第六話 「魔導教典書士と逃避行(八百メートル)」
気付けばお気に入り件数百件以上を達成していました。
次は千件以上を目指して頑張ろうと思います。
後、ハーメルンでも同じ作者名で二次創作をやっていますので、良ければそちらもどうぞ。(まぁ、私の小説を読んでくれる人なんて、大半がハーメルンでの宣伝を見た人でしょうけど)
時は経ち放課後。
黄村と話し合った結果、とりあえず体験会という事で、青ヶ谷女子と緑河女子にダンジョンの低階層を案内しつつ、適当なモンスターを倒させてステータスを取得させる事となった。
本格的に探索者を始めるならともかく、ステータスを取得するだけなら、例え平服でも低階層のスライムを適当に潰すだけで済むからな。
問題は、成瀬の存在だ。
てっきり、放課後また絡んで来るのかと思ったら、ホームルーム終了後にさっさと教室から出て行ってしまった。
成瀬のその行動に四人で首を傾げつつ、最寄りのダンジョンであり、俺や黄村のメインの狩場の一つである『四季巡礼の山地』へと向かっていると……。
「……なぁ、黄村?」
「……判っているござるよ、首刈殿」
「? 判っているって、何を?」
「……つけられているんだよ、俺たち。相手は成瀬だな」
「えぇ!? そうなんスか!?」
「しっ! 振り返っちゃ駄目でござる」
背後から俺たちの後をこそこそとつけて来る気配を感じ、上空から自身を中心に周囲の光景を俯瞰視点で視認するスキル『天眼』で確認したところ、そこに居たのは成瀬だった。
こいつ、俺たちを尾行する為に先に教室を出て待ち構えていやがったんだな。
なんつう野郎だ!
……正直普通にキモイな。これがクラス一のイケメンとか、俺のクラス終わってね?
って言うか、成瀬が後をつけているって聞いて、青ヶ谷女子が女の子がしちゃいけないような顔をしてるんですけど。
タイトルを付けるなら『侮蔑』、あるいは『嫌悪』か?
「その、青ヶ谷殿? 大丈夫でござるか……?」
「嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い信じらんない最低最低最低最低最低イケメンだからって何やっても許されると思うなイケメンだからって受け入れて貰える前提で行動するな自分を顧みろ嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌怒りしか感じない侮蔑しか感じない嫌悪しか感じない無条件に自分が好意を持たれると思ってる笑顔が気持ち悪い自分が好きなら相手も自分が好きだと思っている態度が気持ち悪いハッキリ拒絶しているのに自分が拒絶されるはずがないって態度で何度も何度も何度も何度も寄って来るのが気持ち悪い何より許せないのが………シュガー・ポップの話題で盛り上がってた同士たちを指して、『ああ言うのちょっと、引いちゃうよね?』とかほざきやがったの絶対許さんッ!!!」
「ああ、そういう……」
怒涛の罵詈雑言の後に、青ヶ谷女子の魂の叫びを聞いた気がする。
根本的に成瀬が嫌いな理由は、同好の士を侮辱した事だったのか。
そりゃあ溝が深まる一方だわな。
「なるほど、そんな事があったんじゃあ嫌いにもなるわな」
「成瀬ちん、シュガー・ポップの話をしてる男子たちをかなみんがずっとチラ見してたから、牽制の為にそんなこと言ったんスけど……まぁ、大失敗に終わった訳っス」
「緑河殿は気にしてないのでござるか? 緑河殿もシュガー・ポップのファンなのでござろう?」
青ヶ谷女子とは違い、嫌悪感を露わにしていない緑河女子に黄村がそう訊ねる。
すると、緑河女子は一度苦笑してから徐に掛けていた丸眼鏡を外す。
途端に、緑河女子の雰囲気が一変した。
「……もちろん、アタシだって大っ嫌いだよあの野郎は。ただまぁ、自分以上に被害を受けてキレまくってる親友が居るから、ある程度落ち着いて取り繕えてるってだけさ」
そう言ってシニカルに笑う緑河女子は、まるで別人に変わってしまったかのようだった。
浮かべる笑顔には悪意と言うか邪悪さが滲み出ており、口調や一人称まで変わっている。
こちらの方が素、と言うか本性なのだろうか?
……ただまぁ。
「眼鏡を外すと性格が変わるって、安直過ぎないか?」
「探索者を目指すならもう少しパンチが欲しい所でござるな。実は左手がサイ〇ガンだとか」
「……もぉ~、折角本性を露わにしてドヤってたんだから、もっと良い反応が欲しいっス!」
俺と黄村がそんな感想を言うと、緑河女子は眼鏡を掛け直し、普段の調子に戻ってそう抗議して来た。
「大体、探索者にそんなパンチ何て必要なんスか?」
「俺、二つ名『首刈レッドジョー』だけど?」
「拙者、ご覧の通りの『忍者』でござるが?」
「……他の探索者を知らないから、普通の探索者の基準が判らないっス……」
いやぁ、探索者なんて、割とみんなこんなもんだよ?
あ、でも、他の街の探索者はそうでも無かったかな?
「まぁそれは置いておいて、そろそろ何とかしないと青ヶ谷女子の属性が邪悪に傾き過ぎてしまうな」
「ふふふ、うふふふふふ。ねぇ三人とも、そろそろ私も実力行使に出て良いよね? シュガー・ポップに改宗しない異端者を処しちゃって良いよね?」
「落ち着け青ヶ谷女子、いつからシュガー・ポップってのは宗教法人になったんだ?」
「かなみん、流石にそれ以上の発言はシュガー・ポップに変な噂が立つから、そろそろ落ち着くっス」
「あ、うん、そうだね……鏡花ちゃんたちの迷惑になっちゃうもんね」
あ、正気に戻った。
なるほど、シュガー・ポップを絡めて説得すれば話を聞いてくれるのか。
参考になるなぁ。役立つかは判らんけど。
まぁ良い、青ヶ谷女子も正気に戻ったし、いい加減これ以上成瀬に付き纏われても鬱陶しいし、そろそろ何とかするか。
黄村がな。
「おい、出番だぞ忍者。そろそろ何とかしろ」
「承知にござる……しからば御免っ!」
俺が指示すると、黄村は懐からピンポン玉サイズの黒いボールの様な物、黄村自身が持つ『忍具作成』スキルで作成した忍具『煙玉』を地面に叩きつけた。
ドバッ!!
叩きつけられた煙玉が割れ、中から出て来た白い煙が一気に周囲に広がる。
さぁって、今の内今の内。
「首刈殿。拙者は緑河殿を運ぶので、青ヶ谷殿はお任せ致す」
「了解。青ヶ谷女子、ちょいと失礼するよ」
「え、なに? きゃっ!?」
「では拙者も、失礼するでござるよ緑河殿」
「おお? これは所謂お姫様抱っこって奴っスね! 初めてして貰ったっス!」
そう、緑河女子の言う通り俺は青ヶ谷女子を、黄村は緑河女子をお姫様抱っこで抱えていた。
成瀬から俺たちの姿は見えていないのは天眼で確認済みだ。後は――
「よし、このまま煙に紛れて突っ走るぞ!」
「了解でござる!」
「えっと、何だか映画の逃走シーンみたいだね? ハルちゃんもそう思わない?」
「思うっス! 何かちょっとワクワクするっスね!」
「君達……俺が言うのもなんだけど、もうちょっとこう、恥ずかしがるとか無いの? 男にお姫様抱っこされてるのに」
「別に? あのクソ野郎から一秒でも早く離れられるなら、良いかなって」
「右に同じっス」
「左様でござるかぁ」
とことん嫌われてるな、成瀬。
まぁいいや。さっさと出発しよう。
「予め言っとくが、屋根の上とか走るから結構揺れるぞ?」
「あ、そうなんだ。ちょっと楽しそうかも」
「ちなみに拙者は全く揺らさずに走ることが出来るでござる。何せ忍者でござるからな!」
「おお! さっすが忍者! 頼もしいっス!」
「ハッハッハ! もっと褒めても良いのでござるよ!」
気分良さげに笑っているとこ悪いが黄村、お前に抱えられている緑河女子が今、『こいつチョロいぞ』って判った感じの顔をしていたぞ?
……その内おだてられるなりして、言い様に使われるかもな。
ま、その時はその時で社会勉強か。
突然の煙幕に動揺している成瀬の姿を天眼で捉えながら、俺たちは屋伝いに、彩宝学園から直進で八百メートルほど離れた場所にある『四季巡礼の山地』の入り口兼『ダンジョン管理局支部』を目指して走った。