第六十二話 「それぞれの戦い(その四)」
(・▲・)「ジュリリィ(プロットって何だ? それらしいものを作っても直ぐに直ぐに崩れ去る。海辺の砂の白かな?)」
時は少し遡る。
『カイン』と名乗る怪腕の青年と出会った永長とセリオス。
二人はカインからこの施設の真実と、彼からの頼みについての話を聞いていた。
カインが語った真実、その内容は非常に驚くべき物であった。
「――それじゃあ、この広い施設全てがたった一人の人間によって生み出されたって言うんですか!?」
「その上この施設も、この施設内に存在するオブジェクトたちも、元は全て創作された物語の存在だというのか。 ……回収した資料からある程度示唆されていたが、実際にそうだと聞かされると流石に驚愕を禁じ得ないな」
「信じ難いとは思ますが事実です。この施設とその内部に存在するものは、全て『彼女』によって生み出されたものなのです」
カインが明かしたこの施設の真実とは、『この施設とその中に存在するオブジェクトたちは『彼女』と呼ばれる一人の異能者によって生み出された存在である』と言うものであった。
カイン曰く、この施設の成り立ちは妖魔の発生と非常に酷似しているらしい。
もしくは、『彼女』の能力が元々妖魔を生み出す機能を含んでいるとも言えるそうだが。
妖魔とは人々の想像やそこに宿る恐怖や信仰などの感情から実体化する存在だ。
それに対し、『彼女』の能力は物語などを元に架空の存在を実体化させる現実改変能力なのだという。
実在し無い存在が実体を得る……同様のプロセスを経ているが故に、妖魔とオブジェクトの存在は非常に酷似していた。
「私は元となった物語において、自身の高い記憶能力によって『財団』の様々な情報を記憶するという立場にありました。故に、私は『彼女』によって生み出された施設やオブジェクトに関する様々な情報を得られるという能力を副次的に獲得したのです」
「なるほど……それでカイン、君の言う頼みと言う奴の内容を利かせてくれるか?」
施設や自身についてそう締めくくったカイン。
それを聞き終えたセリオスは、まだ聞かされていないカインから二人への『頼み』の内容についてを尋ねた。
もっとも、話の流れから大方の予想は付いていたが。
「――凡その予想は付く。ここまでの話で不自然なまでに名前の出てこない『彼女』とやらに関する事なのだろう?」
「ええ、お察しの通りです。貴方たちには我々を生み出した張本人である『彼女』を救い出して欲しいのです」
セリオスの予想した内容を肯定しつつカインは語り出した。
『彼女』、そうとしかカインが呼んでいないは『彼女』の名前が判らないからだ。
施設内にあった資料がオブジェクトや施設自体の情報しか記されていなかったように、施設やオブジェクトを能力で生み出した張本人であっても、『財団』の物語自体には登場しない『彼女』自身の情報は、カインをもってしても極々限定的な物しか得ることが出来なかった。
カイン自身が知り得る情報は、『彼女』が『財団』の物語のファンであった事、『彼女』が施設の発生基点である最下層で休眠状態となっている事、休眠状態の彼女は少しずつだが弱っており、このままでは衰弱死してしまうであろう事、そして―――
「――『彼女』の能力がここまで大規模な物になってしまったのには、自身の現実改変能力にダンジョンを取り込んでしまったからという事です」
「!? 何だって!?」
「ダンジョンを、取り込んだ……!?」
カインの説明に再び二人が驚愕する。
それと同時に様々な疑問が出て来る。
何故『財団』の物語にはダンジョンが登場しないのか? 最下層が施設の発生基点なら、『彼女』はどうやってそこ……廃トンネルの地下深くに辿り着いたのか? そもそも『彼女』はどこから来たのか? などなど……。
だが、それらの疑問を問う機会は、突如壁を突き破って現れた紅蓮の炎によって妨げられた。
―――Pyuwyeeeeeeeeeッッッ!!!!
「ッ! 二人とも伏せて!!」
「むっ」
「何です?」
壁の向こうからその『鳴き声』が聞こえた瞬間、永長はセリオスとカインの二人を強引に床へと倒した。
その事に驚くも、何か訳があるのだろうと抵抗する事無くそのまま押し倒されたセリオスとカインは、仰向けになったまま壁を突き破って現れた『ソレ』をはっきりと目撃した。
それは炎で出来た鳥であった。
感じられる魔力から、探索者であるセリオスにはそれが動物型の魔法である事が判った。
その形自体は隼に似ていたが、炎で形作られた派手な尾羽やらのせいで、隼と言うよりも鳳凰や朱雀のような印象を受けた。
動物型の魔法は生き物のような反応や動きをする事で知られており、実際にセリオス自身も動物型の魔法をいくつか修得している。
だが、セリオスが目撃したそれは自身の知る動物型魔法とは格が違ってた。
壁をいとも容易く、熱したバターにナイフを入れるほどの抵抗も無く貫いて飛来した炎の鳥は、まるで生きた鳥そのものの自然な動作で壁をいくつも焼き貫きながら旋回し、そのまま元来た方向へと戻って行った。
その火力はセリオスをして、直撃すれば自分でも危ういと感じさせるほどの物だったが、炎の鳥が飛ぶ姿はそれを実感させがたいほどに優雅であり幻想的であった。
「一体何だ? 今のは……」
「あれはイズメちゃんの『PXM』、『ブレイジング・ファルコン・エアレイド』です」
「PXM!! レッドジョーのペットたちはそんなものまで使えるのか!?」
「いえ、PXMが使えるのは流石にイズメちゃんだけですよ? 先輩も使えないですし……あれ?」
「おや、これはうっかりしていましたね……」
セリオスの疑問に答えつつ立ち上がったところで、永長が可笑しな感覚を感じて首を傾げる。
続いてパサリと言う何かが落ちる音が妙にハッキリと通路に響く中、その原因に心当たりのあったカインが落ち着いた声のまま呟いた。
乾いた音を立てて落ちたものの正体、それは風化したかの様にボロボロとなって崩れてしまった永長の服で合った。
軍服の様な黒い服が無くなり、今の永長は上半身だけが下着姿となってしまった。
ちなみに色は白である。
「なっ――」
「きっ――」
「すみ――」
ズドンッッッ!!!
「ガハッ!?」
「「カイン(さん)!?」」
……何が起きたのか説明しよう。
驚きつつも直ぐに上着を脱いで永長に渡そうとしたセリオス、自身の姿を理解して頬を赤らめながら悲鳴を上げかける永長、永長の服が崩れ去った原因が自分である為に謝罪しつつ、自身も来ていた服の脱いで永長に渡そうとするカイン。
三人の声が同時に発せられかけた瞬間、カインの頭上から莫大な魔力の籠った白銀の槍が飛来し、カインの足元に突き刺さるのと同時に込められた魔力を解放してカインを大きく弾き飛ばしたのだ。
それと同時に永長の頭上からふわりと赤い、鳥の翼を模した外套が落ちて来て永長の身を包んだ。
その外套の色で……いや、その外套に染みついた臭いで永長は一連の出来事を誰が巻き起こしたのか理解した。
理解した瞬間、永長は先程までとは別の意味で頬を染めながら自身の身を包む外套を抱き締めた。
「先輩の『朱雀羽織』と『神龍の角槍』……先輩、こんなに離れていても守ってくれているんですね……」
「浸っている場合か!? しっかりしろカイン! 傷は浅いぞ!!」
「ぐふっ、まさか私の反射防御を余波だけで貫いて来るとは……それはそうと永長さん、すみませんでした。私は触れた植物由来の物体を風化させてしまう力があるのです。服が崩れたのはそのせいでしょう」
「あーなるほど、それで……」
「永長さんの反応からして、この槍の持ち主は永長さんの恋人でしょうか? でしたら、この傷も痛みも甘んじて受け入れましょう」
「いえ、あくまで事故から治療させて下さい。それに……こんな時に言うのも何ですけど、好きな人の上着を下着の上から着るって、ちょっと興奮しますよねぇ」
「なるほど……仲睦まじいようで何よりです」
「はい! もちろんラブラブですよ!!」
故意では無いとは言え、服を崩して下着姿を露わにしてしまった事を詫びるカイン。
それに対し、永長は下着姿を晒してしまった羞恥心よりも、蓮上がこれ程離れていても助けてくれたことに対する嬉しさから気分を良くし、事故であるという点もあってカインを許していた。
そんな永長の様子を見て、カインはまだ見ぬ永長の恋人と永長の二人がお互いを強く思い合っている事を純粋に喜ばしい事だと思っていた。
また、この件が終わったなら改めて永長の恋人に謝罪しようとも考えていた。
片や下着姿を男性二人の前で晒された少女、片や超遠距離弾道投槍で瀕死一歩手前まで追い込まれた人外の青年。
お互いこれは事故だからと許し合っている中、若干置いてきぼり気味のセリオスはと言うと。
「……いや、君らが良いのなら構わないのだがね?」
釈然としない気持ちを感じつつも、ここで余計な事を言うとレッドジョーからの第二撃を今度は自分が食らいそうだと思い、無難な一言だけで済ませるのであった。
『PXM』(プライマル・エクステンド・マジック)
要するに魔法における奥義スキルに相当するもの。
ただし、奥義スキルがそれまでの行動経験から確立されるため実質誰でも取得可能なのに対し、PXMは修得するにあたって個人の魔法的センスが非常に重要な為、ごくごく限られた者しか修得出来ていない。
と言うよりPXMは『奥義スキルに相当するほど性能を持ったオリジナル魔法の総称』である為、オリジナル魔法が作れるほどの技術者の中でも、ほんの一部の天才しか使えない。




