第三十一話 「首刈と鋼鉄の聖域」
(・▲・)「ジュリリィ? ジュリリィ!(何故だ? ピックアップされてる訳でも無いのに、何故すり抜けでやって来る? 三枚目アシュヴァッターマン! ……けどカッコいいから許す。「我は死を齎す戦士なれば~」の宝具口上好き)」
ドン引きしながら多脚戦車の威容を見守っていると、やがて目の前の光景に変化が起こる。
多脚戦車の砲塔の向く先、一面の夜空に突如オーロラのような光のベールが幾重にも揺らめきながら現れた。
『蓬莱鉱山』は、『四季巡礼の山地』と同じくフィールド型のダンジョンだが、双方の外観は大きく異なっている。
『四季巡礼の山地』の外観が『高さ百メートルの灰色の煙で出来た巨大な円柱』であるのに対し、『蓬莱鉱山』は『蓬莱鉱山の姿を映すスクリーンの様なオーロラ』となっている。
不思議な事に、『蓬莱鉱山』の入り口であるこのオーロラは、入り口となっている正面方向以外からは姿を見ることが出来ず、裏側からオーロラのある位置を進んでも、中に入る事は出来ないのだ。
一年の限られた期間の間だけ幻の様に現れ、それを過ぎれば幻のように消えて行く。
その特性が現れた結果なのかもしれない。
さて、『蓬莱鉱山』の外観の事は置いておいて、今問題なのは波柴さんたちが作り上げた悪ふざけの具現の様な巨大多脚戦車『聖剣砲塔戦車 モノセロスキャリバー03』とやらだ。
ダンジョン入り口が出現するのと同時に、多脚戦車に搭乗した三人は喜び勇んでダンジョン内に突撃して行った。
俺たち残りの生産職組や、他の探索者たち、それに町長さんと警備員の人たちは一緒に進んで良いのか分からず困惑した様子で立ち竦んでいる。
ダンジョン内に入った時点で、波柴さんたちの乗った多脚戦車の様子は見えなくなってしまっている為、誰かが中に入って様子を確かめなきゃなのだが……。
「……どうしましょうか、これ?」
「どうしようも何も、誰かが中に入んなきゃだけどねぇ……」
紫秋さんに聞いてみるが、まぁ予想通りの返答しか帰って来なかった。
こういう場合は、中に入って何かあっても直ぐに戻って来れる機動力があったり、その場で耐えられる耐久力のある者が行くのが適任なのだが……。
「まぁ、順当に行って俺が行くべきなんでしょうね」
「頼めるかい? 何だかんだ、レベルも蓮坊が一番高いからねぇ……そう言えば今いくつだい?」
「もうちょいで1100になります」
「相変わらずどうやって経験値を稼いでいるんだか」
それに関しては、俺も常々疑問に思っている。
学校もあるから、専業の探索者よりも戦闘回数は少ない筈なのに、明らかに多くの経験値を稼いでいる理由が判らない。
以前気になって調べてみたら、どうやら眠っている間にレベルアップしている事が多々ある様なのだが、自室にカメラをセットして眠っている間の自分の様子を観察してみても、特に変わった様子は無かったし……一体なんでなんだろうなぁ?
まぁ、考えても判らない事は今は置いておこう。
とにかく今は、中に入って様子を確かめないとな。
考えても見れば、今の俺は偵察をして無事に戻って来る事にかけては、これ以上ない適任では無いだろうか?
何せ今の俺は、奥義スキルである『寵愛されし者』の効果で神聖特性の乗った攻撃でさえなければ、ダメージを追う事は無い。
聖剣を砲塔にしているという時点で、嫌な予感しかしないあの多脚戦車の砲撃の余波を受けたとしても、ダメージを受ける事は無いはずだ。
「よし、行きましょう!」
「大丈夫かい? 嫌なら断って良いんだよ? よしんば偵察なんて出さなくても、あの馬鹿どもは無事に戻って来るだろうし」
「大丈夫ですよ、紫秋さん。俺この間奥義個体のボスモンスターを倒して、防御神性付きの奥義スキルをゲットしましたから、大抵の事ならかすり傷一つ負いませんよ」
「防御神性付き!? そりゃまた便利なもんを……けど、それで慢心したら足元を掬われるかもしれないからね、肝に銘じておくんだよ?」
「判ってますよ。 ……そもそも、あの戦車の聖剣が神聖特性付きだったら、怪我をする可能性も十分ありますからね」
「ああ、そうだね。ま、気を引き締めて行って来な」
「はい」
紫秋さんに背中を叩かれながら、俺は『蓬莱鉱山』の入り口へと進んだ。
それにしても、紫秋さんと言い曾我部さんと言い、社会人組は何かと背中を叩く風習でもあるのだろうか?
そんな事を考えながら、『蓬莱鉱山』へと足を踏み入れた。
フィールド型ダンジョン『蓬莱鉱山』は『蓬莱』の名が示す通り、中国や日本の伝説に語られる『蓬莱山』、それも『竹取物語』にて語られる蓬莱山を思わせる様な場所だ。
その特徴として、竹取物語にてかぐや姫が五つの難題として提示する宝の一つ、『蓬莱の玉枝』を生やす樹木が山全体に群生している。
これらは『蓬莱の木』と呼ばれ、竹取物語で語られている通りの特徴『根が銀、茎が金、実が真珠』となっている。
この木もまた、売ればそれなりの金になるのだが……ぶっちゃけ、素材として見るとダンジョン由来の特殊鉱物では無い為、俺たち生産職からしたら見た目が綺麗であること以上の価値は無かったりする。
俺も去年『蓬莱鉱山』に潜った際、根ごと掘り返して手に入れたものを家の庭に植えて見たものの、特に根付きも枯れも成長もしない、ただのオブジェにしかならなかった為、速攻で興味を失った記憶がある。
小春さんが植樹に成功したって話も聞いたけど、根の銀も茎の金も実の真珠も、マジックアイテムの作成においては、大した素材にならないからなぁ。
と、そんな事は置いておいて、今重要なのはあの多脚戦車だ!
『聖剣砲塔戦車 モノセロスキャリバー03』とか言うけったいな名前が付けられたあの怪物マシーンが、何を仕出かすのか、あるいは既に仕出かした後なのか確かめないと。
そう考えながら周囲を確認すると、少し離れた場所で山頂部への照準を終えたらしい聖剣砲が、今まさに発射されるところだった。
『山頂部への照準固定、並びに教典砲弾の装填完了!』
『動力コア『賢者の結晶核』から『一角獣の聖剣』へのエネルギーバイパス接続を確認、エネルギー充填率120%! いつでも行けますぜ!!』
『よし! 主砲『黄昏の架け橋』、発射せよ!!』
「了解! 主砲、発射ァ!!」
ガコンッ、と音がして多脚戦車の箱型の砲塔が中心から上下に二つに割れる。
よく見ると、根元部分から先端にかけてY字の亀裂が砲身に予め入っていたようであり、それに合わせてスライドする形で黒い箱型の砲塔の内部から、白銀に煌めく巨大な両刃の剣が姿を現した。
なるほど、あの黒い箱は砲塔であるのと同時に鞘でもあった訳か。
鞘の中から姿を現した聖剣へと大量の魔力が注ぎ込まれる。
刀身が発光を始め、刀身と鞘の間で白い帯電が起こり、刀身はまるで太陽の如き強い光を放ち始めた。
そうしてその発光が一際強まった次の瞬間、遂に砲撃が放たれた!
その瞬間、世界から音が消えた。
一直線に山頂へと続く白い光のラインが虚空へと刻まれ、それに一拍遅れて大爆発を起こした。
白とオレンジと赤の光の変化。
山頂とその周辺の広範囲が砕かれ、続く光と炎の津波に飲み込まれる瞬間、それに押し出された大気の壁、爆風が俺たちの居る場所まで到達するのを、俺は一瞬も余さずこの間に焼き付けた。
「ちったぁ加減が出来ないのかあのおっさんどもはぁぁぁぁぁぁぁっ!!!???」
普段の敬語もかなぐり捨てながら、俺は爆風やら何やらが到達する前に多脚戦車の前へと移動し、『収納』の中から以前綾乃さんに貸し出した事もある封印・結界の構築を司る魔導教典、『五色教典・漆黒庭園』を取り出しながら、俺が使える防御結界魔法の中でも最上位の魔法を発動させた。
「『聖域結界・鋼鉄領域』!!」
魔法の発動により、俺を中心とした広範囲と、その範囲の中にある多脚戦車が鋼色に変色する。
この変色した範囲内全てが、『聖域結界・鋼鉄領域』によって極めて高い物理・魔法防御力を獲得している。
魔法が発動している間、中のものは一切動けない代わりに無敵と言って良い防御力を得るのがこの魔法の特徴だが、効果時間がそんなに長くないのが欠点だ。
何とか効果時間内に砲撃の余波が収まってくれればいいのだが。
ダンジョン内でどんなに大規模な破壊が起ころうと、ダンジョン外にその余波が行かないのがせめてもの救いだよなぁ。
そう思うのと同時に、俺たちの元へ聖剣砲の余波が到達した。
『聖域結界・鋼鉄領域』
要するにアストロン。
動けなくなる代わりに大体の攻撃が利かなくなる。(なお、魔法を解除するor魔法を無効化するタイプの攻撃には無力。使い所が大事)
『原戸 富張』
探索者専門のガンショップ『バラッド・トリガー』を経営する二十代半ばの青年。
今回しれっと蓮上に波柴、曾我部の二人と共におっさん扱いされた。
『魔導銃職人』というジョブに就いており、趣味は『ゲームに出て来るような銃と一体化した武装』を作る事。(ガンブレードとか)
これら武装は、その中二心をくすぐる見た目から『バラッド・トリガーシリーズ』として一部の探索者たちから熱狂的な人気を誇っている。
過去の蓮上へ巨大な片刃の斧とリボルバーが一体化した武装『レイジングバラッド・トリガー』をプレゼントしたところ、「普通の拳銃が良いです」と言って突き返され、泣く泣く作成したのが現在蓮上が愛用している魔導拳銃『クイックリヴォルヴ』である。
物自体は良い物であったが、『弾丸の炸裂の衝撃を利用して破壊力を高める斧』というコンセプトが、蓮上の首刈と相性が悪過ぎたのが敗因である。




