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第七十八話 「インターバル 1」

どうもしばらくぶりです、ミラボレアスにボコボコにされた騎士シャムネコです。

アルバトリオンよりはまだマシだろとか思ってましたけど、全然そんな事無かったですね!


スランプ気味、と言う訳では無いのですが、どうにも筆が進まない日々が続いております。

書く内容自体は既に決まっているので、少しずつでも書き進めて行こうと思います。

 ―――痛い。




 ――痛い苦しい辛い。




 ―痛い苦しい辛いひもじい腹が減った飢えた乾いた飢餓飢餓飢餓飢餓。




 飢えている乾いている枯渇している痛みが止まない苦しさが変わらないずっと辛さが続いている。




 寒い熱い暗い耐え難い何故どうしてこんな目に痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!




 何だこれは! 何なんだこれは!? 何で俺がこんな目に合わなくちゃ!!!???




 嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなッ!!!




 許さない許せない度し難い生かしておけない滅する亡ぼす絶やす消し去る殺す殺す殺す………ッ!!!!!




 ――暗く、深く、黒く、玄く、黑く………………。




 沈む様に、燃える様に、凍てつく様に、泥の様に、心の全てが染まって行く。




 憎い恨めしい呪わしい忌まわしい怨怨怨怨怨怨怨。




 心が変わって行く、精神が変質して行く、魂が堕ちて行く。




 黒だ。




 黒く染まった心が純化し、玄く染まった精神が収斂され、黑く染まった魂が奥底へと沈んで行く。




 後に残るのは殺意だ。




 自分が感じている痛み、苦しみ、辛さ、その全てが怒りへ代わり。




 自分が感じている飢えが、渇きが、枯渇の全てが飢餓へと代わり。




 自分が感じている全ての苦痛が、それを与えた相手への……否、自己以外の全てへの憎悪へと代る。




 殺す、殺す殺す殺す殺す殺す――――――ッッッ!!!!!




 一片の曇りも無く黑に染まった魂が、この世の全てを殺戮しながら呪詛と怨嗟を撒き散らす厄災と怪異へと変生しかけ――――――――




『喝っ! 舐めるでないわ!!』




 ……声が聞こえた。




『今一度この場の全員にはっきりと告げる。舐めるでないわ!! この男を誰と思っている!?』




 鋭く力強い、けれど同時にどこまでも温かく、とても心地良く聞こえる声がした。

 聞くだけで愛おしさの溢れる様な、あまり聞く機会の無い大人の女性の、けれど良く知っている少女の声だった。




『我らが主人! 我らが伴侶! 我らが最愛の赤松蓮上であるぞ!! 高々心臓を抉り出された程度で我らを残して旅立つほど、蓮上は軟弱な男では無いわっ!!』




 ……起きなきゃ、な。




 否、否! 恨めしい呪わしい忌まわしい全て凡て総て死死死死死―――うるせぇ黙れイズメが呼んでんだ今直ぐ起きるんだよッ!!!!!




 ………よし、起きるぞ。




「―――全く……心臓抉られてるのに死んだら軟弱とか、厳しいどころじゃないなイズメ……」






 ◇






 目を覚ましてからしばらく、皆からを今まで何があったのかを聞きながら部屋の中に居る面々の顔を見回す。

 知っている顔の方が多いが、初対面の相手も数名居た。


 初対面の相手は三名。

 迦具矢ちゃんの姉妹だという公主ちゃんとメーヴ、そして顔だけは以前から知っていた名高きアメリカの英雄セリオスさんだ。

 迦具矢ちゃんの姉妹が居るのにも驚いたが、世界的な有名人であるセリオス・ウェザーさんが目の前に居る事も非常に驚いた。

 アメリカ最強が目の前に居るとかスゲェ、サインとか貰えないかな?


「初めまして、セリオス・ウェザーさん。お会い出来て光栄です」


 みんなからの説明が一段落したところで、まず初めにセリオスさんへと挨拶をする。

 ベッドに寝たままで申し訳ないが握手を求めて右手を上げようとしたのだが……ハハ、参ったな。ピクリとも動かないぞ?


 右手だけでなく全身の感覚が鈍く、体を動かす事が殆ど出来ない。

 どうしたものか、と思っていると感覚の殆ど無い右腕がひとりでに動き出し、握手を求める形を取った。


(イズメか、ありがたい)


 スキルか魔法かは判らないが、どうやらイズメが動かない俺の体をサポートして動かしてくれるようだ。

 視線を向けると、目が合ったイズメから「任せろ」と言う意思の籠った視線が返って来た。

 俺が何も言わずとも、こうして当たり前にサポートをしてくれるんだから、感謝しかないな。


 差し伸ばされた俺の右手をセリオスさんはしっかりと掴み、握手に応じてくれた。

 大きく、堅く、触れているだけで頼もしさを感じるような英雄の手だった。


 スゲーな、俺今あのセリオス・ウェザーと握手してるよ。

 後で黄村たちに自慢しよう。


「っ……こちらこそ光栄だ。アカマツ・レンジョウ」


 俺の手を掴んだ瞬間、セリオスさんの顔が僅かに変わるのが見て取れた。

 あー、こりゃバレたっぽいかな?。

 そりゃそうだ。いくら何でも、直接触れ合えば俺の腕がただ動かされているだけで全く力が籠っていない事なんて直ぐ判る。


 気を使わせてしまったようで、セリオスさんは何事も無いかのように話を続けてくれた。


「正直、君とは以前からこうして直接話をしてみたかったんだよ。『首刈(ヴォーパル)レッドジョー』」

「ははは、『無敵超人(ザ・インヴィンシブル)』そう言われるとは、何だか照れますね」


 あまり大きなリアクションは取れないが、正直凄く驚いている。

 一昔前であれば、メジャーリーガーやハリウッドスターに存在を認知されていたようなものだからな。

 本当はもっと色々話したいんだが……今はちょっとシンドイな。

 出来れば万全の状態で思う存分話して見たかったよ。



 名残惜しく思いつつも軽く挨拶を済ませた俺は、続いてイズメたちと共に来たという金髪の少女。いや、女神へと声を掛けた。


「それで、君は公主ちゃんだったね。俺は蓮上、迦具矢ちゃんの……まぁ保護者みたいなもんだ。よろしく」

「……アンタ、凄いわね」


 挨拶も無く、公主ちゃんは半ば呆然としたような様子でそうポツリと口にした。

 信じられない様な物を目にしたと言わんばかりの態度に少し面食らったが、まぁセリオスさん同様にバレてるって事なんだろう。

 迦具矢ちゃんも横で俺の事を泣きそうな目で見ているのが正直辛いし、申し訳ない。

 参ったな、そんな顔させたくないのに。


 体の事はあまり言いふらさないで欲しいなと言う思いを込めて公主ちゃんの目を見ると、判ってくれたのか気を取り直して握手に応じてくれた。


「公主……鐵扇公主よ。よろしく」

「うん、よろしく。 ……聞いたところによると、君たち姉妹はいずれ殺し合う事になるそうだけど、そこのところどうなんだ?」


 挨拶をしつつ、先ほど皆から大まかに聞いた話の中で、これだけは確認しておかなきゃいけなかった事を危険を承知で訊ねる。

 最悪この場で戦いになるかもしれないが、俺が意識を保って居られる間に絶対に確認しておきたかったのだ。


 ところが公主ちゃんから帰って来たのは、何言ってんだコイツ? 的な胡乱な視線だった。


「はぁ? やらないわよ、姉妹で殺し合いなんて趣味の悪い事。私を何だと思ってるの?」

「えっ、あ、そう? 后娥ちゃんとやらに襲い掛かったって聞いたから、てっきり殺し合い上等なのかと……」


 この返答には、寧ろ俺の方が少し驚いた。

 姉妹同士での殺し合いについて軽く説明してくれた迦具矢ちゃんやその隣に居るメーヴでさえ、いずれ殺し合う自体は不可避であり、仕方の無い事と思っている様子だったからだ。

 だがそれを、公主ちゃんは堂々と真っ向から否定していた。


「あー、そういう事? 私は戦って勝って私の方が強いって証明したかっただけで、別に姉妹の誰も殺すつもりは無いわよ?」

「「ええっ!?」」


 公主ちゃんのこの発言に驚いたのは迦具矢ちゃんと、俺に輸血をしているもう一人の女神の少女、メーヴであった。

 二人共先程までは俺を心配しつつ公主ちゃんを警戒した様子を見せていたが、今は驚愕一色に染まった表情で公主ちゃんを見ている。

 二人にとってはそれくらいショックな発言だったらしい。


「なるほど、理由を聞いても良いかな?」

「簡単な話よ。私が一番強いって証明して姉妹達を従えれば、殺し合いなんてしなくて済むでしょ? ……例え他の姉妹達が殺し合いを望んでも、私たちを生み出した何某(なにがし)かが殺し合いを推奨しても、私が許さない。姉妹同士での殺し合いなんて気分の悪い事、絶対に許さないわよ」


 聞けば、それは公主ちゃんが生まれた直後に考えて決めた事だそうだ。

 彼女たち女神姉妹は生まれつき蠱毒の様な宿命を背負っていて、全員が一定以上育ちきったところでお互いに殺し合い、殺した姉妹の力を取り込む事で最後に生き残ったただ一人の最強の女神を生み出す事を目的として製造された、らしい。

 だが、公主ちゃんは生まれて直ぐにその事に疑問を持ち、どうにかして殺し合いの未来を回避出来ないかと悩んだ結果、姉妹全員を倒して自分が姉妹のリーダーになる事で殺し合いを禁じようと考えたのだそうだ。

 この結論に一人で至ったことに、迦具矢ちゃんとメーヴは驚いていた。


「すごい。私は、蓮上と出会って、使命よりも蓮上の方が大切だと思ったから、使命なんて捨てようと思ってたけど……公主は自分一人で考えて、使命を否定したんだ」

「……すごい、なぁ。私は流されるばっかりで、私は弱いからって諦めて流されるだけだったけど、公主は自分で考えて決めた事を貫くために、戦うって決めたんだ……」


 口を揃えて、二人は公主ちゃんを「すごい」と称賛する。

 迦具矢ちゃんとメーヴが公主ちゃんに向ける目に敬意の色が宿っていた。

 そんな視線を向けられて、公主ちゃんは若干居心地悪そうに腕を組んでそっぽを向いた。


「ふんっ、それくらい当然よ。どんな目的で誰に生み出されたのであれ、これは私自身の人生なのよ。何をするも、何をしないも私自身が決める。誰にも文句は言わせないわよ!」


 胸を張ってそう宣言する公主ちゃんはどこまでも眩しい。

 生まれたタイミングは迦具矢ちゃんたちと同じである筈だが、何というか、とてもしっかりとした自己を確立している。

 そんな彼女から直接気持ちを聞けたからこそ、俺は酷く安心した。


「……そっか、なら迦具矢ちゃんやメーヴと仲良くしてやってくれ。二人共、今更姉妹での殺し合いは望んでいないからね」

「言われるまでも無いわよ、そんな事! ……心配なのは判ったから、アンタはもっと自分を労わりなさい」


 最後にボソッと、俺の耳元でそう呟いた公主ちゃんはそのままスタスタと離れて行ってしまう。


 ……公主ちゃんは一見して怒りっぽい印象を受けるが、本質は真っ直ぐでとてもやさしいのだと感じられた。

 公主ちゃんの事もイズメや波柴さんたちに頼んでおこう。

 彼女たち女神姉妹が現代社会で生きて行くのに、手助けをしてくれる人が多いに越した事は無い。

 それと……



「……さて、最後は君だね。もうお互いの名前も判っているだろうけど改めて、俺は蓮上だ。君の名前を聞かせてくれないか?」



 そう言って俺は残るも一人の女神の少女、メーヴへと手を差し出した。

蓮上本人は体に全く力が入らない事で不調に気付かれたと思っていますが、それとはまた別の要素で滅茶苦茶弱っていると気付かれてます。

……今の蓮上、体温が滅茶苦茶下がっているんですよ。

それこそ体に力が入らないのも含めて、セリオスは握手した時一瞬死体の手を握っているのでは? と反射的に思ったほどです。

肉体が最低限にしか代謝を行えていない為に、ほとんど死体みたいな状態なんですよ。


公主ちゃんの場合は、迦具矢ちゃん『仏の御石の鉢』と同系統の解析スキルでセリオス以上に蓮上の体の状態を詳しく把握したため、ほとんど死体同然の体なのに意識を取り戻した上、その状態で意識を保ったまま会話までしている蓮上の精神力に驚いていました。

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