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第七十三話 「太陽を手繰る、黒の鎖」

(・▲・)「ジュリリィ(なぁんか良い感じに文章が纏まらないなぁと思いつつ更新。後どれだけ書き続ければ理想の文章が書けるようになるのだろうか)」

「ぐっ、ぅ……」

「へぇ……中々耐えるわね?」



 蓮上を守ろうとするメーヴをペルセフォネが甚振り始めてから、既に十分以上経つ。

 全身が血塗れのメーヴであったが、それでもまだ生きていた。



 当初のメーヴはワインレッドのローブを身に纏い、癖のある柔らかな水色の髪を赤いリボンでツーサイドアップに纏めていた。

 しかし、現在身に纏うローブはズタズタに切り裂かれ、メーヴ自身の血が染み込み元のワインレッドよりもより一層赤黒く変色してしまっている。

 髪に関しても同様で、柔らかで透明感のあった水色の髪は血に染まり、纏められていた左側の一房がリボンごと切り落とされていた。


 全身で無事な箇所を探すのが難しいほどに切り刻まれてもなおメーヴが生きているのは、ペルセフォネが本気で殺しに来ておらず遊んでいる事も要因だったが、何よりも大きいのはメーヴ自身の持つ『神話スキル』の能力によるものであった。




 神話スキル『五種神宝(イクサノカンダカラ)活聖命脈(トリスケリオン)』。




 それこそがメーヴの持つ神話スキルの一つであり、メーヴがこれまで生き残っている理由だ。

 このスキルはメーヴの肉体を流れる全ての体液そのものであり、非常に強力な癒しの力を持っている。

 その回復能力は錬金術によって生成される最上位の回復アイテム『万能回復薬(エリクサー)』すら優に上回り、これが全身を循環しているメーヴは不死身と言って良いほどの回復力を備えているのだ。


 実際、メーヴの全身は自身の血で血塗れであったが、その下にある肉体は既に全快している。

 流石に全身を一度に消し飛ばすような攻撃であれば耐え切れないが、ペルセフォネが遊んでいる今であれば十分に耐えることが可能であった。




聖泉之女神(せいせんのめがみ) ティターニアメーヴ・五種神宝(イクサノカンダカラ)




 それが彼女の本来の名前であり、生命を司る水こそが彼女の力の本質であった。



 ……だがそれでも、蓮上を抱えてペルセフォネと対峙するメーヴの表情に余裕は無い。

 判っているのだ。

 たとえ自分が不死身に近くとも、それはあくまでペルセフォネが本気を出していない今だけなのだと。

 そして、たとえ自分は生き残れても、今も腕の中でどんどん弱って行っている蓮上の命はいずれ尽き果てるのだと。

 蓮上を守り抜き、共に生き残るには現在のメーヴでは力不足過ぎたのだ。


 一応だが、メーヴ自身の力不足を解消方法は無くは無い。

 しかもその方法を使えば、ほとんど危篤状態である蓮上をある程度持ち直させることさえ可能である。

 それは現在の状況に対して非常に都合の良い方法ではあったが、最大の問題はその方法をペルセフォネがみすみす実行させる訳が無いという事であった。

 そのせいで今は、ペルセフォネの振るう刃から蓮上を守りつつ、攻撃によって流れ出た血を蓮上に浴びせて少しでも回復を促す事がメーヴに出来る精一杯であった。



 自分の力では現状を打破出来ないと早々に悟ったメーヴは、時間を稼いで助けが来るのを待つ事にした。

 こうして時間を稼いでいる間に、直ぐ近くに居るはずのもう一人の女神、迦具矢が蓮上を助けるためにやって来るはずだ。


 そう期待したのだが、しかし一向に来る気配が無い。

 その事に疑問を持ち、スキルを用いず女神としての感覚を頼りに、周囲に漂う魔力の気配を探って見ると、いつの間にか辺り一帯にペルセフォネの魔力が充満している事に気が付いた。

 メーヴの気付かぬ間に、ペルセフォネが邪魔が入らない様に細工をしていたのだ。


「っ、結界か何かが、張られている? いつの間に……!」

「あら、今更気が付いたの? 流石に鈍すぎるんじゃないかしら?」


 細工に気付いたメーヴに対し、ペルセフォネは気付くのが遅いと呆れる。

 そうしてそのまま、特に勿体ぶる様なことも無く、酷くあっさりと種明かしをした。


「いつの間にも何、あなたが飛び込んで来た時にはもうとっくに『冥王領域(ハーデス)』を展開済みよ? 流石に今の私でも、迦具矢が来たら面倒だもの。対策の一つぐらいは講じるわよ」



 自身の神話スキルの名前を交えながら、ペルセフォネはそう説明する。


 『冥王領域』はペルセフォネの持つスキルであり、自身のテリトリーとなる結界、あるいは力場の様な物を展開するスキルだ。

 この領域内はペルセフォネの支配下にあり、外側から内部を観測出来なくすることも可能だった。

 このスキルを使ってペルセフォネは、周囲から自分たちの存在を丸ごと隠しているのだ。




冥庭之女神(めいていのめがみ) アディスペルセフォネ・五種神宝(イクサノカンダカラ)




 暗く冷たい閉じた大地、その支配者こそが彼女の本質だ。


 彼女は自身の君臨する領域の絶対的な支配者であり、領域の中と外、その両方を認識するのと同時に、その両方からの観測を自在に制限することが出来た。

 メーヴには判らなかったが、領域の主であるペルセフォネは領域の外側を蓮上を探して飛び回っている迦具矢の姿を一方的に観測で来ていた。




 自分よりも遥かに強大な力を持つペルセフォネを前にして、余裕の一切無いメーヴ。

 だが、実のところ余裕が無いのはペルセフォネもまた同様であった。

 何故なら、ペルセフォネが姉妹の中で最も警戒している相手こそが、迦具矢だからである。




 ◇




 ゴールデンウィークの初日、世界各地に存在する七つのダンジョンで同時に生まれたのが彼女たち『七女神姉妹(セブンス・S)』だ。


 彼女たちは全員が同じ使命の下、『大いなる存在』と呼ぶべきものによって製造された、最新の女神たちである。

 彼女たちはその使命を果たす為に、最終的にお互いを殺し合う運命にあったが、それは今は置いておく。

 重要なのは、彼女たちはそれぞれ別の『特色(テーマ)』を持って生み出されたという事だ。



 例えば、ペルセフォネのテーマは『完成度』だ。

 彼女は姉妹の中で最も完成度の高い女神として生み出されたが為に、神としての特性が強く、権能とも言うべき強力かつ強制力の強いスキルを持っている。

 展開した範囲内に独自のルールを敷き、強制させる『冥王領域』がその一つだ。



 例えば、メーヴのテーマは『統率力』だ。

 彼女は姉妹の中では最も本体性能の弱い女神なのだが、その代わりに他者を強制的に従え、統率するという恐ろしいスキルを持っている。

 今は自身と蓮上の治療にしか使用していないが、本来『活聖命脈』には血を与えた相手を魅了し、支配するという能力も備わっている。



 以上の様に、女神たちはそれぞれその能力に独自の特色を持っている。


 これは彼女たちを製造した『大いなる存在』が多様な特性を持つ女神たちの中から、最も優れた者を選別しようとしているからだ。

 要するにそれぞれの特色を持った女神たちを成長させ、殺し合いの末に生き残った最も優れた女神を『大いなる存在』は求めているのである。



 ――さて、では『最も高い完成度』を誇るペルセフォネが警戒する迦具矢のテーマとは何か?


 答えは単純明快だ。

 『最も高い戦闘能力』、それこそが迦具矢の持つテーマである。



 現在メーヴを圧倒しているペルセフォネだが、七姉妹中でメーヴの戦闘能力は最下位でしかない。

 戦闘特化の迦具矢が戦闘能力序列一位なのに対し、ペルセフォネの戦闘能力序列は第五位だ。

 しかも碌にスキルや魔法のコピーをしていないメーヴに対し、迦具矢は蓮上や『十職人(テン・カラーズ)』の面々のスキルをコピーしている。


 ペルセフォネも蓮上の心臓を捕食した事により、蓮上の持つスキル、魔法、奥義スキルの全てを獲得していたが……獲得しているスキル面で大差の無い迦具矢が相手では、あまりにも分が悪かった。



 だが、それでもなおペルセフォネは迦具矢に対してそう簡単に負けるとは思っていない。

 それはペルセフォネが自身の生誕の地である『歓びの冥庭』で獲得した、とある奥義スキル(・・・・・・・・)の存在から来る自信であった。

 その奥義スキルの存在こそが、ペルセフォネを時期尚早な姉妹達の捕食という凶行に走らせても居たのだが……。




 とは言え、ペルセフォネもそろそろ飽きて来た。

 攻撃しても端から回復して行くメーヴが相手では時間を浪費しているだけにも感じて来たし、そもそも『冥王領域』の外側をチョロチョロと飛び回る迦具矢の存在が気になってストレスが溜まっていた。


 ペルセフォネは我慢が出来ない(たち)だ。

 正確には生まれてから今までの時間の中で、我慢と言うものをする必要性を学んでいなかった。

 と同時に、現状はペルセフォネにとって、特に我慢をする必要のある状況でも無かったのだ。



 故にペルセフォネは、遊びを止めて手早く片付ける事を決めた。



「――さて、そろそろ終わりにするわね?」

「っ!? ああぁぁっ!!??」



 ペルセフォネの振るう大鎌が、メーヴの胸へ深々と突き刺さり貫通する。

 今までの直ぐに回復するような小さな傷とは違い、胸から背中へと突き抜けそのまま引き抜かれもしない刃の痛みに、メーヴが絶叫する。


「そう騒がないで? 今楽にして、……?」


 そのまま胴体を両断して止めを刺そうとしたペルセフォネだったが、メーヴの突然の奇妙な行動に首を傾げる。

 絶叫を上げていたはずのメーヴは、激痛に涙を流しながらも歯を食いしばり、自身の手が傷つく事も構わず大鎌の刃を握り締めると、そのまま刃に体を押し付けるようにして自分の心臓を更に切り裂いたのだ。


「ぐ、うぅぅぅ……っ!!」


 当然、そんな事をすればメーヴの身を更なる痛みが苛む。

 余りの激痛に、いっそ死んでしまった方が楽に慣れるだろうと思うほどであった。


 だが……それでもメーヴは敢えて自分が苦痛を受ける行動を取った。

 メーヴにはもう、これしか出来る事が無かったのだ。

 死にかけの蓮上に少しでも多くの、癒しの力を持つ自分の血を浴びせる。

 ペルセフォネを前に、自分が生き残るのはもはや不可能だと判断したメーヴは、自己犠牲によってでも蓮上を生かそうとしていた。


 切り裂かれた心臓から流れ出た大量の血を浴びて、蓮上の傷が瞬く間に塞がって行く。

 それと同時に蓮上の瞼がぼんやりと開かれるのを確認したメーヴは、今感じている痛みさえ忘れるほどの安堵を覚えながら、蓮上に最後となるであろう言葉を告げた。



「『お願い、貴方だけでも生きて』――」



 それは、『活聖命脈』の持つ魅了・支配の力を込めた言葉だった。

 その言葉を告げた事で、意識を完全には取り戻していない蓮上の体が動き出し、同時にメーヴが自身の体に刃が突き刺さったままの大鎌の柄を強く強く握り締める。

 ここに至ってようやく、ペルセフォネはメーヴが何をするつもりなのかを察した。


「あなた、まさか!?」

「ぐっ、少しでも時間を……!」


 自分の命を犠牲にしてでも蓮上を助ける。

 メーヴがそれを選んだことを理解して、ペルセフォネは驚愕した。

 夢にも思わなかったのだ。まさか、たかが食糧如き(・・・・・・・)を守るために、自分の姉妹が自らの命を犠牲にするなどと。

 余りに理解しがたい光景を前に、初めてペルセフォネの余裕が崩れた。


「あなた、正気なの!? いくら最高のご馳走だからって、食べ物一つの為に死のうって言うの!? おかしいわよっ!!」

「ぐっ! この人は、食べ物なんかじゃない!! それが理解出来ない貴女に、これ以上彼を傷つけさせない!!」


(何なのコイツ、訳が分からないわ。怖い……)


 血反吐を吐きながらも、不退転の意思を持って蓮上を守ると宣言するメーヴ。

 それに対し、ペルセフォネは生まれて初めて理解出来無いものに対する恐怖を感じた。

 そして決意した。この目の前の頭のおかしくなった姉妹を、今すぐ排除すると。


「『速く逃げて! ペルセフォネに捕まらないどこかへ!!』」

「もういい、今すぐ殺すわ!!」


 柄を掴んでいたメーヴの腕を切り裂きながら大鎌を引き戻し、メーヴの首を刎ねようと振り被るペルセフォネ。

 それに構わず、メーヴは重ねて蓮上へと生き延びる様に言葉を告げた。


 茫洋とした瞳のまま蓮上は立ち上がり、ペルセフォネに背を向けて走り出そうとする。

 蓮上のその姿と、自身へ迫る大鎌の動きが酷くゆっくりと感じられる中、メーヴは自身の死が迫っているというのに、不思議と落ち着いた心持であった。

 恐怖は無く、むしろ自分では無く蓮上を心配する気持ちばかりが溢れていた。


(ああ、ちゃんと逃げられるかな? 迦具矢が間に合ってくれると良いけど)


 本当はもっとちゃんと話したかった。

 自分の話を聞いて欲しかった、彼の話を聞いてみたかった。

 出会い方がもっと違っていたら、彼と仲良くなれただろうか?

 ペルセフォネとは無理だったけど、彼と一緒なら迦具矢とは仲良くなれたのかな?


 そんな事を思いながら、首元に迫る刃を無視して蓮上の姿だけを目に焼き付ける。

 恐怖は無い。けれど、心残りはあった。


(あの人がどんな顔で笑うのか、知りたかったなぁ――)


 紫水晶(アメジスト)の如き紫紺の刃が、メーヴの白い柔肌に迫る。

 そして―――




 ◇




 ギィンッ!!



「キャッ!?」

「え……?」



 乱暴な金属音と共に、黄金の光が紫紺の刃を弾き返す。

 いいや、弾き返すなどと言う生易しいものではない。

 刃とその持ち主ごと両断する勢いで、黄金の光は一切の容赦なく振り抜かれたのだから。

 勢いそのままに刃ごと大きく後ろへ弾き飛ばされたペルセフォネを、メーヴは唖然とした目で見ていた。


 だが、そんな場合では無いとメーヴは気を取り直す。

 ギリギリのところで助かったメーヴが、自分を救った黄金の光へと目を向けると、その光の正体は黄金に輝く機械剣であった。

 更にその機械剣の持ち主へと目を向けると、そこに居たのは紅蓮の機械鎧に身を包む、自身と同じ目をした黒髪の少女であった。


 その少女の姿を見て、ペルセフォネが驚愕と困惑が混ざった表情で狼狽した声を上げる。


「な、なんで。『冥王領域』は解除して無いのに、何であなたがここに居るの!? 迦具矢!」

「……」


 その質問には答えず、迦具矢は自身の左手を持ち上げて見つめる。

 そこにはネックレスのチェーンの様な、細く黒い鎖が巻き付いており、鎖を辿ったその先では、左目だけが緋色に染まった蓮上が茫洋とした目で迦具矢を見つめていた。


 その瞳の色に、迦具矢はほんの少し恐怖を感じたが、それ以上の怒りが迦具矢の中に渦巻いた。


 血みどろでボロボロ、そして自分と『蓬莱鉱山』で戦った時の様な、意識の無い蓮上の姿。

 この場で何があったのか、迦具矢は全て察した。


「……お前がやったの?」


 だが、それでも一応迦具矢は訊ねた。

 とは言えこれは、確認の為の質問では無い。


 一切の加減なく相手を叩き潰す。

 その前段階として、相手を明確な敵であると認識する為の作業であった。


「……」

「もう一度聞く、お前がやったの?」

「……」

「……そう、お前がやったんだな」

「……だったら、何? まさかあなたも、メーヴみたいにそこの食べ物を守るだなんて言うつもり!?」


 忌々しいとばかりにペルセフォネが吼える。

 だが、その返答はあまりにも悪手であり、決定的であった。



 ペルセフォネのその言葉を聞いた瞬間、迦具矢の中で何かが切れる音がした。



「ガッ!?」

「――」



 一瞬でペルセフォネの目の前に移動した迦具矢が、叩き潰すように機械剣を振り下ろす。

 咄嗟にペルセフォネは大鎌でガードしたが、受け止めきれずに弾き飛ばされ、迦具矢の余りの力に左腕が拉げる様に折れていた。


「~~っ! あああっ!?」


 生まれて初めて感じる激痛に、ペルセフォネが悲鳴を上げる。

 だが、機械剣を真っ直ぐペルセフォネに向ける迦具矢に瞳には、一切の慈悲は無かった。



「――お前、生きて帰れると思うなよ」



 迦具矢は今、生まれて初めて怒り狂っていた。

迦具矢ちゃん、ブチ切れる。

そして登場してはいるのに影が薄い主人公。


これも蓮上がすぐ死にかけるのが悪いんだ。(と、そんな状況に追い込んだ作者が申しております)

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