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第二十六話 「首刈式草刈演舞」

(・▲・)「ジュリリィ(前回登場した『山形 柚子』の名前を『山形 黄泉』に変更しました。理由は前回の前書きの追記部分をお読みください)」

 メリーと共に作ったカレーをみんなで食べ終え、俺はいよいよ赤蓮荘の除草作業を始めようとしていた。


 最初にやる場所は、赤蓮荘の南側に広がる庭だ。

 他にも雑草の生えている場所はあるが、この庭が一番広い為、まずはここからだ。


 ちなみに、お昼に食べて一番美味しかったのは亞虎さんの作ったトンカツと、蘭子さんの作ったデザートだった。

 正直悔しい、精進せねば。


 ……ところで、


「毎度毎度思うんですけど、何で俺が草刈を始めようとすると酒の準備を仕出すんです?」

「「気にしない気にしない」」


 いや、気になるんですけど。


 俺がお祖父ちゃんに頼まれて赤蓮荘の掃除や除草をするのは今までに何度もやって来た事だが、亞虎さんと蘭子さんの二人は何故か二年ほど前から俺が草刈をする際、その様子を肴に酒盛りを始めるようになってしまった。

 理由を聞いてもはぐらかすし……まぁ、本人たちが楽しそうだから別に良いんだが。


「あのー……天田殿? その見た目で飲酒はどうかと「ふんっ!」へぐぅっ!?」

「黄村くん!?」

「エーくんがくの字に曲がりながらぶっ飛ばされたっス!?」

「あ~あ、駄目ですよぉ黄村先輩。蘭子さん、外見の事をとやかく言われるの大嫌いですから」

「初見とは言え、見事に地雷を踏み抜いたのぅ。忍者ァ」

「む、惨いですぅ……思いっきり壁に激突しましたよ……」

「ふんっ、当然の報いだっての! 私はこいつ(亜虎)より年上なのよ!? 飲酒だって合法よ!」


 見た目少女な蘭子さんが飲酒するのを黄村は黙って見て居られなかったようだが、全部言い切る前に素早く踏み込んだ蘭子さんのボディーブローでぶっ飛ばされていた。

 あーあ、漫画みたいに壁にめり込んでるよ。上級探索者の身体能力ならかすり傷程度だけど。

 まぁ、黄村は勝手に蘭子さんの地雷(コンプレックス)を踏み抜いただけだから放っておくとして……。


「飲酒は良いですけど、アパートの設備を壊すのは普通にアウトなんで、後でちゃんと弁償して下さいね? 蘭子さん」

「えっ!?」

「そりゃぁそうなりますよ、蘭子」


 まぁその辺お祖父ちゃんも甘いから、弁償とはならないだろうけど、一応釘は刺しておかないとな。

 日常的に壊されたりしたら目も当てられないし。


 そう思っての発言だったが、それに待ったをかける人物がいた。

 他でもない、蘭子さんにぶっ飛ばされた黄村本人である。


「ま、待って下され、首刈殿。今回の事は、不用意な発言をした拙者にも責任があるでござるよ。弁償になるというなら、拙者も半分出すでござる」

「あんた……!」


 めり込んでいた壁から自力で脱出した黄村は、多少ボロボロになりながらも笑顔でそう言って来た。

 その姿に、蘭子さんは心打たれたみたいな顔になっている。

 何だこれ?


「天田殿、先ほどは申し訳なかったでござるよ。拙者も共に弁償いたしますので、どうかご安心を」

「あんた……確か英一郎って言ったわね? ふん、中々殊勝な心がけじゃない。さっきの発言は不問にしてあげるわ」

「ははぁっ、ありがたき幸せにござる!」


 腕を組んで偉そうな態度の蘭子さんに、黄村が芝居がかった様子で平伏する。

 あいつ、忍者ロールプレイのスイッチ入れやがったな?

 楽しそうにしやがって、これだから忍者オタクは……。


 まぁ、地雷を踏んだ場面もあったが、結果的に仲良くなれそうだし良しとしよう。

 それより、いい加減草刈を始めねば。

 茶番をやっている間に日が暮れそうだ。


「おーい二人共。そろそろ草刈始めるから、邪魔にならないよう端に行っててくれ」

「「了解でござる」」


 息ピッタリですねぇ。




 ◇




 ただ草刈をするだけなのに、なんでこんなにギャラリーが増えるのかなぁ?


 と、首を傾げながらも、蓮上は『収納』スキルから大鎌の『紅鋼』と打刀の『青龍宝刀』を取り出して、それぞれ右手と左手で構える。

 ついでとばかりに『朱雀羽織』を装備状態で出現されると、いよいよ草刈が開始された。


「――ふぅ、いつ見ても見事なものですね」

「そうね、酒が進むわ」


 早速一升瓶を開けながら、亞虎と蘭子がそう語り合う。

 それに対し、他の六人は言葉も無く蓮上が行う草刈の様子に見入っていた。




 微風の様にゆったりと、大鎌と打刀の刃が振るわれる。

 淀み無い足取りで進みながら、くるくると踊る様に草を刈って行く蓮上は、まるで神楽舞のような静謐さと神秘的な空気を作り出していた。


 大鎌や打刀の刃が通過すると、それに続いて根元から断たれた雑草たちが、はらりと散って行く。

 刃が振るわれる、草が散る、刃が振るわれる、草が散る。

 その繰り返しが独特のリズムを作り出し、見ている者に演舞であるかのような印象を抱かせた。


 蓮上の動き自体はそれほど早い訳では無い。寧ろゆっくり動いていると言って良いだろう。

 しかし、一切の淀みも力みも無い蓮上の動きは何処までも自然体であり、流れるような動きは一切の遅さを感じさせなかった。

 澱みの無い一連の動きは途切れる事が無く、まるで清流の様な清らかささえ感じられる。


 本来刃を振るう蓮上の動きは、認識する事が非常に困難である。

 普段の蓮上の振るう刃は余りにも自然的過ぎて、周囲の風景に溶け込み意識する事が出来なくなってしまうためだ。

 それこそが、不可避にして不可視である『首刈レッドジョー』の戦い方の根幹である。


 しかし、今の蓮上の動きは違う。

 何故なら、現在蓮上は極めて珍しい事に、『()せる』刃を振るっているからだ。

 蓮上自身に見て貰おうという意思がある為に、首刈の刃は今この時のみ不可視の幕を取り払っていた。

 これは以前、亞虎と蘭子が蓮上にお願いしたからであり、現在では赤蓮荘で草刈をする際の蓮上の心得の様な物となっている。


 蓮上の草刈は、元が美しいだけでなく、魅せる事を意識している為に演舞としての側面が強い。

 そして『舞』とは、古来より神々へ奉納される物であり、『酒』もまた神々への奉納品とされている。


 自分たちに魅せるための『舞』、そしてそれを肴に飲む『酒』。

 それらは、信仰される側の存在である人ならざる者達にとって、現代ではほとんど味わう事の出来ない極上の供物であった。


 故にこそ、蓮上の草刈を肴に亞虎と蘭子は酒を楽しむのだ。

 それは現代では失われてしまった、古き良き時代の人と神の在り方だった。




 ◇




 亞虎さんと蘭子さんの飲む酒の匂いが薄っすらと漂う中、南の庭の草刈が終わった。

 ふっと一息ついてから、見学していた皆に声を掛ける。

 残っているのは狭い通路ばかりなので、見てて面白い物でも無いからな。


 そう思いながら振り返ると、盛大な拍手が聞こえて来た。


「うおっ、いきなりどうした!?」

「ブラボー! ブラボーでござるよ、首刈殿!」

「すっごく綺麗だったよ、赤松くん! 私、感動しちゃった!」

「なんつーかこう、神秘的って言うんスか? 兎に角すごかったっス!」


 俺の草刈を始めて見た黄村と青ヶ谷女子と緑河女子の三人が、興奮した様子でそう言って来た。

 草刈程度でオーバーな、と返そうと思ったら、以前から俺の草刈の様子を知っているメリーたちも惜しみない拍手を送って来た。


「先輩! すっごく綺麗でしたよ! 私何だか、胸がいっぱいになっちゃいました!」

「おう、相変わらず絵になるやっちゃな。人を集めたら結構な金稼ぎになるじゃないかのう?」

「お金を取って見世物にするなんて勿体ないですよ! ……これからも蓮上君の草刈は、私たちだけで楽しみたいですぅ……」


 メリー、蛇塚先輩、黄泉さんの順にこれまた絶賛して来る。

 何でこんなに高評価なんだ? 訳が判らんぞ。


 その思いを込めて、俺が今の草刈方法を実施する原因となった亞虎さんと蘭子さんに視線を向けるが、二人共既に大分飲んでいる様で、大分出来上がっていた。

 というか、転がっている一升瓶がいつの間にか、ひぃふぅみぃ……うわぁ。


「ふむ、やはり今回も大変素晴らしい舞でしたよ蓮上君。思えば、速さばかりを追求する私たちはどうにも雅さに欠けている面がありましたが、そう言った点が蓮上君に受け継がれなかったのは幸いでした。ふふ、懐かしいですね。ちょっと前に生まれたばかりだと思っていた貴方も、いつの間にか私と睡蓮(ロータス)が出会った頃と同じ位の年齢になってしまいました。私と睡蓮の出会いはもう話しましたよね? そう、あれは忘れもしない、私が人間への期待を失い捨て鉢になっていた頃、彼との出会いが私の世界を大きく変えた――」

「ふみゅぅー、れんじょー。とってもよかったわよぉ~。けど、あんたもうちょっとこっちにもかおをだしなさいよね~。あんたきてもいっつもえながとばっかりはなしてるじゃない。もっとわたしのこともかまいなさいよ。わたしのほうがおねえさんなのよー」


 うわ、めんどくせぇ。

 酔っぱらうとやたら長い思い出話をノンストップで始める亞虎さんと、やたら絡んでぐちぐち文句を言いながら抱き着いて来る蘭子さんが同時に降臨したよ。

 つうか酒臭っ、蘭子さん離れて!


「ちょ、蘭子さん! まだ草刈終わって無いんだから離して、離せよぉーい!」

「やだ」

「やだ、じゃない! 子供か!?」

「こどもあつかいすんにゃ!」

「脛は止めて!」


 酔っ払い蘭子さんが右手に抱き着きながら、ゲシゲシ脛を蹴って来る。

 地味に痛いから止めて欲しい。って言うかあぶなっ、右手で持ってた『紅鋼』を『収納』に仕舞っておかないと。


 『紅鋼』を仕舞うと、抱き着き易くなったとばかりに蘭子さんが俺の右手に全身で抱き着いて来る。

 だぁくっそ、全然離れない! コアラかよ!?


「ああ、もう! これじゃ残りの草刈が出来ないじゃないか!」


 俺が蘭子さんに文句を言うと、蘭子さんは俺の鼻先目掛けてズビシッと指を突き付け、その言葉を否定して来た。


「うそつくんじゃないわよぉ~。あのあれ、『かれん』? とかいうのつかえばすぐできるでしょ? あれつかいなさいよ!」

「いや、使ったら危ないから使用禁止って言ったの蘭子さんですよね?」

「だからわたしがきょかするんでしょ!」


 あーもう、話通じねぇ!


 ……しょうがねぇ、酔っぱらっているとは言え許可が出たし、久しぶりに使うか。

 その前に、みんなに注意だけはしとかないと。


「メリー、久しぶりに『禍蓮(カレン)』を使うから、みんなその場から動かないように見ていてくれ」

「えっ!? あれを使うんですか!?」

「許可も出たし、何かもう面倒だから早く終わらせたい」


 俺が溜息を付きながらそう言うと、メリーは真剣な目で「判りました」と返して来た。

 すまんな、色々。


「――皆さん、先輩がこれから所謂『必殺技』を使うので、その場から動かないようにお願いします」

「必殺技……で、ござるか? 首刈殿が首刈以外の技を持っているなど初耳でござるが……」

「はい、私も一度しか見た事無いですし、先輩も草刈ぐらいにしか使いませんから」

「? 草刈にしか使わないのに必殺技なの?」

「ええ、草刈にしか使いませんけど、なんであれ必ず殺せる『(わざ)』なんです」

「必殺技っスか? 格好良いっスね! どんなのなんスか?」

「有態に言って、頭のおかしい技です」

「おい」


 頭おかしいは酷いだろ。

 訳の判らないって言われたら、俺自身訳が判らない技だから否定出来無いけど。


 一方で『禍蓮』を知っている蛇塚先輩と黄泉さんは、メリーの発言に激しく同意していた。


「儂も見た事あるが、アレは本当に訳の判らん頭のおかしい技じゃったぞ?」

「ロータスさんも大概おかしかったけど、蓮上君も負けず劣らずおかしいと認識させてくれた技でした……」


 ひっでぇ評価だな、オイ。

 もういいや、さっさとやってパパッと終わらせよう。


 右手はコアラん子さんに抱き着かれてて使えないが、『青龍宝刀』を持つ左手は問題無く使える。

 いや、この技は武器を持つどころか、素手でも足でも使えるから両手が塞がっていようと問題無いのだが。


 『天眼』スキルで上空から赤蓮荘全体を俯瞰。

 雑草の生えている範囲を確認した後、俺は『青龍宝刀』を軽く振って技を使った。



「『禍蓮』」



 直後に変化が起きる。


 刀の間合いの更に先の空間に、振るった刃に一拍遅れる様に銀光が閃き、蓮の花を思わせる幾重もの斬撃が文字通り『咲いた』。

 そしてそこから連鎖して、一番初めに『咲いた』斬撃の花を中心に、波紋が広がる様に次々と斬撃の花が『開花』して行く。

 それらは一秒と経たぬ間に津波のように広がり、既に草刈が終わっている南側の庭を除いた、赤蓮荘の敷地内を埋め尽くし―――そして消えた。


 後に残ったのは、文字通り『粉微塵に切り裂かれた』、雑草だったものの粉だけだった。

 その光景に、既にこの技を知っているメリーたちすら含めて、皆が絶句した。


「「「「「「………」」」」」」

「よし、終わったな。黄村、残りの掃除は手伝ってくれよな」

「……いや、それは良いのでござるが―――首刈殿、一体何をどうしたら、あんなことが出来るのでござるか?」

「……俺も判らん」

「「「「「「判らんのかよ!」」」」」」


 うるせー!

 声を揃えられても、判らんもんは判らんのだ!!

 寧ろ誰か教えてくれ!


「むふふ、れんじょー。だっこー」

「ふふふ、蓮上君もモテモテですね。思えば睡蓮にもそういった面はありました。とは言え彼の魅力を正しく理解出来る者は早々居ませんでしたけどね。そう言った意味でも『(めい)』は最大のライバルであり良き理解者でした。意外に思われるでしょうけど、貴方の前では険悪な私たちですが、本当にお互いを親友だと思っているのですよ? 大学時代の事なのですけど、私たちがとある山奥の温泉旅館へ行った時の話なんですが―――」


 この二人は平常運転だなぁ、飲酒運転だけど。

 酔っ払いは最強なんだろうか?

蓮上は防御神性持ちなのに、ダメージを与えられる『蘭子』さんは何者なんだー(棒)


名前の由来ですが『天田』は『数多』、『蘭子』は『乱子』。

要するに『乱数』が由来です。(これは大邪神確定ですわ)

なお、司っているものの中には『ダイス(サイコロ)』も含まれます。(TRPG界隈ではアザトースでも勝てない大邪神『ダイスの女神』様万歳)



『禍蓮』

蓮上本人も、どういった原理で発動しているのか判らない必殺技。

亞虎によれば、武術と言うより『置換錬成コンバート・アルケミー』という魔法技術に近い現象であるらしい。

なお、探索者が獲得出来るスキルの中に、『置換錬成』なるスキルは存在していない。


起きている現象をそのまま言葉にすると、『一閃から発生し、無限増殖する斬撃の花』。

理論上は地球どころか宇宙その物を斬撃の花で満たして滅ぼす事も可能と亞虎は言っているが、実際には宇宙の膨張スピードを超えないので、これで宇宙が滅ぶ事は無い。(ただし地球や太陽系は……)


コントロール自体は蓮上自身が出来ているが、念のため無効化手段を持つ蘭子の許可無しに使用する事は禁止されている。

まぁぶっちゃけ、暴発してもロータスお父さんならどうとでも出来る。(やっぱあの父親が一番のチートだわ)

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[良い点] 乱数の女神とか言う邪神中の邪神までいるとか草 あれ?赤蓮荘って悪魔城だっけ?舞台の街はアーカムやらヤーナムみたいな特異点になってそう( ;´・ω・`) そして無自覚にサバト(邪教の催事…
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