第三十二話 「首刈と場違いな襲撃者」
(・▲・)「ジュリリリィ!! ……ジュリリ?(ようやく出せたぞ、『対レッドジョー用決戦モンスター第一弾』! 覚悟しろ蓮上、私はお前をボロボロにする為にこいつを生み出した!! ……私は何を言っているんだ?)」
聖剣砲の余波である爆風やら爆炎やら飛来物やらを耐えること十数分。
ようやく勢いが収まって来たという所で、発動していた『聖域結界・鋼鉄領域』の効果時間が終了した。
解除された瞬間、念のため再度発動出来るようには心構えていたが、どうやらその心配は無用であるようだ。
殺傷力の高そうな飛来物の類は、既にほとんど飛んで来なくなっていた。
「『タイフーン』!」
結界の効果時間終了と同時に、舞っている粉塵を吹き飛ばす為に本来は周囲を強力突風の渦で薙ぎ払う攻撃魔法『タイフーン』を発動する。
周囲の粉塵が晴れると、爆風やらで薙ぎ倒された蓬莱の木や、抉り返された山肌の姿が明らかになり、聖剣砲が『蓬莱鉱山』全体に対してどれだけの被害を齎したのかを確認出来た。
その光景は、無惨の一言に尽きた。
あまりの被害を前に俺は自身の顔が引きつっているのを感じていると、多脚戦車のスピーカーから暢気な波柴さんたちの声が聞こえて来た。
『いやぁ、助かりましたよ赤松君。事前に破壊力の計算はしていたのですが、まさかここまでの威力になるとは……やはり何事も実際に試してみないと判らないものですねぇ』
『はっはっは! まぁこればっかりは仕様があるめぇ、何事もトライアンドエラーって奴さ!』
『少なくともオイラは満足ですぜ、旦那方? 何せ完璧な照準だったからな!』
三人の朗らかな声を前に俺の中の何かが切れかけているのを感じつつ、俺はそれを躊躇い無くぶっ千切る為に、どの前段階として言葉を告げる。
「……波柴さん、それに曾我部さんと原戸さんも、一つ良いですか?」
『うん? 何でしょう?』
『おう、どうした蓮の字?』
『お、もしかして蓮上もこういうどデカい砲撃が撃てる装備に興味が出たか? やっぱ男なら大艦巨砲主義にロマンを感じるもんだよな! 任せろ、こんな事もあろうかと、今回オイラは『収納』の中にとっておきの「良いですかっ!?」あ、はい』
勝手にヒートアップし出した原戸さんを言葉で制し、一度咳払いをしてから俺は話を続けた。
「んんっ―――俺は皆さんに敬意を持っていますし、それは今でも変わっていません。その上で、一つ言わせて貰います」
『ええ、聞きましょう』
『おう、何だ蓮の字改まって?』
『あ、この空気オイラ知ってる。母ちゃんにめっちゃ怒られる時と同じ空気だ』
原戸さんが意外な察しの良さを発揮したが、もうそんな事は関係無い。
俺は三人に対して言いたい事を、思いっきりぶちまけた!
「……ちったぁ自重しろや中年共ォ!! よく見ろこれっ!? 採掘どころじゃねぇ大惨事じゃねぇかっ!!! 終いにゃはっ倒すぞおっさん共がぁっ!!!???」
俺が敬語もかなぐり捨てて怒鳴り散らすのはかなり珍しく意外だったからだろう。
波柴さんと曾我部さんは言葉を失って黙り込んでしまい、それに対して原戸さんは些かズレた反論を返して来た。
『ちょっと待て蓮上!? オイラはまだ二十代だ! おっさん呼びは止めてくれ!!』
「喧しいっ!! ニ十五は四捨五入したら三十路だろうがっ!?」
『酷い!?』
酷いのはどっちだ!? こんなに山をボロボロにしやがって。
そもそも山頂から採掘して行くのに、山頂を丸ごと吹き飛ばしたらその分取れる鉱石が減るだろうが!
俺はゴールデンウィーク中しか参加できないんだぞ!?
一通り怒鳴り散らした俺が、フーッと息を吐いていると、しばらく黙っていた波柴さんと曾我部さんが、やがてポツリと謝罪して来た。
『……確かに、赤松君の言う通りですね。私としたことが、些かはしゃぎ過ぎていたようです。すみませんでしたね、赤松君』
『ワシもだな。ワシらん中で一番年少の蓮の字に叱られてちゃ世話ねぇや。すまん、蓮の字』
「……はぁ、判って貰えればそれで良いですよ。作った物を試したいって言う気持ち自体は理解出来ますからね。だからこそ俺を含めて他の皆さんも、波柴さんたち三人の事を止めようとはしなかったわけですし」
『あ、あの、蓮上? オイラも流石にやり過ぎたし悪いと思ってるからさ? せめておっさん扱いだけは止めて欲しいというか……』
「それに、この惨状を見たら俺以上に紫秋さんの方が怒りそうですからね。三人とも、紫秋さんにこってり絞られて下さいね」
『無視ですかそうですかごめんなさい謝るから許してぇ!!』
「いやぁ! おじさんたちの面倒を見るのも大変だなぁ!! まぁこれも若者の務めっつーかなんつーかっ!!!」
『嫌ぁぁぁ!? おじさん扱いは嫌だぁぁぁ!!!』
『こらこら赤松君、あまり原戸君を虐めてはいけませんよ?』
「どうせ騒いで居られるのは今の内だけだから良いんじゃないですかね? 紫秋さんのお説教、多分三時間コースは確定だと思いますよ?」
『寧ろ四時間、あるいは五時間コースもありえるな。はぁ……もうちょい後先考えるべきだったなぁ……』
「まぁ、技術屋なんてそんなもんですよ」
『……ちなみに赤松君、初さんに口添えしてくれたりとかは……?』
「する訳ないじゃないですか、庇ったら俺まで巻き添え喰うんですよ?」
『『ですよねー』』
『おじさんは嫌だぁぁぁ……』
やれやれ、原戸さんがついには涙声になってしまったな。
本人も、二十代後半に突入して三十路が目の前に迫って来たのを気にしているのかもしれない。
彼女でも出来ればまた違うと思うんだが、原戸さんの周りと言うか、原戸さんの住む町全体がなんつーか、女っ気が無いからなぁ。
いや、女っ気が無いって言うより、女性らしい女性がほぼ居ないって言った方が正しいか。
さっさと小春さんに告っちゃえばいいのになぁ。無理か、原戸さんヘタレだし。
小春さんに対する原戸さんのヘタレっぷりを思い出しつつ、そろそろ一度ダンジョンの外に出て、紫秋さんたちを呼んで来ようかと考えた時、それは現れた。
偶然か意図してかは判らないが、それは多脚戦車の砲撃に対する返礼かの様な大規模な砲撃を挨拶代わりに打ち込んで来た!
『っ!? 赤松君!!』
「判ってます!!」
山頂部がごっそりと消失した『蓬莱鉱山』から飛来したのは、虹の煌めきの如き莫大な魔力の奔流であった。
明らかに聖剣砲こと、多脚戦車の主砲『黄昏の架け橋』に匹敵する破壊力を有するであろう一撃。
『聖域結界・鋼鉄領域』で防ぐことは可能であろうが、これが正体不明の何かからの攻撃である以上、行動不能のデメリットを持つ魔法を使うのはリスクが高すぎる。
故に、俺は別の魔法を発動させた。
「『深淵孔』!」
使用したのは重力魔法に分類される魔法『深淵孔』、魔法によって小規模な疑似ブラックホールを作り出す魔法だ。
あくまで『疑似』である為に攻撃能力を全く持たないが、飛来する飛び道具や砲撃、光線の類には絶大な効果を発揮する防御魔法だ。
魔力砲撃を防ぐのなら、これ以上に向いた魔法は他に無い。
俺と多脚戦車の前へ、大きな盾の様に展開された『深淵孔』は、飛来した虹の魔力砲を余さず吸収し、そして役目を終えて消失した。
そしてその間隙を縫う様に、俺へと黄金の輝きを持つ刃が振り下ろされた。
「っ!」
『赤松君!?』
「大丈夫です! 十分対応出来ます!!」
振るわれた黄金の刃を、『収納』から取り出した『紅鋼』でもって弾き返す。
それと同時に『黒百足』の鎖でもって襲撃者を捕縛しようとしたが、オレンジ色の魔力の噴出と共に敢え無く回避された。
そこで改めて襲撃者の姿を見る。
その姿に、俺は驚愕を禁じえなかった。
それは、本来『蓬莱鉱山』に出現する東洋龍型のボスモンスター『妖仙蜃王』とは似ても似つかぬ姿をしていた。
それは、驚くべきことに人間に非常に酷似した姿のモンスターであった。
それは、武者甲冑を思わせる赤い機械的な鎧に身を包み、背後には八機からなる魔力噴射による飛行を可能にしているのであろう飛行ユニットを浮かべ、口元だけが見える近未来感のあるバイザーで顔を覆い、虹の燐光を放つ機械剣を手にこちらを斜め上空から睥睨していた。
『蓬莱之女神 迦具矢日女命・五種神宝』
「――いや、世界観間違えてるだろ……」
『―――』
俺の言葉に何を思ったか、あるいは何も思わなかったのかは判らないが、『奥義個体ボスモンスター』であろう目の前の少女の姿をしたモンスター『迦具矢日女』は、無言のまま俺へと切りかかって来た!
『蓬莱之女神 迦具矢日女命・五種神宝』
主人公『首刈レッドジョー』こと赤松蓮上を倒せるだけのスペックを持って作者にデザインされた超性能ボスモンスター。
外見はまぁ、シザーズクロスでロゼが付けてたバイザーを装備したカガリ(黒髪)と言えば、決闘者には大体想像出来るはず。
主人公が強過ぎて白熱した戦闘シーンが書けないという悩みを持った作者が、主人公をフルボッコにする為にデザインした美少女ボスモンスター。
迦具矢ちゃんは8:2ぐらいで蓮上に有利なので、きっと蓮上にかつてない大激戦を経験させてくれる事でしょう。
で、迦具矢ちゃんは蓮上に勝てるのかって?
……ぶっちゃけ、蓮上が本気で殺しにかかったらこれから登場させる予定の奴らも大体瞬殺される。
この主人公『一撃瞬殺特化型(隠密も経戦出来るよ)』とかいう殺意の塊みたいなデザインですからね。
主人公が瞬殺しない要素を持っている事も含めて、対レッドジョー用にデザインしてあります。
『小春 日向』
『大農家』のジョブに就く、二十代前半の女性。
実家がかなり大きな農家(畜産などのやっている)であり、その関係で『農家』のジョブに就いた結果、頭角を現した。
大抵の植物を育て、大量生産することが出来るため他の『十職人』から素材生産の注文を受ける事が非常に多く、特に蓮上は素材以外にも食料面でよく助けられているので、『十職人』の中でも特に恩を感じている。(具体的に言うと、蓮上は小春の前だと率先してパシリになる)
原戸とはお互いに気があるが、如何せん両者ともヘタレである為、進展スピードはナメクジにも劣るレベル。
なお、素材関連の話になると、お互いオタク特有の早口になって意気投合する。(うーん、この)




