第五十八話 「鋳造者との邂逅」
(・▲・)「ジュリリィ(あともう何話かで、ようやく永長ちゃんパートの話が終えられる。頑張れ私、永長ちゃんパートが終わったら、蓮上のターンに戻れるんだから! ……ところで、このまま行くとゴールデンウィーク初日から迦具矢ちゃんに心肺と背骨ぶち抜かれてた連上が、更に酷い目に合うんですけどなんでなんでしょうね?)」
~日本海上空にて~
もはや完全に日も沈み、月も星も曇り空に覆われて見えない暗闇の中、海上を高速で飛行する二つの物体……否、二人分の影が存在していた。
「――待ちなさい! 待てって言ってんでしょっ!!」
「やぁだよ~……」
苛立ちの強い怒鳴り声と、気の抜けたようなのんびりとした声。
対照的な二つの声の持ち主たちは、どちらも年若い少女の姿をしていた。
一方は、若緑の髪を持つ眠たげな眼の少女だ。
寝間着としか思えない生地の薄い藤色のドレスに身を包み、頭にはナイトキャップを被っている。
ただ、本来ナイトキャップを被る場合は髪の毛を全て帽子の中に仕舞うのが正しいのだが、彼女の場合はただ頭に付けているだけであり、腰まで届く癖の無いサラサラとした髪の毛が、風に靡いて踊っていた。
もう一方は、煌めく黄金の髪を持つつり目少女だ。
橙色の中華甲冑を連想させる機械鎧に身を包み、両手には黒い機械で出来た刀剣の様なものを握っている。
また、背には黄金の光の輪が浮かび、その光が夜闇の中でも二人の姿を照らしていた。
追う者と追われる者、苛立つ者とのんびりした者。
対照的な二人であったが、一つだけ共通点があった。
それは瞳の色だ。
青い、蒼い、星の輝きを宿すような瞳。
それが二人の外見的な共通点であり、同時にそれはこの場に居ない迦具矢との共通点でもあった。
空中を超音速で飛行しながら追いかけっこを続ける二人であったが、それは唐突に終わりを告げた。
日本海を横断し、日本の国土に近づき街の明かりが見えた途端、若緑の髪が姿を消したのだ。
「……ん、そろそろ? ばいば~い」
「あっ、ちょっと! ……チッ、また『夢潜み』かっ!」
金髪の少女は、若緑の髪の少女が姿を消した方法を知っている様で、腹立たし気に舌打ちをしながら一旦その場に留まった。
「ああもう、面倒な事してくれて……っ!!」
不快感を隠すつもりもない少女はその場で遠く、街の明かりが見える方へと視線を向けて目を見開く。
すると、少女の瞳に形容しがたい極彩色の光が宿り、しばらくすると瞬きと共にその光は消えてしまった。
だが、同時に少女は必要な情報を手に入れ終えていた。
逃げられた若緑の髪の少女が向かったであろう場所の情報を。
「……あっちか!!」
ある方向へと視線を固定させた金髪の少女は、今度こそ逃がさないと気炎を吐きながらその方向へと飛んで行った。
その視線の先は、現在永長たちが居る『財団施設』が存在する方向だった。
◇
財団施設第六階層。
その一室で、一人の青年が目を閉じて座っていた。
一見して何の変哲もない光景だが、よくよく見れば青年の姿は『異様』の一言だ。
袖の無い服から覗く両腕は硬質な金属の義腕となっており、良く見れば青年の両足もまた同質の金属で出来た義足である事が伺える。
また、青年の額には何処かの古代文字と思わしきシンボルが刻まれており、両手足と合わせて青年が超常、あるいは異常側の存在である事を示していた。
青年はまるで置物の様にその場で微動だにしなかったが、やがて何かに気付いたかのように目を開けて左と正面の壁……より正確には、その先に存在する者たちそれぞれに視線を向けた。
「来ましたか……願わくば、来訪者たちの存在が『彼女』を救うきっかけとなれば良いのですが……」
青年はそう呟くと椅子から立ち上がり、義腕義足である事を感じさせないほど滑らかな動きで扉を開いて部屋を後にした。
去り際に、不穏な呟きを残して―――
「私からでは二人組の方が近そうですが、四人? 組の方は……ああ、先に『彼』が接触してしまいますね。やれやれ、出来れば全員に協力して欲しかったのですが……このままでは、私が向かう先の二人しか残らなそうですね」
◇
歩き回ってようやく見つけた階段を上り、私とセリオスは第六階層と思われる階層へと辿り着きました。
みんなとはまだ合流出来ないのでしょうか? 私が気を失っていた間の時間を考えると、そろそろ合流できてもおかしくないのですが……。
「うーん……そろそろ合流出来ても良い頃だと思うんですけど、まだまだですかねぇ?」
「どうなのだろうな? ……やはり、この施設内では感知系スキルがあまり役立たないのが痛いな。まさか壁一枚挟んだだけで、『透視』スキルで見通せなくなるとは……」
それなんですよねぇ。
『透視』スキル自体は私も使えますけど、施設の中では壁一枚隔てた先の部屋の中すら見通せません。
普通のダンジョンなら、壁となっている場所や床なんかを見通して、罠や隠し部屋なんかを発見するのに役立つんですけど、今は完全に役立たずさんです。
他に役立ちそうなスキルと言うと……。
「セリオスは『聴覚強化』か『嗅覚強化』のスキルは持ってないんですか? もしくはそれに類する魔法でも良いんですけど」
「聞いて来るという事は君も持っていないんだろう? 私も同じだよ。そもそも、確かに私は世界でも有数の探索者であるという自負があるが、だからと言ってあれもこれも何でも出来ると言う訳では無いぞ?」
「あー……確かにそうですね。すみません、最上位の探索者って言うとどうしても基準が先輩になってしまって」
「自前で『魔法書』も『技能書』も用意出来る、世界でも最高クラスの生産職と比べないでくれ。確かにレッドジョーなら、大抵の魔法もスキルも修得済みだろうが……」
「そうなんですよ! 先輩は本当に引き出しが多くて……この間なんか、遂に使えるようになった転移魔法もお披露目してくれましたし、私に転移魔法を組み込んだお守りまでくれたんですよ? いやぁ、我ながら申し訳なるくらいの愛されっぷりで――」
「ちょっと待ちたまえ。レッドジョーが転移魔法を使えるなど初耳なんだが……私に明かしてしまって良い情報なのかね?」
「………あっ」
あああああああああっ!! 私やっちゃいましたっ!?
ただでさえ転移魔法は世界でも百人と使い手が居ない超レア魔法です。
それを『魔法書』を作成する事で他者にも魔法を使えるようにすることが出来る『魔導教典書士』や『魔導書士』が修得している何て言う話、秘匿されている可能性も高いですが、先輩以外に私は聞いた事がありません。
つまり転移魔法の『魔法書』作成技能は、現状世界中でも先輩以外に存在しないか、存在しても名乗り上げていない状態です。
もしこの事が公になった場合、先輩がどうなるのかは想像に難くありません。
世界中から、先輩が作れる転移魔法の『魔法書』を求めて人々が押し寄せる事でしょう。
いいえそれどころか、国家そのものが先輩に『魔法書』を作らせるために動いてもおかしくないのです。
ま、不味いです。
先輩が国家権力屈するところなんて想像も出来ませんが、各国が動いた場合先輩の私生活が滅茶苦茶になるのは想像に難くありません。
それどころか、先輩が転移魔法を使えることが知れ渡れば、表では民衆が文字通り烏合の衆の如く集い、裏では各国のエージェントが先輩を巡って暗躍する日々が始まってしまいます。
そんな事になったら、折角の先輩との甘々スクールライフが台無しです!
私が何とかしないと!!
「ぐぬぬ……こ、こうなったら、隙を見てセリオスの後頭部を強打して記憶を飛ばすしか……!」
「いや、聞こえているからそんな物騒な事を呟かないでくれるかね? 心配せずとも誰彼構わず言いふらすようなことはしないと誓うよ」
「本当ですか!?」
「ああ、もちろんだ。 ……まぁ、私にも報告義務があるから、話すべき相手には話すだろうが」
「ええ!?」
確かにセリオスはアメリカの製薬会社に所属し、政府の依頼を受けて活動する事も多々ある探索者です。
いくら先輩に対して有効的な感情を抱いているからと言って、私心で重要な情報の報告をしないなどありえません。
私も非正規の協力員とは言え、組織に所属している以上は義務を果たすべきだと思っていますし、セリオスが先輩の情報を会社や政府に報告する事を非難する事は出来ません。
出来ませんが……もうちょっとこう、現状は共に困難に立ち向かっている訳ですから、手心え置加えてくれても良いと思うんですけどねぇ?
そこの所どう思います、セリオス?
「そこで直接聞いて来る辺り、君も良い性格をしているよ……まぁ、私とてこの情報を報告した結果、彼と険悪な関係になるような事態は避けたいからね。報告するにしても、アーベントロートや政府の人間がレッドジョーに迷惑をかけないよう言い含める事も約束するよ」
「本当ですか? 嘘だったら酷いですよ?? 具体的には、先輩にある事無い事吹き込んで激昂させた上で凸らせますよ???」
「……それは流石に勘弁願いたいな。判った、最大限努力すると約束する」
「はい! よろしくお願いします♪」
「……君は本当に良い性格してるよ」
ふぅ、これだけ脅せば、きっと酷い事にはならないでしょう!
私知ってますからね、先輩が各国の最上位探索者たちの間では『無冠の暗殺王』とか、『史上最高の暗殺者筆頭候補』とか呼ばれてるって。
……まぁ、そう表したくなるのも判りますけど、ちょっと酷いですよね。
ともかく、うっかり口を滑らせた件についても釘を刺せましたし、気持ちを切り替えて行きましょう!
ああけど、事の経緯を後で話したら先輩に怒られそうだなぁ……。
「……セリオス、口止め料と言う訳では無いですけど、貴方自身が使うために転移魔法の『魔法書』を購入したい時は、私から先輩に口利きしますから……」
「それは助かるが、良いのか?」
「ええまぁ、現時点で色々助けて貰っていますしこれ位は……」
うっかり口を滑らせて先輩の情報を漏らした上に、口止めの為に勝手に先輩を引き合いに出したりしてますから、最終的に先輩からお説教されるのは確定っぽいですけど、それはそれとしてセリオスには何かお礼をしておきたいですからね。
後、純粋に先輩の狩人としての腕を評価してくれてるのもポイント高いですし。
助けて貰ったお礼と半ば脅すような形になったことへのお詫びだと伝えると、セイリオスは苦笑しながら肩をすくめていました。
「やれやれ律儀なんだか強かなんだか……では、彼と面談する時の仲介も含めて、その時は頼むよ」
「はい! お任せ下さい!」
ハキハキと答えて、改めて先に進みます。
もう既に、時間的には完全に日が暮れて外は真っ暗になっている事でしょう。近いずっといるせいで時間の感覚が曖昧になります。
もうマミナちゃんやコノハちゃんは旅館で夕食を食べているのかな? とか、先輩と迦具矢ちゃんは今頃『蓬莱鉱山』で波柴さんの用意した豪華な食事を食べているのかな? とか、早くみんなと合流して私もご飯が食べたいなぁ。と考えていると、突如進んでいた通路の脇にある扉が開き、中から誰かが通路へと出て来ました。
「「っ!」」
「ああ、身構えなくて大丈夫です。私はあなたたちの敵ではありません」
どこか機械的な、冷たい印象を受ける声が通路に響きます。
そう言って中から出て来た人……三十代前半くらいに見える、アラビア風のとても肌の焼けた男性でした。
その男性は、頭の後ろで手を組んで敵意は無いとアピールしていますが、先ずその両腕からして異質な物でした。
彼の両腕は武骨な金属製の義手だったのです!
更によく見れば、両腕以外にも足や、首元から見える背骨の辺りも同種の金属で出来ている様です。
外見的な異常は他にもあり、彼の額にはどこのものか判らない文字だかマークだかが刻まれ、淡く光を放っていました。
ですが、外見的特徴以上に私たちを警戒させたのは、彼の持つ気配でした。
一見すると体の一部が金属製の義手などに置き換わっているだけの人間に見えますが、感じられる気配は第一階層のホールで私たちを襲った赤い皮膚の怪物と同じ……紛れもなく、妖魔のものでした。
私はセリオスとお互いに目配せしつつ、何が起きても直ぐに反応できるように身構えながら、会話に応じました。
「……とりあえず、話は通じる様だな。色々と聞きたい事はあるが、まずは君の名前を教えてくれるかね? 私はセリオス、セリオス・ウェザーだ」
「私は永長、嶋永長です」
警戒しつつも私たちが自己紹介をすると、その男性は警戒されている事をものともせずに、嬉しそうに淡く微笑みながら名乗りました。
「私は『カイン』、あなたたちにこの場所が何なのかを説明する為に。そして、あなた達に頼みたい事があって、この場に現れました」
『カイン』はヘブライ語で『鍛冶師』、または『鋳造者』と言う意味らしいです。
兄が出たのなら、当然次回は弟が……




