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第五十六話 「合流へ向けて」

(・▲・)「ジュリリィ?(ラージャン、イビルジョー、バゼルギウス。新大陸のおじゃまトリオがマジで害悪過ぎる。ところで『一、十、百、千、万城目サンダー!!』が偶に聞きたくなることってありません?)」

「……さて、どうしたものか」

「スー……スー……」



 エナガと共に施設の崩落に巻き込まれ、何階層も地下に落ちて来てから既に数時間経過しているが、彼女は未だに目を覚まさない。

 吸い込んでしまった赤い皮膚の怪物たちの生体ガスが影響しているのか、落下途中でエナガは意識を失い、今は落ちてきた階層の一室で見つけたベッドに寝かせている。


 日本時間では既に日が暮れて夜になっているだろうがはてさて、地下である為かこの施設自体の影響かは判らないが、本国や本社に連絡がつかないのが痛いな。

 通信機では無く『念話』スキル自体が何かに遮断されている様で使えない為、原因はおそらく後者だろうが。


「んみゅ~、しぇんぱ~い……だいすきでしゅよぉ~……」

「やれやれ、暢気なものだな……」


 シェンパイ……センパイ? 先輩か。

 確か、日本では学校や会社で上級生やキャリアがより長い者に対する呼び方だったか?

 日本語を学んだ時に、日本独自の概念の一つとして興味深く感じたのを覚えている。

 という事は、おそらくエナガが夢に見ているのは、学校の上級生の恋人と言った所か。

 的確に怪物たちの首を刎ねまくっていた時は正直一般社会で生きて行けているのか疑問に思ったが、蓋を開けてみればなんて事無い……年相応の、ただ女の子じゃないか。


 フッ、と思わず微笑みながら幸せそうな顔で寝こけているエナガを見ていると、急に背筋に冷たい物が走った。


「っ! な、なんだ? 急に寒気が……恋人でも無い男が、いつまでも女性の寝顔を見ているのも失礼か。少し離れて居よう」


 まるで先日攻略した大規模ダンジョン『スリーピングバスティオン』の最奥で対峙したボスモンスター『バロウプリンセスアウローラ』に睨まれた時のようだ。

 ……まぁ、今感じている寒気よりも奴の方がある意味よっぽど酷かったが。



 嫌な事を思い出した私は少し離れた所に座り、急な襲撃にも対応出来るよう警戒を続けながら休息を取った。




 ~その頃の『蓬莱鉱山』の蓮上~




「れ、蓮上? 急に何を!?」

「いやなにか今物凄く不愉快な感じがしたから今すぐ即座にこの槍を彼方へと全力で投擲しなきゃいけなくなっただけだから気にしなくて良いよ気にしなくて良いよ無問題(モーマンタイ)無問題(モーマンタイ)だから放して迦具矢ちゃん手が塞がってると槍が投げられないから今すぐ全力で最大限も魔力を込めてぶち抜かなきゃいけない相手がいる予感と言うか確信がビシバシ来てるから放してお願いねぇ迦具矢ちゃん?」

「うっ……蓮上はっ……蓮上は……私が手を繋いでると、嫌……?」

「嫌じゃないっ!! 嫌じゃないんだけど……うーむ、こうなったら神話の大英雄に倣って『なんちゃって蹴りボルグ』をするしかないのか……?」

「あー、こらっ蓮ちゃん! 迦具矢ちゃんを困らせちゃ駄目でしょ!! それでも保護者なの!?」

「あぁいえ違うんですよ夏弦さん、俺はただこの槍を今すぐ彼方に全力投擲しなきゃいけないだけで……」

「言い訳しない! そう言う突飛な事して、迦具矢ちゃんの教育に悪影響が出たらどうするつもり? 保護者であろうと思うなら、子供の前では誇れる態度を心掛けなさい!!」

「うぐっ……返す言葉も無いです……」

「自覚出来たのならよろしい。迦具矢ちゃん、向こうでバーベキューが始まってるから一緒に行こう?」

「う、うん。 ……清美、ばべきゅーって何?」

「アハハ、ばべきゅーじゃなくてバーベキューだよ。食材や道具の用意を波柴さんのとこの専属料理人さんがしてくれたから、美味しい物が沢山食べれるよ!」

「美味しい物! 沢山!? 行こう、清美!!」

「あ、ちょっと迦具矢ちゃん! そんなに急がなくてもバーベキューは逃げないよぉ~……」

「あ、二人共! ……行っちゃったか」


 バーベキュー会場となっている『蓬莱鉱山』入り口前から少し離れた一角へと、目を輝かせながら清美の腕を引っ張って進んで行く迦具矢。

 二人の背中を見送った蓮上は、手にした『神龍の角槍』ともうほとんど夜空となっている遥か彼方を交互に何度か見てから、溜息を付いて『神龍の角槍』を『収納』スキルへと片付けた。


「はぁ……俺も行くか」


 夏弦さんの言う通り、確かに迦具矢ちゃんが急にどっかに武器を投げつけるようになったりしたら困るよなぁ。と、頭を掻きながら独り言ちつつ、蓮上は二人の後を追ってバーベキュー会場へと向かうのだった。




 ◇




「むふぅ……ぬわぶっ!? ハッ、はれ? ど、どこですか此処!?」

「――やれやれ、ようやくお目覚めかね?」

「え……あ、セリオス!?」

「ああ、セリオスだ。おはよう、エナガ」


 目を覚ますと、知らない部屋で顔を合わせてからそれほど時間が経っていない有名人、セリオスの顔に出迎えられました。

 ベッドから落っこちた衝撃で目が覚めた嶋永長です。

 何故こんな状況にと記憶を辿っていると、赤い皮膚の怪物たちを討伐している最中に急にセリオスと出会うまでの、直近の小一時間ほどの記憶を一時的に失っていた事と、地下から床を突き破って現れた巨大な爬虫類型の怪物によって引き起こされた崩落に巻き込まれて落ちた事、それから不気味な人型の怪物に襲われていた圭介君たちの救援を、私の後をついて来ていたらしいイズメちゃんにお願いした事を思い出しました。


「そうです私、戦っている途中で急に一時間ほど前までの記憶を失って……」

『ふむ、私だけを忘れたのではなく、直近の記憶を失っていたと言う訳か。奴らの特性が少し見えて来たな』


 私の呟きを聞いて、セリオスは顎に手を添えて英語でそう喋っていました。

 どうやら私に聞かせるつもりは無く、あの赤い皮膚の怪物たちについての考察を纏めるために自然と口から出てしまったようです。


 ともあれ、まずは助けて頂いたお礼を言いましょう。

 ベッドまで運んでくれたようですし、腕時計で確認した時間を見る限り、目を覚ますまで何時間も守って頂いたようですしね。


「……セリオス、まずはありがとうございます。また助けられましたね」

「なに、気にすることは無い。普段ソロ探索をしている私が言うのも何だが、探索者と言うのは助け合うものだからな。それより、これを見てくれ。この部屋を見付けるまでに回収した物だ」


 そう言って、セリオスは『収納』から紙束を取り出して渡して来ました。

 どうやら何かしらの資料の様で、ペラペラと何枚か捲りながら軽く目を通します。

 そこに書かれていた内容は、かなり衝撃的な物でした。


「『財団』……それに『オブジェクト』ですか……」

「ああ、どうやらそれがこの施設を作った組織とあの怪物たちの呼び名らしい。だが……」

「これ、色々とおかしいですよね?」


 セリオスの言葉を引き継ぎ、私がその事を指摘する。

 この資料の内容は明らかにおかしい、何故なら――


「この資料、どこに目を通してもダンジョンの事が一切書かれていません。これは明らかにおかしいです!」


 そう、これだけ大規模な施設を秘密裏に建造出来て、世界中の超常的な存在を収集して来たという割には、頂上存在そのものであるはずのダンジョンの存在がどこにも書かれていません。

 オブジェクト番号8900について書かれた資料を見れば、存在を隠蔽出来なかったダンジョンと言うものについて何らかの言及がある筈。

 ですが、それに関する資料は全くありませんでした。


「ああ、それにここを見てくれ。本国の時事ネタが書かれているが、こんな話私は聞いた事も無い」

「架空の出来事が書かれているという事ですか?か? ですが、それにしては何と言うか……」

「昔読んだ小説に、並行世界から建物が転移して来た。みたいな内容のものがあったが、それともまた違うように感じるな。何と言えばいいか……ゲーム。そう、ゲームの様な感じがするんだ」

「ゲーム、ですか?」


 ゲームの様、そう表現したセリオスに聞き返しつつも、私はどこか納得していました。

 まるでゲームの中に出て来るものの様に作り物めいている。

 それが、私が感じていた違和感の正体でした。


 セリオスはどんどん自分の考えを口に出して、考察を纏めていました。


「この部屋に来るまでにいくつかの部屋とこの部屋の中のものを物色したが、見つかるのはオブジェクトに関する資料ばかりで、ここで働いていたであろう職員らが使っていたような道具の類は見つからなかった。明らかにおかしいじゃないか、重要度の高い情報であるはずのオブジェクトに関する資料はそのまま残されていて、そのまま放置していても問題無い様なものばかりが何故軒並み消えている? ……消えたのではなく、最初から用意されていなかったと考えるべきだ。ゲーム内で重要度の高い物はフレーバーが存在し、ストーリーや世界観に関係ないものには、特に設定も説明もない様に」

「RPGとかで、ストーリーに関係の無いそこらへんに歩いているNPCに名前がついて無いとかですか?」

「RPGで例えるなら、本棚などが判り易いか。ゲームに出て来る本棚を調べて判るのは、重要な情報か、あっても世界観を補強する為の小ネタ的な物のタイトルと簡単な説明だけだろう? グラフィックで何十冊も本が存在しても、実際に用意されている情報は必要なものだけだ」


 その説明を聞いて、私の中にあった違和感が明確な輪郭を持ち出したように感じました。

 つまりセリオスが見つけた資料は、オブジェクトに関する研究報告が纏められているというよりも、オブジェクトに関する資料と言う形でオブジェクトや財団に関する情報……世界観を紹介しているような感じなんです。


 普通は重要な情報ほど秘匿すべきものですが、この施設で見つかったのは重要な情報ばかりで、逆にどうでもいいような情報は全く見つかりませんでした。

 現実ならあり得ない話ですが、ゲームであれば寧ろ納得出来ます。

 余程開発者がひねくれていない限り、ゲーム内で重要な情報と言うのはストーリーを勧める上でもプレイヤーに世界観を知って貰う上でも、知って貰う事を前提に配置されているものですから。



「――この施設は、財団とオブジェクトと言う世界観を象った舞台だ。だからメインでは無い、エキストラである職員たちの存在を示すものが存在しないんだ」


 セリオスは最後にそう纏めました。


 私も、セリオスの考察が恐らく正解なのだろうと思います。

 けれど、それは結局のところ最初から存在していた疑問が全く解決していないという事でもありました。


 すなわち、『何者がこの施設を作り上げたのか?』。


 この一点が、全く判明していません。

 その事を改めて認識させられ、つい溜息をついてしまいました。


「はぁ……色々判りはしましたけど、結局肝心な事は何も判らずじまいですねぇ。一体誰がこんな施設を作ったのでしょうか?」

「それは判らない……判らないが、応えのありそうな場所なら見当がついたよ」

「え、どこですか!?」

「この施設の最奥さ。ゲームの様と表現したが、要するにこの施設は中の情報を秘匿するのではなく、中に入り先に進んだ者に情報を知って貰おうとしている。なら、進んだ先に答えがあるとは考えられないかね?」

「益々ゲームっぽい……けど、どちらにせよ調査の為には先へ進むしか無いですね!」


 そう言いながら私は、勢いをつけてベッドから起き上がりました。

 ベッドの横を見ると私の刀が立てかけられていたり、その脇に私の靴が並べられたりして居ました。

 綺麗に揃えられている所に性格を感じますね。


「さて、十分休みましたし、そろそろ出発しましょうか?」

「そうだな。まずははぐれてしまった君の仲間たちとの合流を目指すか」

「なら、目指すは上ですね。 ……オブジェクトや財団に関する情報はあるのに、この施設の地図なんかは無いのが不便ですねぇ」

「なぁに、マッピングもRPGの醍醐味だと思えば、そう苦にはならんさ」

「ゲーム、好きなんですか?」

「まぁゲーマーを自認するくらいにはね。君はどうだ?」

「同じアパートメントに暮らす方が結構なゲーム好きでして、それに付き合って少し。幅広くプレイしている方ですから、セリオスと話が合うかもですね」

「ほう? 機会があれば会ってみたいものだな。 ……そう言えば、タイミングを逃して聞けていなかったが……エナガ、あの時いた狐耳の少女は何者なんだ? かなりの実力者であったようだが」

「あぁ~……イズメちゃんの事ですか。 ……うん、そうですね。セリオスには話しそこなってましたし、道すがら私たち平国機関やイズメちゃんの事をお話しますね」

「ああ、頼むよ」




 こうして私たちは、上層へ続く道を探して出発しました。

 セリオスの見立てによると、私たちが現在いる階層は最初の階層を一階とするなら地下八階程度になるそうです。

 おそらくみんなは私たちを救出する為に向かって来ているでしょうし、早く合流出来ると良いんですけどねぇ。


 ちなみに、イズメちゃんが先輩、つまりは『首刈レッドジョー』のペットなのだと話すと、セリオスはかなり驚いていました。

 なんでも以前『屍征獣』の件で先輩の事を知った時に、先輩の狩りの仕方に感銘を受けて、何れ機会があれば話をしてみたかったそうです。

 私が先輩の恋人(予定)である事を言うと、是非話をする機会を作って欲しいと頼まれてしまいました。

 アメリカ最強の一人にも一目置かれている何て、流石先輩ですよね!


 ……ところで、セリオスがボソッと小声で「なるほど、それであんな寒気がしたのか……」って呟いてましたけど、なんなんでしょうね?

前回と今回で、肝心なところ以外は財団施設について判明しました。

後二、三話くらいで永長ちゃんサイドの話は終わらせる予定です。


……予定通りに行くかは判りませんけど。

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