第六十七話 「去る女神、来たる女神」
(・▲・)「ジュリリィ(勢いとテンションで新作投稿したけど、あれ短編扱いで良かったかなぁ? と後悔している今日この頃。向こうは気が向いたら続き書きますので、興味あったら覗いてみて下さい)」
その場の誰もが動けなかった。
自らを『后娥』と名乗るその少女を前にして、永長を始めとした探索者はその少女が何者であるのかを凡そ察した為に、哲也ら機関員たちは少女の放つ強大な神性を感じ取ったが為に……そしてオブジェクトたちは、自分たちがその少女に『絶対に勝てない』と本能で理解してしまったが故に動けなかったのだ。
そしてそれは、離れた位置に居るセリオスたちも同様だった。
后娥の出現と同時に、お互いに身を削り合うような肉弾戦を演じていたカインと不死身の爬虫類は后娥へと視線を固定したまま彫像のように固まり、同時にセリオスは探索者の視力でもって后娥の姿を捉え、『鑑定』スキルで持って后娥の正体、奥義個体ボスモンスターである事を理解して警戒の為に動きを止めた。
だが、そんな周囲の様子を気にした様子も無く、后娥はマイペースに自身がこの場に来た目的を達成する為に行動に移った。
「――うん、貴女がそうだよね? じゃ、貰って行くねぇ~……」
そう一人で呟きながら后娥は『彼女』の封じ込められた結晶に触れる。
すると、結晶は内部に『彼女』を閉じ込めたまま端から光の粒子へと分解され、それらはそのまま后娥の下へと集まり、吸収されるように后娥の纏う藤色のドレスへと触れ消えて行った。
いいやそれだけではない。
粒子化現象は結晶だけに留まらず、后娥を中心に波紋の様に広がり地下空間内のオブジェクトが次々と分解され消えて行く。
それはイズメによって石ころに変えられたアベルや、離れた場所に居るカインと不死身の爬虫類たちも例外では無かった。
「っ!?」
手に持って居た石が粒子化したのを見て慌てて手をはなすイズメ。
手放された石ころは地面に落ちるよりも早く全て粒子化されて消えてしまう。
「カインっ!?」
「ぐっ、これは一体!? みなさん! どうか『彼女』を―――ッ!!」
カインをして目の前で起きている現象が一体なんであるのか理解出来なかった。
だがそれでも、自身がここまでであるという事を理解し、カインは最後まで『彼女』の事を案じながら消えて行った。
カインの手を掴もうとして虚空を切った自身の腕を見つめ、セリオスは複雑な表情を浮かべる。
一番最初に出会ったセリオスや永長からしてもカインと出会ってからまだほとんど時間が経って居ないが、それでも短くとも共に進み言葉を交わした事実は変わらない。
特にセリオスは今までの探索者活動の中で共にダンジョンへ潜った仲間を失った経験もある為、その時の仲間と消えてしまったカインを重ねてしまい、何とも言えない喪失感を感じていた。
だが、そんな中聞こえて来た場違いなほど緩んだ少女の声が、セリオスの感傷を打ち砕いた。
「ん~……これで全部? じゃ、ばいばぁい「「待て(ってね)」」……?」
チャキ、という音と共に后娥の首筋に刀が添えられ、挟み込む様に後ろからは巨大な丸鋸が構えられた。
オブジェクトらを全て吸収し、この場から立ち去ろうとした后娥をイズメとセリオスが阻んだのだ。
直ぐ近くに居たイズメとは違いセリオスが居た位置は后娥からかなり離れていたが、アメリカ最強の一人、世界基準で見ても最上位に位置する探索者であるセリオスにとって、そんな距離は無いに等しいものであった。
武器を自分の首元に添えて呼び止めるイズメとセリオスに順に視線を向けた后娥は、危機感の一切無い、只々首を傾げる様な胡乱気な瞳で二人に訊ねた。
「えぇ~、私の用事はもう終わったんだけどぉ~……あなた達、何か用~?」
「用と言うか、聞きたい事はまぁ色々あるんだけどね――」
「出来れば穏便に済ませたいし、慎重に行動すべきだとは思うが――」
后娥の問いかけにイズメは笑顔で、セリオスは感情を消した無表情で答える。
正反対の表情の二人だが、后娥に向ける目が一切笑っていない事は共通しており、続く言葉もまた同じ物であった。
「「――君(貴女)が奪った物を返して貰おうか」」
「えぇ~、やだぁ~……」
イズメとセリオスの言葉に后娥は至極軽い調子でそう返す。
その返答に二人は目を細め、イズメは何らかの魔法を使うために左手に魔力を集め、セリオスは『収納』スキルから新たな道具を取り出そうとする。
だがそれらを行動に移す前に、続く后娥の言葉を聞いて二人はその場から飛びのいた。
「……それにぃ、もう直ぐあいつが来るから、私に構ってる暇ないと思うよぉ~……?」
「「!」」
間延びした声で后娥がそう口にしたのと同時に、何かに気付いたイズメとセリオスはその場から大きく跳び退き、后娥から距離を離す。
次の瞬間、爆発の様な破砕音と大量の土砂と共に、黄金の光が地下空間の天井から后娥へと向けて一直線に落ちて来た。
「見つけたわよ! 后娥ァッ!!」
「もぉ~、しつこいなぁ~……」
ガキィンッ!! と、堅い金属同士がぶつかり合うような音と共に烈風と衝撃波が周囲に広がり、落ちてきた土砂やら土煙やらを吹き飛ばす。
一瞬で開けた視界に移ったのは、二本の剣を后娥へ向けて振り下ろす黄金の機械鎧を纏った金髪の少女と、いつの間にか手にしていた翡翠色の大きな弓で振り下ろされる剣を防ぎ鍔ぜり合っている后娥の姿だった。
「ハンッ! この短い時間で随分力を突けた様じゃない、后娥っ!!」
「そだよぉ~、もう『公主』が十人になっても私の方が強いから、諦めてね?」
「ハッ! 言ってくれるじゃない……最っ高にムカついたわ! あんた覚悟しなさい!!」
咆える様に啖呵を切るのと同時に后娥を思い切り蹴飛ばす『公主』と呼ばれた少女。
芸術と言って良いほどに整った美しい顔を怒りに歪めながら、公主は右手に持った黄金の機械剣を掲げる。
その刀身には北斗七星の模様が刻まれていた。
「目覚めなさい! 『破軍』!!」
公主が唱えるのと同時に掲げた機械剣から青白いオーラが立ち上り、刀身に刻まれた北斗七星の模様の内最も剣先にある星、『破軍星』の模様が強く輝いた。
周囲に居たイズメたちには、怖気が走るほどの莫大な魔力が機械剣へと注ぎ込まれているのが感じられた。
一方で蹴り飛ばされた后娥はと言うと、蹴られたことを気にした様子も無く周囲にキョロキョロと視線を向け、その視線をイズメへと固定させた。
「……うん、そうだね。貴女がこの中で一番『怖そう』だわ……『おおこわいこわい』」
「――え?」
刀を手にしたまま警戒していたイズメが思わず気の抜けたような驚きの声を上げる。
『おおこわいこわい』。
そう口にした途端、何と后娥の姿が変化してイズメと全く同じ姿となってしまったのだ。
イズメへと姿を変えた后娥は、公主に視線を向けると手にした刀『恋情稲雀』を対抗するように掲げ、更に刀身事態に左手を添えて唱えた。
「『PXM 紅蓮の殲滅隼』――『最終伐剣形態』」
「嘘っ、何でそれを使えるんですか!?」
后娥が行った事に対して驚愕の声を上げたのはイズメ本人ではなく、イズメを除いて后娥がした事が何かを理解している永長だった。
イズメの姿をした后娥によって生み出された炎の隼が、掲げた刀の刀身へと抱き着く様に同化し、刀身が赫々と燃え上がった。
これこそがイズメの奥の手の一つ、オリジナル魔法である『PXM』を自身の剣技と融合させる『最終伐剣形態』である。
刻一刻と輝きを増す公主の機械剣に対し、后娥はこれを持って対抗しようとしているのだ
その様子を永長はありえない物を見る目で見つめていた。
永長が后娥の為したことに驚き、信じられないとばかりに見つめている理由は二つある。
一つは本来オリジナル魔法であり、作り出した本人であるイズメにしか使えないはずの『紅蓮の殲滅隼』を后娥が詠唱破棄で発動させたこと。
もう一つはイズメがこの場に来てから一度も使用していない奥の手である『最終伐剣形態』を、その存在すら知らないはずの后娥が当たり前の様に使用した事だ。
『鑑定』スキルによって判明した名前から、永長も后娥が迦具矢と同様の存在であるとは察していた。
故に、迦具矢と同様の能力を持っていてもおかしくは無いと自分を納得させかけたが、そこでまた新たな疑問が浮上する。
確かに迦具矢も相手の能力をコピーする持っているとは聞いていたが、その性能があまりにも違い過ぎるのだ。
迦具矢の能力は、相手の使用した魔法やスキル、奥義スキルを解析してコピーすると言ったものの筈だ。
だが、后娥はイズメの姿に変化しつつ、イズメが使用していない能力までも使った。
明らかに迦具矢のコピー能力の性能を上回っている。
これが果たして、単にコピー能力において后娥が迦具矢を上回っているのか、それとも『彼女』やオブジェクトたちを取り込んだことによって可能になったのか、永長には判別がつかなかった。
(けど、『おお、こわいこわい』ってどこかで……)
ただ、后娥が口にした言葉に何か記憶を刺激されるように感じたが、記憶を掘り起こすよりも先に公主の好戦的な声が耳を打ち、永長はそちらに気を取られた。
「チッ! 逃げ回ってた奴がちょっと強い力を手に入れたからって調子に乗っている様ね!!」
「ちょっとじゃなくて凄いよぉ~。公主でも耐えられないんじゃないかなぁ~?」
「ほざきなさい! 耐えるんじゃなくて叩き潰すの、よっ!!」
「えいやぁ~」
裂帛の声と共に公主は機械剣を振り下ろし、その切っ先からは黄金の光が奔流となって后娥へと迫る。
対するイズメの姿をした后娥も同時に刀を振り下ろし、刀に宿った炎の隼が鳳凰を思わせる巨大な姿となって黄金の光を迎え撃つ。
紅蓮の炎と黄金の光、互いを食い破らんと激突した二つの大いなる力の奔流は一歩も引く事無くぶつかり合いそして―――限界を迎える様に大爆発を起こした。
「みんな伏せて!」
「イズメちゃんこれを!」
「『ストーンウォール』!!」
「きゃっ!?」
「「うわっ!?」」
爆発が起きる寸前、イズメが十一の尾を盾のように広げて爆発を背に全員の前に立ち、そのイズメへと永長は纏っていた『朱雀羽織』を投げ渡し、セリオスはせめてもと石壁を作り出す魔法をイズメの後ろに発動させた。
次の瞬間、地下空間全体を揺らすような大爆発が起こり、セリオスの生み出した石壁があっけなく崩壊する。
続いて暴虐の如き熱量と魔力が津波となってイズメへと押し寄せたが、永長の投げ渡した『朱雀羽織』から発生した球状の魔力障壁によって押し返され、イズメには傷一つ付かなかった。
その光景は、まるで『朱雀羽織』自体に蓮上のイズメを守るという思いが宿っているかのようであった。
赤と金の閃光に包まれ視界の失われる中、その場に居る全員が爆発音に混じる后娥の声を何故かはっきりと耳にした。
『じゃ、今度こそばいばぁ~い……』
その声を最後に、后娥はその場から完全に姿を消した。
『后娥ちゃん』
ダンジョン一個分のリソースを取り込んだ現実改変能力者を『夢の支配者』と言う特性から更に取り込んで超強化されている。
何がヤバいって、規模的に元の能力者である『彼女』だと再現出来なかったSCPも再現のが滅茶苦茶ヤバい。
ミーム汚染系じゃなくても『リヴァイアサン』とか出されたら物理的に国が滅びかねない。
『公主ちゃん』
フルネームの公開は次回。
怒りっぽいしぶっきらぼうだけど悪い子ではない。というか女神姉妹ではダントツで善良と言って良いレベル。
迦具矢ちゃん? あの子は善良って言うより無垢って言った方が正しいから。(悪意は無くとも蓮上を殺しかけている)




