第六十三話 「それぞれの戦い(その五)」
(・▲・)「ジュリリィ(覚醒水ライトゲット記念に連日更新です。ここから強化して行くのが更に大変だという事実からは目を逸らしてますよ、ええ)」
それが起きたのは果たして偶然なのか、それとも必然だったのか……。
少なくとも誰かが意図した事ではないとは断言出来るが、それにしてはまるで狙ったかのように出来過ぎた展開ではあった。
とは言え、たったこれだけでは何が起こったのかさっぱりだろう。
経緯やらを細かく説明する事も出来るが、ここは敢えて端的に起こった出来事を一言で言い表そう。
イズメがキレた。
◇
それは、イズメと対峙するアベルが新たな武器を生成した際に起こった。
元々さほど広くなかった部屋は、絶え間ないイズメの魔法攻撃とアベルの生成した武器の打ち合いによって無理矢理拡張されていた。
互いの攻撃によって周囲の壁や床、天井が破壊され続け、施設自体が持つ自己修復機能が追い付いていないのだ。
二人の攻撃で削られ続けた戦場は上下に二階層、横方向にも同じだけの範囲が破壊されて球状にぽっかりと開けている。
その中をイズメは魔法で生み出した氷の鳥を、アベルは自身の生み出した武器を足場に、縦横無尽に跳ね回っていた。
戦場となっている球状に削られた空間内には数百の黒い刃を持つ武器と様々な属性の魔法で作られた鳥たちが飛び交っている。
元々魔法が使える分遠距離攻撃ではイズメが有利だったが、イズメの攻撃パターンを学習したアベルは高速で飛翔する機能を持った黒刃の武器を生成して対抗し始めたのだ。
幸い飛び交う黒刃の武器たちは、飛翔能力を付与したためそれ以上の能力を持ってはいない。
だが、それでもデフォルトで持っているらしい神聖特性または神性特攻は残っている為、一本一本の攻撃が有効打になり得た。
その為イズメは数多くの魔法の鳥を生み出して飛び交う黒刃たちを迎撃させ、自身はアベル本人を狙って何度も斬りかかっていたが、それらは毎回後一歩の所で凌がれていた。
イズメが勝負を決められずにいるのはアベル自身の戦闘力とセンスのせいでもあったが、それ以上にイズメ自身に躊躇いがある事に原因があった。
一見拮抗した勝負であるように見えるし、対峙するアベル自身もこの戦いがどちらかが削り切れるまで続くものだと思っているが、実際には違う。
敵対者であるアベルが空中を飛び回っている状況は、イズメにとって致命的なまでに有利な状況なのだ。
イズメの奥義スキル『赤き首刈の影狐』は蓮上の持つステータスやスキルに魔法、奥義スキルを共有するという世にも珍しい効果を持っている。
この奥義スキルによってイズメが使用出来る蓮上の能力は多々あるが、その中でこの状況をイズメに有利だと断言させる奥義スキルが一つある。
蓮上を『首刈レッドジョー』たらしめる奥義スキル『空中両断殺法』だ。
不死身のモンスターさえ条件が揃えば問答無用で即死させるこの奥義スキルを使えば、確実にアベルを殺すことが出来る。
だが、ここでイズメに躊躇いが生まれる。『このまま殺してしまって良いのか?』と。
元々野生動物であるイズメにとって、敵対者を殺す事は忌避する様な物ではなく、単に当たり前の行為である。
だが、『人化』スキルで人の姿となり、蓮上の家族として人間社会で暮らすイズメにとって、殺人と言うのは最も避けなければならない行為の一つだ。
『人化』スキルによって人の姿となった動物やモンスターと言うのは非常に珍しい存在であり、世間的にもどのように扱うべきか定まっていない部分がある。
そんな中、自身が殺人行為をすれば、『人化』した動物やモンスターは危険な存在だという風潮が広がり、人間社会からの排斥対象になってしまうかもしれない。
そうなれば、今まで通りの穏やかな生活は送れなくなってしまう。
自身の行動如何によってそんな未来が訪れる可能性も確かにあるのだと、蓮上の母親である冥から聞かされていたイズメにとって、どんな形であれ殺人は可能な限り避けたい行為だ。
今までは例え悪漢に襲われようと気絶させてから蓮上の父親である睡蓮に引き渡せば何とかなっていたし、そもそも百十番通報した時点で睡蓮が一瞬でその場に現れて相手を連行してしまっていた。
その為アベルの様な、殺さずに済ませる事が難しい相手と対峙した事の無かったイズメは、初めての状況にどう対処すべきか思い悩んでいた。
イズメが悩むのはアベルの強さが絶妙なラインであった為でもある。
殺さず無力化するのは難しく、だが確殺の手段がある現状、なりふり構わず殺さなければならないほどの脅威でも無い。
そう感じているからこそ、イズメの対応は中途半端なものになってしまっていたのだ。
――そうして、イズメが思い悩みながら戦闘を続けている最中、遂にその瞬間が訪れた。
それは、特に何か予兆のある様な物では無かった。
それを成したアベル自身も、まさかこのような事態になるとは想像もしていなかっただろう。
アベルのやったことは今までの戦闘でも披露していた、イズメにとって既知の行動であるはずだった。
だがそれが、イズメの目の前で行われることが、致命的なまでに不味かったのだ。
アベルのしたことは簡単だ。
イズメの見ている目の前で、新たな武器として『大鎌』を生成したのだ。
「―――あ゛?」
それを視認した瞬間、イズメの口から可愛らしい少女の外見には似つかわしくない、酷くドスの利いた苛立ちと不快感の強い声が発せられ。
『ヒュガッ!?』
アベルの肉体は、つま先から頭の天辺まで一瞬でミンチにされてしまった。
何が起きたのかも判らないまま全身を手にしていた大鎌ごと粉々にされたアベル。
つい先ほどまでアベルが黒刃の武器を足場に立っていたはずの空間には、明るい茶色をした艶やかでふさふさとした何かが存在している。
それこそが、一瞬でアベルを引き肉に変えた攻撃の正体であった。
アベルに反応も許さず、一瞬で全身を粉々に粉砕したもの。
それは、人一人を丸ごと飲み込めるほど太く長大な狐の尻尾であった。
数十メートルの長さに伸びた『十一本』の尻尾が、常識外れの速度と破壊力でアベルを打ち砕いていた。
ピンと伸びた尻尾たちが、蛇のようにシュルシュルと蠢きその長さと太さを縮めていく。
やがて人一人丸ごとから、人の腕をすっぽり飲み込める程度の長さと太さに尻尾が縮むと、そこには一人の『女性』が立っていた。
年の頃は二十歳かそこらに見える。
巫女装束の上から千早を羽織り、凛と伸びた背筋がその女性を実際の身長よりも高身長に感じさせ、少し癖のある腰まで届く長い髪は尻尾と同じ赤みを帯びた褐色で、その頭上には二つの狐耳が存在していた。
見開かれた鳶色の瞳は猛禽類の如く鋭く、手にした刀と相まって『戦巫女』という呼び名が自然と浮かぶほどに凛々しい佇まいであった。
その顔立ちは、一目で肉親であると確信させるほどに、イズメと似ていた。
突如現れた十一の尻尾を持つ戦巫女の如き女性。
容姿が酷似している事や、先程までいたイズメの姿が無い事も踏まえれば、その正体は明らかだ。
この女性こそが、姿を変えたイズメだった。
何故いきなりイズメが姿を変え、少女から大人の女性へと変貌しているのか?
何て事は無い、この姿こそがイズメの持つもう一つの奥義スキルであるからだ。
その名も『転身・赤毛十一尾伝説』。
イズメ自身を十一の尾を持つ成人女性の姿へと変えるのと同時に、『一定時間の間、全能力の超強化する』という非常にシンプルかつ強力な効果を持つ奥義スキルだ。
この全能力の超強化と言う効果は単純なステータスだけでなく、魔法やスキル、そして奥義スキルなど個々の技能にも個別に適応される。
その為、この姿となったイズメは『赤き首刈の影狐』によって共有される蓮上の能力さえ、蓮上本人以上の出力で発揮することが出来た。
これだけで、今のイズメがどれほど途方もない力を持って居るのかはもはや語るまでも無いが、それ以上に恐るべき点が一つある。
日本最強格の、言ってしまえば世界基準でも上から数えた方が速い実力者である蓮上のほぼ上位互換と言って良いほどの力を持った、生きた天災とでもいうべき存在が、今現在進行形でマジギレしているという事だ。
本来イズメはこの姿になるつもりは無かった。
『転身・赤毛十一尾伝説』は強力な反面、デメリットも存在する奥義スキルであるからだ。
だが、そんな事など気にならないほどイズメの脳内を激化させ、ほとんど反射に近い行動でアベルをミンチに差せたのは、アベルが生み出した武器が蓮上の代名詞と言うべき武器である大鎌であったからだ。
イズメにとって蓮上がどれほど大切で特別な存在かは言うまでもない。
自分を守り育んだ飼い主であり、血の繋がり以上に固く強い絆を持つ家族であり、自分が唯一添い遂げるべき恋慕の対象でもある。
イズメにとって、蓮上とは自身の命よりも大切な愛する存在だ。
そんな蓮杖の象徴とも言うべき大鎌をアベルが手にした時、イズメは侮辱とも冒涜ともつかない複雑かつ激しい不快感を感じた。
刈り取る命に対して無慈悲かつ真摯な狩人である蓮上に対し、戦いを殺し合いを愉しむ狂戦士であるアベル。
煮ても似つかぬ正反対の存在が、大切な人の象徴と同じ物を手にしている。
その事が、イズメにとっては決して許容出来ない事だったのだ。
『グッ……ウガ……』
「……」
無言で佇むイズメの前で、信じ難い事が起きる。
文字通り『粉々』に砕かれたはずのアベルの肉体が磁石に集まる砂鉄の様に一か所に集い、今まさに再生しようとしていた。
本来であれば『こいつは不死身なのか!?』や『どうやったら殺せるんだ!?』などと驚くべき場面であるが、イズメはただ無言で佇んでいる。
開かぬ口の代わりに、烈火の如く燃え盛る瞳がその内の感情を雄弁に語っていた。
「『斜陽の如く燃え盛れ―――』」
頭から再生し、胸までの肉体をアベルが取り戻した辺りで、イズメは刀を持っていない左腕を真っ直ぐ伸ばして詠唱を開始した。
それと同時に、イズメの周囲の景色が陽炎の様に揺らめき始める。
まだ発動しても居ない段階から、魔法へと変換されつつある魔力が圧倒的な熱量を放出し始めていた。
「『汝の形を描き、汝に名を与え、汝に相応しき役目を賜そう―――』」
伸ばされた左腕の少し上に小さな紅い火が生まれる。
その火はアベルが肉体を再生させるのと連動するかのように堆積を増し、やがて一つの形を取った。
「『汝は鳥、汝は劫火、汝は悉くを焼き亡ぼす者―――!!』」
それは鳥だった。
紅蓮の炎で形作られた、一羽の雄々しき隼であった。
鳥の姿をした魔法と言う意味では先ほどからイズメが使っていた魔法と同じであったが、そこに込められた力は天と地ほどの差があった。
「『羽搏き絶やせ、我が炎翼! PXM 紅蓮の殲滅隼!!!』」
全てを焼き尽くす紅蓮の翼。
奥義スキルと並び称される、魔法の到達点。
世界中でイズメだけ使える、唯一無二の大魔法。
怒号と共に放たれた焔の隼は、雲耀の如く飛翔した。
『転身・赤毛十一尾伝説』(レジェンド・オブ・レッドテイル)
別名『赤い尻尾伝説』。
使うとイズメが尻尾一本の美少女から、尻尾十一本の傾国系美女に変身します。
効果をざっくり説明すると、デメリットありだけど効果時間中全ステータスとスキルや魔法のランクが上昇する奥義スキルです。
例として、蓮上の『天破激震の頂』がランクAなら、この状態のイズメが使う『天破激震の頂』はランクSSSくらいになってます。
イズメと言い迦具矢ちゃんと言い、なんでこの作品、ヒロインが単体スペックで主人公を圧倒的に上回って来るんですかねぇ?




