第五話 「魔導教典書士とクラスの人気者」
レアコレ購入制限で一箱しか買えなかったorz
やっぱ予約しなきゃダメなのかぁ。悲しいなぁ。
俺、青ヶ谷女子、緑河女子の三人で黄村の恋バナをおかずにお弁当を食べ進める。
ネタにされている黄村はと言うと、俺にお弁当一箱を要求してそれをがつがつとヤケ食いしていた。
俺の食べる量が減るが、まぁこれ位は必要経費必要経費。寧ろもっと食え。
普段からコンビニパンばっかり食っているから告白する勇気も出ないんだ。お米食べろ。
今まで話したこともほとんどなかった青ヶ谷女子と緑河女子を加えた四人での昼食は、思った以上に和やかに進んでいた。
光の住人(リア充)側とでは、話が途中で止まって空気が微妙になるかと思っていたが、意外と話してて苦じゃないな。
その事を言うと、青ヶ谷女子は苦笑しながら意外な事では無いと言った。
「そんなに意外な事でも無いよ。私もハルちゃんも表向きは光側(社交的)って言うだけで、その実はどっぷり闇側に染まっているから」
「いわば太極図の陽の中にある陰っスね!」
「例えが格好良いのに、その実全く格好良くないな。どうしよう」
「だから赤松くんと黄村も、今度シュガー・ポップのライブに行かない? 絶対ファンにする……なるよ!」
「今『なる』じゃなくて『する』って言ったよな? 洗脳じゃないかおっかねぇ」
「洗脳じゃ無いよ! 一般的な布教だよ!」
「そうっス! 『シュガー・ポップ』って聞いたら『我が人生』って答えられるようになるまで『お話』するだけっス!」
「それ、どう足掻いても完全に洗脳なんだよなぁ」
「ムシャムシャムシャッ! げふ、もう限界でござる……」
こいつはやべぇ、別の意味でこの二人と関わったのは早まったかな?
それと黄村、普段あんまり食べないのによくお弁当箱一つ空に出来たな。残さず食べたのは偉いぞ。
腹がパンパンになってうーん、うーんと唸っている黄村を尻目に、青ヶ谷女子と緑河女子の冗談なのか本気なのか判別がつきにくい話を聞いていると、更に新たな人物が俺たちが話している所にやって来た。
どうして大事な昼食の時間を邪魔して来るんだ!(キレ気味) 食事って言うのは、誰にも邪魔されず静かで(ry
「やあ、青ヶ谷さん、緑河さん。黄村や赤松と一緒にお昼を食べている何て、珍しい組み合わせだね」
そう言って、無駄に歯をきらめかせながらさわやかな笑顔と共に現れたのは、学園一のイケメンの一人として名高い人気者『成瀬和也』であった。
うぎょぁぁあああああっ!? ガチの光の住人、いや、光の化身みたいな奴がエントリーして来やがったぁっ!?
アワアワしながら、黄村が食べ終えたお弁当箱を頭の上に乗せて、何とか視線が合わないようにする。
弱めの気配遮断を使いながら、『俺は空気、俺は空気……』と心の中で唱え続ける間、成瀬の相手は青ヶ谷女子と緑河女子がしてくれていた。
というより、俺には興味ない感じ? 良いぞ二人共! そのままその『ライトサイドヒューマン』(光側の住人)を彼方に追いやってくれ! 『ダークサイドヒューマン』(闇側の住人)である俺は、もう一杯一杯だ!!
「こんにちは、成瀬くん。私たちは赤松くんの作ったお弁当を御馳走になってたんだよ」
「そうなんスよ~、ジョーくんのお弁当はとってもデリシャスっス!」
止めろぉぉおおおお!! 俺を引き合いに出すなぁぁああああっ!?
「……ふぅ~ん?」
うわっ、こっち見た!
ひぇ~、勘弁してくれよ。俺は光(側の住人の視線)が苦手なんだ。
サングラスでも用意しておけば……いや、確か素材はあったはず!
俺は左手で頭に乗せたお弁当箱を抑えたまま、右手に『収納』スキルで保管されていた黒曜石を取り出し、それを『錬成』スキルで変形させて、サングラスの形に形成した。
デザインは、ニュースで海外の映画俳優が掛けていたようなオシャレな物だ。というか、それ以外のデザインなんて、昔の刑事ドラマで見たようなのしか思い浮かばない。
早速掛けてみよう……うわぁ、透明度が殆ど無いな。前が全く見えん。
けど、これなら視線を気にしなくて済むぞ!
「? 赤松、何でサングラスなんて掛けているんだ……?」
「……あいるびー、b」
「赤松くん、それ以上いけない」
成瀬からの質問に、特に良い返しが思い浮かばなかったので、何かそれっぽいセリフを言おうとしたら、途中で青ヶ谷女子に止められてしまった。
ふむ、このセリフを止められたとなると、俺は未来から来たロボット以上の寡黙キャラ、いや、無口キャラで通すしかないんだが。
「とにかく、単に一緒にお昼を食べているだけだよ」
「……そうかい? それだけとは思えないんだけどなぁ」
「妙に疑り深いっスね? 別に疚しい事があるって訳でも無いんスけどねぇ……」
青ヶ谷女子と緑河女子だが、どうやら探索者を始めようと考えている事を、成瀬に明かす気はないようだ。
と言うか、青ヶ谷女子が成瀬の事を避けているように見えるな。
いつの間にか、青ヶ谷女子と成瀬の会話は言い争いのレベルにまでヒートアップしていた。
「だから! 成瀬くんは関係無いんだから放っておいてよ!」
「そんな言い方ないだろ! 俺はただ青ヶ谷さんの事が心配なだけで!」
「それって赤松くんと黄村くんが私たちに何かするんじゃないかって疑ってるって事!? 二人に失礼だよ!!」
「そうは言っていないだろ!? 俺はただ!!」
考えても見て欲しい。
何故、普段なら平和にひっそりとお腹一杯お弁当を食べて、当たり前の小さな満足感を得ていたであろうお昼休みに、直ぐ近くで喧嘩をしている男女の姿を見せられなければならないのか。
やはり光と闇は相いれないのか? 俺の幸せなランチタイム、カムバック!!
「……で、ぶっちゃけ成瀬ってなんであんなに青ヶ谷女子に絡むのよ?」(モグモグ)
「ジョーくん余裕っスねぇ。直ぐ近くで喧嘩しているってのに」(モシャモシャ)
「首刈殿に限らず、実力のある探索者の神経は図太くなるものでござるよ。何せダンジョンの奥では、今の二人とは比べ物にならないレベルの修羅場が、いくらでも転がっているものでござるからなぁ」(ズズー)
成瀬と言い合っている青ヶ谷女子を尻目に、俺と緑河女子はお弁当の残りを食べ始め、ある程度腹が回復した黄村は俺が居れたお茶を啜っていた。
空気読んで食事の手を止めないのかって? よせやい、折角のお弁当が冷めちまう。
俺たち三人は小声で話し合っていたが、白熱している青ヶ谷女子と成瀬はその事に気付いていなかった。
「要はアレっスよ。成瀬ちんはかなみんに気があるけど、かなみんの方は完全に脈無しで、それが判っているのにしつこく食い下がったり、今回みたいに何かと干渉しようとして来るからドンドン嫌われるっていうスパイラルっス」
「傍から見る分には学園でも一、二を争う美男美女の組み合わせでお似合いに見えるのでござるがなぁ~」
「無理無理、かなみん自分が根っこの部分で闇側だって自覚あるから、完全に光側(リア充)の成瀬ちんとか絶対相容れないっスよ。かなみんの部屋、シュガー・ポップというか、鏡花ちゃんのグッズでいっぱいなんスよ? ちなみに自分の部屋は水月ちゃんグッズでいっぱいっス!」
「誇らしげだなぁ。やはり闇と光は相容れないのか」
「逆に言えば、闇同士は惹かれ合うってことっスよ! 自分もかなみんも、ジョーくんやエーくんと話してて、こんなに楽しいとは思わなかったっス!」
「それはそれは……喜んで良いのか微妙な所でござるなぁ」
そりゃあ手放しには喜べないだろう。何せ実質オタク側認定をされているのだからな。
……あ、そもそも黄村って忍者オタクだったわ。
「……って言うか、そろそろ止めなくて良いのか? もう直ぐチャイム鳴るぞ」
「自分も止めたい所っスけど、成瀬ちんがしつこい上にかなみんの方も鬱憤が溜まっているっスからねぇ……」
「いっそ殴り合いで決着を付けたら早いのでは?」
「「いや、それは……」」
俺がそう提案すると、黄村と緑河女子は揃って引いていた。
何故だ?
「いやぁ、流石にそれは……」
「首刈殿、思考が蛮族のそれでござるよ……」
「何言ってんだ? 現に話し合いで解決して無いんだから、後は実力行使で解決するしかないだろう? 言葉で語って判らないなら、拳で語って差し上げろ」
「そんなだから首刈殿は、『頭レッドジョー』と言われるのでござるよ」
「ジョーくん、マジ頭レッドジョーっス」
「ここぞとばかりに覚えたての言葉を使うんじゃない」
全く、黄村のせいで緑河女子が変な言葉を覚えてしまったじゃないか。
何だよ、『頭レッドジョー』って。語感から赤いモヒカン頭の自分を想像しちゃったじゃないか!
キーンコーンカーンコーン
何て事をやっている内に、遂にチャイムが鳴ってしまった。
俺と黄村、それに緑河女子はお弁当を食べ終わったけど、結局青ヶ谷女子は半分くらいしか食べられて無いな。可哀そうに。
チャイムが鳴ったところで青ヶ谷さんと成瀬は言い争いをストップし、お互いに睨み合っていたが、教室に先生が入って来た事で強制的に、お互いの席に戻る事となった。
ちなみに、お昼の為に移動させた机は既に戻してある。
「くっ、また後で話を聞かせて貰うからね」
「ふんっ、成瀬くんとこれ以上話す事なんて無いわよ」
泥沼だなぁ。
何て、所詮他人事と思ってぼんやり考えていたが、成瀬は最後にキッと俺を睨み付けてから席に戻って行った。
いや、何で俺?
「首刈殿に、青ヶ谷殿を取られたと思ったのではござらんか?」
「いや、それなら俺よりイケメンの黄村が睨まれるべきだろう?」
「そこはほら、青ヶ谷殿も緑河殿も首刈殿のお弁当を絶賛しておりましたし、胃袋を掴んだ。的な?」
「めんどくせぇ……」
はぁ、やれやれだぜ。
なぁんで、お弁当を分けただけで恋敵みたいな扱いされなきゃならないんですかねぇ。
女々しい奴の思考は判らんよ、ほんと。
「おーい、赤松。なんだそのサングラス? 映画俳優みたいで格好良いから没収だ」
「先生、せめてもっとましな理由は思いつかなかったんですか?」
「格好良いって言う感想が先に来てたんだよ。どこで買ったんだ? 先生も欲しいぞ」
「自作です」
「器用な奴だなぁ~」
スチャッ、と五時限目の科目である歴史の教師、『郷田 智春』先生が、俺から没収したサングラスを装着した。
歴史教師であるとは思えないほどガタイが良く、顔の彫りの深い郷田先生には良く似合っていた。
いや、てゆーか掛けんなし。
「うわっ、全然見えないじゃないか」
「失敗作みたいなものですからね」
「なら、次は成功したのを持って来てくれ」
「図々しいな、この教師」
「良く判ったな。昔からそう言われるよ」
さ、授業を始めるぞー。と言って、郷田先生は透明度がほぼゼロのサングラスを掛けたまま授業を始めてしまった。
はぁ全く、忍者と言い、ドルオタコンビと言い、粘着イケメンと言い、俺の周りは変人ばかりかよ。
まともなのは俺だけか!
「首刈のヤベー奴が何言ってるでござるか」
「ナチュラルに心を読むな、忍者」
『私立彩宝学園』
この学園は、教師も生徒も変人が多い。