第二十話 「首刈と浜簪の乙女」
永長ちゃん暴走回。
永長ちゃんは少女であり乙女である以前に、探索者でハンターである。
つまり、
「貴方が好き」と心の中で思ったから、この時すでに包囲は完了していた!!
新キャラ後輩に出番を奪われ続けていた気がするが、俺のターンだ!
……何言ってんだ、俺は? まぁ良いや。
休み明けの月曜日の放課後。
俺は黄村や青ヶ谷女子、緑河女子らと共に下校していた。
先週の『神龍の角・寵愛されし者』との戦いからまだ一週間と経っていないが、あの戦いで負傷した探索者も全員既に全快して、元気にダンジョンへと潜っている。
後々分配する為に一旦俺に預けられたデウスホーンの素材だが、最終的に全て俺の物となってしまった。
何故そんな事になったのかと言えば、『姫樫堂和菓子団』が自分たちの取り分の素材を渡す事で俺に『収納』スキルの『技能書』作成を依頼した事を知った藍藤たちが、自分たちも同じように『収納』の技能書作成を希望し、更に更に他の探索者たちまでそれに便乗したからだった。
確かに技能書の主要素材になるデウスホーンの被膜と血は揃っている訳だから、作成にかかる費用は大分軽減される訳だが、だからって全員が同じものを希望するか普通?
本来目玉アイテムであるドロップアイテムの『神龍の角槍』にしたって、誰も欲しがらないし。
槍使いの藍藤に聞いてみても。
「どう考えてもそんな槍より『収納』スキルの方が有用ですわ」
って答えるしよ。
そんな槍って言うな、そんな槍って!
この槍だって、オークションに出せば億単位の値段がついてもおかしくないくらいのレアアイテムなんだぞ!?
そのせいで、こいつ一本でみんなの技能書作成の加工代が大分賄えちゃったわけだけど。
結局、土曜日を丸々使ってデウスホーンとの戦いに参加した探索者たち五十名弱全員分の技能書を作成する事となってしまった。
完成した技能書は、この後ダンジョンで渡す予定である。
全体的に見れば収支はプラスなのだが、現金が増えた訳では無い為若干虚無い。
まぁ、技能書と一緒に前々から作りたかった『魔法書』を作って新しい魔法を覚えたからテンションは高いんだけどな!
あ、それとついでに作ってみた『アレ』も試しに配ってみるか……
「――それでね、って……赤松くん、聞いてる?」
「ん? ああ、すまん。ちょっと考え事してて聞いてなかった」
「首刈殿、お疲れでござるか? やはり五十人分の技能書作成をする事になり申したから……」
「いや、それは土曜に済ませて日曜はたっぷり休んだから問題無いが」
「『れのらん』たちが言ってた、『収納』スキルの技能書の作成依頼っスよね? いいなぁ、自分たちも『収納』スキル欲しいっス!」
ダンジョンに連れて行って以降、ぼちぼち探索者活動を始めた青ヶ谷女子と緑河女子だったが、藍藤たち『私立秤間女学院ダンジョン研究会』のメンバーたちと仲良くなり、探索者としての勉強をしている。
藍藤曰く、二人共かなり筋が良いそうだが、蛇塚先輩によれば贔屓目も結構入っているそうだ。
秤間女学院では、クランメンバー以外の生徒でダンジョンの事を話せる相手が居ない為、違う学校の生徒と言えど、同年代の探索者仲間兼友人が増えたことを藍藤は喜んでいるのだそうだ。
まぁ、あのクランの中で一番経験豊富な蛇塚先輩から見ても、青ヶ谷女子と緑河女子は探索者向けの性格であり、将来が楽しみなのだそうだが。
ちなみにその時、俺がうっかり「年寄り臭い感想ですね」と言ってしまい脛を蹴られたのだが、奥義スキル『寵愛されし者』の防御神性がある為俺はノーダメージであり、蛇塚先輩は悔しそうにしていた。
流石に俺が悪いので、甘いもの好きの先輩にパフェを奢って許して貰ったが。
そんな事を思い出していると、青ヶ谷女子が俺が聞き逃していた話の続きをして来た。
「もう! だから、ライブだよライブ! 『シュガー・ポップ』の!」
「ああ、来月だっけ?」
「そう! 今回のライブは、ゴールデンウィーク期間の五日間連続で行われて、そこの物販で販売されるCDの売り上げで人気投票の順位を決めるんだよ! 赤松くんと黄村くんの分のチケットも取ったから一緒に行かない?」
「行かない?」と誘ってはいるが、青ヶ谷女子の目には「来ないなら引き摺ってでも連れて行く」と言わんばかりの目力が合った。ドルオタこわっ。
ライブに向けてか、管理局支部でも上級探索者の面々を相手に『シュガー・ポップ』の布教活動をしている姿をよく見かけるし……そのバイタリティ、ある意味尊敬するわ。
中身ドルオタとは言え、学校一の美少女が話しかけているからか、上級探索者の中でも男性探索者を中心に『シュガー・ポップ』に興味を持つ面々が増えて来ているし、管理局支部の支部長がその様子を面白がって、PRの為に『シュガー・ポップ』を呼んでのイベント開催を考えているって話も聞くし……四季山ダンジョンが侵食されつつあるような?
……青ヶ谷女子と緑河女子をダンジョンデビューさせたの早まったかもしれないな。
いや、あの二人なら遅かれ早かれ探索者になってただろうから、考えても仕方ないか。
と、それよりゴールデンウィークか。
俺自身、二人が勧めて来るアイドルグループ『シュガー・ポップ』に興味が無いと言ったら嘘になるし、態々チケットを用意してくれた以上、行ってやりたいのはやまやまなんだが……。
「あーその、何だ……実はゴールデンウィークには既に予定が「先輩っ!」」
歩きながら話し、校門に差しかかった辺りで声を掛けられた。
声の主は、俺の良く知る雪のような白い髪の特徴的な後輩女子であった。
「ん? 『メリー』か、どうした?」
『メリー』と、俺以外使わないであろう彼女の愛称を呼ぶと、彼女は一瞬にやけるのを堪えるような表情をすると、輝く様な笑顔を浮かべて俺の腕を取り抱き着いて来た。
「はい! 純情可憐な貴方の可愛い『嶋 永長』ですよ!!」
「うん? どしたんだ、急に?」
上目遣いにこちらを見上げるメリーにそう訊ねると、「何言ってんだこいつ? そうじゃないだろ!」的な顔で睨まれた。
何故だ。
困惑していると、メリーとは初対面であろう緑河女史が騒ぎ出した。
「うっひゃー! すっげー美少女っス! めっちゃ可愛いっス!! 誰っスかその子? ジョーくんの彼女ちゃんっスか!?」
「いや、こいつは「彼女どころか未来のお嫁さんですよ!」おい」
俺の言葉を遮ってメリーが強く主張する。
勝手に何てこと言ってんだこいつ! と思い、文句を言おうとしたところで気付く。
こいつ、よく見たら耳が赤くなってんな。肌が白いから良く目立つ。
自分で言ってて恥ずかしいなら言わなきゃいいのに、と思っていると、メリーは引っ込みがつかなくなったのか、勢いに任せて喋り出した。
「黄村先輩はしばらくぶりですね。お二人は初めまして! 蓮上先輩と籍を入れる予定の嶋 永長と言います! 苗字はいずれ赤松に代わるので、気軽に永長って呼んで下さ「調子に乗るな」ふきゃん!?」
空いている左手でメリーの頭にチョップを入れる。
直撃を食らったメリーは頭を両手で押さえながら、へなへなとその場に崩れ落ちた。
「ひ、酷いです先輩。DVです、ドメスティックバイオレンスです! 家庭内暴力です!!」
「俺がいつ、お前と家庭を築いた?」
「いずれそうなる予定なんですよ!」
「予定は未定であって決定では無いからな?」
「ふっふっふ、本当にそうでしょうか?」
「……どういう意味だ?」
「私は既にイズメちゃんと協力関係にあります。後はマミナちゃんとコノハちゃんを協力して取り込めば良いだけなので、時間の問題ですよ?」
「え……何それ聞いて無い。マジで?」
「マジでーす♪ 判ってましたからね。イズメちゃんたちを味方にすれば、先輩は絶対に逃げられないって。覚悟の用意をしておいてくださいね?」
「おぅっふ……」
こ、こいつ、的確に外堀を埋めて来やがった!?
源爺ちゃんの道場に一緒に通っている事は知ってたが、まさかイズメを取り込んでいたとは。
不味い、ペット三匹の長女を抑えられた。これでは逃げ場がない。
ど、どうしよう。母さんたちになんて説明すれば……!?
「あばばばば……!?」
「首刈殿の頭から煙が!?」
「おおー、漫画みたいな光景っス!」
「その反応はズレてると思うよ、ハルちゃん」
いつの間にか追い込まれていたことを知った俺がテンパっていると、メリーは再び俺の腕に抱き着き、それこそ花の咲き綻ぶ様な、思わず慌てるのも忘れて見蕩れてしまう様な笑顔を浮かべ、俺だけに聞えるように背伸びして耳元でこう言った。
「――私は、貴方が名前をくれたあの時から、絶対に貴方と共に生きるって決めましたから、逃げられると思わないで下さいね。蓮上さん」
……何だかもう、言葉が出なかった。
はぁ、君がここまで押しの強い女の子だとは知らなかったよ。
それが敗因って事かな、『アルメリア』?
息を吐きながら空を見上げ、俺はメリー……アルメリアと出会った当時の事を思い返した。
『アルメリア』
今は『嶋 永長』を名乗る、かつて名無しだった彼女に蓮上が送った名前。
和名は『浜簪』と言い、白やピンクの花を咲かせる。
花言葉は『思いやり』『同情』『共感』『心遣い』『歓待』『滞在』そして……『可憐』
この名前には、彼女に対して蓮上が感じた全ての想いが詰まっている。




