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第七十二話 「予兆」

(・▲・)「ジュリリィ(前回の話を更新した日のPVがめっちゃ伸びてて草生えるw 良いの? 主人公が白髪の幼女にヤーナム染みた臓物抜き食らって心臓ムシャムシャされた話だったのに!? ……私のとこ読者、ヤバい奴多いのかもしれんね)」(そんな話書いた頭おかしい作者はどこのどいつだよ)

 体力と魔力を枯渇させられ、心臓を抉られ肩口を喰い千切られるという重傷を負い意識を失った蓮上。

 そんな中、同じ瞳を持つ二人の少女が対峙する。



「……どう言うつもり? この人は私たち姉妹にとって決して失ってはいけない人なのに! そんな事も判らないの、『ペルセフォネ』!!」



 意識の無い蓮上を抱える水色髪の少女が吠える。

 その声は怒気に満ちていたが、同時に蓮上を抱える腕が小さく震えていた。

 その姿はまるで小動物が相対した肉食動物を威嚇するかの様で、虚勢であるのは明らかだった。



「えぇー? 確かに今まで食べた中で一番美味しかったし、このまま食べ尽くして無くなっちゃうのはもったいないなぁとは思うけど、そんなに必死になるほどかしら。『メーヴ』?」



 一方で、漆黒の柄に暗い紫の刃を持つ大鎌を手にした白髪の少女は、水色髪の少女の言葉にどこ吹く風と言った態度で小首を傾げている。

 そこには自身よりも力で劣る存在が張りぼての虚勢を張る事への憐れみも嘲りも存在しない。

 そもそも水色髪の少女の態度など歯牙にもかけていないのだ。

 窮鼠が噛み付く事を獅子が危惧しない様に、そこには絶対的な力の差があるが故の相手への無関心さがあった。



「っ! ……やっぱり貴女は狂ってる。もうこれ以上、この人には私が指一本触れさせない!!」

「無理だと思うけどなぁ? まぁ、やってみれば良いんじゃないかしら?」



 姉妹として同格の存在として生まれた二人だが、現在お互いが持っている力の差は歴然であった。

 だがそれでも、水色髪の少女はここで退く訳には行かないと歯を食いしばった。




 ◇




 恐ろしい。

 それが水色髪の少女、『メーヴ』の心に浮かぶ一言だった。


 メーヴが白髪の少女、『ペルセフォネ』と邂逅したのはこれが初めてではない。

 今居る日本よりも遥か西、メーヴの生誕の地であるダンジョン『聖泉の森』にて彼女たちは出会った。


 当初のメーヴは、初めて出会った己の姉妹に対し警戒と同時に期待と興奮を抱いていた。


 彼女たち姉妹には、生まれついての『使命』がある。

 その『使命』故に彼女たちは、最終的には『姉妹同士で殺し合う』事が予定されていた。

 だが、その時が来るのは遥か先の事。

 彼女たちが殺し合いを始めるのにも時期があり、それが訪れるのはずっと先の話であった。

 それに、彼女たち姉妹がいずれ殺し合うのはほとんど確定したことであったが、だからと言って絶対に殺し合わねばならないとも言い切れない。

 あくまで予定であり、未来は決まっていないのだ。

 だからこそ、メーヴはこう考えていた。



 『姉妹同士、仲良く出来れば良いのに』と。



 彼女たちはこの地上で七人しかいない、通常の生物の血縁なんかよりももっと深い部分で繋がった同胞だ。

 生まれたばかりの今の時点で戦う必要など無い以上、もしかして相手も自分と同じ気持ちを持っていて、姉妹である自分に会いに来てくれたのかもしれない。

 限りなく低い可能性であろうと、メーヴはそれを期待してしまった。


 だが……そんな淡い期待は、いとも容易く裏切られた。



『初めましてメーヴ、私はペルセフォネよ! よろしくね?』

『う、うん! よろしくペルセフォネ! で、でも、どうして会いに来てくれたの? まだ私たちが戦う時期じゃ無いのに……もしかして!』

『ええ、そうね、そうよね? 私たちが戦うのはずっと先の事、それが私たちの指名だもの……ああけど、会いに来て良かったわ。実際に会うまで確信が持てなかったけれど、今ならはっきりと自信を持って言えるわ! メーヴ、あなたって……とっても美味しそう』

『……え?』

『ああ、もう我慢出来ないわ! あなたの血も肉も骨も髪も皮も脳も眼球も舌も肺も心臓も胃袋も腸も肝臓も腎臓も子宮も全部全部全部!! 私に食べさせてっ!!!』

『ひっ……!』



 そう言ってペルセフォネは、怖気(おぞけ)が走るほどに狂おしい食欲を振り乱しながら、メーヴへと襲い掛かって来た。

 メーヴは生まれて初めて感じる恐怖と悍ましさを前に、自身のスキルによって呼び出した守護獣を盾にして一目散に逃げた。

 その守護獣すら、ペルセフォネは笑いながら全て食らい尽くした。

 メーヴが逃げられたのは、偶々呼び出した守護獣が山ほどの大きさを持つ牛であり、それをペルセフォネが全て食い尽くすまで時間がかかったからだ。


 ペルセフォネから逃げ切ったメーヴはどことも知れぬ森の中に身を潜めながら、いつまた襲って来るかも判らないペルセフォネの存在に身を震わせながら出来るだけ遠くへと奥へと逃げ延びた。

 身を隠しつつ進む中、メーヴは涙を流していた。

 自らの考えの甘さ、姉妹であるはずの自分を捕食しようとしたペルセフォネへの恐怖、頼れる者の誰も居ない現状への心細さ。

 それらが生まれて間もないメーヴの心を苛み、行き場の無い感情が涙となって零れ落ちていたのだ。


 流した涙は地面に落ち、そこから生命が湧き出るかの様に植物が生い茂る。

 それはメーヴの生まれ持つスキルによるものだったが、それに気付いたメーヴは慌てて涙をぬぐい、それ以上泣くのを堪えようとした。

 自身が涙を流した後に生い茂った植物たち。こんなものが残っていては、自らの居場所や足取りをバラしている様な物だ。

 その事に思い至ったメーヴは涙を止めようとするが、後から後から湧き出て来る涙を堪えることが出来ず、遂にはその場にしゃがみ込んで顔を覆ってしまった。


 気付いてしまったのだ、自分が行きつく場所などどこにも無い事に。

 このまま逃げ続けても、メーヴには行く当てなどない。

 それどころか、逃げた先でペルセフォネや他の姉妹と遭遇し、戦う事となってしまうかもしれない。

 そう考えると、メーヴはその場から一歩も動けなくなってしまった。


 じっとりとした、鉛の様に重く暗い絶望がメーヴの心を満たして行く。

 いっそこのまま誰とも知れぬ場所で消えてしまった方が楽なのではないか?

 そんな事をメーヴが考え始めた時、変化が起きた。

 生まれてから初めて感じる強く巨大な熱量、熱くて恋しく、温かくて安らぐ、そんな正体不明の感情の奔流が、メーヴの胸の内へと流れ込んだのだ。


(なに、これ……?)


 それはメーヴが感じているものではなく、姉妹の一人である迦具矢感じた感情であった。

 彼女たち女神姉妹はその性質上、存在の根幹的な部分が繋がっている。

 その繋がりによって彼女たちは他の姉妹が見聞きしたもの、感じた思いを共有する事が出来るのだ。

 中でもメーヴは姉妹で最もその『共感能力』に優れており、何れ成長すれば他の姉妹達が何を思い、何をして、どのように生きているのかをリアルタイムで知る事も可能なほどであった。


 だが、生まれたばかりである今のメーヴにそれほどの力はない。

 今回迦具矢の感情を共有出来たのも、迦具矢が他の姉妹にも逆流するほどの強く巨大な感情を抱いたからこその特例であった。


 その感情の流れを逆に辿る形で、メーヴは迦具矢が何と出会いどのような過程を経て今の感情を獲得したのかを知った。

 迦具矢の感情を通して垣間見たのは、迦具矢を見つめる黒髪の青年の姿であった。


(ああ、なんて暖かくて優し気な人なんだろう……)


 迦具矢を見つめる青年の目は、メーヴが今まで見た事が無いほど優しさと愛情に溢れたものであった。

 優しさと温かさと力強さ、見ていてこれ程安心させられる目を見たのは初めてだった。

 この目を向けられているのは自分では無い。

 そう頭では判っていても、メーヴは青年に対して慕わしさが募るのを止められなかった。

 何故なら青年が迦具矢に向ける目は、メーヴが求めていたものそのものだったからだ。


 無条件に自分を肯定し、守ってくれる存在。

 温かくて安らげる、そんな心地の良い居場所。

 何の不安も抱かせず、傍に居て一緒に微笑んでくれる人。


 メーヴはそんな存在を、家族を求めていたのだ。



 それからのメーヴは、ペルセフォネの存在すら忘れて只々迦具矢を通して見える黒髪の青年、蓮上の姿に夢中になっていた。

 蓮上の存在は、メーヴの理想そのものだったのだ。

 そんな人が存在してくれている事が嬉しく、同時にそれが自分では無く迦具矢に愛情を向けている事が羨ましくもあった。


 迦具矢を通して蓮上を見続けるメーヴは、少しずつ東へ東へと移動して行った。

 迦具矢を通してだけでは満足出来ず、実際に蓮上に会いたいと思っての行動だった。


 実際に会いに行っても迦具矢と戦いになるかもしれないし、迦具矢と違って自分は受け入れて貰えないかもしれない。

 そんな不安も過ったが、それでもなお蓮上に会いたいという気持ちが勝った。

 期待してしまったのだ。

 迦具矢が受け入れられたのなら、自分もと。



 野を越え、山を越え、海を越え。

 夜闇の中、遂に蓮上の滞在する『蓬莱鉱山』の近くまでメーヴは、迦具矢との共感により短期間で大幅に成長した共感能力によって、直ぐ近くに迦具矢以外の姉妹が居る事。

 そして少し離れた所から因縁の相手、ペルセフォネが近づいて来るのを感知した。


 ペルセフォネの存在を感知した瞬間、メーヴの体を忘れていた恐怖が支配する。

 その時にはもう、蓮上が目と鼻の先に居る距離にまで近づいていたのと言うのに、恐怖に強張った体がそれ以上進むのを拒否していた。

 メーヴはその場で息を潜め、石のように固まったまま、蓮上が迦具矢と語らい、エウロパに襲われ、ペルセフォネに心臓を抉り出される一部始終を見ていた。


 ペルセフォネに襲われた蓮上の姿は、あり得たかもしれない自分の姿そのものだ。

 目の前で行われた凶行の悍ましさに、一歩間違えば自分もああなっていたのだと自覚し、恐怖と吐気が込み上げる。


 だが、それ以上に恐ろしかったのは、このまま蓮上がペルセフォネに殺されてしまうのではないか? という事だった。


 恐ろしい事だった。

 想像しただけで身が凍え、足元が崩れて無くなるかのような恐怖と不安に襲われる。

 メーヴにとって蓮上は希望なのだ。

 自分を受け入れ、肯定し、温かく迎え入れてくれる。

 自らが求めて止まない、家族となってくれるかもしれない存在なのだ。

 絶対に失う訳には行かない。


 だが、それでも恐怖に竦んだ体は動いてくれない。

 心臓を抉られた蓮上が、無抵抗のままペルセフォネに体を喰われて尚、それは変わらなかった。

 あるいは、既に姿を消したエウロパが残した『運命の逃走者(テウメソス)』があったからこそ、動けなかったかもしれない。


 『運命の逃走者』がある以上、最低でも蓮上が死ぬ事は無い。


 その事実による安心感が、メーヴの枷となっていたのかもしれない。

 だが、唐突なペルセフォネの思い付きによってその考えは瓦解した。

 ペルセフォネは、蓮上を連れ去ろうとしたのだ。

 しかも人質などでは無く、死なないが故に何度でも食べられる食料として。


 その事が、メーヴを動かす最後の一押しとなった。



「ダメェーーーーーッ!!!」



 ペルセフォネがスキルで呼び出した大鎌を振り被る中、メーヴは無我夢中で飛び出し蓮上を抱え上げて大鎌の刃を避けた。

 漸く間近で見る事の出来た蓮上の瞳は驚くほど弱弱しく、今にも命の灯が消えてしまいそうなほど儚かった。

 そんな蓮上を元気づけるために、メーヴは恐怖を押し殺して気丈に振舞った。



「――大丈夫です。私が絶対に、貴方を死なせません」



 精一杯の強がりと共にそう言い切ると、蓮上は深い安堵と感謝の籠った視線をメーヴへと向け、そのまま気を失った。

 求めていたものとは違う、家族への愛情が籠っている訳では無い視線であったが、自分を受け入れ安堵までしてくれたその視線だけで、メーヴは報われた気がした。



(この人を守る。私が絶対に、守るんだ!)



 そうしてメーヴは、勝ち目のない戦いに臨む覚悟を決めた。

 勝ち筋など見えはしない、だが絶対に負けられない戦いがそこにはあった。

 相変わらず恐怖は感じている。

 だが、もう身が竦んで動けなくなるなんて事は無かった。




 ◇




 恐怖を意志の力でねじ伏せて、メーヴがペルセフォネを真っ向から睨み付ける。

 それに対して、ペルセフォネは終始無関心であった。

 決死の覚悟を決めようと、死に物狂いで暴れようと、獅子にとって虫けらを踏み潰す事など訳無いのだ。

 メーヴの覚悟は、これっぽっちもペルセフォネには響いていなかった。



 ――ただ、足掻こうとする虫けらを前に、ほんの悪戯心や遊び心が顔を覗かせる事もある。

 「指一本触れさせない」。そう言ったメーヴに対し、実際に出来るかどうか試してやろうという気分にペルセフォネはなった。



「――そ、じゃぁ頑張ってねぇ」



 そんな軽い言葉と共に手にした大鎌が振り下ろされる。

 大鎌の刃が狙う先はメーヴ―――では無く、メーヴに抱えられた蓮上の右腕であった。


「っ、あぁっ!」


 その事に気が付いたメーヴが咄嗟に身を捻り、刃の軌道から抱えている蓮上の体を逸らす。

 結果、大鎌の刃から蓮上を守る事にメーヴは成功したが、代わりにメーヴの右腕の肩から二の腕にかけてが、深々と切り裂かれてしまう。

 傷口から吹きだしたメーヴの血が蓮上の顔や上半身にかかり、その内いくらかが顔を垂れて蓮上の口へと入った。


「ぐぅぅっっ!!」

「あはは、頑張るわね? でもどこまで耐えられるかしらねぇ?」




 歯を食いしばって激痛に耐えるメーヴの呻き声に対し、ペルセフォネは場違いなほど楽しげな声を上げて笑う。

 ペルセフォネが思いついたのは、いったい何度までメーヴが蓮上を庇えるかと言う遊びだった。

 勿論この遊びに明確な終わりは無い。

 メーヴが耐え切れなくなるまで刃を振り続け、失敗すればそのまま殺して食料にするという悪趣味極まりないものだ。


 一方的にメーヴを甚振るだけのゲーム。

 だがこれをメーヴは耐えるしか無かった。

 時間が経過するごとに、メーヴはどんどん傷を負って行くだろう。

 そうして最後に待って居るのは、全身を切り刻まれた上でペルセフォネの食料になるという凄惨な未来だけだ。



 だがそれが判っていても、メーヴの心に絶望は無かった。

 彼女が腕の中に抱えている者は、彼女の希望そのものだったからだ。


 嗤うペルセフォネに対し、せめてもの抵抗とばかりにメーヴは決して屈しないという意思を込めた瞳で睨み続けた。




「―――――」




 そんな中、メーヴにもペルセフォネにも気づかれず、気を失っている筈の蓮上が薄く目を開いた。

 瞼の隙間から見える瞳は虚ろで焦点を結んでおらず、正気であるともはっきりとした意識があるとも見えない。


 ただ……薄く開いた瞳の内、右目は墨を溶かしたような底の見えない黒であったが、左目だけが夕焼けの空よりもなお、深い深い紅―――いや、緋色へと染まっていた。

おや、蓮上の様子が……?(二回目)


作中内の時間経過だと、迦具矢ちゃんに心臓ぶち抜かれてからまだ二十四時間経過して無いんですよねぇ。


やだ、たった一日の内に二回も女神に心臓ぶち抜かれて殺される(死んでない)なんて……

私のとこの主人公、弱すぎ……?(相手が悪いだけ、というか二回も心臓ぶち抜かれて死んでない奴が弱い訳が無い)

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