気持ちの悪い笑顔だった。


「サーシャちゃん、忠告は聞いた方がいいぞ? ギルドにも言われたんじゃないのか? 変な人たちには気を付けろってなぁ」

「……何で?」


 お兄さんはニヤリと笑う。

 すると、彼の後ろから新しく二つの足音が聞こえてきた。

 姿を現したのは、冒険者らしくない格好をした男性二人。

 二人は明かりを持っていて、それでボクを照らす。


「っ……」

「ほほう! これはなかなかの上物ですな~」

「だろ? 最初見た時からピンと来たんだよね。こいつは高く売れるって」

「う……る?」

「そうだぜ! おめでとうサーシャちゃん、君も今日から奴隷の一員だ」


 奴隷?

 お兄さんは何を言っているのだろう。

 混乱していたボクは、すぐに理解が追いつかなかった。

 そんなボクに、お兄さんは言う。


「良い髪色だよな~ それにまだ若い。買い手は山ほど多いだろうぜ~」

「間違いありませんな。これくらいでどうでしょう?」

「おっ、こんなにくれるのか? いいねさっすがだぜ」

「お得意様ですから。それにこのレベルの娘は中々お目にかかれない。まず間違いなく最高のコレクションとして高値がつきましょう」

「だとよ。よかったなーサーシャちゃん」


 いよいよ状況が理解出来てきた。

 全然良くない。

 この人たちは奴隷を売り買いする人だ。

 お兄さんたちは、ボクを奴隷として売り飛ばそうとしている。

 良い人なんて思ったけど、すっごく悪い人だったんだ。

 そうだとわかった途端、ボクの瞳からはたくさんの涙が溢れ出ていた。


「ぅ……お姉ちゃん」

「あんな所に一人で来るのが悪いんだぞ? 簡単に他人を信じるから、こういうことになるんだ」

「――まったくその通りだな」


 その時、違う声が聞こえてきた。

 この場にいる誰の声でもない。

 だけど、ボクはその声の主を知っている。

 だって、ついさっき初めて聞いた声だから、忘れるはずもない。


「だから言っただろ~ 気を付けろよってな」

「おじさん?」

「おじさんじゃねぇよ」


 洞窟の入り口側から現れたのは、ギルドで一人ぼっちだったおじさんだ。

 刃の太い剣を腰に装備して、気だるそうに歩み寄ってくる。


「だ、誰だアンタ!」

「通りすがりの冒険者だ。っていえば良いか?」

「お前……」


 お兄さんたちも、あのおじさんだと気づいた様子。


「どうしてここに?」

「何、ちょっとギルドから依頼されてたもんでな」

「依頼……だと?」

「ああ。近頃、新米の女冒険者が次々に消息を絶つ事件が増えてる。人為的な犯行の可能性が高いから、それを探ってくれってな」

「ギルドが……あんたに?」

「まぁな。他にも依頼かけてたみたいだけど、オレがドンピシャだったわけだ」


 そう言って、おじさんは無造作に近づく。

 お兄さんは大きな舌打ちをしてから、腰から剣を抜いた。

 他の二人も武器をとり、戦闘態勢に入っている。


「おっ、何だやる気か?」

「はっ! かっこよく出てきたのは良いけどなー! あんたは所詮一人、しかも片腕だろ?」

「そうだな」


 分が悪いのはお前だと言っている。

 それでもおじさんは歩みを止めない。

 余裕の笑みを浮かべ、まだ剣すら抜こうとしない。

 その太々しさに違和感を覚え、お兄さんたちは尻込む。


「旦那……逃げましょう」

「はぁ? 急に何を言って――」


 お兄さんは気付く。

 奴隷商人の一人が怯え震えていることに。


「あ、あの人は駄目だ。絶対に勝てない」

「何だよそれ、何を知ってるんだ?」

「あの人は……十年前、王国最強と呼ばれた遍歴騎士――タチカゼ・カタキだ!」


 ボクは思わぬタイミングで、おじさんの名前を知ることになった。


ブクマ、評価はモチベーション維持につながります。

少しでも面白い、面白くなりそうと思ったら、現時点でも良いので評価を頂けると嬉しいです。


☆☆☆☆☆⇒★★★★★


よろしくお願いします。

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