表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

80/93

第七十一話 「その時何があったのか(後篇)」

(・▲・)「ジュリリィ(すげえな、主人公がズタボロにされる回は異様に執筆が捗る……一応言っときますけど、私は別に蓮上が嫌いな訳じゃないですよ?)」

「――ありゃりゃ、折角エウロパを追ってこんな遠くまで来たのに、まぁた逃げられちゃったかぁ~……残念」



 あまり残念そうには感じられない無い声が聞こえる中、雲が途切れ、差し込んで来た月明かりが声の主である少女の姿を照らし出す。


 メリーのものとはまた質の違う白銀の髪が、月明かりを受けて妖しく輝く。

 来ている衣装はウェディングドレスを連想させる純白のミニドレスであり、各所に水晶の散りばめられている。

 外見の年齢は迦具矢ちゃんと同じくらいだが、身長は迦具矢ちゃんよりも更に低いようであった。


 外見だけで言えば、目の前の少女は迦具矢ちゃんやエウロパと同じく、作り物を通り越して自然界の黄金比を体現したかのような、超常的で完成された美しさを持っていた。



 ――だが、目の前の少女は迦具矢ちゃんやエウロパと比べてさえ明らかに異質だった。



 生まれたばかりであるが故に、何ものにも染まっていない無垢さを持つ迦具矢ちゃん。

 善悪の基準が無い為に、自分の楽しさを基準に悪意無く悪戯をするエウロパ。

 彼女もまた二人の姉妹であるのだろうが、そんな二人とも目の前の少女は明らかに違っていた。


 目だ。

 彼女もまた迦具矢ちゃんやエウロパと同じ星の光を宿す蒼い瞳を持っている。

 だが、その目は迦具矢ちゃんの無垢な瞳とも、エウロパの悪戯心の浮かんだ瞳とも全く違う。


 彼女の目は捕食者の目だ。

 探索者としてモンスターを狩る中で何度も見た、肉食の獣が目の前の獲物に舌なめずりをしている時と同じ、獰猛で食欲に満ちた目だった。

 その目が真っ直ぐに、俺の姿を捉えている。


 彼女が俺に向ける目は、断じて対話の可能な生物に対するものではない。

 泣こうが喚こうが関係なく、ただ当たり前に腹が減ったから食らう。

 そう言う捕食対象に対して向ける目だった。


 そんな少女が周囲を軽く見回してから、歩幅の短い足取りでこちらへやって来る。

 ああ最悪だ。今の俺には目の前の少女をどうにかする事も、そもそも何かしら行動を起こす事さえ出来ない。


 今俺がこんな窮地に陥っているのは全てエウロパが原因だが……不思議と俺は彼女を怨む事は無かった。

 と言うよりも、エウロパを追ってやって来た少女を見て、納得してしまったという方が正しいか。

 こんなのが追いかけて来たら、なりふり構わずどんな手を使ってでも逃げ延びようと考えもするだろう。

 そう思ってしまったからこそ、俺はエウロパを責める気持ちにはならなかった。



 ただまぁ、そんな思いも今となっては無駄かも知れん。

 歩幅が短いから少しだけ時間がかかったが、遂に少女が俺の目の前に辿り着いてしまった。

 至近距離で目を合わせると、嫌でも理解させられる。

 目の前の少女が俺を見ていない事を。

 目を合わせる合わせない以前に、俺の事を只の食べ物としか認識していないという事を。


 ああ全く、せめて『鑑定』スキルが使えれば、この子の名前が判ったんだがなぁ。



「あらあら、エウロパの『食べ残し』? 『運命の逃走者』まで付けて、よっぽど気に入ったのかしら?」



 少女は驚いた表情で俺の右手に巻かれたリボンを見ながらそう呟く。

 ……それにしても、『食べ残し』か。

 判ってはいたが、目の前の少女にとって俺は食料以外の何物でもないらしい。

 エウロパですら俺を対話可能な相手として見ていたのに、この差は一体「折角だから私も味見しようかしら?」―――ッ!?



「ガッ……ア……!?」

「よいしょっと」



 突然の激痛に意識が飛びそうになる。

 何でも無い様に伸ばされた、少女の小さく細い手が俺の胸をあっさりと貫き、そのまま俺の胸から『ナニカ』を引き摺り出した。

 少女の手の中でビクビクと脈打つ赤黒い血に塗れた肉の塊……それは、俺の心臓であった。


 バタリッ、と心臓を乱暴に引き摺り出された衝撃で倒れ込み、仰向けのまま空を見上げる。


 か細い息の中に血の味が混じり、ただでさえ辛うじて出来ていただけであった呼吸が困難になる。

 心臓を引き抜かれた時、同時に肺も大きく傷つけられたらしい。

 あまりの激痛にアドレナリンでも出ているのか、痛み自体は少しずつだが和らいで行く。


 いや、痛みだけではない。

 ぽっかりと空いた胸の穴から流れ落ちる自身の血の匂いも、喉に込み上げた血反吐の味も、触れている筈の地面の感覚も、何もかが曖昧になって行く。


「あーんっ……うーん! 美味しぃー! こんなに美味しいもの始めた食べたわ!! エウロパったらこんなご馳走に唾だけつけて残して行くなんて、本当にお馬鹿ね! 『運命の逃走者』のせいで全部は食べられないけど、死なない程度ならもう少しなら行けるかしら?」


 少女のはしゃいだ声が酷く遠く感じる。

 夜だからと言うだけでなく、視界そのものが暗くなって行き、ほとんど何も見えなくなる。

 そんな中、視界を埋め尽くすように不気味な白が近付いた。


「あーんっ……うーん、肉も骨も絶品ねぇ! 噛めば噛むほど味が染み出るし……心臓も一口じゃなくて、もっと味わって食べればよかったわぁ」


 小さな歯が皮膚を突き破って肉に食い込み、そのまま鎖骨の辺りの肉を骨ごと喰い千切られる感覚がした。

 だが、それでもなお抵抗することが出来ない。

 全身の活力が未だ枯渇したままで、指一本動かす事すら出来ないのだ。



 ああ、これが『喰われる』って感覚か。 

 痛みと恐怖、そして諦観が満ちるのを感じる。

 今までは俺こそが喰らう側だったから、感慨深くもあるな。

 ハハッ、狩人の俺が、今際の際に喰われる側になるとはな。

 全く持って、皮肉なもんだよ。



 薄れゆく意識の中、自嘲気味にそんな考えが浮かぶ。

 何もかも曖昧で鈍くなっていく中、自分が食われている感覚だけが未だ生きている事の証明だった。

 だがそれも、どんどん薄れて行く。


 ああ、死ぬんだなぁ。

 その事を鈍くなった頭で自然と受け入れつつある中、俺の肩口に顔を埋める様に食らいついていた少女が、何かを思いついたかのように顔を上げた。


「あむあむ……あ、そうだわ。良い事思いついちゃった! これ(・・)、折角だから持って帰りましょう!」


 そう言って少女は、自分よりも大分大柄な俺の体を易々と抱き抱える。

 その持ち方は、完全にただの荷物を持つような配慮の欠片も無い乱暴な持ち方だったが、もう俺には呻き声の一つすら上げられない。


「どうせ『運命の逃走者』の力で死なないんだし、食べて減った分は魔法で治せば元通りだからいくらでも食べられるわよね! それに持っていればその内エウロパが向こうから取り返しに来るかもだし……うん、一石二鳥って奴だわ!!」



 完全にただの食料扱いだなぁと思いつつ、少女の口にした『運命の逃走者(テウメソス)』の力で死なないという言葉に安堵する。

 完全にこの場で死ぬものだと思っていたが、この少女の言葉が正しいのなら、エウロパが俺の腕に巻いたリボンのおかげで何とか生き延びることが出来そうだ。


 エウロパの置き土産に感謝……するかは微妙だな。

 そもそも、エウロパが原因で今のこのピンチに陥っている訳だからな。


(次会ったら泣かす! 俺はやる時はやるぞ!)


 そんな事を決意しながら、ふっと意識が遠退くのを感じる。

 どうやら安心して気が緩んだことで、意識をこれ以上保てないみたいだ。


「そうと決まればさっさと帰りましょうか。と、その前に……」


 そう言って少女は抱えていた俺の体を一旦手放す。

 ぞんざいな扱いに文句の一つでも言いたかったが、あいにく口は動かなかった。


 そんな事よりも薄れかけた意識の中で俺の注意を惹いたのは、少女が取り出した一つの武器だった。

 ぼやけた視界の中でもシルエットだけで判る見慣れた形状……少女が手にしていたのは、俺も愛用する武器種、『大鎌』であった。


「腕と足は邪魔だから切り落としちゃいましょうか。丁度『収納』スキルも手に入ったことだし、色んな意味で美味しい食べ物ね」


 そう言いながら少女は大鎌を振り被る。

 腕と足を切り落とす、か。

 まぁいい。たとえ達磨状態にされようと、魔力さえ回復すれば打てる手段はいくらでもある。


 それに一つ情報も手に入った。

 どうやらこの少女は、『捕食』によってスキルコピーを発動するようだな。

 この情報がいつどこで役立つかは判らないが、知っているのと知らないのとでは天と地ほどの差がある。

 得るものが何も無かった訳では無いだけ、良しとしよう。


(ああ、もう本当に限界だな……)


 ぼやけた視界に移る白の少女が、黒と紫の色合いで構成された大鎌を振り下ろす。

 その姿がやけにゆっくり感じられる中、俺は瞼を閉じて意識を手放した。



 だが、意識を完全に失う前に、一つの声を聴いた。




「ダメェーーーーーッ!!!」

「わっ!?」




 そんな叫び声と共に、高速で水色(・・)をした何かが飛来し、白の少女を吹き飛ばす。

 叫び声が少女のものだったという事で一瞬迦具矢ちゃんかとも思ったが、少女の声は聞いた事の無いものだった。



「ダメッ、死なないで!」



 瞼が閉じる間際、必死さを感じさせる少女の声と共に視界が水色に染まり、再び抱き抱えられる。

 おそらくその水色は少女の髪色なのだろう。

 俺を抱き抱える腕からは、白の少女の時とは違い確かな労りが感じられた。

 けど、そんな事よりも……



「わー、びっくりしたわ。でも以外ね? 弱虫のあなたが自分から来るなんて。あなたもそれ(・・)が欲しくなったの? 『メーヴ』」

「人をそんな物みたいに……この人は、私たちが決して失ってはいけない存在よ! それが判らないの? 『ペルセフォネ』!!」



 どうやら俺を食べた白髪の少女の名前は『ペルセフォネ』、俺を助けてくれた水色の髪の少女の名前は『メーヴ』と言うらしい。

 水色の合間から見えた星の光を宿す蒼色が、メーヴもまた迦具矢ちゃんの姉妹である事を物語っていた。

 同じ蒼色でも、ペルセフォネのものには大分恐怖を覚えさせられたのだが……



「――大丈夫です。私が絶対に、貴方を死なせません」



 その言葉と共に俺へと向けられた蒼色に、酷く安心させられるのを感じた。

 ああ、助かったんだ。

 そんな感慨と安堵を、自然と感じた。


 そうして俺の意識は、闇へと沈んで行った。

漸く主人公視点に戻って来たって言うのに、たったの三話で退場(意識の喪失)させられる主人公って他におる?

しかも一日の内に女神三人(迦具矢、エウロパ、ペルセフォネ)に襲われ、内二回は心臓ぶち抜かれて殺されかけてるし……。





正直書いてて楽しかったのは内緒だよ?(ド外道)

やはりバトルありの男主人公はボロボロにされてる時こそ輝く。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ