第二十九話 「首刈とチート探索者の進路」
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亮二くんたちとの話を終えてから、波柴さんたちの元へ戻る。
途中俺たちの様子を窺って居た他の探索者たちが、『ステータス鑑定』持ちという事で亮二くんに注目し、その後不能の呪詛の辺りで男性探索者たちが同時に股間を抑えたのが印象的だった。
まぁ、そうなるわな。
職人仲間の元に戻ると、原戸さんが声を掛けて来た。
「おう、お疲れさん。また『チーター』の相手か? お人好しだなぁ、蓮上は。放っておきゃぁ良いのに」
「いやいや、ああいった手合いは一度痛い目に合わないとどっかで致命的な失敗をしますからね。しかも周囲を巻き込んで、ですよ? 気付いたなら釘を刺しておきたくなるじゃないですか」
「それがお人好しだって言うんだよ。痛い目に合わせるってんなら、放っておいても勝手に呪詛を食らってただろうに」
「確かにそうですけど……同年代の奴が不能になるのを見るのはちょっと……」
「ああ、なるほど。そりゃぁ嫌だわなぁ……」
不能になるなんて話を聞いて、嫌な気分にならない男は居ないだろう。
それが目の前で起こる何て恐ろし過ぎる。
紫秋さんが本当に不能の呪詛を仕込んでいるのかどうかは判らないが、確かめたいとは思わないなぁ。
原戸さんが言う『チーター』とは、時折現れる上級探索者相当の能力を持っているのに、経験が全く伴っていない歪な探索者たちの事だ。
その探索者たちの事を、原戸さんがゲームなどで不正行為により強い力を得た者たちに準えて『チーター』、あるいは『チート探索者』と呼び始め、それが俺たちの中で定着した。
今回の場合、『ステータス鑑定』何て言うダンジョンの深層で極稀にドロップするような超稀少なスキルを持っているにもかかわらず、それを手に入れる手腕があるようには見えない亮二くんがそれに当たる。
そう言った者達には、ある共通点があるのだが……
「……それで原戸さん。彼、レベルいくつでしたか?」
俺が声を潜めて聞くと、原戸さんも同じく声を抑えて答えた。
悪いな亮二くん。無断でに『ステータス鑑定』を使うのは犯罪だと教えたが、何事にも『必要悪』と言うものがあるんだよ。
「思っていたより高かったな、レベル800オーバーだった。んでもって案の定、スキルや魔法は三桁近く持ってたが、奥義スキルは一つも持ってなかった」
「やっぱりですか……」
『チーター』と呼ばれる探索者の共通点。
それは不自然なほど高いレベルと多くのスキルや魔法を保有し、普通ならそのレベルに到達するまでの過程で取得しているはずの、奥義スキルを全くと言って良いほど所持していない事だった。
何と表現すればいいのだろうか? 養殖? 促成栽培? そんな感じがする。
積み重ねた経験や戦歴が無く、労せず大量の経験値を得てレベルアップし、技能書や魔法書を湯水のように使ってスキルと魔法を大量に獲得したと。
そんな感じがするのだ。
「どうして彼らの様な存在が現れるんでしょうね?」
「さぁな? 本人たちに聞くのが確実なんだろうが、オイラたちは警察じゃ無いし、明確に犯罪行為している訳でも無し、態々調べる気にもならんからなぁ……」
「――その事ですけど、最近面白い事が判明しましたよ?」
俺と原戸さんがそう話していると、町長さんとの話を終えたらしい波柴さんが会話に参加して来た。
「判明って、何が判ったんですか?」
「私も最初に報告を受けた時は耳を疑いましたが……ええ、色々と興味深い事が判明しました」
「オイオイ旦那、勿体ぶらずに教えてくれよ」
『チーター』たちについて、波柴さんは何か情報を掴んでいるらしい。
波柴さんは些か勿体ぶった言い回しをしたが、変に引き延ばす事無く判明した情報を教えてくれた。
「半月ほど前なのですが、民家の中から突如モンスターが姿を現したという事件がありましてね。幸いその家の住人たちは出掛けていた為、被害者は出なかったのですが、その家に住んでいる住人の一人が『チーター』だったのですよ」
「え、それってまさか……」
「はい、現れたのはEXモンスター……その民家の中に、未報告のダンジョンが存在していたのですよ」
「「はぁ!?」」
俺と原戸さんの驚愕の声が重なる。
家の中にダンジョンだって?
馬鹿な、ダンジョン出現場所にあった建物は、そのままダンジョンに取り込まれてしまうはずだ。
実際国内でも、放置されていた幽霊屋敷が丸ごとダンジョンになったという例がある。
波柴さんの言い方からして、家自体はダンジョンでは無いはずだ。
ダンジョンが出現したのに、その民家はダンジョンとなる事無く存在していたというのか?
「んなアホな……ならその家はダンジョンが出現したのに、ダンジョンになって無かったって事ですかい? 旦那」
「ええ、そう言う事になります」
「一体どうやって……確か、ビルの地下駐車場にダンジョンが出現した結果、上のビルも丸ごとダンジョン化したって例が、海外であったはずですよね?」
「よく勉強していますね、蓮上君。確かに、建物内の一室にダンジョンが発生した場合、その部屋と連結している建物が丸ごとダンジョン化するという性質がある事が判っています」
「だったら、尚の事おかしいじゃないですか。その家のどこかにダンジョンが出来たなら、家が丸ごとダンジョンになる筈です」
「ええ、ですから、ダンジョンは建物の中に発生したものじゃ無かったんですよ」
「「???」」
言葉遊びか何かか?
波柴さんの言う事が理解出来ず、俺と原戸さんは揃って首を傾げた。
ダンジョンは家の中にあったというのに、家の中に発生したものじゃないだと?
一体どういう事なんだ??
訳が分からず困惑していると、波柴さんが笑いながら種明かしをしてくれた。
「ははは、少し意地の悪い言い方でしたね、すみません。 ――正解を言いますと、ダンジョンは家の中では無く家の中の机、その引き出しの中に発生したそうです」
「「机の引き出しぃ!?」」
は、え、引き出し? 引き出し!?
そんな馬鹿な話が在って……いや、あるのか!?
驚愕の余り俺と原戸さんが言葉を失う中、波柴さんは変わらぬ調子で話を続けた。
「とは言え、その机は出現したEXモンスターによって破壊されてしまったため、確かめる事は出来ないんですけどね。ですがこの話は、その引き出しの持ち主であった『チーター』君から私が直接聞いた話なので、信憑性は高いですよ? 『真偽看破』スキルを使いましたから、嘘をついていないのは間違いありません。あ、勿論この話は平和的に交渉して話して貰った物ですよ? 彼、引き出しのダンジョンから手に入れたドロップアイテムを『収納』スキルに溜め込んでいたようですが、出所が出所ですので換金出来ずに困っていたんですよ。出現したEXモンスターによって自宅も完全に破壊されてしまい、色々と入用だった様なので、情報を開示して貰う代わりにドロップアイテムを私の方で色を付けて買い取るという契約をしたんです。お互いにWin-Winな公平な取引でしたとも」
はっはっは! と、波柴さんは笑っているが、どう考えても公平な取引じゃなかったでしょ、それ?
出現したダンジョンを警察や役所に報告する事は法律で義務とされており、故意にそれを怠った、あるいは秘匿した場合は罪に問われる。
家をぶっ壊されて精神的に参っている所に、大金をチラつかせながら断れば警察に自身の犯罪行為をバラされかねない交渉を持ちかけられたのだ。
自業自得とは言え、その『チーター』くんが少し哀れだ。
「ちなみにその『チーター』君、『巻坂』君と言うんですが、彼は今うちの社員に就職していますよ? 探索者として活動するにしても、地元では彼の家からモンスターが現れたことは知られていますから、下手に活躍すると色々勘繰られる可能性が高いですからね。破壊された家の代わりに、新しい住居を私の方で用意しましたし、彼のご両親からもフリーターだったご子息が超一流企業に就職出来たと喜んでいただけました。いやぁ、面と向かって超一流企業などと言われると、嬉しい反面少し面映ゆいものですね。彼、小学生の弟くんと妹さんが居るのですが、その子たちも波柴コーポレーションの事を知っていてくれていたようでしてね? 自分たちのお兄さんがうちに就職した事をみんなに自慢できると喜んでいましたよ。いやぁ、子供の純粋な反応と言うのは嬉しい物ですね」
家族ぐるみで囲い込まれてるぅっ!?
怖え、波柴さん、尊敬してるけど超怖えよ。
……絶対、敵に回しちゃ駄目なタイプの人だな。
俺と原戸さんがビクビクしながら波柴さんの話を聞いていると、波柴さんはとある方向……『ステータス鑑定』持ちだと発覚したことで、探索者たちの質問攻めにあっている亮二くんたちに向けて、鋭い視線を向けた。
その視線は、紛れも無く得物を見付けた狩人の目だった。
「……ふむ、そう言えば丁度新たに見つかった『チーター』君がいるようですね? そのままにしておくと『巻坂』君の家の二の舞になってしまいますし、ちょっとお話して来ましょうか」
そう言って波柴さんは、亮二くんたちの元へと歩き出す。
俺と原戸さんは、その背中を黙って見送る事しか出来なかった。
亮二くん、ロックオンされてしまったか……強く生きてくれ。
良かったね、亮二くん。
国内有数の超一流企業への内定が決まったよ!(なお、拒否権は無い模様)
何と言うか、強く生きてくれ。
『紫秋 初』
マジックアイテムの製造販売を行う『紫秋工房』の店主にして、『十職人』の実質的なサブリーダー。
『錬金術修士』のジョブに就き、二十代半ばに見える色気の強い美女。
だが、正体は『十職人』最年長のお婆ちゃんであり、年長者という事もあってサブリーダーとして扱われている。
錬金術によるアンチエイジングにハマった結果、若返りの薬を作り出せるまでになってしまった人。
孫娘(女子高生)と買い物に行った時、孫娘を差し置いてナンパされまくった逸話を持つ。
実は、蓮上の母方の祖母と幼少期からの親友である為、ダンジョンが出現するよりずっと前、小学校低学年くらいの頃にも会った事があるのだが、今の外見と全く違う為、蓮上はそれを思い出せないでいる。




