第七十四話 「瞳の紅は底無しの虚ろ」
おかしい、三千文字程度でサクサク投稿する筈が気付けば五千文字オーバーになってた。
こう言うのが多々あるから睡眠時間が削られるんだよなぁ。
「――死ね」
端的な言葉と共に燃えるような殺意の籠った黄金の機械剣が振り下ろされる。
左腕が使えなくなったペルセフォネはそれを右手だけで持った大鎌を盾に防ぐが、複数の奥義スキルによって強化されている迦具矢の膂力によって大きく弾き飛ばされた。
「ぐぅっ! 嘘、ここまで性能に差がある何て!?」
「五月蠅い黙れ口を開くな蓮上を傷つけたことを後悔しながら絶命しろッ!!」
二度の攻撃を受けて自身と迦具矢の能力さを感じ取り驚愕するペルセフォネ。
対しては迦具矢はペルセフォネの一言一句一挙手一投足が気に入らないとばかりに怒りも露わに攻撃を続ける。
互いの実力差は火を見るよりも明らかであった。
実のところ、迦具矢とペルセフォネの間にそれほど大きな能力差は無い。
蓮上を始めとする『十職人』たちと交流する事で複数の奥義スキルを獲得した迦具矢に対し、ペルセフォネは数多のモンスターを捕食する事によって莫大量のステータスを獲得している。
二人の差を決定的な物にしているのは互いが持つ感情の熱量、想いの強さであった。
生まれながらの捕食者であり食物連鎖の頂点たるペルセフォネには、迦具矢やメーヴの持つ誰かを大切に思う気持ち、他者を守ろうとする思いの強さが理解出来ない。
これはペルセフォネが姉妹中最も完成度の高い女神であることの弊害であるとも言えた。
己自身で完結しているペルセフォネは、他者を必要とする気持ちが姉妹中で最も薄いのだ。
対して自身にとって最も大切な存在である蓮上を傷つけられた迦具矢の怒りは激しい。
現在の迦具矢は怒りによってリミッターが外れたような状態であり、ステータス上の数値以上の力を発揮してペルセフォネを攻め立てている。
このままであればそう時を置かずして迦具矢はペルセフォネを討ち取るだろう。
だが………
「………………った」
片眼を緋色に染めた蓮上が何事かを呟きながら、フラフラと幽鬼の様な足取りで迦具矢らの下へと進む。
決着は迦具矢とペルセフォネの思いもよらぬ形で訪れる事となった。
◇
蓮上の行動に逸早く気付いたのは迦具矢とペルセフォネの戦闘を傍観するだけとなっていたメーヴであった。
姉妹中最弱の戦闘能力であるメーヴにとって迦具矢とペルセフォネの戦いに自分が入り込む余地は無い。
それ故に戦闘を眺めている事しか出来なかったが、だからこそ蓮上の接近に気付くことが出来たのだ。
「――あっ、まだ動いちゃダメ! あんなに大怪我をしていたんだか…ら……え?」
メーヴはフラフラと頼りなく歩く蓮上の姿を心配して声を上げ……その途中で気が付いた。
蓮上は現在『活聖命脈』の魅了効果によって操られているはずだ。
本来であればメーヴの命じた『ペルセフォネから逃げて』と言う指示に従ってこの場から離れている筈である。
だが、それに反して蓮上はゆっくりとではあるがペルセフォネの居る場所へと近付きつつあるのだ。
明らかな異常事態を認識したメーヴは慌てて蓮上を止めようとした。
「ま、待って! 一体どうして……きゃっ」
その場にへたり込んでいた状態から慌てて立ち上がろうとしてバランスを崩し、メーヴはその場に突っ伏してしまう。
その横を蓮上はゆったりと通り過ぎて行ったが、その際メーヴは蓮上がぶつぶつと呟いている言葉を耳にした。
「………………った」
「……え?」
その呟きの内容を聞いてメーヴは驚き蓮上の顔を見上げる。
そうして不意に蓮上の緋色に染まった瞳を直視してしまい、その奥に潜む何者かの存在を感じ取り息を飲んで身を強張らせた。
メーヴのそんな様子にも頓着せずに蓮上は突き進む。
蓮上が離れてからようやく体の硬直が解けたメーヴは、身を震わせつつそれでもなお心配げに蓮上の背中を見つめていた。
「……違う、あの人じゃ無かった。一体何なの……?」
今現在蓮上の体を動かしているのはメーヴの命令でも、蓮上自身の意思でも無い。
全く別の何物かであるのだと理解したメーヴは、蓮上が呟いていた言葉を思い出してより一層身を震わせた。
『嗚呼、腹が減った』
そう呟いた蓮上の緋色の瞳は、迦具矢と戦うペルセフォネの姿を真っ直ぐに見つめていた。
◇
迦具矢とペルセフォネの戦いは極めて一方的な展開となっていた。
もちろん、圧倒的に優位なのは迦具矢である。
「ハァァァッ!!」
「ぐぅぅ……っ!」
幾度も振り抜かれる迦具矢の機械剣『蓬莱の玉枝』をペルセフォネは手にした大鎌『冥導刃翼』によって必死に防ぐ。
だが、防いだ傍から迦具矢の剣閃は水の様に大鎌をすり抜けてペルセフォネの体を切り裂いて行く。
技量差があまりにも離れすぎている為に、ただ武器を構えて防ぐだけでは盾にすらならないのだ。
戦闘能力があまりにもかけ離れ居るペルセフォネが迦具矢の猛攻から生き延びられているのは、蓮上から得た奥義スキル『天破激震の頂』のおかげであった。
衝撃波を操るこの奥義スキルを使い、ペルセフォネは体が切り裂かれる瞬間に自身の体を弾き飛ばす事で機械剣に両断されることを免れているのだ。
だがそれは、同時に迦具矢の怒りの炎に油を注ぐ行為でもあった。
蓮上を殺そうと、あまつさえ食料扱いしたような相手が蓮上の能力を使って生き延びている……もはや百度縊り殺そうと収まらぬ激情が、迦具矢の心を支配していた。
一方で、迦具矢を無自覚に現在進行形で挑発し続けているペルセフォネだったが、迦具矢の怒りが刻一刻と増している事について気にしている余裕は無かった。
女神として自己完結が極まっているペルセフォネにとって、自身以外の存在の為に怒りをあらわにする迦具矢やメーヴの思いは非常に理解しがたいものだ。
ペルセフォネにとって、迦具矢に襲われている現状は意味不明の理由で激昂している狂人に襲われている様な物だ。
迦具矢らからすれば噴飯物の考えだが、何故自分がこんな目に合わなければならないという思いがペルセフォネの感じている全てであった。
迦具矢とペルセフォネ、互いの思いは平行線でありどちらか殺すまでこの戦いは終わらないだろう。
戦闘能力の差を考えれば勝者となるのは迦具矢である事は火を見るよりも明らかである。
お互いにその結論に至った迦具矢とペルセフォネは、偶然にも同時に勝負に出た。
迦具矢は一気に勝負を決めるために、ペルセフォネは一発逆転を狙って。
迦具矢の持つ機械剣が『蓬莱鉱山』で蓮上と戦った時の様に真ん中から二つに割れ、日輪の如き純白の炎を立ち昇らせる。
ペルセフォネはここまで秘していた『一番最初に獲得した奥義スキル』の力を解放し、ペルセフォネの胸元から青白い強烈な光が放たれ始める。
次の攻防で相手を確実に屠る。
そう決意し互いに武器を構えて機を見計らう。
木の葉の擦れる音すら大きく響く様な静寂の中、迦具矢とペルセフォネが集中してお互い以外への注意を無くした瞬間に、唐突に乱入者が現れた。
「――『百鬼刃・迫撃』」
「ガッ!?」
「えっ!?」
感情の籠らぬ声と共に、大気を割らんばかりの轟音と共に不意の一撃がペルセフォネへと放たれる。
あまりに激しい破砕音と共に放たれた一撃は、相応以上の破壊力を持っており迦具矢の猛攻を受けて損傷の激しかった『冥導刃翼』を粉々に砕きながらペルセフォネを大きく弾き飛ばした。
ペルセフォネに奇襲を行った者の姿を確認して迦具矢が驚きの声を上げる。
襲撃者の正体は夜闇に解けそうなほどに暗い、刃の先から柄頭にかけてまで全てが漆黒の大太刀を手にした蓮上だった。
「蓮上!? どうして……っ!」
慌てて蓮上に駆け寄ろうとして、途中で何かに気付いた迦具矢は足を止める。
大太刀を手に、幽鬼の様に佇むその姿は迦具矢の知る蓮上のものとはかけ離れていた。
だが同時に、この状態の蓮上について迦具矢は心当たりがあった。
(これって、山で私と戦った時の蓮上と同じ……ううん、違う。あの時よりもずっと嫌な感じがする!)
迦具矢が感じ取った蓮上の違いとは、蓮上の体を動かしている意識の種類とその割合であった。
『蓬莱鉱山』での戦いの際、迦具矢に胸を貫かれたダメージで意識を失った蓮上の肉体を一時的に動かしていたのは三つの意思だ。
一つ目は『蓮上自身の生存本能』。
二つ目は『五色教典の人工知能』。
そして三つ目は……『蓮上に取り憑く鳥の怪異』。
『蓬莱鉱山』での戦いの際にはこれらがそれぞれ3:5:2程度の割合で蓮上の肉体を稼働させていた。
一方で、現在蓮上の肉体を動かす割合は三つ目の鳥の怪異が動かす割合が非常に大きい。
『五色教典』はエウロパに奪われ、メーヴの血を受けてある程度回復したとは言え極限まで枯渇した蓮上の肉体は、本来なら生存本能でさえ動かす事が困難な状態だ。
そんな中で蓮上自身の状態の変化による影響をほとんど受けない鳥の怪異は、他に蓮上の肉体を動かす意思が存在しないのをいいことに、肉体の操作権のおよそ八割を獲得していた。
その事を敏感に感じ取った迦具矢は、『蓬莱鉱山』での出来事を思い出し背筋に冷たいものを感じながらも取り乱す事無く警戒を強める。
が、そんな迦具矢の様子には興味が無いとばかりに蓮上は弾き飛ばしたペルセフォネに視線を向け、続いて手に持つ大太刀の刃を注視した。
漆黒の刀身には、判り辛いがペルセフォネの血が滴っている。
通常であれば一撃必殺で首を刎ねに行く蓮上本来のものとは違い、鳥の怪異が操作する今の蓮上の放つ攻撃は苛烈ではあるが常に首を狙いに行くほど容赦のないものではない。
ある意味普通の攻撃であると言えるが、それ故に短い時間とは言え直接戦って蓮上の戦い方を理解している迦具矢から見れば衝撃的な光景であった。
刀身を見つめて佇む蓮上の向こうでは、不意打ちで弾き飛ばされて土に塗れたペルセフォネが大太刀で付けられたのであろう右腕の傷を抑えながら立ち上がり、警戒感の籠った目で迦具矢を、そして蓮上を睨み付けていた。
ペルセフォネからすれば、自分に不意打ち蓮上の存在は迦具矢に続いて理不尽なものであった。
実に身勝手極まりないが、食料風情が自身に手傷を負わせるなどあってはならない事だ。
そんな事をペルセフォネは本気で心から考えていた。
………だが、そんな考えも次の瞬間には蓮上の取った行動を見て消し飛んだ。
その光景は、ペルセフォネのそれまでの考えをぐちゃぐちゃに叩き壊して消し飛ばし、新たに形作るほどに衝撃的な光景であった。
「なっ!?」
「――え?」
迦具矢が驚愕の声を上げ、ペルセフォネが呆然とした声を上げる。
両者の見ている前で鳥の怪異に動かされる蓮上は、大太刀の刃に付いたペルセフォネの血をベロリと舐め上げたのだ。
それは果たして鳥の怪異が望んでやったことだったのだろうか?
いや違う。
一度ペルセフォネの血を舐めた蓮上は、今度は刃の根元から、次は刃を返して反対側を。
一滴も逃さないとばかりに丹念に、そして必死にペルセフォネの血を舐め上げた。
その姿は、砂漠で一滴の水を求めて喘ぐ旅人かの様でもあった。
刃に一日の全てを舐め尽くした蓮上は、続いてペルセフォネへと視線を向ける。
片や黒、片や緋色の二つの瞳でペルセフォネを見据えた蓮上は、ポツリと呟いた。
「―――足りない」
その一言は鳥の怪異の意思では無く、間違いなく蓮上自身の意思から零れた言葉であった。
その言葉には、蓮上が感じているどうしようもない飢えと渇き、そしてそれらに対する苦しみが込められていた。
まるで立場が逆転していた。
先程までペルセフォネが蓮上を捕食対象としか見ていなかった様に、今は蓮上がペルセフォネを自身の枯渇を潤す為の糧として見つめていた。
「――アハ」
笑い声が、零れた。
声の主は、ペルセフォネだった。
先程まで自身の餌でしか無かったはずの存在に逆に餌と認識され、ペルセフォネは満面の笑みを浮かべていた。
「アハ、アハハハハハハハッ! アハハハハハハハハハハハハハハアハハハハハアアハアハハッハハハハハハハアハハハハッッ!!! 貴方! 私を食べたわねっ!? 私の事が食べたくて欲しくて仕方が無いのねっ!!!」
それは狂笑だった。
迦具矢の事もメーヴの事も何もかも忘れて、ペルセフォネは只々蓮上だけをその瞳に移して狂ったように笑っていた。
「嗚呼、嬉しいわ! 素敵だわ! 愉快だわ! 幸せだわ!! こんなに嬉しくて楽しいのなんて生まれて初めてよ!!!」
「っ!」
豹変した。と言うべきペルセフォネの姿に、迦具矢は警戒心が怒りを上回って蓮上の盾となる様に機械剣を向けながら前に出る。
だが、もはやそんな迦具矢の姿も目に入らないペルセフォネは手にしていた大鎌をその場に手放し、興奮して上気したかを置抑える様に両手を当てる。
「嗚呼、どうしましょう。こんな気持ち、初めてだわ! 喜びと幸福感が溢れてどうにかなっちゃいそう!!」
「―――」
そんなペルセフォネの急変にも動じず、蓮上は只々飢えた瞳でペルセフォネを見つめ続ける。
その事が嬉しかったのか、ペルセフォネは身をくねらせながら歓声を上げた。
「もう! そんな目で見つめられたら、ますますどうにかなっちゃいそうだわ!! ねぇ貴方、お名前はなんて言ったかしら? 自己紹介なんてしてなかったわよね? とっても不思議なの! 私、貴方の事を知りたくて仕方が無いの!! 貴方に私を知って欲しくて仕方が無いの!!! 貴方を食べたくて、貴方に私を食べて欲しくて仕方が無いのっ!!!! 嗚呼、これが恋って言うものなのかしら?」
恍惚とした表情でそんな事を捲し立てる。
その顔は、言葉の内容にさえ目を瞑れば、『恋する乙女』言えなくもなかった。
おかしい、主人公を捕食対象としか見て無かった幼女が気付けば主人公の事を好きになってた。(なお、捕食したいと思っている事に変わりは無い模様。相互捕食欲求とか意味判んねぇわ)
こういうキャラになっちゃったから作者の頭がおかしいと思われかねないんだよなぁ。




