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第五十一話 「誰かがやらなきゃいけない事だから」

(・▲・)「ジュリリィ(今更進めてるけど、アイスボーン楽しい! 私もこんな風に大型モンスターと戦う主人公とか書いてみたいんだけどなぁ、先制首刈で全部終わらせるからなぁ、うちの主人公。迦具矢ちゃんの時みたいに、蓮上をボッコボコに出来るモンスター考えないと)」

 湿った冷たい空気と黴た匂いが鼻につく。

 天井の罅割れたコンクリートからは、あちこちから水滴が垂れていて今にも崩れて来そうだ。

 事前にトンネルが落盤する可能性は非常に低いと調査結果で出ているとは聞かされていたが、いざ実際に自分の目で見ると途端に不安になって来る。


 まぁ、私は実際にトンネルが崩れて来たところでどうにかなりますけど、菊菜ちゃんたちが何とか出来るかと言うと微妙な所です。

 外部協力員の私と違って、皆さんは普段から機関員としての仕事が忙しいのは判りますが、無理にでもダンジョンに誘ってレベル上げをお手伝いしていればよかったと若干後悔しています。

 水滴の音と風の音、私たちの靴音が何重にも反響するトンネルの中、私は突入前に聞かされた任務の内容を思い返していました。




 ◇




「――では、今回の任務の内容を説明しよう」


 哲也さんはそう前置きしてから色々な写真が貼り付けられ、図形や記号に説明文など、今回の作戦説明に必要な情報の書かれたホワイトボードの前に立ち、写真などを指さしながら説明を始めた。


「事の起こりは凡そ一か月前、この近くの隠れ里に住む妖魔がトンネル内で謎の地下構造体の入り口を発見し、それを隠れ里の長を通じて平国機関へと報告されたことで我々の知る事となった」

「哲兄、何でその妖魔はこんな所にあるトンネルまで来たんだ?」

「報告によると、その妖魔は毎年夏休み期間に廃トンネルへ肝試しに来る民間人たちを見物するのを趣味にしているらしくてね。安全に肝試しが出来る様に自主的にトンネルの整備を定期的に行っていたそうだよ。また、前回整備を行った時に地下構造体は存在しなかった為、件の地下構造体は前回整備を行った二か月前から発見時までの約一か月間の間に突如出現したと思われる」

「見物って……脅かしたりとかはしないのか?」

「それで万が一自分たち妖魔の存在が明るみに出たら元も子もないからな。その妖魔も単に怖がる人間の姿を楽しみつつ、事故で死者や行方不明者が出て騒ぎが起こらない様に見守っていたそうだ」

「それはまた……珍しいくらい穏やかと言うか、善良な方なんですね」

「ははっ、確かにそうだね永長ちゃん。妖魔にとって人を驚かせたり怖がらせたりするのは本能みたいなものだから、これだけ気を使っている人はかなり珍しいよ」



 妖魔と言う存在は、種として確立している生き物であるのと同時に、その発生起源が人間の恐怖や想像の実体化であるという摩訶不思議な存在です。

 また、通常の生物と同じように食事によって栄養を取る事も出来ますが、人間の持つ恐怖の感情を吸収するという能力も持ち合わせており、こちらの方がエネルギー吸収効率は良いようです。


 ……妖魔の血を引く私にも同じ事は出来るらしいのですが、実際にやった事は無いですし、やり方も判りません。

 と言うか、最近は本当に自分が妖魔の血を引く存在である妖混であるのかすら自身が無いです。

 妖魔由来の特殊な力が使える訳でも無いですし、ダンジョン出現前なら人間離れした身体能力が証明になりましたが、今だと生まれとしては純粋な人間であるはずの先輩の方が身体能力高いですし。


 よくよく考えたら、私って地味と言うか特徴無いですよね。


「……ふふっ」

「? 永長ちゃん、急に笑ってどうしたの?」

「いえ、何でも無いんです。 ……ただ、私って特徴無くって普通だなぁって思いまして」

「「「それは無い」」」

「そこハモりますか?」


 心外です! と判り易く膨らませます。

 ですが、みんな口を揃えて私が普通だという認識を否定して来ます。


 判ってますよ、私だって本気で自分が普通だなんて思っている訳じゃありません。

 でも、夢くらい見たって良いじゃないですか! 私は普通の、恋する女の子でありたいんです!! 


「俺らが小学生の時に、大型重機を素手でぶん投げてた永長ちゃんが普通?」

「大型重機くらい上級探索者なら持ち上げられますよ! 先輩……私の好きな人に至っては千人以上が乗れるような豪華客船だって投げられますよ!!」

「比較対象がおかしい……」


「出会ったばっかりの頃、最高速度で真っ直ぐ飛ぶヘリコプターより地上を走った方が速かった永長ちゃんが普通?」

「上級探索者なら音速より速く動ける人くらい居ますよ! 先輩は最近転移魔法を覚えたので、行った事のある場所や会った事のある人の下になら光よりも早く到着できますけど」

「もう速さとかそう言う次元じゃ無いよぉ……」


「ははは、確かに高い身体能力を持っている探索者も増えて来たし、相対的に永長ちゃんに近づいたと思うよ。 けど、永長ちゃんの精神力の強さは非凡と言って良いんじゃないかな? 昔、まだ永長ちゃんが組織に居た頃の事だけど、自分も重症なのに、それでも泣き言一つ言わずに巻き込んでしまった一般人を背負って助け出してた事があったじゃないか。普通では無いのかもしれないけど、あの時僕は君が誰よりも強くて優しい女の子だって心から実感したよ」

「え? ああいやその、ありがとうございます……急に何ですか? 恥ずかしいですね。けど、私なんてまだまだですよ。 先輩なんて、心臓と肺と脊髄を貫かれ、片腕を喰い千切られた状態でも戦い続け、それでなお自分を殺しかけた女の子を悪意ある存在では無いからと許して受け入れたんです。あの人の心の広さや優しさに比べたら、私なんて全然です!!」

「え、心臓と肺と脊髄を? それに片腕も?? ……永長ちゃん、その人本当に大丈夫な人だよね? 狂戦士系の人とかじゃないよね??」

「先輩は戦闘狂(バトルジャンキー)なんかじゃないですよ! 『首刈レッドジョー』と言えば、あらゆるモンスターを気付かれる事無く一撃で首を刎ねて倒す事で有名なトップ探索者ですから!!」

「それはそれでヤバいんじゃ……」


 何故でしょう? 先輩を比較対象に出して反論する度に、皆さん引いて行きます。

 私が首を傾げていると、哲也さんが気を取り直すように一度咳払いをしてから脱線した話を元に戻しました。


「コホンッ! と、とにかくだ。僕らの今回の任務は、トンネル内に存在する地下構造体の調査だ。 ……先に偵察の為に侵入した部隊が何組か居るが、全員まともに調査出来ずに撤退して来ている。全員生きてこそいるが肉体的に、あるいは精神的に重傷を負っていて、意識不明か錯乱してまともに話を聞けないかのどちらかだ。辛うじて聞き取れた内容によれば、中にはどうやらとんでもない『化け物』が居るらしい」

「『化け物』、ですか?」

「ああ、しかも撤退して来た者たちの傷跡の種類からして、複数体居ると見られている。これがその写真だ」



 そう言って哲也さんが新たにタブレットを使って見せてきた写真には、治療中の怪我人の写った画像がいくつもありました。

 その怪我人の傷の種類にしても、巨大な獣か何かに喰い千切られた跡や強力な酸か何かで溶かされた様な爛れた跡、鋭い刃物で全身を切り裂かれたような跡など様々でした。

 最低限傷跡の種類と同じか、あるいはそれ以上の数の何かが居ると見るべきでしょう。


「……あまりこういう事は言いたくないけど、今回の任務はとても危険な物だ。今ならまだ断るなり、追加の戦力を派遣するよう上申するなり出来るが、どうする?」


 哲也さんのその言葉に、私たちはお互いに顔を見合わせ……そしてくすりと笑います。

 何を言うかと思えば、今更ですね。


「確かに安全マージンを取るのなら、ここは待った方が良いでしょう。けど、何も判らない内に全員で突入するなんてこと出来ないんですから、結局は誰かが行かなきゃいけません。そうでしょう?」

「だな。ここで俺たちが行かなくっても、結局代わりに他の誰かが派遣されるだけだ。他の誰かを身代わりにするなんて寝覚めの悪いこと出来ねぇよ」

「うん、そうだね。それに、私たちが行かないって言っても哲也さんは追加の人員と一緒に行くつもりでしょ? 私たちの目の届かない所で危ない場所に行かせるくらいなら、一緒に行く方が良いに決まってるよ!」

「みんな……判った。では、全員で行こう」

「「「はい(おう)!!」」」

「ただし、少しでも危険だと判断したらすぐに撤退する。良いね?」

「「「了解!!」」」




 ◇




 ――そうして、私たちはトンネル内へと突入しました。

 この先何が待ち受けていようと、みんなと一緒ならきっと大丈夫です。

 根拠のある事ではありませんが、私は……私たちは心からそう思うことが出来ていました。

 これがきっと、仲間への信頼と言うものなのでしょうね。

 それに……


(お守りはきちんと、持っていますからね)


 懐に仕舞った巻物を、服の上から手で押さえる。

 それは先月先輩から渡されたお守り、持ち主がピンチの時に制作者である先輩が転移して来るマジックアイテムです。

 これを持っているだけでみんなへの信頼と同じ、いいえ、それ以上の安心感を感じます。


 何かあっても、必ず先輩が助けに来てくれる。


 そう思うと、途端に心の中から不安も恐怖も消え去って行きました。

 やっぱり、先輩は私にとって光のような存在なんですね。


「……ふふふ」

「? 永長ちゃん、今度は何に笑ってるの?」

「いえ、やっぱり私は先輩が大好きなんだなって再認識していただけですよぉ」

「むぅ、ぐぎぎぎぎ……!」

「? 歯ぎしりなんてしてどうしたんですか菊菜ちゃん? お行儀が悪いですよ」

「永長ちゃんっ!」

「わ! 何ですか急に!?」

「私、絶対永長ちゃんの目を覚まさせて見せるから!!」

「はい? いえ、ちゃんと起きてますけど?」

「あー、気にするな永長ちゃん。菊菜ちゃんは俺の方で押さえておくから」

「ちょ、離して圭介君! 私は永長ちゃんを首刈の魔の手から……!!」

「あーはいはい、馬に蹴られるからじっとしてようなぁー」

「話を聞けー!!」


 良く判らない事を言う菊菜ちゃんを、圭介君が荷物を運ぶ様なぞんざいな突きで抱えて離れて行きます。一体何なんでしょうか?

 私が首を傾げていると、先頭でランタンを手に進んでいた哲也さんが苦笑しつつ振り返り、私たち、と言うか菊菜ちゃんを注意していました。


「みんな、というか菊菜ちゃん。もう直ぐ目的地に到着だから、ここからは静かに。良いね?」

「うう、はい……」

「すみません、哲也さん」


 流石に騒いで居た自覚はあるようで、菊菜ちゃんは圭介君に抱えられたまま項垂れています。

 そして圭介君は、疲れた顔で菊菜ちゃんの代わりに哲也さんに謝っていました。苦労人の顔をしてますねぇ。




 そうしてしばらく歩くと、私たちはようやく件の地下構造体の入り口へと辿り着きました。

 入り口の壁には、何やらマークとアルファベットが書かれています。


「『SC―』……ここから掠れて読めませんね。それにこちらはロゴマークでしょうか? この施設を運営していた組織の物ですかね?」

「判らない。該当しそうな組織を探してみたが、収穫は無かったよ」


 掠れて途中から読めなくなっているアルファベットの他に、中心に向く三本の矢印とそれを繋ぐ円、更にそれを囲む様に歯車の様な輪が存在するマークが見て取れました。


 『平坂機関』は日本直属の組織である為、その情報網は非常に優秀です。

 それなのに、組織名らしきものもロゴマークらしきものも判明していて全く情報がつかめないとは……。

 益々謎が深まります。



 私が考察していると、その間に荷物を一度地面に下ろした哲也さんは、下ろしたバッグの中から銃器や手榴弾などの銃火器を取り出して素早く装備していました。

 それを見て、菊菜ちゃんや圭介君も各々準備をしています。

 私は『収納』スキルから適宜取り出しますから、このままでも大丈夫です。


 装備を終え、再びバッグを背負った哲也さんは、ぐるりと私たちを見渡しました。


「……さて、いよいよ中へ突入するよ。みんな準備は良いかい?」

「私はいつでも大丈夫ですよぉ」

「ああ、俺もばっちりだ」

「私も、いつでも行けます」

「よし、では作戦開始だ」


 そう言って、哲也さんは金属製の頑丈な扉を少しだけ押し開け、中の様子を確認してからハンドサインで着いて来るように指示しました。


 一体この先に何が潜んでいるのでしょうか?

 気を引き締めつつ、私は腰に差した刀の鞘に手を添えました。




 ◇




 哲也、圭介、菊菜、永長の順に、四人が扉の先へと進む。

 扉が閉まる間際、一匹の子狐が隙間から滑り込む様に中へ入ったことを、気付く者は居なかった。




 ~一方その頃、『蓬莱鉱山』にて~




「迦具矢ちゃん、『これ』を使って俺たちは山を削って『収納』スキル内に鉱石を集めてるんだよ。迦具矢ちゃんは見学してて良いんだよ?」

「ううん、私も蓮上を手伝う。 ……『これ』で良い?」

「わっ、そんな事も出来るのか、すごいな。 ……ぎらついてるなぁ」

「えっへん!」



 『蓬莱鉱山』での採掘を開始する蓮上。

 更に迦具矢が『五種神宝・蓬莱の玉枝』で『超弩級山岳解体機構 グランシェイカー』をコピーして、採掘を手伝い始める。

 採掘速度、倍プッシュ!

謎の地下施設、一体どこの財団の物なんだ? (すっとぼけ)


ちなみに、レッドジョー世界に『確保』、『収容』、『保護』を理念にした組織は存在しません。

なのにどうして財団の施設が存在しているんでしょうねぇ?

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