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第四十三話 「首刈と蓬莱之女神(十一)」

(・▲・)「ジュリリィ(本日二回目の更新です。駆け足気味ですが、これにて『蓬莱之女神戦』、決着です)」

 戻って来た。


 戻って来た! 戻って来た!!



 良く判らない言葉と共に意識を取り戻した蓮上の姿に、迦具矢日女は歓喜する。



 もう会えないと思った相手に再び会えた。


 もう見ることが出来ないと思った彼の目を見ることが出来た。


 もう聞けないと思っていた彼の言葉を聞くことが出来た。



 それだけで、迦具矢日女の心は満たされていた。



「まぁ、どっちでもいいか。いい加減終わりにしよう」



 彼は、そう言った。


 終わり。そう、終わりだ。


 どれほど幸せな時間であろうと、何れ終わりが来ることを迦具矢日女は既に知っていた。


 一度彼の胸を貫いた時に、その意味を思い知らされていた。



 故に、終わらせなければならない。


 彼を、では無い。


 終わるべきは、迦具矢日女自身だ。


 その考えを『仏の御石の鉢』は否定するが、これは既に決定事項であった。



 もはや迦具矢日女は、蓮上を殺す事は出来ない。


 例え殺さなければ自らが死ぬ事になるのだとしても、蓮上を殺して生き延びるという選択肢を、迦具矢日女はもう選べない。



 喪失の痛みは死の恐怖よりも深く強く、迦具矢日女の心に刻まれていた。


 自らの死を容認してしまうほどに。


 自らが死んでも、蓮上が生き残る事を願わせてしまうほどに。




 ああ、もうすぐ終わってしまう。


 けれど、迦具矢日女の心に恐怖は無かった。


 最後に彼と会えた、それだけで迦具矢日女は一切の未練なく死ぬ覚悟が出来ていた。


 ……けれど、一つだけ我儘が許されるのなら、




 貴方に私の名前を呼んで欲しかったなぁ。




 ◇




 互いの持つ機械剣の炎と火花が大きく弾け、それが開戦の合図となった。



 お互いに地面を蹴って正面から真っ直ぐに飛んで行く。

 思った以上に体が軽く、体に力が漲っている事に俺は驚いたが、そんな思いも置き去りにして体は淀み無く動く。




 一閃。


 真っ直ぐに振り下ろした互いの機械剣がぶつかり合い、迦具矢日女の機械剣が一方的に砕け散った。



 二撃目。


 迦具矢日女の機械剣を砕いた『マテリアルディバイダー』を切り返し、そのまま下から掬い上げる様に迦具矢日女のバイザーを両断する。



 三の太刀。


 切り上げた機械剣を更に返し、素顔を露わにした迦具矢日女目掛けて真っ直ぐに振り下ろす。



 そして―――































「……どう、して?」



 とても、とても綺麗な声がそう訊ねて来る。


 漸く声を聴くことが出来たなぁと感慨深く思いながら、俺はゆっくりとその問いに答えた。



「――確かめることが出来たからだよ。それが出来たから、もうこれは必要無いんだ」



 そう言いながら視線を向けた先には、俺が振り下ろす途中で手放し吹っ飛んで行った『マテリアルディバイダー』が地面に突き刺さっている。

 同時にこれもまた不要と、俺は『青龍宝刀』を『収納』へと仕舞って手ぶらになった。


 その様子を、迦具矢日女はぺたんと地面に座り込んで、不思議そうに眺めている。

可笑しな事に俺がそうであるように、迦具矢日女もまた、もはや戦うつもりは全く無いようであった。



 ――漸く、漸くどうして俺がこの子を殺したくないのかが判った。



 図体こそデカいが……この子は、余りにも子供過ぎた。生まれたての赤ん坊と言って良いほどに。


 目を見れば判る。

 迦具矢日女の瞳は、様々な感情を映してはいたが、本質的には何ものにも染まっていない無垢そのものだった。


 これでは殺せる訳が無い。


 赤ん坊を殺して平気で生きられるほど、俺の心は強くは無い。



(それに……)


 最後、俺が機械剣を振り下ろそうとした時、迦具矢日女はそれを受け入れていたように見えた。


 何故そのような行動を選んだのかは判らないが、少なくとも赤ん坊同然の子供が自らの死を受け入れるなど、俺には耐え難い話である。


 ここで迦具矢日女を殺さない事で、様々な問題が発生するのかもしれないが……知ったことか。


 俺にはこの子を殺さない。

 それで良いと、それ以外に無いのだと俺自身が決めたのだ。


 正しい、正しくないは問題じゃない。


 俺の選択が正しいのだと、この子を守る事で、この子に誰も傷付けさせない事で証明し続ける。


 最後までやり通せば、それが正義となる。

 それを成す決意が、すでに俺の中では固まっていた。




 座ったままの迦具矢日女に歩いて近づき、しゃがんで目線を合わせる。


 バイザーの下に隠されていた迦具矢日女の顔は、予想していたものとは比べ物にならないほどの美しさで、

 その瞳は、星の光を宿すような蒼色だった。



 不思議そうに俺を見て来る迦具矢日女に何となく手を伸ばし、そのままぐりぐりと頭を撫でる。

 突然の事に迦具矢日女は戸惑っていたが、直ぐに嬉しそうに笑い、気持ち良さそうになされるがままとなっていた。


 あったかいな。

 それが、迦具矢日女の頭を撫でた俺の感想だった。



「……これ、食うか?」

「?」


 『収納』スキルの中から適当なお菓子、ペロペロキャンディーを二つ取り出して、片方を目の前で口に含んで見せる。

 それで俺が手にしたものがどういったものであるのか把握した迦具矢日女は、早速俺を真似ておずおずとキャンディーを口にした。


「……! おいしい!!」

「そうか、良かったな」

「うん!!」


 キャンディーの棒を咥えながら、ご満悦と言った表情でニコニコと笑う迦具矢日女の姿は、彼女の心が見た目よりもずっと幼いのだという俺の思いを更に強めた。


 守らなくちゃな。


 すとんと胸に落ちる様に、自然とそう思った。

 ああ、やはりこの子を守る事は正しい事なのだ。

 その確信が、胸に満ちていた。



 そう言えばまだ自己紹介もしていなかったな。

 迦具矢日女の頭を撫でながら、その事を思い出した俺は、迦具矢日女に名前を訊ねてみた。



「そう言えば君、名前は?」

「?」

「名前だよ。迦具矢日女だって事は知っているが、君自身の口から直接聞きたい」


 挨拶は大事、自己紹介は自分の言葉で。


 お祖母ちゃんが教えてくれた教訓を思い出しながらそう言うと、ポロリと迦具矢日女の口からキャンディーが零れ落ちる。


 慌てて俺がキャッチすると、迦具矢日女が俺へと抱き着いて来た。

 突然の行動に驚いていると、迦具矢日女は唇を震わせ、瞳に涙さえ滲ませながら、万感の思いが籠っていると判る声色で、彼女は自らの名を名乗った。



「迦具矢……! 私の事は、迦具矢って呼んで欲しいの……!!」



 かつて、これほど思いの込められた名乗りを聞いた事はあっただろうか?

 まるで祈る様にも、懇願するようにも見える彼女に抱き着かれたまま、俺も迦具矢に名を名乗った。



「そうか……俺は蓮上、赤松 蓮上だ。よろしくな、迦具矢ちゃん」

「うん! よろしく、蓮上!!」






 星の瞳を持つ少女を祝福するように、夜明けの光が世界を照らす。



 朝日に照らされた迦具矢の姿は、思わずドキリとさせられるほど綺麗だっ………あれ、ドキドキしないな?






 ……………あれ、俺の心臓止まってるぅぅぅぅっ!?

いや、気付くのおせーよ。

って言うか、呼吸が止まってるのに喋れるようにしたり、脊髄の代わりに脳からの信号が下半身に伝わる様に『五色教典』が調整してくれたんだから、ちゃんと感謝しろよ?



ちなみに、心臓と肺と脊髄が破壊されたままなのは、『五色教典』が修復されないように防いでいるからです。

修復されちゃうと瀕死状態が解除されて、強化バフが無効になっちゃうからしょうがないね。

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― 新着の感想 ―
[一言] 戦闘で随分引っ張って止めて会話少なく心の内で喋って餌付けしてペット入りかぁ せめて心の会話を吐露するか殺さないにしても倒すなりしてからペット入りして欲しかったわ
[気になる点] 後書きにて 強化バフが向こうに 無効では? [一言] 今日から迦具矢ちゃんはジョーさんちの子です!やったね!! でもジョーさん以外の人には正直意味不明な状況だよね 殺し合いしてて実…
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