第十八話 「魔導教典書士の帰宅」
序章エピローグです。
『『神龍の角・寵愛されし者』の討伐を確認』
『奥義スキル『寵愛されし者』を獲得しました』
デウスホーンドラゴンの首を刎ねた一瞬の後、突如視界内に『ステータスメニュー』が出現し、以上のメッセージが表示された。
突然の事だが驚きは無い。このメッセージは以前『骸剋龍夜刀神・|天破激震の頂《インパルス・オブ・ザ・ワン》』を討伐した時にも表示された経験があるので、事前に予期していたのだ。
メッセージの下には、新たに獲得した奥義スキル『寵愛されし者』の効果についてが書かれていた。
何々? 『全能力値上昇』に『HP・MP高速回復』、『被ダメージ削減障壁』に『防御神性』っと……何だこのぶっ壊れスキル!? 大体予想通りな内容だけど、MPの高速回復までついてるとかチートだろうが!!
改めて『神龍の角・寵愛されし者』がどれほど強大な相手だったのかを再認識しつつ、首を断たれ落下を始めたデウスホーンドラゴンの死体と、メッセージに気を取られている間にいつの間にか出現していたドロップアイテム『神龍の角槍』を『収納』スキルで回収する。
デウスホーンドラゴンは、尻尾の長さを含めなくても全長五十メートルを超える巨大なモンスターだ。
『収納』スキル無しで全ての素材を回収は非常に難しい。
デウスホーンドラゴンに限った話では無いが、強力なボスモンスターは血の一滴にすら高値がつくため、一切無駄にする事無く回収したい。
しかし、『収納』スキルを持たない一般的な探索者が巨大モンスターを討伐した場合は、必要な素材をその場で切り分けて、後はその場に放置するしかないのだ。
例え後から取りに戻ったとしても、他の探索者に持っていかれるか、周辺のモンスターの胃袋に収まってしまう。
その問題を解決してくれる『収納』スキルの有能さは、やはり天井知らずだ。
多少無理しても、早めに『技能書』作って良かったなぁと、過去の自分を褒めながら、『収納』スキルから再び『朱雀羽織』を取り出して纏い、通常の飛行形態へと移行して探索者たちの待つ陣地へと俺は戻った。
素材やドロップアイテムの分配は皆で話し合って決める事になる訳だが、『神龍の角槍』はちょっと揉めるかもなぁ。
俺は使わないから別に良いが。
「おお、戻られましたか、首刈殿!」
「ああ、この通りだ」
陣地に戻ると、俺が貸し出した四つの『五色教典』を抱えた黄村が出迎えてくれた。
他の探索者たちは、撤収の準備を進めているようだ。
「こちら、皆がお借りした『五色教典』にござる。拙者が代表してお返しいたす」
「うむ、確かに……みんな迷わず撤収し始めているが、デウスホーンの素材やドロップの分配の相談はしなくて良いのか?」
黄村から受け取った『五色教典』を『収納』に仕舞いながらそう訊ねると、黄村は事情を説明してくれた。
「その事なのでござるが、皆で話し合った結果デウスホーンの素材は、しばらく首刈殿に預かっておいて欲しいという事になったのでござるよ」
「そうなのか?」
「デウスホーンの素材は、途中で退場した者も含めて、今回の戦いに参加した全員に分配されるべきという事になりましてな。重症者の意識が戻るのにも、メンバーリストを作るのにも時間がかかる為、それまでは首刈殿の『収納』に保管しておいて欲しいのでござるよ」
「了解。デウスホーンの死体はほぼ完璧な状態だから、血液だけでも相当量取れるぞ。期待しとけ」
「流石でござるなぁ」
モンスターを解体する場合、どうしても少なく無い量の血を無駄にしてしまう事になるが、『収納』スキルがあれば流れ出た血を余す事無く回収することが出来る。
ドラゴンの血は『魔法書』系統のアイテムを作る際に使うインクの原材料になる為、結構楽しみだったりする。
後は翼の被膜なんかも欲しいなぁ。
「―――それから首刈殿、拙者……というか、『姫樫堂和菓子団』からのお願いがあるのでござるが」
「? なんだ?」
「拙者たちの分の素材を首刈殿にお譲りするので、その分を『収納』スキルの『技能書』の代金に充てて欲しいのでござるよ」
「そう言う事か」
デウスホーンの素材は確かに高く売れるが、その金を『姫樫堂和菓子団』全体の為に使おうとするなら、最優先は『収納』スキルの『技能書』の購入代金だ。
一般市場で探すよりも、俺に直接依頼した方が安上がりな為、換金する手間を省いてのこの申し出なのだろう。
「なるほどな……素材の優先権はどうなっているんだ?」
「デウスホーンを討伐した首刈殿が一位、続いて『姫樫堂和菓子団』が二位で、『私立秤間女学院ダンジョン研究会』が三位と言った具合でござる。この辺は『神聖特性』持ちが選出理由でござるな」
「まぁぶっちゃけ、『防御神性』持ち相手だと『神聖特性』持ち以外は足手纏いだからなぁ」
もちろん防御や回復支援での貢献もあったのだろうけど、その辺も技量的に綾乃さんが独占してそうだからな。
まぁとにかく、藍藤に話を通して置けば大体大丈夫だろう。
そう判断して、俺は黄村に一つの提案をした。
「なら、お前らの優先権で選ぶ素材は翼の被膜と血液で良いか? デウスホーンの被膜と血なら、『収納』の『技術書』作成の主要素材に使えるからな」
「本当でござるか!? ぜひお願いするでござる!!」
「了解、『技術書』作成に必要な分以外の素材は、主要素材以外の素材の費用と技術料で貰っておくよ。そこから余った分を現物で返すか現金で返すかはまた後で話し合おう」
「承知したでござる! 早速綾姉たちにも知らせて来るでござるよ!」
「あ、ならついでに藍藤も呼んで来てくれ。藍藤が欲しがる素材によってはまた交渉しなきゃだからな」
判ったでござる~! と言いながら、黄村は走り去っていった。
はてさて、イレギュラーな事も起こったが、ようやく帰れそうだな。
一息つくと、そう言えば今日はマミナの部屋の防音アイテムを直す為の素材を回収する予定だったんだと思いだした。
藍藤との交渉が終わったら、パッと行って取って来なきゃなぁ。後、コノハのお土産に何か探さないと。
今日は実家に帰らなきゃだし、予定が一杯だぁ。
まだまだ休めないなと思いつつ、俺は黄村が連れて来る姫樫姉弟と藍藤の姿をぼうっと眺めていた。
◇
姫樫姉弟や藍藤を交えた交渉、防音アイテム素材『魔化火取蛾の鱗粉』の確保、コノハへのお土産である『グレイテスト・ボア』の確保。
それらを終えて家に帰る頃には、夜の七時をちょっと過ぎていた。
更にこれから実家に帰って夕食を食べたり、母さんやお祖母ちゃんと『OHANASHI』をしなければならない。
……明日も学校があるのにこれは辛い。
「ただいまぁ……」
肩を落としながら玄関を開けると、ほとんど白に近い灰銀のモフモフした毛並みが飛び掛かって来た。
「おかえりなさい! 蓮上、帰るの遅い!!」
「うん、ただいま。ごめんなコノハ」
「ワゥッ!!」
飛び掛かって来たモフモフを受け止め、抱きしめながらモフモフの尻尾を堪能する。
俺が抱き締めているのは、狼の耳と尻尾を持った俺より背の高い女の子、『四季巡礼の山地・常冬の山頂』に生息する狼型のモンスター『スノーダストウルフ』を『テイミング』スキルで『テイム』した存在。
三匹目のペットである『コノハ』であった。
俺がコノハの尻尾と、腰まで届くさらさらとした髪の感触を堪能して癒されていると、奥からイズメとマミナも姿を現した。
「おかえりー蓮上。今日は遅かったね?」
「お帰りなさい。 ……もう、遅くなるならちゃんと連絡しなさいよね」
「うん、ただいま。連絡もせずごめんな、ちょっと色々あってな」
連絡しなかったことをジト目で攻めるマミナに謝りながら、コノハを抱っこして移動する。
そうしてイズメとマミナに近付くと、既に抱っこしているコノハごと一緒に抱きしめた。
「ちょ、蓮上!?」
「? どうしたの蓮上?」
「いや、何か癒されるなぁって思って」
「ワゥ、蓮上、お疲れ?」
「うん、ちょっとね」
正確にはこれからお疲れになるんだけどな、主にお説教とかで。
その前にこうして、ペットたちから勇気と言うか元気というか、何かそう言うものを貰っているのである。
「マミナ、もう夕飯は作っちゃった?」
「え、ええ、もう作ったけど、それがどうかしたの?」
「なら、それを『収納』に仕舞ってから出かけなくっちゃな」
「出かけるって、みんなで? どこ行くの?」
「実家。母さんとお祖母ちゃんが、今夜は家で夕食を食べなさいってさ」
「お母さんのご飯!? ワゥゥッ! 楽しみ!!」
「ああ、そうだな」
母さんの料理が食べれると聞いて、尻尾をブンブン振り回しながらテンションマックスのコノハと、コノハ程オーバーリアクションでは無いが、実に嬉しそうなイズメとマミナ。
まぁ、俺も母さんの料理を食べるのは久しぶりだから、かなり楽しみなんだけどな。
でもその後のお説教タイムがなぁ……と若干憂鬱になっていると、イズメが俺の頬にそっと手を添えて来た。
「? どうした?」
「うーんとね……お疲れさま、蓮上。今日もよく頑張りました」
そう言ってふにゃりと笑うイズメの顔が何だか面白くて―――とても温かくて、俺は思わず笑ってしまった。
「ハハハッ! ああ、今日も頑張ったぞ!」
「ワフ、蓮上は頑張り屋さん!」
「頑張るのと同じ位ふざけるけどね」
「マミナ、息抜きだよ息抜き!」
「そうそう、息抜きは大事だもんねー?」
「イズメも蓮上に便乗しないの!」
「ふむ……『れんじょう』と『びんじょう』」
「言わんでいい!」
「ワウ?」
そんな風に騒がしく話ながら、俺たちは実家に向かって歩いて行く。
その途中、流れ星を見つけたので折角だから願い事をしておいた。
明日も騒がしく楽しい一日でありますように!
今回を持ちまして、『序章・魔導教典書士の一日』の終了です。
ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました。
見切り発車と言うか、「今すぐ話を書きたいのに、プロット立ててると直ぐには書けない。そうだ、プロットなんて捨てちまおう」で書き始めたこの作品ですが、ブックマーク登録や、感想をくれた皆様のおかげでここまで書き続けられました。
次回からは、短編と長編を適度に織り交ぜながら、バトルありコメディありで、溜め込んだ設定を練り込みつつ、作品の世界観を広げて行けたらと考えています。(理想は銀魂、為れるとは言っていない)
毎日更新は続けますので、次回もお楽しみに!
……所謂『サザエさん方式』を、フロム脳が世界観に盛り込むと、楽しい事になりそうですよねぇ(歪んだ笑み)




