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 サーシャが運転する馬車は東へ真っすぐ進んでいる。

 整備された街道を外れ、裏道を使う。

 魔物出現注意の区間だけど、私たちなら大丈夫。

 聖女には癒す力だけではなくて、魔を退ける力も備わっているから。

 魔よけの加護を馬車に施している。

 効果は一日くらいで消えるけど、またかけなおせば問題はない。

 こういう時は、素直に聖女で良かったと思う。


「カリナ、地図を見せて」

「わかった」


 荷台へ手を伸ばし、バッグから地図を取り出す。

 陛下が用意してくれた荷物に入っていたもので、王国を中心に近隣諸国までの道順も書いてある。


「三日もすれば国境は抜けられそうね」

「その後はどうするの?」

「う~ん、またその時に考えようかと思っていたけど、候補くらい決めておきましょうか?」


 カリナがこくりと頷く。

 道中に通り過ぎる国は五つ。

 さすがに隣の国は近すぎるし、もしも追いかけて来られたら困る。

 せめて二国以上は超えた先が望ましい。


「ここは? 一番端っこの小さい国」

「アトワール王国……確か、海に面した自然豊かな国って聞いたことがあるわ」

「あっ! ボクも知ってるよ!」


 運転中のサーシャが話題に入ってきた。


「そうなの?」

「前に遠征で行ったことがある騎士さんがいたの。その人が教えてくれたんだけど、とっても住みやそうで雰囲気も良かったんだって」

「へぇ~ 何だか良さそうな所ね」

「うん! その騎士さんも、勤めが終わったら旅行に行きたいなーって言ってたくらい」


 それは中々期待が出来そう。

 他に候補もないし、行ってみる価値はありそうだと感じた。


「じゃあ決まりね。目指せアトワール王国!」

「まっかせてー!」


 サーシャが意気込みを口にした直後に、ガタンと馬車が大きく揺れた。

 車輪が石を踏んだのだろう。

 カリナがむすっとして言う。


「……安全運転」

「わ、わかってるよぉ~」


 アトワール王国までの道のりは長い。

 地図と睨めっこしながら、大きな街道は避けて進む。

 もしかすると、王国から捜索の部隊とかが出ているかもしれないから。

 念には念を入れて、あまり街や村にも立ち寄らないよう注意した。

 必然的に馬車での寝泊まりが多くなったけど、思っていたよりは快適な生活だったと思う。


 そうして出発から二十日――


「遂に……着いたのね」


 アトワール王国、首都クレンベル。

 海と森に囲まれた純白の街に、私たちはたどり着いた。


「――凄く綺麗」


 街並みを見た感想は一言、シンプルに口から漏れていた。

 私たちの知っている街とは全然雰囲気が違う。

 遠く離れている所為か、服装も変わっているように見える。

 何より建物が全部白い。

 見ていて疲れるくらい真っ白で、景色の奥には海の青が見える。

 行きかう人々も個性豊か。

 まるで白いキャンバスに描かれた絵のようだ。


「ねっ! ねっ? 言ってた通り良い所でしょ?」

「そうね。カリナは?」

 

 カリナはこくりと頷いて言う。


「あとは図書館があれば、わたしは十分」

「ふふっ、カリナらしいわね」

「はいはーい! ボクは冒険者ギルドがあれば満足です!」


 サーシャが手をあげながらそう言った。


「冒険者ギルド?」

「うん!」

「サーシャは冒険者になるつもりなの?」

「そうだよ! 実はずっとなってみたいと思ってたんだ~」

「それって危険じゃない?」

「大丈夫だよー。ボクはこれでも鍛えられているからね! それに身体を動かしていたほうが楽しいし、お金もいるでしょ?」


 確かに、サーシャの言う通り。

 活動資金は貰っていても、いずれなくなるのがお金だ。

 稼げる仕事につくことは、生活していく中で大切なこと。

 それはさておき、あとでちゃんと話は必要だろうけど。


 そんなことを考えていると、カリナもぼそりと希望を口にする。


「だったらわたし……司書になりたい」

「司書ってあれよね。図書館で働きたいってこと?」

「そう」


 これもカリナらしい。

 彼女の本好きなら、そういう場所も向いているかもしれない。

 せっかく国をでたんだし、やりたいことをするのも良いことだ。


「アイラお姉ちゃんは?」

「私?」

「やりたいこと……アイラはないの?」


 二人からの質問に、私は考え込む。

 もちろん、私のやりたいこと、希望はちゃんとある。

 それは子供の頃にみた夢で、今でも思い出せる。

 大きな屋敷に三人で暮らしながら、運命の人と出会って、甘くて優しい毎日を過ごす。


「あるわよ」


 そのためにはまず、今を生きる準備が必要だ。

 街へ入った私たちは、部屋を借りて、荷物を下ろし、足りない物は買い足した。

 丁度いい広さの借家が空いていたのは幸運だったと思う。

 部屋が三つに、キッチンとリビングもある。

 ちょっと古いけど、中々良い部屋を見つけられた。

 

 こうして、私たちの新しい生活が始まる。

 初めての場所で、初めてのことを経験しながら、人として女性として成長していく。

 それぞれが運命の出会いを果たし、幸福な日常を手に入れるまで。

 これは私たちにとって、そんなハッピーエンドに繋がるプロローグだ。

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