第三十八話 「首刈と蓬莱之女神(六)」
(・▲・)「ジュリリィ!?(駄目だ、落ち着け作者! エルドリッチドラゴンリンクなんて作ろうとするんじゃない!! 迷走し過ぎてるからぁ!?)」
時は少し遡り、『蓬莱鉱山』の入り口前。
多脚戦車に乗って帰還した波柴らは、蓮上だけ戻っていない事で何かあったのかと問うて来た紫秋たちにダンジョン内で何が合たのかを伝え、蓮上が時間を稼いでいる間に迦具矢日女への対抗装備を作成する事を満場一致で直ぐに決定した。
迦具矢日女を討伐するまでダンジョン内への侵入が禁止になったことで、当然その場に集まった他の探索者たちから不満の声が出たが、久木が対抗装備作成用の簡易工房を建てている間に、波柴が現在判明している迦具矢日女の能力を伝えたことで、上級探索者たちを中心に不満の声は無くなり、それでもなお不満の声を上げていた少数の下級探索者たちは、近くの上級探索者たちに諭されるか、自殺志願なら勝手に行けと突き放されたことで大人しくなった。
上級探索者全員が、より正確には奥義スキルを所持している探索者全員が、迦具矢日女の脅威を正しく認識していたのだ。
この場に集まった多くの上級探索者たち、仮にその者達が持つ奥義スキルを全てコピーされたのであれば、一体どれほどの怪物が誕生してしまうのか?
それを想像しただけで、多くの上級探索者たちは薄ら寒い物を感じていた。
それから数時間、もどかしい思いを感じたまま『十職人』のメンバーたちは各々の持つ全力でアイテム作成に当たり、遂に迦具矢日女への対抗装備を完成させた。
「――よし、ようやく完成しましたね。直ぐにでもこれを赤松君に届けなくては」
「届けるのは良いが、方法はあるのかい? アタシらの誰かが行ったら、奥義スキルをコピーされちまうんだろう?」
「大丈夫ですよ、初さん。方法は赤松君が用意してくれました」
完成したそれを手にする波柴に紫秋が訊ねる。
そのもっともな疑問に対する回答として、波柴は『収納』スキルから一本の巻物を取り出して見せた。
「そいつは?」
「作成中に赤松君から転移魔法を使って送られて来た呪文書です。中には手元の物品を離れた相手に転移させる魔法『物質転送』が込められています」
それは、迦具矢日女との戦いの中で蓮上が転移魔法を迦具矢日女に学習されるリスクを冒してでも届けた呪文書であった。
この場に集まった上級探索者の中で、迦具矢日女との戦いの場に生きて辿り着ける者は『十職人』のメンバーくらいであろう。
しかし、『十職人』ないしそれに匹敵する実力を持つ上級探索者であれば、必ず何らかの奥義スキルを所有している。
迦具矢日女との戦いの場に誰かが対抗装備を届けたとして、それでその者の奥義スキルがコピーされてしまえば、迦具矢日女の打倒が更に困難なものとなってしまう。
故に、誰の手を介する事無く直接対抗装備を蓮上に届けるための手段として、『物質転送』の呪文書を蓮上は波柴へと送ったのだ。
「これを使えば、確実に対抗装備を赤松君の元へ送れるでしょう」
「なら、さっさと連坊に『念話』するんだね。いきなり送られたんじゃ取り落とすかもしれないからね」
「ええ、勿論です」
『赤松君、波柴です。対抗装備が完成したので早速送ろうと思いますが、宜しいですか? ……赤松君? 返事をして下さい! 赤松君!!』
早速『念話』スキルを使って蓮上へと連絡を取る波柴。
しかし、何度呼び掛けても蓮上が答える事は無かった。
その事実に、波柴は血相を変える。
波柴も、そして他の『十職人』のメンバーたちも、迦具矢日女は強大な敵であり、事態は深刻な物だと思いつつも、心のどこかで蓮上が負けるはずが無いと思っていたのだ。
いかなるモンスター相手にも、一方的に察知される事無くその首を刎ねて来た『首刈レッドジョー』。
その名は彼らにとって信頼する仲間の異名であり、彼らにとって最も身近な不敗の英雄の代名詞でもあったのだ。
『首刈レッドジョー』が敗北する筈が無い。
それは信頼ゆえに彼らの心に根付いた認識で合ったが、それが今脆くも崩れ去ろうとしていた。
「砕牙!? 蓮坊はどうしたんだい!?」
波柴の只ならぬ様子に気付いた紫秋が問い詰める。
しかし、その質問に対する答えを波柴は持ち合わせていなかった。
それでも何とか、言葉を返す。
「判り、ません。いくら『念話』で呼びかけても、返事が無いんです……」
「何だって!? ま、まさか……蓮坊は!? もう……」
「いいえ!! 返事が無いだけで『念話』は通じています!! 赤松君はまだ生きています!!」
最悪の可能性、蓮上の死を紫秋が口に仕掛けたが、それを波柴は強く否定する。
そして、自分でその事実を口にした事で、再び気力を取り戻す。
そう、蓮上はまだ生きているのだ。
『念話』スキルはその性質上、対象が生きて居なければそもそもつながる事は無い。
しかし、今の蓮上の場合は『念話』が繋がった上で、蓮上自身が応答出来ない状態となっているのだ。
最も高い可能性は、蓮上が気を失っている状態である事。
返答は無いが繋がりっぱなしの『念話』が蓮上の生存を証明してくれてはいるが、迦具矢日女と蓮上のの苛烈な戦闘を目にしている以上、安心する事等出来なかった。
だがそれでも、希望はある。
それだけで、動くには十分過ぎる理由であった。
「――初さん、私はこれから赤松君の救援に向かいます」
「な、あんた、自分が何を言っているのか判っているのかい? あたしらの中で一番強い蓮坊が負けたんだ! しかも相手は奥義スキルをコピーする能力を持っている。行ったって死ぬだけなんだよ!?」
「それでもです! 赤松君はまだ生きています。彼を助けられる可能性が僅かでもあるなら、私は迷うことなく行きますよ」
「砕牙……」
「それに、若人を囮に年寄りが逃げたんじゃ格好がつかないじゃないですか?」
最後に茶目っ気交じりにそう言った波柴は、対抗装備を手に迷い無くダンジョンへと歩み出した。
「待ちな! 行くならあたしも――」
「いいえ、大勢で行けばそれだけ相手が強化されてしまいます。それでは益々手が付けられなくなる」
本当なら、全員で助けに行きたい。
だが、他者の奥義スキルをコピーして際限なく強くなる迦具矢日女の特性が、それを許さなかった。
結局、紫秋は波柴の背を見送る事しか出来なかった。
「……判った、もう止めたりしないよ。けど、絶対二人で帰って来な」
「ええ、勿論です。 ……皆さんの事をお願いします」
「ああ、任せときな」
紫秋に後事を託して、波柴はダンジョンへと突入した。
そうして蓮上が迦具矢日女と戦うために向かった『蓬莱鉱山』の中心部の様子を『千里眼』スキルで確認した。
そこで目にしたものは―――!!
「何だ、アレは……!?」
波柴が目にしたのは、不気味な『紅』に侵食されつつある『蓬莱鉱山』と、体の半分以上を同色の『紅』に侵された群青の機械龍。
その機械龍と共になりふり構わず逃げ回る迦具矢日女。
そして右腕を失い、胸に明らかに心臓を貫かれた致命傷を負いつつも、いつも纏う『朱雀羽織』から怪鳥の頭部の様な物を生やした状態で迦具矢日女を追い回す、蓮上の姿であった。
おや、蓮上の様子が……?
ちなみに作者、主人公の異形化暴走形態とか大好きです。




