第四十六話 「首刈と日女君の帰宅」
(・▲・)「ジュリリィ……?(新ストラクで三幻魔強化され過ぎじゃないっすかねえ? ってかエルドリッチだと相性悪いかも? スキドレ張ってても、魔法や罠で四千打点が簡単におっ立つのがきついきつい。ところで三幻神の新規とかストラクとか出ませんかねぇ……?)」
「よーし、到着っと」
「到着ー?」
「うむ、ようこそ迦具矢ちゃん。そして、お帰り迦具矢ちゃん! 今日からここが、君の住む家だよ」
『蓬莱鉱山』を下山した俺と迦具矢ちゃんは、先に下山していた波柴さんから迦具矢ちゃんが正式に俺のテイムモンスターとして登録されたことを証明する認可証を受け取り、みんなに挨拶と謝罪をしてから転移魔法で共に帰宅した。
とは言え、俺の使える転移魔法は自分一人を転移させることしか出来ない。
そこで、俺は迦具矢ちゃんの目の前で転移魔法を使って見せてコピーをさせてから、先に自宅へ転移した俺を対象に転移魔法を使用させるという形で、二人で帰って来たのだ。
迦具矢ちゃんは、頭からかけた『ヘッドフォン』を両手で押さえながら、物珍し気に俺の家やその周囲をキョロキョロと見渡していた。
「それにしても……シンプルだけど似合うな、その服」
「これ?」
「ああ、涼やかだし、迦具矢ちゃんの魅力をぐっと引き立てていると思うよ」
「? そう?」
俺の言葉に、迦具矢ちゃんは現在身に着けている『白いワンピース』の裾を引っ張りながら小首を傾げていた。
こらこら止めなさい、はしたないから。
迦具矢ちゃんが着ているワンピースは空冬さんが作ってくれた物で、俺と迦具矢ちゃんの目の前でわずか三秒の間に作成された物だ。
強大なボスモンスターという事で、波柴さんを始め職人仲間たちは全員が大なり小なり迦具矢ちゃんの事を警戒していたのだが、迦具矢ちゃんの姿を見た瞬間、空冬さんは「ふぅぉぉぉおおおおおっ!!!」とか言う何かが昂りまくった声を上げたかと思うと爆速でこのワンピースを完成させ、完成するや否やその場でワンピースを乗せた両手を頭の上にして土下座し、「どうぞ御納め下さい女神様! そして着替えを! 是非! 是非!! 是非にっ!!!」と懇願して迦具矢ちゃんを引かせていた。
欲望に正直すぎるんだよなぁ、あの人。
結果、このまま鎧姿と言う訳にも行かないし、何よりそのワンピースが迦具矢ちゃんに似合うと判断した俺からの勧めもあって、迦具矢ちゃんは空冬さん謹製のワンピースを着る事となったのだ。
シンプルだが品の良いデザインのワンピースは迦具矢ちゃんに良く似合っていて、迦具矢ちゃんの端正な容姿も相まってどこかの御令嬢みたいな印象を与えていた。
その姿を見て、『蓬莱鉱山』に集まっていた探索者たちの視線は男女を問わず釘付けになり、作った本人である空冬さんは「感無量……」と、親指を立てながら良い笑顔で鼻血を吹いてぶっ倒れた。
まぁ、割とよくある事なので心配はしていない。
ついでにつばの広い白い帽子でも被せれば完璧だったが、代わりに迦具矢ちゃんはヘッドフォンをつけていた。
「しっかし不思議だよなぁ、武装型の奥義スキルなんて初めて見たよ。今はヘッドフォンになってるけど」
そう、迦具矢ちゃんが身に着けているヘッドフォンの正体は迦具矢ちゃんの奥義スキル『五種神宝』が姿を変えたものだった。
正確には、バイザー型装備である『|仏の御石の鉢《アナライズ・オペレーション・アタッチメント》』が姿を変えたものであるが。
迦具矢ちゃん曰く、この装備が相手の奥義スキルのコピーや戦闘時のサポートを行っていたらしい。
俺が独り言ちながらそう口にすると、迦具矢ちゃんは不思議そうに俺の顔を見上げてから、フルフルと首を振って俺の言葉を否定した。
「違うよ、蓮上。『仏の御石の鉢』は奥義スキルじゃ無いよ?」
「え、そうなの? あ、あくまで奥義スキルは『五種神宝』なのか」
「それも違うよ?」
「ええ……」
え、どゆこと?
奥義個体モンスターの共通点から言って、名前の後ろに付いたものが奥義スキルの名前の筈だ。
俺が戦った『骸剋龍夜刀神・天破激震の頂』や『神龍の角・寵愛されし者』もそうだった。
迦具矢ちゃんの正式名は『蓬莱之女神 迦具矢日女命・五種神宝』であるのだから、『五種神宝』が奥義スキルなのではないか?
俺が疑問に思っていると、迦具矢ちゃんの代わりに無機質な音声が俺の疑問に答えてくれた。
『――迦具矢日女命に代わり、『仏の御石の鉢』がお答えします』
「うぉっ、ビックリした。 ……そう言えば喋れたんだったな。けど喋り方が流暢になってないか?」
『はい、貴方方の言語解析を終了しましたので。先ほどの疑問に対する回答ですが、『五種神宝』は奥義スキルではありません。その上位に当たる『神話スキル』です』
「『神話スキル』……?」
『左様です。神話スキルは複数の奥義スキルが融合する事で誕生するものであり、『五種神宝』は『蓬莱の玉枝』、『燕の子安貝』、『火鼠の皮衣』、『仏の御石の鉢』、『龍の頸の珠』の五つが融合した神話スキルとなります』
「奥義スキルの融合……」
『はい、先ほど迦具矢日女命が『仏の御石の鉢』は奥義スキルでは無いと答えましたが、あれも間違いではありません。融合して神話スキルとなった時点で、奥義スキルでは無く神話スキル相当の能力となるため、奥義スキルとは呼べなくなるのです。当機『仏の御石の鉢』が他者の奥義スキルを収集・解析し、迦具矢日女命に適用させることが出来るのは、当機の性能が奥義スキルよりも上位のステージに存在しているからです』
「なる、ほど……」
え、これさらっと簡単に教えてくれてるけど、かなり重要な情報じゃないか?
神話スキルなんて聞いた事無いし、そもそも奥義スキルの融合って……うん、この件は後で波柴さんに丸投げしよう。
その方が心の平穏を保てる。
せめてゴールデンウィーク中は後回しにさせて欲し、
『――赤松君、赤松君、聞こえますか? 波柴です。今、君の心に直接話しかけています』
面倒な事を後回しにしよとしたその瞬間、まるで図ったかのようなタイミングで波柴さんからの『念話』が届いた。
え、こわ。
『波柴さん!? 何でこんな都合の良過ぎるタイミングで……って言うか、その語り出しなんですか?』
『なに、様式美と言うものですよ。それより、私に何か伝えたい事があるのではないですか? いえ、確信がある訳では無く単なる勘ですが』
『その勘、予知能力の域にありません?』
『それほど便利な物ではありませんよ、この勘のおかげで会社を大きく出来たところはありますが』
大企業を起こした人もなると、色々と常人とはかけ離れてるなぁ。
いや、俺も人の事を言えないのかもしれないけど。
それはそうと、もうバレたも同然だし今聞いた事を波柴さんに全部話してしまおう。
俺一人じゃちょっと受け止めきれん。
『実は――』
俺から神話スキルの話を聞いた波柴さんはふむふむと頷くと、得た情報をどう生かすか考え付いたのか、俺にお礼を言ってから『念話』を終了させた。
『なるほどなるほど、いや実に興味深いお話でした』
『ええまぁ、俺も気になりますが、今は置いておきたいというか、ゆっくり朝食を楽しみたいというか……』
『はっはっは! まぁ楽しみにしていた訳ですし、さもありなんと言った所ですね。神話スキルについては、私から皆さんに共有しておきますから、他にも何か新しい情報が手に入ったら私に伝えて下さいね』
『ええ、俺だと色々持て余しそうなので、丸投げになってしまいますがお願いします』
『引き受けました。 ……赤松君』
『何ですか?』
『いまさら言うまでもありませんが、困ったなら私たちに存分に頼ってください。君に力を貸す事を厭う者など居ないんですから』
『……はい、ありがとうございます!』
『ふふ、ではまた後程』
ふぅ、とりあえず一安心だな。
さて、少しゴタついたがいい加減家に入るか。
俺は迦具矢ちゃんの手を引いて歩き、玄関を開けた。
「ただいまー!」
「おかえりー! 遅いぞ、蓮上ー!」
「あら、帰って来たの? イズメの言う通り遅いわよ。ご飯冷めちゃうところだったじゃない!」
「ワゥ! おかえり蓮上!!」
「ごめんごめん、色々あってさ。それより先に紹介するよ、今日から一緒に住むことになった迦具矢ちゃんだ。ほら、迦具矢ちゃん。ご挨拶!」
「えと、こ……こんにちは!」
「こんにちは! 私はイズメ! よろしくね、迦具矢ちゃん!」
「よ、よろしく……」
「あら、また新しい子を拾って来たのね? こんにちは、私はマミナよ。よろしく迦具矢ちゃん。朝ご飯はまだかしら? 追加で作るから少し待っててね」
「えと、お構いなく……?」
「ワゥー! 新しい子! コノハの妹!? よろしく迦具矢! コノハはコノハだよ!」
「う、うん……蓮上、私妹なの?」
「まぁ、うちでは末っ子になるのかなぁ?」
イズメは全身で歓迎の気持ちを現すようにはしゃいでいるし、コノハは一番下だった自分に妹分が出来ると思って興奮している。
マミナは迦具矢ちゃんの分の朝ご飯を作りに向かい、迦具矢ちゃんはイズメとコノハに囲まれてたじたじとなっていた。
みんな仲良くなれそうで何よりだ。
ようやく帰って来れたと実感して安心しつつ、目の前の微笑ましい光景に自然と頬が緩む。
彼女らの賑やかさに癒されつつ、俺は朝食を食べる為にみんなを連れてリビングへと向かった。
『神話スキル』
複数の奥義スキルが融合して誕生する上位スキル。
融合元の奥義スキルは消滅する訳では無く、神話スキルの一機能として残った上で神話スキル相当の性能となる。
単一のスキルと言うより、スキル群の名称と言うべき物であり、同時にこのスキルを獲得した者は存在のステージを上位のものへと進める事となる。
奥義スキルを個人の特技とするなら、神話スキルは神の司る特性、あるいは権能とも呼べる。




