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第五十話 「突入前」

(・▲・)「ジュリリィ(もしかして、朝更新するよりも夕方更新の方が読みやすいのかな? と、思いつつ更新です)」

 荒雅温泉から十数キロ離れた山間の廃トンネル。


 人の行き来が途絶えてから数十年が経ち、草木に覆われそこへ至るまでの道すら消えた場所。

 普段ならば、偶にごく少数のもの好きが肝試し感覚で訪れる以外には全く人気の無いこの場所に、今日この日に限っては多くの人間が集まっていた。


 いや、集まっているのは何も人間だけではない。

 純粋な人間、片親に妖魔を持つ『半妖』、先祖に妖魔の血を引く『妖混(あやかしまじり)』に、純粋な妖魔など……。


 多種多様な立場の者達が集まっているが、彼ら彼女らには共通点が一つある。

 それは、この場に居る者の全てが日本の妖魔調停組織『平国(ことむけ)機関』の関係者であるという事だった。

 今にも崩れそうなトンネルの入り口を前に、機材の設置や周辺探索などの割り当てなどが行われている中、木々の隙間よりムササビの如く飛来し、その集団の注目を集める者が現れた。



 木漏れ日を受けて輝く、処女雪の如く穢れを知らぬ純白の髪。

 軍服を思わせる漆黒の衣装と長いマフラーに黒い帽子。

 腰に差した雪の結晶の様な形の鍔を持つ刀。



 現れたのは、つい十数分前に荒雅温泉を出発したばかりの嶋永長であった。

 永長は自身に集まる視線を気にする事無く周囲を見渡すと、その場に居た集団の中の一人、周りの者達に指示出しをしていた人物を見付けて歩み寄った。


「――特務協力員、嶋永長。ただ今到着しました」

「ああ、良く来てくれた永長くん。他のメンバーたちはあちらのテントに集まっているからそちらで説明を受けてくれ。私はこちらで指示を出しながら残りの一人の到着を待って居るよ」

「了解しました。 ……私が最後かと思いましたが、まだ来ていない人が居るんですか?」

「ああ、菊菜くんがまだ来ていない。連絡したところ少し遅れて来るそうだ」

「菊菜ちゃんが……判りました。では、全員が集まるまでテントで待機しています」

「ああ、そうしてくれ」


 指示をしていた人物、鬱蒼とした森の中には似つかわしくないスーツ姿の年嵩の男性と別れた永長は、示されたテントへと向かう。

 その様子を見ていたその場の者達は、指示出しを再開した男性の声に急かされて動き出す。


 ――そんな中その場の誰にも気づかれる事無く、小さな子狐が草をかき分けて永長の後を追った。




 ◇




 珍しい、菊菜ちゃんが遅れて来るなんてあまり無い事です。

 どうしたのだろうとは思いますが、本人には連絡済みだそうですので大人しく待つとしましょう。


 テントの中に入ると、既に良く知ったメンバーが揃っていました。


「お、来たな永長ちゃん! ……あれ、菊菜ちゃんは?」

「菊菜ちゃんは遅れて来るそうですよ、『圭介(けいすけ)』君」

「あれぇ、っかしいな。荒雅温泉に行くって言ってたから、てっきり永長ちゃんと一緒に来るんだと思ってたけどなぁ」

「そうなんですか? 向こうでは会いませんでしたけど……」



 あれぇ? と、首を傾げているのは私の着ている制服と似たデザインの服に身を包んだ、高校一年生の男の子『真島(ましま) 圭介(けいすけ)』君です。

 圭介君は菊菜ちゃんの幼馴染で、初めて会ったのは二人がまだ小学生の時でした。

 ある意味幼馴染と呼べる相手かも知れませんが、そう呼ぶのは抵抗がありますね。

 どうせなら、先輩と幼馴染になりたかった……いえ、やっぱいいです。『幼馴染は負けフラグ』とか言う不吉な単語が脳裏を(よぎ)りましたから。


「はっはっは! まぁ遅刻は珍しいが、菊菜ちゃんは時折空回りしてポカする事があるからね。偶にはこんな事もあるだろう」

「そうですね、菊菜ちゃんは変な所でうっかり屋さんですから」


 そう言って、腕を組み快活に笑っている圭介君の制服を少し豪華にしたデザインの服の男性は『目里(めざと) 哲也(てつや)』さん。

 今年でニ十九歳になり、「僕もいよいよ三十路かぁ」と嘆いていましたが、まだまだ全然若く見える人です。

 いつものメンバーの中では最年長という事もあり、皆から頼りにされているお兄さんでもあります。


 ここに、この場には居ない菊菜ちゃんを加えた四人が、平国機関の実行部隊『第七班』のレギュラーメンバーとなります。

 用意された席に着いた私は、菊菜ちゃんの到着を待つ間に二人から今回の任務の内容を聞きいていました。


「二度手間になるから詳しい話は菊菜ちゃんが来てからだけど、今回の任務はそこの廃トンネル内で発見された謎の地下構造体の調査だ」

「地下構造体……ダンジョンとは別物なんですか?」


 地下構造体、そう聞いて真っ先に思い浮かぶのはダンジョンです。

 ですが、ダンジョンが新たに出現したという話なら、私たちに仕事が回ってくる訳がありません。管轄違いです。

 である以上、何かしら妖魔関連である事は間違いないと思うのですが。

 そう思い尋ねると、哲也さんは頷いて肯定した。


「ああ、別物だよ。そもそも僕たちに仕事が回ってきた時点で妖魔関連以外ありえないからね。これを見て欲しい」


 そう言って哲也さんはテーブルの上に大きなタブレットを置き、画面をスワイプしていくつかの写真を見せて来た。

 その写真には、どこかの研究施設を思わせる清潔感のある白い通路が写されていた。


「これは?」

「先ほど言った、トンネル奥に発見されたという地下構造体の内部の写真さ」

「どう見ても何かの研究施設じゃないですか、これ? 一体どこの組織の物ですか?」

「……それが、判らないんだ」

「判らない?」


 判らないとは益々きな臭くなって来た感じですね。

 いくつか写真を見た所、かなり充実した設備の研究施設の様でした。

 こんな山奥に人知れずこれだけ大規模な研究施設を作り上げるだけの資金や組織力を持った集団となるとかなり限られるはずですから、予想出来る候補の一つや二つあっても良い様なものですが。


「全くですか? 候補くらいは居るんじゃ?」

「いや、候補となり得る組織は調べてみたが、一つとして該当しなかった。そもそも、三年前ならまだしも今のこの国では、警察の目を逃れてこんな施設を作り上げる事も、隠す事も不可能だよ」

「最近の警察って色々おかしいもんな。この一年くらいで汚職してた政治家も脱税してた大企業の社長も海外からの産業スパイや犯罪組織も根こそぎ駆逐されたし」

「良い事じゃないですか、圭介君。必要悪ですらない犯罪組織なんて、駆逐されてしかるべきですよ。それと、おかしいって言い方は良くないですよ。格好良いじゃないですか、警察官の方って」

「相変わらず犯罪組織嫌いの警察スキーだな、永長ちゃんは」

「そうですか? 普通だと思いますけど」

「普通じゃないと僕は思うよ? まぁ、永長ちゃんの場合は犯罪組織に恨みがあって、尚且つ警察官の人に助けられた恩があるからだろうけど」

「別に怨んでませんよ? もうとっくに残さず潰されちゃってますからね。それに、日本の治安を守ってくれている警察の方に感謝するのは国民として当然だと思いますけど?」

「普段そこまで真摯に考えている人は少数派だって言う話さ」



 むぅ、解せません。

 確かに私は、赤ん坊の私を攫って戦闘員として育て上げた今は無き『組織』の事が怨んでないだけで今でも嫌いですし、『組織』を潰して私の様に戦闘員として育てられた子供たちを保護してくれた睡蓮(ロータス)さんにこれ以上ないくらい感謝しています。

 ですが、進んで犯罪者となった者を憎む気持ちも、平和を守る正義の味方に感謝する気持ちも当たり前のものだと思うんですけど。



 若干もやもやしたものを感じていると、テントの外から慌てた足音が聞こえてきました。

 このタイミングで来るという事は、多分菊菜ちゃんでしょうか?

 やって来るであろう人物の顔を予想していると、足音の主がテントの入り口から慌てて飛び込んで来ました。

 飛び込んできた人物は、予想していた通りの相手でした。


「遅れてすみません! 『白山(しらやま) 菊菜(きくな)』、ただいま到着しました!」

「大丈夫ですよ、菊菜ちゃん。私もまだ来たばかりですから」



 息を切らして入って来たのは、私と似たデザインの制服を着たツーテールの茶髪の女の子『白山 菊菜』ちゃんでした。

 菊菜ちゃんとは、彼女が小学生の頃からの付き合いで、私の人生で一番付き合いの長い女の子と言っても過言ではありません。

 ……ただ、最近菊菜ちゃんの視線から邪な物を感じる気がするんですが、果たして気のせいでしょうか……?


 と、ともかく、これでようやく私たち第七班のメンバーが揃いました。

 到着したばかりの菊菜ちゃんには申し訳ないですが、早速ブリーフィングを始めましょう。




 ◇




 テント内に集まった四人は、最年長である哲也を中心に今回の任務について話し合っている。

 時に真剣に、時に冗談交じりに、互いに意見を出し合いお互いの主張をぶつけてすり合わせる永長の姿は、蓮上たちと過ごし時ともまた違った、お互いへの強い信頼を感じさせた。


 そんな様子を、その場の誰にも気づかれる事無くテント内に侵入した、小さな一匹の子狐が部屋の隅から興味深げに眺めていた。

次回、永長ちゃんのお仕事本格スタート!

廃トンネルの奥に存在する謎の研究施設、そこで待ち受けるものとは?


そしてちょこちょこ登場する謎の子狐、一体誰メちゃんなんだ……?(まるわかり)

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