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第六十六話 「地の底に降り立つ女神」

(・▲・)「ジュリリィ(ツイッターで更新予告してみたけど、深夜三時ちょっと前だから絶対誰も見て無いだろうなぁ)」

 落下している、と言う感覚は少なかった。

 上下左右前後が柔らかなオレンジ色の光に包まれ、その中をゆっくりと降下して行く。

 三百六十度どちらを向いてもオレンジ色一色の光景は徐々に平衡感覚を狂わせていくように感じられたが、その事に不安を感じるよりも早く地面に足がついた。

 実際に落下していた時間は十秒ほどであったが、体感的にはその数倍には感じられた。


 ともあれ、全員が怪我一つ無く無事に着地出来た様で、永長はほっと息をつく。

 少しすると視界を満たしていたオレンジ色の光が徐々に弱まり、やがて周囲には剥き出しの岩肌と施設内に収容されていたオブジェクトたちであろう様々なモノたちが存在している。

 広大な地下空間の全体は不自然なまでに明るく、見上げると先程まで施設内を飛び回っていた炎の隼が、今は自身が太陽の代わりであるかのように頭上の遥か上で滞空し、強力な光を放っていた。

 その光景にしばし目を奪われながらも、一番最初に口を開いたのは永長であった。


「……助かった、みたいですね」

「その様だな。しかし……何とも奇怪な光景だ。これら全てがオブジェクトなのか?」

「ええ、オブジェクトで間違いありません。全て見知った者たちです」


 永長の呟きに答えたセリオスに対し、背負われたままのカインがそう返す。

 オブジェクトと言う存在は形も大きさも生物であるかそうでないかも含め様々な種類が存在している。

 それらが一堂に会しているという光景は、混沌としていて現実感の無いものであった。

 もっとも、永長を始めこの場に居る人間たちは全員大なり小なり現実離れした光景は見慣れていたが。


 そんな中、岩肌の地面を踏みしめる音と共に何やら拳大の石の塊らしき物を手にした女性が永長たちの下へと近付いて来た。

 その女性は狐耳と十一本の尻尾を持っており、巫女装束の上から千早を羽織っていた。


「―――あ、永長ちゃん! 良かったぁ、やっと会えたよ!! 怪我とかしてない?」

「あ、イズメちゃん! 私こそ会えて良かったですよ。怪我は……大丈夫ですけ「「「えええええええっ!?」」」ひゃっ!? 急に叫ばないで下さいよ!!」


 やたらフレンドリーにニコニコと話しかけた狐耳の女性の正体は、奥義スキルで大人の姿となったイズメであった。

 その姿の事を知っていた永長は特に驚かなかったが、子供の姿のイズメとしばらく行動を共にしていた哲也、菊菜、圭介の三人は顎が外れんばかりに驚いていた。

 当然だろう、つい先ほどまで将来性は感じられども幼い少女の姿をしていたイズメが、今は傾国と名高い白面金毛九尾もかくやと言わんばかりの絶世の美女となっているのだから。

 単純に姿を変えるだけなら普段から妖魔を見慣れている三人も驚かなかったが、今のイズメの美しさに対しては驚愕を隠せなかった。


「哲也さんと菊菜ちゃんと圭介君も無事みたいだね! 良かったぁ、心配したんだよ?」


 だが、そんな三人の心情もつゆ知らず、イズメは子供の姿の時と同様の天真爛漫な笑顔を浮かべて哲也らの無事を心から喜んでいた。

 妖艶な色気を持つ大人の女性が、その印象に反して無垢な少女そのものの無邪気な笑顔と喜びの感情を自分たちに向けている。

 そのアンバランスさには、性別を問わず見る者全ての心を惹き付けるほどの魅力があった。

 それを正面から見せられた三人の内、菊菜と圭介の二人は数瞬見蕩れ、続いて顔を真っ赤にしてしどろもどろとなる。


「……ふぁ!? うううん! こ、この通り無事だよ! ね、圭介君!!」

「おおおう!? こ、これくらいどうって事ねぇぜ!!」

「そう? 良かったぁ」


 挙動不審になりながらも元気な姿をアピールする二人を見て、良かったと胸を撫で下ろすイズメ。

 絶世と言う言葉でもなお足りないほどの美女から親し気な笑顔を向けられた菊菜と圭介の二人は、更に顔を赤くしながらも気になった事……イズメの姿について尋ねる。


「そ、それよりも! ……本当にイズメちゃんなんだよね?」

「うん、そうだよ。まぁ驚くよね、この中でこの姿の事を知ってるの永長ちゃんだけだし。驚かせてごめんね?」

「あ、いや、別に謝らなくても……。そ、それより、どうなってんだその格好? あ、いや! 別に言いたくないなら無理に言わなくて良いけど」

「ううん、別に隠す事でも無いから気にしないで良いよ。この姿はねぇ―――」



 ソワソワとして、イズメとは目も合わせられない様子の二人の態度を気にする事も無く、イズメは現在自分が姿を変えている理由、奥義スキル『転身・赤毛十一尾伝説』について簡単に説明した。

 その説明の内容を聞いて、菊菜や圭介とは違い落ち着いた様子の哲也は感心した様子で頷いていた。


「なるほど、探索者の力はそれほどまでになるんですか……前々から議題にはされていたけれど、僕たちも訓練の一環として本格的に探索者を始めるべきかな?」

「そうだねぇ。みんな危険な仕事をしている訳だし、力はつけておいて損は無いと思うよ? ……それにしても、菊菜ちゃんと圭介君と違って哲也さんは落ち着いてるね。変身(こういうの)って見慣れてたりする?」

「ええ、まぁ。長く生きた妖魔の中には、想像を絶するほど眉目秀麗な方も多いですからね。それを差し引いても既婚者だから、他の女性に目移りしたりしないよ」

「おお、惚気るねぇ」


 胸を張ってそう語る哲也にイズメはカラコロと笑いかける。

 実際の所、顔に出していないだけで内心では哲也も割とギリギリだったのだが、そこは年長者としての意地と愛する妻の顔を思い浮かべる事で耐え抜いていた。

 しばらく哲也と笑い合った所で、イズメはセリオスと背負われた状態のカインに視線を向ける。


「―――それで、貴方たちは誰? みんなと一緒に居たんだし、敵じゃないのは判るけど」

「ああ、私たちは―――ッ!?」


 セリオスが前へ出て自己紹介をしようとしたところで大気を震わす獣の咆哮が地下空間内に轟く。

 見ると、そこには剥き出しの骨の上を肉が覆う様にして全身が再生しつつある巨大な爬虫類の姿をした獣、永長とセリオスを地下へと落としたオブジェクトの姿があった。

 その姿を見たイズメは、頬を掻きながら苦笑いしていた。


「あちゃぁ、欠片も残さず焼き尽くしたのにまだ再生するんだ。まぁ、『こいつ』みたいに封印した訳じゃないし仕方ないか」


 そう言いながら、イズメは手に持った石の塊に視線を向ける。

 その正体に気付いたカインは、セリオスの背から降りながらイズメに訊ねた。


「あの、もしかしてその石の正体は……?」

「うん、貴方はこいつを知ってるの? 私と戦ってた『ザ・狂戦士!』みたいな奴を一回全身消し飛ばしてから、再生し始めたところを石化の呪いで封印したものなんだけど」

「……なるほど、そうやって無力化したのですか。いえ、今はそんな事は後回しですね」


 一応は自分の弟に当たる存在であるのだが、カインはその事をこの場では黙っている事にした。

 石となったアベルを見るイズメの瞳に明らかな怒りの感情が浮かんでいた為、話をややこしくしないようにと判断した結果である。

 正しく賢明な判断であると言える。



 ともあれ、今対処すべきは再生しつつある爬虫類型の巨大オブジェクトである。

 カインは口早にそのオブジェクトの情報を告げながら、解決策を提示した。


「皆さん。奴は『不死身の爬虫類』というオブジェクトの中でも特に危険で凶暴な存在の一体です。名前の通り不死身の再生力と高い適応、進化能力を持っていて一度使用した手段では耐性を持たれて通用しなくなってしまいます。正面からまともに戦っていては勝ち目がありません」

「まともに、という事はまともじゃない方法なら倒せるという事か?」


 カインの言葉にそう疑問を提示するセリオスに対して、カインは頷くと解決策について説明した。


「はい。奴を含め、この施設とオブジェクトたちは眠りにつく『彼女』によって生み出された、いわば実体を得た夢のような存在です。故に、『彼女』を目覚めさせれば施設もオブジェクトたちも全て実体を失い消え去ります」

「待って下さい! それじゃあカインさんまで消えてしまうじゃないですか!?」


 カインの言葉を聞いて、永長が驚きながら振り返る。

 こうして同行しては居るが、カインもまたオブジェクトの一体であるはずなのだ。

 だが、カインは毅然とした態度で自身が消える事を受け入れていた。


「構いません。元よりこのまま『彼女』が衰弱して死んでしまえば全て消え去るのです。なら、『彼女』死んでしまう前に目覚めさせて、貴方方に保護して貰うのが最善でしょう」

「ですけど……」


 自身が消え去る事を受け入れているカインに対し、永長は悲痛な顔をする。

 出会ってからそう時間の経ってはいないが、こうして言葉を交わした相手が影も形も残さず消えてしまうと言うのは受け入れがたい事であった。

 だが、カインは三つ憂さの欠片も無い穏やかな顔で永長に返す。


「なに、そう悲観する事はありませんよ。我々は『彼女』の能力によって生み出された、いわば『彼女』の一部です。『彼女』さえ生きているなら、いずれまた会えますよ」


 そう言って淡く微笑んだカインは、未だ万全では無い体を引き摺って前に出る。

 そうして右手で拳を構えながら、左手である一方向を指さした。


「行って下さい、この先に彼女が居ます。奴は私が抑えますから、今の内に早く」


 カインが指さした方向は丁度地下空間の中心部であり、そこには光を放つエメラルドの様な色合いの巨大な結晶が存在していた。

 遠目だが、結晶の中には人型の何かが存在しているような影が見える。


「皆さんの力なら、結晶自体を破壊して中から『彼女』を助け出すのは簡単でしょう。どうか後をお願いします!」

「カインさん!」



 それだけ言い残してカインは走り出す。

 カインの力ではどう足掻いても不死身の爬虫類に勝つ事は出来ないが、逆に負ける事も無い。

 カインには自身への攻撃を相手に跳ね返すという能力があり、生存能力はオブジェクトの中でもトップレベルだ。

 逆に攻撃性能はさほど高く無い為、最大の問題は不死身の爬虫類が自身を無視して永長たちに向かって行った場合なのだが、そこは何としてでも食い止めて見せようとカインは考えていた。


 だが、走り出したカインに並び、共に不死身の爬虫類も元へと向かう者が一人いた。


「セリオス!? 何故こちらに?」

「なに、奴には地下に落とされた借りがあってね。消えるというならその前に何発か殴っておこうと思っただけさ」


 そう言いながら、セリオスは『収納』スキルから棒の付いた長方形の黒い箱の様な物を取り出し、棒の部分を握る。

 すると握った部分から棒と箱に光のラインが走り、箱自体が変形して姿を変えた。

 無数のブロックが蠢き二秒とかからず変形は終了する。変形後そこにあったのは、ピザカッターを巨大化させた様な姿をした、巨大な丸鋸であった。


「……殴りつけるのには向いていない形状に見えますね」

「細かい事は気にするな。それにこれはハンマーにも変形するから、殴るという言葉に間違いは無いさ」

「そうですか。なら、行きましょうか!」

「応とも!」




 セリオスとカインが不死身の爬虫類を迎え撃ちに行った一方、永長たちは『彼女』が封じられている結晶の下へと向かっていた。

 直線距離ならば大して遠くは無いが、オブジェクトの内高い戦闘能力を持つであろう怪物型のオブジェクトが何体も立ち塞がる。

 彼らとしては『彼女』を守るための行動であるのだろうが、話し合いで解決出来るような余裕はない状況だ。

 立ち塞がるオブジェクトたちを、先頭に立ったイズメが蹴散らしながら一行は進んでいた。


「永長ちゃん! 何だか良く判らないけど、とにかくあそこまで連れてけばいいんだよね!?」

「はい! お願いしますイズメちゃん!!」

「俺らも手伝うぜ!」

「後ろは任せて下さい、誰も近づけさせません!」

「私も何かしたいけど、走りながらの演奏は無理だよぉ!」


 先頭にイズメ、その後ろに永長と菊菜が並び、哲也と圭介が殿(しんがり)を務めていた。

 向かって来るオブジェクトたちを倒す必要は無い為、イズメは十一本の尻尾を鞭のように振り回してオブジェクトたちを遠くに大きく弾き飛ばしている。

 それを避けて後ろから回ったものに関しては、哲也と圭介がそれぞれ銀弾と気弾を飛ばして対処していた。

 走りながら笛を吹く事の出来ない菊菜は、ついて行くので精一杯である。


 ともあれ、襲い来るオブジェクトたちの中にアベル程苦戦させられる相手も居なかった為、一行はあと少しで決勝に触れられる所まで辿り着いた。

 だが―――――



「ようやくたどり着きました! 後はこの結晶を「永長ちゃん離れて!!」っ!?」



 あと少し、と言う所でイズメの警告が聞こえるのと共に、永長はイズメの尾の一本に巻き取られ、結晶から引き離された。

 どうやら永長を尻尾で巻き取った上で、そのまま後ろに大きく跳んで結晶から距離を取ったようである。

 永長だけでなく、哲也、菊菜、圭介の三人も同様の方法で結晶から引き離されていた。


「イズメちゃん!? 言った何が「アレを見て!!」」


 永長の疑問を遮り、イズメは結晶へと指を指す。

 その顔は今まで永長が見た事無いほど警戒感に満ちた厳しいものであった。


 一体何が起きているのだと永長が結晶に視線を向けるのと同時に、地下空間内に場違いなほどのんびりとした暢気な印象の声が響いた。




「やぁっとついたぁ~……」




 気の抜けるような声と共に、虚空からいきなり若緑の髪を持つ眠たげな眼付きの少女が結晶の直上に現れる。

 薄手の藤色のドレスを纏い、ナイトキャップを被ったその姿は、まるで寝室から抜け出して来たかのような、この地下空間内では酷く場違いな物であった。

 その少女の姿に驚いて、あるいは警戒して動きを止める永長たちに対し、少女が何気なく視線を向ける。


「「っ!?」」


 永長とイズメの二人が息を飲む。

 こちらに向けられた少女の瞳、その色に二人は見覚えがあった。


 星の光を宿す蒼。

 それはこの場に居ない赤松家の新たな家族、迦具矢の瞳と同じ色であった。



「あ、貴女は一体……」

「ん~、私ぃ~……?」



 思わずと言った調子で零れた永長の呟きに少女が反応する。

 それと同時に迦具矢と同じ特徴を持つことから、少女に対して『鑑定』スキルを使ったイズメは、少女が何者であるのかを理解した。

 そこに移っていた名前とは―――




「私は『后娥(こうが)』、よろしくねぇ~……」




太陰之女神(たいいんのめがみ) 后娥月宮星君こうがげっきゅうせいくん五種神宝(イクサノカンダカラ)




 『蓬莱之女神』である迦具矢に次ぐ、新たな女神の登場であった。

『太陰之女神 后娥月宮星君・五種神宝』



漸く名前を出せた迦具矢ちゃんの姉妹女神。

七柱居る姉妹の内、七曜の『月曜』を司っている子。(迦具矢ちゃんは『日曜』)

七姉妹の中で唯一、『夢の中』という非実在領域を行き来出来るというオンリーワン特性を持っている。(因みに迦具矢ちゃんは七姉妹中戦闘能力がトップ)

外見のイメージは、旧作のゆうかりんとパッチェさんを混ぜた感じ。



名前の元ネタは中国の月の女神である『嫦娥(じょうが)』。

別名を『姮娥(こうが)』とも呼び、夫である『后羿(こうげい)』ともかけている。

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