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第六十四話 「それぞれの戦い(その六)」

(・▲・)「ジュリリィ……(ヤバイ。自宅のエアコン壊れて自室がサウナ状態。めっちゃシンドイ……給付金の使い道が早速決まってしまったなぁ……)」

 焔の隼が壁も床も天井も無いかのように、財団施設の階層を溶かし貫きながら縦横無尽に飛び回る。

 時折各階層に収容されたオブジェクトと鉢合わせる事もあったが、隼は一切減速する事無く最低限の動作でそれらを避けて飛び続けていた。



 飛び続ける隼の名は『紅蓮の殲滅隼ブレイジング・ファルコン・エアレイド』。

 イズメが自ら作り出した七つの大魔法の一つであり、魔法技能の中でも頂点と称される『(プライマル)(エクステンド)(マジック)』という物であった。



 施設内に風穴を開け続けながら、焔の隼は飛び続ける。

 術者であるイズメの命令を実行する為に。


 全てを融解させる能力は本質にあらず。

 隼のその本当の恐ろしさが発揮される時は、もう間もなくであった。




 ◇




 『朱雀羽織』を纏い『神龍の角槍』を手にした永長を先頭に、セリオスとカインの計三人が『紅蓮の殲滅隼』の空けた穴を通って施設内を駆け抜ける。

 焔の隼の能力を知るが故に、これから一体何が起きるのかを容易に想像できた永長は二人を連れて、焦燥感も露わに走っていた。


「不味いです不味いです不味いです不味いです! 実際に見て無くても判りますよ。なにがあったのか知りませんけど、イズメちゃん完全にキレちゃってるじゃないですかヤダー!!」

「落ち着けエナガ! 走りながらで構わないから説明をしてくれ」

「すみませんセリオス、お手数をおかけして」

「謝罪も感謝も後にしてくれカイン。今は色々余裕が無さそうだ!」


 半分泣きそうになりながら走る永長と、負傷したカインを背負ってその横を走るセリオス。

 三人が掛けている最中にも、幾度も炎の隼は通路の壁や床を貫いて姿を現し、そのまま何処かへと飛び去って行く。

 そうしてどんどんと施設内が穴だらけとなり、隼の通った後には線香花火の火花の様な物が残留しパチパチと弾けていた。


 その火花に只ならぬ嫌な予感を感じたセリオスは、走りながら永長に火花の正体について尋ねた。


「エナガ! そこら中にあるこの火花は何だ!? 私としては非常に嫌な予感がしているんだが!!」

「ズバリ予感敵中です! この火花は『紅蓮の殲滅隼』の派生攻撃の予兆みたいなものです!!」


 時に隼の空けた壁の穴を潜るなどしてどんどん進んで行く永長は、手短に『紅蓮の殲滅隼』の能力を説明した。



 『PXM 紅蓮の殲滅隼』



 この魔法は単純に超高温の炎が隼の形を取っている魔法と言う訳では無い。

 イズメのオリジナルであるこの魔法は、『接触対象を焼き尽くすに足る熱量を発揮する』と言う特性の炎が隼の形を取った魔法なのだ。

 判り易く言えば、接触対象が紙なら普通の炎とそう変わらない温度しか発揮せず、接触対象が鉄ならば金属を融解、蒸発させるほどの温度となる。

 この魔法恐ろしい所は、対象が何であれ同様に効果を発揮するという点だ。

 『防御神性』の様な特殊な防御能力が無ければ、どんな相手でも文字通り即死させる攻撃魔法である。


 そして、その能力は炎の隼と言う形に留まらないのもまた恐ろしい部分なのだ。

 セリオスが指摘した通路内に残る火花、それらは『紅蓮の殲滅隼』の欠片であり、いつでも任意に起爆できる爆薬の様な物だ。

 それらを施設内にばら撒いているという事はつまり―――



「―――つまり、何があったのかは判りませんけど、イズメちゃんはこの地下施設を丸ごと消し飛ばすつもりなんですよ! 誰ですか!? イズメちゃんを怒らせたおバカは!!」

「お、落ち着くんだエナガ。物に当たるんじゃない」


 常時のイズメならばまず使わないであろう乱暴な大規模破壊魔法の行使。

 これの原因をイズメを本気で怒らせた何者かであると確信している永長が、左手に持った『神龍の角槍』を感情に任せてブンブンと振り回す。

 防御貫通効果を持つ槍の穂先が紙切れの様に壁や天井を切り裂くのを見たセリオスが嗜めたが、よほど腹立たしいのか聞く耳持たなかった。


 そんな中、セリオスに背負われたカインが永長へと謝罪した。


「……申し訳ありません、永長さん」

「はい? なんでカインさんが謝るんですか?」

「そのイズメと言う方を怒らせてしまったのは私の弟なのです」

「えっ!?」

「先に謝罪しておきます。私は当初、イズメさん方四人を見捨てるつもりで居たのです」

「ええっ!?」

「何?」

「大変申し訳ありませんでした」



 イズメたちを見捨てるつもりであったと告白して謝罪するカイン。

 セリオスに背負われたまま、カインは弟であるアベルについて説明した。


 元となった物語でのアベルは殺戮を愉しむ不死身の狂戦士であり、財団のオブジェクトの中でも特に高い戦闘能力を持っている。

 そして『彼女』の能力で実体化したアベルもまたその特性を受け継いでおり、当初カインはアベルと遭遇したグループは直ぐに皆殺しにされてしまうだろうと考えていた。

 『彼女』の救出が目的であるカインにとっての最優先は『彼女』を救出出来る人材の確保であり、片方がアベルに襲われるならそちらは見捨ててもう片方を確保しようと考えていたのだ。

 その点について、カインは謝罪した。


「まぁ、実際は皆殺しにされるどころか、弟はイズメさんに一方的にやられているような有様でしたが」

「ああ、まぁイズメちゃんですからねぇ……」

「君はそれで良いのかエナガ? イズメと言う子にしろ他の者達にしろ大切な仲間だろう?」

「それはそうなんですけど、あー何と言うか……現在この施設内で一番強いのってイズメちゃんとセリオスでしょうから、片方がついてても駄目だった時は元からどうしようもないかなぁって」

「……君は結構ドライだね」


 永長のそれは最強クラスの探索者たちの力を知っているからこその認識だった。

 仮にアベルがイズメを殺害出来るほどの実力を持っていた場合、この場に居る自分たちが全員揃っていたとしても犠牲なく勝つ事は出来ないだろう。

 そう思うからこそ、永長はカインの判断を責めたり怨んだりする気持ちにはなれなかった。


「それより、カインさんはどうして離れた位置に居るイズメちゃんたちや弟さんの事を把握しているんですか?」

「私はオブジェクトたちを始めとした財団の重要情報を記憶するという立場上、この施設内の出来事をある程度把握できるのです。その一環で、現在のアベルやイズメさん、他三人のお仲間たちの位置や様子も把握できています」

「そうなんですか!? なら最初から言って下さいよ! 位置が判るなら案内をお願いします」

「はい、勿論です。イズメさんとアベルの戦場から、他の三人はある程度離れているようですが、どちらに向かいますか?」

「まずは哲也さんたち、三人組の方をお願いします! 一か所に集まった方が、イズメちゃんもやり易いでしょうから」

「了解しました。あちらです」



 カインのナビゲートに従って永長は走って行く。

 その隣を走るセリオスは、一つだけ気になった点があったので、それを永長に聞いてみた。


「そう言えばエナガ、一つ聞きたいんだが」

「はい、何でしょう?」

「今はカインが道を案内してくれるから良いが、その前は何を基準に走っていたんだ?」

「ああ、それですか。そんなに難しい話じゃないですよ? 幸か不幸か今は施設内が穴だらけになっていますから、仲間たちの気配が察知し易くなっていただけです」

「なるほど」


 永長の説明に納得したセリオスはそのまましばし無言で走る。

 しばらくすると、視界の先に見覚えのある複数の人の姿が見えて来た。


「あ、哲也さんたちです!」

「ようやく合流出来たか、しかし戦闘中のようだが……」

「はい、彼らが対峙しているのはオールドマンと言う非常に危険なオブジェクトです。戦闘能力はさほど高くありませんが、厄介な能力を持っていますので我々も合流して早急に無力化を―――あっ」

「あっ」

「あっ」



 カイン、永長、セリオスの順に思わず間の抜けた声が零れた。

 が、それも致し方ないだろう。


 三人の見ている前でオールドマンは、左斜め上方向から飛来した『紅蓮の殲滅隼』に直撃し、一瞬で影も形も残らぬほどに焼き尽くされてしまったのだから。

 何事も無かったかのようにそのまま右斜め下方向に突き抜けて行った炎の隼の姿も含め、事故としか言いようの無い光景であった。

『紅蓮の殲滅隼』(ブレイジング・ファルコン・エアレイド)


要するに、「敵を自動追尾して相手の最大HP100%分の割合ダメージを与える火属性魔法」(派生攻撃もあるよ!)。

ダメージ『軽減』するタイプの能力が一切利かず、防御神性のようなダメージを『無効化』する能力で無いと防げない即死魔法。

ちなみにイズメの編み出した『PXM』は全部で七つある。

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