第七話 「魔導教典書士と初めてのダンジョン」
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記念に何か出来る訳ではありませんが、感謝の言葉を残しておきます。
ありがとう。そして、ありがとう!
「――よし、到着だ」
「で、ござるな」
青ヶ谷女子と緑河女子をそれぞれ抱えた俺と黄村は、十秒もかからずに『四季巡礼の山地』の入り口があるダンジョン管理局支部の前へと到着した。
直進なら学校から一kmも離れていないからと言うのもあるが、『上級探索者』の身体能力なら非探索者の体を気遣いながらでもこれ位は出来る。
その場に青ヶ谷女子と緑河女子を下ろすと、二人は支部の建物を見回しながら、運ばれた感想を語り合っていた。
「はぁ~、すっごく早かったね。ハルちゃん」
「あっという間に着いたっスよね~。探索者ってみんなあんなことが出来るんスか?」
「みんなと言う訳では無いでござるが、上級探索者と呼ばれる者たちなら大概出来ると思うでござるよ?」
緑河女子の質問に、黄村がそう答えた。
すると二人は『上級探索者』という聞き慣れない単語に興味を示した。
「上級探索者っスか? なんかカッコイイっスね! 二人もその上級探索者なんスか?」
「そうでござるよ。首刈殿の場合は、更に飛び抜けた最上級探索者と呼ぶべきでござろうが」
「へぇ~、それってなるのに何か条件があるの?」
「探索者間で勝手に使っている呼び方だから、定義は色々あるんだが……基本的には『小規模ダンジョン』で活動している者を下級探索者、『大規模ダンジョン』で活動している者を上級探索者って呼んでいるな」
ダンジョンは、その内部の規模によって『大規模ダンジョン』と『小規模ダンジョン』に分けられている。
『小規模ダンジョン』は主に内部の階層が十階層未満の小さなダンジョンを指す事が多く、それ以上の物を『大規模ダンジョン』と呼ぶのが一般的だ。
ただ、その基準が絶対と言う訳では無く、例えば俺たちがメインの狩場にしている『四季巡礼の山地』は『裾野・山麓・山腹・山頂』の四階層で構成されているが、一層一層の範囲が凄まじく広い為、大規模ダンジョンに指定されている。
その事を黄村とお互いに捕捉しながら、二人に説明した。
「そうなんだぁ。じゃあ私たちもこのダンジョンで探索者を始めたら、上級探索者の仲間入りなの?」
「いや、そうはならないな」
「小規模ダンジョンは難易度の低い物が多いから下級探索者の基準として挙げられているだけで、四季巡礼の山地では山腹エリアで安定して稼げるようになってようやく、上級探索者の仲間入りと言った所でござるな」
「はぁ、行くだけでなく、稼げるようにならないと認められないんスねぇ」
「当然だ。ただ先に進むだけなら、『気配遮断』スキルと『気配察知』スキルの併用や、モンスター避けのマジックアイテムの使用でも達成出来るからな」
登山家でもあるまいに、頂上まで行って帰って来るだけで終わりな訳も無し。
探索者だって今や立派な職業なのだから、収入こそが評価基準となる。
まぁ、生産職の場合はまた違って来るがな。
「二人はダンジョンに来るのは初めてなんだよな?」
「うん、そうだよ。だから今ちょっとワクワクしてるかな?」
「自分もっス! なんだかソワソワして駆け込みたい気分っス!」
「拙者も最初はそんな感じでござったなぁ~。けど、ダンジョン管理支部の職員の人に怒られるから、駆け込んでは駄目でござるよ?」
「了解っス!」
緑河女子の方は、判り易くテンションが上がっている感じだな。
青ヶ谷女子の方も、緑河女子ほどハシャイではないが、子供みたいにワクワクした目をしている。
昔は俺もあんなだったかね? 覚えてねぇーや。
まぁいいや。今日は二人にステータスを獲得させるだけだし、受付を済ませてさっさと中に入ろう。
「二人共、あそこに見える受付で探索者カードって言うのが作れるから、二人で登録して来てくれ」
「それが終わったら、次はいよいよダンジョン突入でござるよ!」
「え、登録が終わったら直ぐ?」
「もっと準備とかしなくて良いんスか? それに、登録するのに親の許可とかは要らないんスか?」
登録して直ぐ突入と言うと、流石に二人も不安げな顔を浮かべる。
けど、俺たち二人がついている以上、問題無い。
それに、緑河女子の気にする点も大丈夫だ。
「心配ないよ。入ってすぐの所で一番弱いモンスターの『スライム』を倒して直ぐ出る予定だからね。そこから先に行くなら、流石にちゃんとした装備が必要だけど」
「それに、登録するのに保護者の許可が必要なのは中学生以下限定でござるから、二人は学生証の提示と書類の記入だけで終わるでござるよ?」
そう説明すると、二人は安心して受付へと向かった。
二人が登録している間に、俺は黄村と話し合う。
「それで首刈殿、お二人の武器はどうされるでござるか? スライム相手なら、素手でも問題無いでござろうが……」
「素手で殴るにしろ、足で踏み潰すにしろ、スライム相手にやると体液で汚れるからなぁ。俺の方で適当に木材削って木刀でも作っておくよ。飛び道具って言う手も無くは無いんだがなぁ……」
俺がそう言って収納スキルから取り出した木材を、同じく取り出したナイフで削り出すと、黄村はここぞとばかりに懐から丸い物体を取り出した。
「では、ここは拙者謹製の焙烙玉を!」
「止めろ忍者、素人に爆薬なんぞ扱わせるんじゃない!」
馬鹿かテメェ?
仕舞え仕舞え、そんなもん。
と言うかこいつ、普段から爆薬なんぞ制服に仕込んでいるのか? やべぇ奴だ。
「暗器の類は、忍者の必須技能でござるからな! それに、収納スキルの中に普段から色々入れている首刈殿には言われたくないでござるよ」
「あーあー、聞こえなーい!」
正論をほざくなよ、俺だって自覚あるんだからよぉ!
仕方ねぇだろうが、一々家の保管庫に預けるよりも、収納の中に纏めて突っ込んでおいた方が楽なんだからさ。
スペースも取らないし。
「はぁ、拙者たちも早く欲しいでござるなぁ、収納スキル」
「欲しかったら金稼ぐか、素材を持ち込むしかねぇよ。『アイテムボックス』を買うって言う手もあるけど」
「あれは収納スキルよりも高いではござらんか! そもそも在庫自体も無いでござろうよ」
「それは収納のスキルブックもなんだけどな」
『錬金術師』などのジョブが作れる無限の道具袋のマジックアイテム、『アイテムボックス』は超がつく高級品だ。
何せ、スキルとは違って非探索者でも使える上に、他者へ譲渡する事も可能である。
製作の難易度も相応に高いが、作れるだけの技術を持っていれば、それを作ってオークションに出品するだけで、一生遊んで暮らせるだけの大金が手に入る。
魔導教典書士も大概稼げる側の生産職だが、最上位の錬金術師はそれ以上だな。
なんて話をしている間に、青ヶ谷女子と緑河女子が登録を終えて戻って来た。
二人分の木刀は既に作り終わったので、既に収納に仕舞い直してある。
「お待たせ~、二人共」
「バッチリ登録して来たっスよ~!」
戻って来た二人は、大きなアルファベットの『F』が刻まれた白いカードを手にしていた。
これこそが、ダンジョン管理局が発行している探索者カードだ。
刻まれているアルファベットは探索者としてランクを示している。
よく勘違いされるが、探索者カードのランクはダンジョン管理局への貢献度を示している物なので、戦闘力が低い物でも高ランクの者もいる。
だからこそ、下級探索者と上級探索者何て呼び方が、探索者の間で定着したのだが。
「おお、ピッカピカのFランクカードでござるなぁ」
「ふふーん。これでステータスも獲得すれば、晴れて自分たちも探索者デビューっス!」
「ふふ、そうだね。そう言えば、赤松くんと黄村くんのランクはいくつなの? 二人も探索者カードは持っているんでしょ?」
「あ、それ自分も気になるっス!」
「うん? まぁ構わないが……ほら」
「では、拙者のもご覧あれ!」
俺と黄村が各々の探索者カードを取り出す。
俺の物はシルバーの文字で『S』と刻まれた黒いカード、黄村の物はゴールドの文字で『A』と刻まれた赤いカードであった。
「おお! AランクとSランクのカードっス!」
「わぁ、すごい。やっぱりこのランクになるのって大変なの?」
「拙者のAランクはそうでも無いでござるよ? これはあくまで管理局への貢献度を示すランクでござるからなぁ。ただ、首刈殿のSランクは事情が少し違うのでござる」
「そうなの?」
青ヶ谷女子の質問に対し、黄村は何故か我が事の様に自慢げに説明した。
「一年ほど前、日本国内の四つのダンジョンに『屍征獣』という四体のモンスターが出現したのでござる。首刈殿はこの『屍征獣』らを討伐した事でSランクへと昇格したのでござるよ! ちなみに、首刈殿が最上級探索者や国内最強の探索者の一人と呼ばれるようになったのも、その時の活躍が原因でござる」
「『屍征獣』! 良く判んないけどカッコイイっス!」
昔話に目を輝かせる緑河女子に対し、黄村は当時の事を嬉々として語り、青ヶ谷女子もその話を横で興味深そうに聞いていた。
参ったな。結構恥ずかしいぞ、これ。
止めようとはしたが、青ヶ谷女子も緑河女子も『屍征獣』討伐時の話を聞きたがった為、結局黄村が当時の事を説明するのを聞きながら、ダンジョンに入る事となった。
『屍征獣』
『玄武・白虎・青龍・朱雀』の四体が出現し、その中でも『朱雀』は『四季巡礼の山地』に出現した。
主人公が持つ『朱雀羽織』はこの時のドロップ品であり、残り三体のドロップ品も所有している。
四体ともとある理由で蓮上以外の者では討伐出来ない、または討伐までに非常に時間がかかった為、最終的に全て蓮上によって討伐された。
討伐方法? もちろん首刈。