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第六十八話 「失墜の紅、覚醒の赤」

(・▲・)「ジュリリィ(アルバトリオン前に、『達人Ⅱ』やら『攻撃Ⅱ』やらが貰えるとか太っ腹だなぁ)」

「あぁぁもうっ! また逃げられた!!」


 剥き出しの岩肌の地面の上で、黄金の機械剣と機械鎧を身に着ける金髪の少女が悔し気に地団太を踏みます。

 周囲を見回し、手掛かりも無く追いかけるのは無理だと判断したのか、少女は溜息を付くと今度は私たちへと視線を向けました。


(っ! この子も迦具矢ちゃんと同じ目を!)


 振り向いた少女、公主の目を見た私は彼女もまた迦具矢ちゃんや先ほど消えた后娥と同じ色の目、星の光を宿す蒼い瞳を持っている事に気が付きました。

 無垢な印象の迦具矢ちゃん、眠たげでやる気の無さそうな后娥ともまた違う、気の強そうなつり目の瞳が私たちを見渡します。

 するとその中で公主はある一人、というか私に視線を固定すると彼女はキッと目を細めてズンズンと私目掛けて近付いて来ました。

 えっ、なんですか!?


「待て、君は一体――」


 とそこで、剣呑な雰囲気のまま私に近づいて来る公主の様子を見て、セリオスが公主の歩みを遮る様に前に立ち塞がりました。

 セリオスが立ち塞がったのを見て足を止めた公主は、手にしていた機械剣を手放してビシッと私を指さします。


「ちょっとあんた! なんて格好してるのよ!!」

「……はい?」


 いきなり何を言われたのか理解出来ず、我ながら間の抜けた声が出てしまいます。

 どうでもいい事ですけど、公主の手から離れた機械剣たちは公主の背後へと浮遊して移動していました。ロボットアニメの武器みたいですね。


 って、そんな事暢気に考えている場合じゃありません。

 私の様子に苛立った公主は、セリオスを押しのけて私へと更に近付き、ズバズバと指摘し始めました。

 余りにもあっさりと押しのけられてしまったセリオスに私は驚いて視線を向けましたが、セリオスは何故か片手で顔を覆ってこちらに背を向けていました。

 なんでですか!? と、驚きの声を上げそうになりましたが、それよりも早くセリオスが背を向けている理由を公主が口に出しました。


「はい? じゃないわよ! あんた上半身が下着だけじゃない!? ちょっとは隠しなさいよ!!」

「え……あっ、きゃぁ!?」

「反応が遅い!!」


 公主にそう指摘された事で、私はようやくさっきまで着ていた『朱雀羽織』をイズメちゃんに渡した為、自分が今下着姿だという事を思い出しました。

 は、恥ずかしい! 我ながら今更ながらに悲鳴を上げて、両腕で胸元を隠そうとします。

 その姿に苛立ちつつも、同時に呆れた様子の公主は何を思ったのか、自身の纏っている機械鎧の一部を腕引っぺがしました。

 更に引っぺがされた鎧の一部は公主の手の中で形を変え、数秒と経たずに手折るほどの大きさの一枚の布へと姿を変化させました。

 分離と形状変化、そんな事も出来るんですか……。


「ほら、とりあえずこれでも使いなさい。多少はマシになるでしょう」

「え? あ、良いんですか?」

「私が使いなさいって言っているんだから、言いに決まってるでしょ。さっさとしなさい」

「あ、ありがとうございます」

「全く、しょうがないわね……」


 恥ずかしさと同時に申し訳なさでいっぱいになりつつも、私は公主から金の布を受け取りました。

 手に取った金の布は絹のような手触りでとても軽く、先ほどまで機械鎧の一部であったのが信じられないくらい上質な布地でした。

 簡単に脇の下から背中に通し、胸の前で縛りましたけど変じゃないですかね?

 布を巻いている間、公主が私の着替えが周りから見えないよう背を向けて壁になってくれたのが印象的でした。

 ぶっきらぼうな物言いですけど、結構良い人? なのかもしれません。

 セリオスもそうですが、イズメちゃんも特に危険視しているような感じでは無いですし、話も通じるようですね。


「……と、つけ終わりましたからもう大丈夫ですよ」

「そ、なら良いわ」


 布をつけ終えたので公主にそう話しかけると、公主は宙に浮いたままこちらへクルリと振り返りました。

 やっぱり普通に会話できますし、今すぐ襲ってくるだなんてことも無いようですね。

 公主にしろ、消えてしまった后娥にしろ、私たちには判らない事ばかりです。

 手始めにお礼と自己紹介をして、色々と話を聞いてみましょう。

 もっとも、公主の正式な名前だけは『鑑定』スキルで判っていますが。


「改めて、ありがとうございます。私は永長、嶋永長と言います。貴女は?」

「私? 私は―――」


 そこで公主は何かを考え付いた様子で不敵な笑みを浮かべると、後方の斜め上空に移動し腕を組んだ状態でこちらを見下しながら、高らかに名乗りを上げました。



「我こそはこの地より遙か南西、『芭蕉洞窟(ばしょうどうくつ)』より生まれ出でし七女神姉妹(ななめがみしまい)が一柱! 名を、『鐵扇公主(てっせんこうしゅ)』!! 公主と呼ぶことを許可するわよ、永長」



芭蕉之女神(ばしょうのめがみ) 羅刹鐵扇公主らせつてっせんこうしゅ五種神宝(イクサノカンダカラ)



 黄金の輝きと共に名乗り上げる新たな女神。

 その名前は、明らかに迦具矢ちゃんや后娥と共通する響きのものでした。


 七女神姉妹、という事は他にも四人彼女たちと同じ女神が居るという事ですか?

 姉妹だというなら、何故后娥を襲っていたのでしょう?


 公主の名乗り上げにより新たな疑問がいくつも沸く中、フラフラと私に近づいて来る人が一人いました。

 その正体は、大人の姿をしたイズメちゃんでした。


「……ごめんなさい、永長ちゃん」


 ドサッ


「イズメちゃん! 大丈夫ですか!?」

「うん、体は平気。もう直ぐ反動(・・)が来るから、後をお願いね?」

「! 判りました。ゆっくり休んでください」

「うん……」


 倒れ込んで来たイズメちゃんを抱きとめると、イズメちゃんは弱弱しい声でそう伝えて来ました。

 イズメちゃんの使った奥義スキル『転身・赤毛十一尾伝説』は強力な反面、デメリットを抱えたスキルでもあります。

 本当なら近くに先輩が居てくれるのが一番良いんですけど、私が居るのがせめてもの救いですね。

 この時間なら先輩も一旦休憩に入っているでしょうし、『念話』連絡して迎えに来てもらいましょう。


 そう考えていると、いつの間にか公主が直ぐ近くまで来ており、怪訝そうに私の腕の中で力無く倒れているイズメちゃんを見ていました。


「ちょっと、大丈夫なのそいつ?」

「はい、スキルの反動で一時的にこう(・・)なるだけなので、命に別状はありません」

「そう、あんまり面倒かけさせないでよね」


 そう言って少し離れる公主に少し苦笑してしまいます。

 「面倒かけさせないで」。裏を返せば、何かあれば自分が助けると言っている様な物です。

 物言いはぶっきらぼうですが、物凄く人が良いのは間違いありませんね。


「はい、ありがとうございます」

「さっきからお礼言ってばっかりね、あんた」

「あはは、そうですね。すみません、貴女とは色々とお話したいんですけど、先に彼女の家族に『念話』で連絡しても良いでしょうか?」

「そんなの一々確認取らなくて良いわよ。早く連絡してやんなさい」

「はい」


 公主に一旦断りを入れてから、私は先輩に『念話』で連絡を取りました。

 先輩の転移魔法ならこの場に直ぐ来られますから、先輩が来たらイズメちゃんを預けて、私たちは外の機関員たちと合流するのが良いでしょう。


『先輩! 聞こえますか、先輩?』


 そう考えていたのですが、しばらく呼びかけても先輩からの返事がありません。

 おかしいなと首を傾げていると、新たに別の誰かから『念話』がかかってきました。


『永長ちゃん! 永長ちゃん聞こえてる!?』

『わっ! ま、マミナちゃんですか? 一体どうしたんですか、そんなに焦って?』


 『念話』の主は、イズメちゃんと同じく先輩のペットの一人であり、イズメちゃんの妹分のマミナちゃんからでした。

 けれど、その声はいつもの落ち着いているマミナちゃんからは程遠い、焦燥感に満ちたものでした。


『ああ、良かった! さっきから永長ちゃんにもイズメにもかけてたけど全然つながらなくって、もう私どうしたら良いのか判らなくって……!』

『……落ち着いて下さいマミナちゃん。何があったのか、ゆっくり話して下さい』


 焦燥感と不安、危機感に満ちた涙声のマミナちゃんの声を聴いて、じっとりと嫌な予感が背筋に押し寄せて来ます。


 こんなにマミナちゃんが狼狽えているなんて一体? もしかしてさっき先輩に『念話』が繋がらなかった事と関係が?


 マミナちゃんから伝播するように私の中でも焦りや不安が膨れ上がっていく中、あくまでゆっくりと落ち着いた声を意識してマミナちゃんに何があったのか話すように促しました。

 そして―――私の感じた嫌な予感は、見事に的中してしまいました。




『蓮上がっ、蓮上が意識不明の重体だって! 迦具矢ちゃんと同じ女神だって言う相手に襲われて、瀕死の状態だって連絡がっ……!!』




 その言葉は、最初頭に入って来ませんでした。

 聞いた瞬間頭の中が真っ白になり、自分が今何をしているのか、自分が今どこに居るのかも判らなくなり、立っている事も出来ずその場にイズメちゃんを抱えたままへたり込んでしまいました。


「そんな……先輩が……」

「ちょ、永長!? どうしたのよ!」


 へたり込んだ私に、焦った様子の公主が声を掛けて来ましたが、私はそれに反応することが出来ませんでした。



 そんな、どうして? 何で先輩が襲われて……先輩が死にそう? そんなはず無い! けど、マミナちゃんが嘘なんてつく訳無いし、それじゃあ先輩は本当に……!



 思考がぐるぐると空回り、どうする事も出来ずにただポタポタと涙が流れます。

 どうしたら良いのか判らず、心細さからイズメちゃんの体を抱える手に力を込めた瞬間、震える私の手に暖かな手がそっと添えられました。



「――泣くな永長」

「イズメ、ちゃん……?」

「そう案じずとも良い。蓮上は妾たちの伴侶だぞ? 早々くたばりなんぞせんよ」


 先程までとは違う、大人びた顔と口調をしたイズメちゃんが起き上がり、私を抱き締めて頭を撫でてくれました。

 普段の天真爛漫な振る舞いとは違う、年上の女性その物の態度。

 こうして抱き締められているだけで、不安な心が解かされて胸に暖かな安心感が広がって行きます。


 イズメちゃんであるけどイズメちゃんでは無い。

 この女性、というかこの性格となったイズメちゃんの事を私は知っています。

 前に一度だけ、短い時間ですが言葉を交わした事もありました。

 姉か母を思わせる、温かなこの女性の名は―――


「『十一尾(じゅういちび)』、さん?」

「イズメで構わんよ。別に妾は二重人格と言う訳でも無いからな」



 『赤毛十一尾(せきもうじゅういちび)』。

 それがこの人格……いいえ、性格となった時のイズメちゃんの呼び名でした。

『赤毛十一尾』(せきもうじゅういちび)



奥義スキル『転身・赤毛十一尾伝説』のデメリットそのものであり、イズメの別人格……では無く別性格。

奥義スキルの発動後一定時間が経過すると、普段のイズメからこの性格のイズメへと自動的に切り替わり、以降一定期間この性格のままとなる。

デメリット、とされてはいるが別に性格が変わる以外に何か変わる訳でも無いので、実質デメリットでは無い。


が、このデメリットの最も恐ろしい部分は、別人格では無い為に元の性格に戻っても、正確が変わっていた間の自分の行動や言動を全て憶えている事である。

要するに酔っぱらっているような状態である為、素面に戻った時に『恥ずか死ぬ』危険性がある。

また、正確が変わっている間の自分を周りの者が知っていると言うのも辛い。

肉体的、能力的なダメージでは無く、精神的、社会的にダメージを与えて来るタイプのデメリット。


イズメの場合、性格が漫画とかに出て来そうなコッテコテの『大妖狐ロールプレイ』になる。

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