第二十二話 「首刈と『山岳採掘』の『十職人』」
『王』デッキ、いつの間にかこんなに強くなってたんだな。
使ってて面白いし、北欧神話がモデルって言うのも格好良い。
しばらくこれメインで使って行こうかなぁ。
『収納』の技能書の納品を終え、俺たちは管理局支部のカフェテリアで話をする事にした。
ここの紅茶、結構美味しいんだよなぁ。
「……それで、俺に何か用があったんだろメリー?」
「あ、そうでした! 大家さんからの伝言何ですけど、近い内にアパートの除草作業を手伝って欲しいそうですよ」
「ん、了解。次の土日のどっちかに行くよ」
「はい、ではそう伝えておきますね」
あっさり終わったな、メリーの要件。
内容はお祖父ちゃんの手伝いだったし、まぁ時期的にそろそろかなとは思っていたけど。
俺の祖父である『赤松 蓮三郎』は、『赤蓮荘』という古い木造アパートの大家さんをしている。
とは言っても、大家さんをしているのは半ば趣味のような物であり、利益度外視の安い値段設定にしている為、大家としての収入はあまり無いのだが。
趣味である為、掃除や除草作業などは業者に頼まずお祖父ちゃんがやっており、俺も子供の頃からその手伝いに呼ばれる事があるのだ。
手伝うと結構な額のお小遣いが貰える為、特に不満に思った事は無いのだが……そう言えばお祖父ちゃんの収入ってどうなっているんだろうな?
アパート経営以外での収入があるのは間違いないのだが……。
まぁ、ここで考えても判りっこないし、お祖父ちゃんの謎は置いておいておこう。
それより、青ヶ谷女子に伝え損ねてたゴールデンウィークの事について伝えないとな。
「――それで青ヶ谷女子、ゴールデンウィークの事なんだが……」
「? 先輩、ゴールデンウィークがどうしたんですか?」
青ヶ谷女子に話を切り出すと、横からメリーが会話に参加して来た。
「いや、青ヶ谷女子にゴールデンウィーク中に開催するって言うアイドルグループのライブに誘われたんだが、ゴールデンウィーク中は既に予定があってなぁ……」
「え゛!?」
? 何故メリーが驚く?
可笑しな奴だと思いつつ、俺は話を続けた。
「え、そうなの? 予定って……?」
「丁度ゴールデンウィーク中に期間限定で出現する『蓬莱鉱山』って言うダンジョンがあってな、鉱山と名が付くだけあって稀少なダンジョン産の鉱石が沢山取れるから、それを生産職仲間の人たちと一緒に採掘に行く予定なんだよ」
「ああ、『十職人』の『山岳採掘』でござるか。そう言えばそんな季節でござるなぁ……」
黄村が俺の話を聞いて、訳知り顔でそう呟く。
初めて聞く単語に興味を持ったのか、それについて緑河女子が身を乗り出して聞いて来た。
「エーくんエーくん! なんスか、その『十職人』とか『山岳採掘』って?」
「首刈殿を始め、国内の最高峰の十人の生産職探索者たちが行う一大イベントでござるよ」
イベントって、別に採掘以外に何か催し物をやってるわけじゃないんだけどなぁ。
そう思ったが、やってる本人である俺の主観と周りから見た客観には結構差異があるらしく、黄村が説明した周りから見た俺たちの採掘作業の印象は、結構新鮮なものだった。
「日本国内には『蓬莱鉱山』、『崑崙鉱山』、『扶桑鉱山』という三つの有名な期間限定ダンジョンがあるのでござるが、それらのダンジョンは名前の通り山全体が稀少鉱石の鉱山で出来たフィールド型のダンジョンなのでござるよ。そこで行われるものこそが、日本国内最高峰の生産職に就く十人の探索者たち『十職人』による超大規模採掘作業、『山岳採掘』でござる! ビルみたい馬鹿でっかい専用採掘工具『超弩級山岳解体機構 グランシェイカー』を用いて、文字通り山岳その物を解体して採掘するという一大イベントなのでござるよ」
「山その物をっスか!? ……はぇー、頭おかしいっスねぇ」
「おい、頭おかしいとか言うなよ」
どストレートな感想は止めろ下さい!
正直俺だって、掘削した後のボロボロの山を見ると、我ながら人間業じゃねぇなって気分になるんだから。
一緒に採掘してた生産職の一人である『司馬田』おじさんとか、冬休み期間に出現する『扶桑鉱山』の最終日辺り連日徹夜で採掘し続けてハイになったのか、「環境破壊は愉しいなぁ!」とか言いながら血走った目で大笑いしてたし。
……うん、今回俺はゴールデンウィーク中だけの参加で、最終日とその前日は参加出来ないのは運が良かったかもしれないなぁ。
まぁ、夏休み期間中に出現する『崑崙鉱山』の方はガッツリ参加するんだけど。
「そんなのがあるんだ……『山岳採掘』はそのまま直訳だから判るけど、『十職人』の方は何か由来があるの?」
固有名詞の由来が気になった青ヶ谷女子が、そう訊ねて来た。
とは言えそう呼ばれているのは知っているが、俺も由来は知らないぞ? 周りが勝手に呼び始めただけだし。
青ヶ谷女子に俺がそう返そうとすると、これについても知っていた黄村が俺より先に答えていた。
「『十職人』の由来でござるか? あの呼び名は『職業』の『しょく』と、『色』の『しょく』をかけたものなんでござるよ。偶然ではありますが、十人それぞれが別々のテーマカラーを持っていたから、このような呼び名が生まれたのでござるな。もちろん、首刈殿のテーマカラーは『赤』でござる」
「「「なるほどぉ~」」」
「いや、なんで首刈殿まで感心しているのでござるか?」
「周りが勝手に呼び始めた呼び名だから、由来は全く知らなかったんだよ。態々調べようとは思わなかったし」
「ああ、あるあるでござるなぁ」
「確かに、そう言うのってあるよね」
「あるっスねぇ。周りが勝手に呼び出して、そのまま定着したけど本人は全然知らない、みたいな」
「………」
皆から共感を得られたなぁ。とか思ってたら、一人だけ黙ってる奴が居るな。
どうしたんだメリー? さっきから固まっているみたいだが。
「? メリー、どうした?」
「……ハッ! あ、あの、先輩? ゴールデンウィーク中の事で、イズメちゃんから何か聞いている事ってありませんか!?」
「イズメから?」
何だいきなり?
イズメからゴールデンウィーク中の事で何か聞いていないか、だと?
……そう言えば。
◇数日前の夕食時◇
『ねぇ蓮上、今年のゴールデンウィークの事なんだけど……』
『あ、ちょっと待ってくれ、今出来上がるから……よし、出来たぞ。今日はイズメの好物のサバの味噌煮だ』
『サバの味噌煮!? やったぁ! 食べて良い? 食べて良い!?』
『はっはっは! たっぷり作ったから、そうがっつくなって。ほら、お食べ』
『いっただっきまーす!! ハグハグ!!』
『うん、今日も良い食べっぷりだな。それでゴールデンウィークがどうしたって?』
『ハグハグ! うん、ハグハグ! 後で言うよ、ハグハグ!!』
『了解、後でだな』
『ハグハグハグ!! うーん、幸せぇ~!!』
◇
「……確かにこの間何か言おうとしてたけど、多分サバ食ってる間に忘れたぞ。あれ」
「イズメちゃーんっ!?」
うーん、何かゴールデンウィークのことでイズメに伝言でも頼んでたのかな?
何と言うか……うちの子がすまん。
『十職人』
蓮上を含めた日本最高峰の十人の生産職探索者たちの呼び名。
前年度の『蓬莱鉱山』で偶々顔を合わせ、そのまま流れで共に採掘する事になったが、最終的に満足の行く量の採掘が行えなかった為、何とかならないかと十人で悩んだ結果、その内の一人の発案で作られたのが、十人の技術の結晶たる『超弩級山岳解体機構 グランシェイカー』である。
その後、前年度の『崑崙鉱山』で実際に使ってみた結果、採掘は出来たが色々と問題点も見つかり、諸々の調整を行って大成功を収めたのが前年度の『扶桑鉱山』採掘である。
その時の一部始終を撮影した動画が一般公開されて世界的に大人気となり、町興しに役立つと判った為、それぞれのダンジョンが出現する町では『十職人』に対する全面協力体制が整っている。
実際『扶桑鉱山』が出現する町では、出現期間中の観光客が百倍以上に増えて、観光収入がすごい事になった。




