第三十話 「首刈と『聖剣砲塔戦車 モノセロスキャリバー03』」
(・▲・)「ジュリリィ……(轟の王ハール、②の効果がこんなに複雑な裁定だったのか。まさか完全耐性持ちも墓地に送れるとは……遊戯王って、ぶっちゃけどんな異能力バトルモノよりも異能力バトルしてるなぁ……)」
……何と言うか、人間って笑顔のままあんなに相手を威圧出来るものなんだなぁと感心してしまった。
亮二くんたちの元に向かった波柴さんは、まず無言の笑顔で集まっていた探索者たちをはけさせ、邪魔者が居なくなったところで交渉を開始した。
交渉の際は紫秋さんが作ったと思われる防音のマジックアイテムを使っていたようで、会話の内容は判らなかったが……亮二くんたちの顔色の変化で内容は想像が付いた。
数分の会話の後、波柴さんは俺に転移魔法の『呪文書』の在庫があるかを確認して来た。
波柴さんの話を聞いて、家族の安否が心配になった亮二くんの為に、在庫があれば買い取って亮二くんに使わせたいそうだ。
その話を聞く限り、亮二くんも自宅の机の引き出しか何かにダンジョンが出来てしまった『チーター』で確定みたいだな。
出来れば亮二くんの仲間の女の子二人の分もあれば、という事だったので俺は『収納』から予め作っておいた『指定転移』の呪文書を取り出して、波柴さんへと渡した。
何故呪文書を都合良く作っていたのかだって?
俺の使える転移魔法は、他者を一緒に転移させることが出来ないから、誰かを転移させたい場合は呪文書を利用するしかないんだよ。
『魔導教典』に転移魔法を記録するという方法もあるが、そっちの方も作ってはいるが完成が間に合わなかったんだ。
俺から呪文書を受け取った波柴さんは、それを亮二くんたちに手渡しながら言葉を告げた。
「今回は緊急時の対応として私が代金を立て替えますが、呪文書の代金はきちんと払って頂きますよ?」
「はい、判ってます……あの、色々とありがとうございました!」
「このお礼は私たち三人で必ずします、波柴さん!」
「私もです。亮二くんの為に色々と気を回していただいてありがとうございます!」
「お礼なら後でも出来ますから、今は急ぎなさい。今晩さえ乗り切れば、明日にでも君の家族を保護する為の人員を派遣します。その時は私も向かいますから、それまでの辛抱です。なに、心配する事はありません。君たちの事は責任を持って面倒を見る事を、この場に居る私の友人たちに誓いましょう」
「「「はい! ありがとうございました、波柴さん!!」」」
「ええ、では気を付けて」
亮二くんたちは、波柴さんの激励を受けて心から感謝しながら呪文書で転移して行った。
い、一体どんな話をしたんだ波柴さんは?
たった数分の会話で亮二くんたちから滅茶苦茶信頼されてるぞ!?
これが大企業の元社長のコミュニケーション能力と言う奴か……。
俺が改めて波柴さんの凄さを感じていると、亮二くんたちの問題に対処する為か、どこかへ電話を掛けていた波柴さんが戻って来て、俺たちに生産職組へ朗らかに告げた。
「さて、彼らの問題もひとまず解決の目途が立ちましたし、私たちは私たちで採掘の方に集中しましょうか」
切り替え速いな、波柴さん。
まぁちゃんと対応してくれたのだから大丈夫か。と俺が思っていると、紫秋さんが厳しめの顔で前へ出て、波柴さんへと釘を刺した。
「それは良いがね、砕牙。 ……くれぐれも若人を利用して阿漕なマネするんじゃないよ?」
「もちろんですよ、初さん。私だって、警察のお世話になるようなことはしたくありませんからね……」
警察、と口にしたところで波柴さんは俺へと視線を向けて来た。
その意味が俺には判らなかったが、紫秋さんには判った様で、表情を緩めて納得していた。
「そうかい、判っている様なら安心だ。けど、もしアンタが暴走する様な事があったら、年長者としてあたしが体を張ってでも止めるからね?」
「ええ、その時は思いっきり引っ叩いて貰って構いませんよ」
そう言って、お互いに笑い合う波柴さんと紫秋さん。
俺たち十人の中で、それぞれ女性と男性の最年長者である二人は、お互いをお互いのストッパーと認識している様で、時折このような言葉を掛け合っている。
お互いを信頼しているからこその掛け合いだが……二人共、似たような言葉を俺を含めた他の八人には言わないので、少し悔しく感じる事もある。
二人に一番年齢が近い久木さんでも、波柴さんとは十歳以上年が離れているからなぁ。
目下に迷惑をかけたくないのかもしれないが、もう少し俺たちを頼ってくれても良いのにとも思う。
そんな事を考えていると、やがて紫秋さんと波柴さんが話を終えた。
色々やっている内に、時間は既に午前零時直前。
それを腕時計で確認した波柴さんは、パチンと指を鳴らして曾我部さんと原戸さんに指示を出した。
その時見た波柴さんの顔は、普段の落ち着いた品のある微笑みではなく、まるで少年の様なワクワクした様子の物だった。
「さて、時間も良い頃合いですね。曾我部君! 原戸君! 『例の物』の準備を!」
「よし来た! この時を待ってたぜ!!」
「遂にお披露目かぁ……色々と試行錯誤した結果が遂に実を結ぶんだなぁ……ぐすんっ、ちょっと涙出て来た」
「泣くのはまだ早いですよ、原戸君。私たちの汗と涙の結晶、盛大に見せつけてやりましょう!」
「「応!!」」
な、何だかいつになく波柴さんが熱血っぽくなってる。
曾我部さんと原戸さんもそれにつられて随分と男くさい笑みを浮かべているし……一体何が始まるんだ?
「紫秋さん、一体何が始まるんでしょう?」
「さてね、あたしゃ知らないよ。けど……どうせ馬鹿な事を盛大に始めるに決まってるよ。男って連中はいつもそうさ」
「そう言うもんですか?」
「そう言うもんだよ、うちの旦那なんかもそうだからね。蓮坊にはそう言う経験無いかい?」
「うーん……今はまだ。けど、その内やるかもって気もします」
「そうかいそうかい。ま、若い内に馬鹿やるのも一つの経験だよ。それが将来役に立つ事もあるからね。まぁけど……あそこにいい年こいて、馬鹿が直って無い男共も居るけどね」
「あはは……」
紫秋さんの辛辣な物言いに、乾いた笑いしか出てこなかった。
そうこうしている間にも、波柴さんたちは『収納』スキルからロープを取り出して大きな長方形の枠を地面に作り、その中や長方形のダンジョン出現方向の辺の前から探索者たちを退かせた。
そして人払いが済むと、三人がそれぞれロープの枠の中に『収納』から何か大きなものを取り出した。
「えーと……『蜘蛛型マシーン』?」
「玄頼が出したのはデカい箱かい? 富坊の方は……砲弾?」
三人が取り出した物はそれぞれ、
波柴さんが、先が無限軌道となっている八本の足が生えた戦車のような蜘蛛型の乗り物。
曾我部さんが、電柱の様な長さの細長い(細いと言っても大人が余裕では入れる様な太さ)長方形の黒い箱。
原戸さんが、ドラム缶の様に見える大きな砲弾。
である。
三人は、取り出したそれらの整備を始め、あっという間に三つを合体させて、一つの乗り物を作り出してしまった。
それは、砲門の無い電柱の様な長さの砲塔を持つ、蜘蛛の如き多脚の巨大戦車であった。
「これこそが、私たち三人が作り上げた夢のマシーン! 『聖剣砲塔戦車 モノセロスキャリバー03』です!! 協力してコツコツ作っていた物が、ようやくこうして日の目を見ることが出来ました。今夜ですけど!!」
「いやぁ、苦労したぜ! 何せワシら三人だけ用意した素材じゃ中々上手くいかなくて、一号と二号は失敗に終わっちまったからな!」
「そこでオイラたち以外のメンツに、パーツの作成を依頼して上手く言ったのがこの03だ! ちなみに蓮上に作って貰った『魔導教典』は砲弾に組み込んである!!」
原戸さんのその発言で、前におかしな注文を原戸さんから受けたのを俺は思い出した。
それは俺だけで無かったらしく、他の皆もそう言えば! みたいな反応をしていた。
「そう言えば、前にドラム缶か!? ってくらいぶっとい『魔導教典』の注文を受けたような……」
「あたしも何かの動力に使うからって、特大の魔力結晶を依頼された様な……」
「ウチも頑丈な木材が欲しいからって、育樹を依頼された気が……」
「あたしもミリタリー系の衣装を作った様な……」
「ひなちゃんが用意した木材、多分私が加工を依頼された奴だ……」
「……あの戦車、私がペイントした……」
「はて、そう言えば大型の乗り物を整備する為の格納庫を作りましたっけねぇ……」
全員が何かしらの形で製作に関わっているのか!? あの蜘蛛戦車!!
俺たちが驚愕やら呆然やらで思考停止に陥っていると、波柴さんたちはいつの間にか空冬さんが作ったであろう迷彩服に着替え、意気揚々と戦車に乗り込んでいた。
そして少しすると、スピーカーからと思われる波柴さんたちの声が聞こえて来る。
『さーて、それでは景気づけに、ダンジョン出現と同時に山頂に向けて砲撃してみましょうか!!』
『応ともさ! ワシが打った聖剣『モノセロスキャリバー』の威力を見せてやる!!』
『旦那方! オイラが作った照準器諸々の補助機構もお忘れなく! フーッ! 楽しくなって来たぁー!!』
見ている間に、蜘蛛戦車の足の無限軌道がキュラキュラと音を立てながら動き出す。
そうして砲塔の先を虚空、ダンジョン出現後にそのまま突入すれば、そのまま山頂を狙える角度に向けて固定した。
「い、一体何が起こっているんです!?」
「起こっているんじゃない、これから起こるんだよ蓮坊。馬鹿どもが作り出す、大惨事が」
そう言って紫秋さんが、表情を歪ませて額に手を添える。
俺も正直頭を抱えたい気分だ!
ああもう、そう言えば波柴さんってこういう人でもあったのを完全に忘れてた。
『超弩級山岳解体機構 グランシェイカー』の作成を提案した人が、その後もヤバい物を作り出さないはずが無かったんだ!!
『聖剣砲塔戦車 モノセロスキャリバー03』
黒い長方形の箱のような砲塔を持つ、蜘蛛のような多脚戦車。
砲塔の正体は、変形機構を持つ巨大な鞘に収納された巨大聖剣『一角獣の聖剣』。
作成した主犯である波柴、曾我部、原戸の三人は、間違いなく頭おかしい。
『曾我部 玄頼』
『曾我部金物店』という店を営む、まさに頑固おやじと言った見た目の男性。
『錬成鍛冶師』というジョブに就いており、自作した聖剣を使ってダンジョンに潜っている事から、『聖剣の玄頼』などと言われている。(なお、この呼び名を本人は好んで無い。どうせなら蓮上みたいに『聖剣のブラックサンダー』とかの方が……いや、ダサいか)
見た目が頑固おやじの為、四十代後半から五十代くらいに思われることが多いが、実は三十代前半で意外と若い。
波柴、原戸との相性は『混ぜるな危険』。この三人が揃うと、絶対頭おかしい物を作り出す。




