プロローグ
新作始めました。
桜の花びらの舞う中、心地の良い微風が吹いている。
青い空と白い雲、花見にもピクニックにもピッタリのシチュエーションだ。
……明るく晴れているというのに太陽が無く、桜の花びらと共に、辺り一面に撒き散らされた血飛沫の鉄錆びた匂いが立ち込めて無ければの話だが。
満開の桜の木々が立ち並ぶ中、周囲には首から上を刎ねられた巨大な獣たちの死骸がいくつも転がっている。
そんな只中に、『俺』は黒の柄と赤い刃を持つ大鎌を携え、周囲の血や大鎌の刃よりも鮮やかな色をした紅蓮の外套を纏って佇んでいた。
ここは『四季巡礼の山地・常春の裾野』。
俺の住む町から最も近場にある『ダンジョン』の一つである。
◇
今から三年ほど前、世界各地に『ダンジョン』が発生した。
原因は不明、現在も各国がその発生起源について研究を行っているが、芳しい成果は上がっていない。
『ダンジョン』は、それこそ『ゲームに出て来るダンジョン』そのもののような場所で、世界に様々な物を齎した。
内部からは地球上に存在しない未知の生物や未知の植物、未知の鉱石など様々な物が発見され、更に特殊な力を持った『マジックアイテム』と呼ばれる存在も、現在では一般流通し始めている。
これらの存在も世界に衝撃を与えたが、より世界を熱狂させたのは『ステータス』や『ジョブ』に『スキル』、そして『魔法』の存在であった。
ダンジョン内で初めてモンスターを倒した際、その人間は『ステータスウィンド』と呼ばれる物を視認出来る様になる。
この現象を、人々は『ステータスを獲得する』などと呼んだ。
『ステータスウィンド』は、まんまゲームに出て来るようなステータス画面そのもので、これを使って現在の自身の『ジョブ』やレベルに能力値、修得した『スキル』や『魔法』の確認を行うことが出来た。
ステータスを獲得する事によって得られるものは、
まずは『ジョブ』。
そのまま職業とも呼ばれるこれは、ステータスの値や成長方向にその分野の適性与えるもので、何百もの種類が存在している。
この『ジョブ』の存在によって、様々な『スキル』や『魔法』が簡単に使えるようになるのだ。
次に『スキル』。
これはレベルアップをした際などに獲得出来る特殊能力だ。
大抵は現在の『ジョブ』に由来したものを獲得するが、少なくない頻度でそれまでの行動に由来したものを得る事もある。
最後に『魔法』。
これは『魔法使い』などの『ジョブ』となる事で使用出来る様になるもので、これを使いたいがために、ステータスを獲得したと言う者も多くいる。
今の俺の様に、ステータスを獲得しダンジョン内に潜ってモンスターやダンジョン産の植物、鉱石などを売って金銭を得ている者を世間では『探索者』と呼んでいた。
もっとも、俺はまだ学生である為、専業と言う訳ではないが。
この三年間で、世界は大きく変わった。
衣服や日用品にダンジョン産の素材を使用している物も増えたし、スーパーなどでダンジョン産の食材を売ったり、電子機器にダンジョン産の鉱石が使用されているというケースもある。
ダンジョンとの存在が、日常生活に組み込まれつつあるのだ。
もちろん、ダンジョンの存在は誰にも拒否されずに受け入れられたわけでは無い。
今でもダンジョンの危険性を訴えている団体は沢山あるし、実際問題ダンジョンは俺たちの日常を侵食しているとも言えるのかもしれない。
だが、あいにく一介の高校生でしか無い俺にはどうしようもない話だ。
危険性云々の話も確かに理解出来るが、実際ダンジョンが出現してから景気は上向きになったし、ダンジョン産の素材を使って次々に新しい便利な物が日々生まれ続けている。
この三年間、ダンジョンが原因となる災害が発生した訳でも無いし、実害が無い以上ダンジョンから得られる利益を優先したいと思うのが人情だ。
危機感が薄いと言われても仕方が無い事だが、人間の考える事なんてそんなもんだ。
それに……
「……さーて、さっさと回収して帰らないとな。帰りに夕飯の食材も買って行かないと」
現実的な事を言えば、探索者と言う職業は儲かるのだ。
もちろん、それは一定以上の実力を持った『稼げる探索者』に限った話だが、俺はそこそこ稼げる側の人間である。
周囲に転がるモンスターたちの死骸を、ダンジョン入り口に設置された国営のダンジョン管理局支部に持ち込めば買い取って貰えるし、帰りの買い物もそのお金でする予定である。
そもそも、ダンジョンが出来る前だって『カニ漁船』何かの、命の危険がある仕事って言うものは少なからず存在していたのだ。
今更気にしたって仕方ない事なのだ。
そんな風に自分に言い聞かせて、今日も俺はダンジョンに潜る。
理由は単純、生活費を稼ぐためだ。
「待って居ろよ、俺の可愛いペットたち!」
ちなみに、生活費の大部分はペットとして飼っている動物たちの食費だ。
いっぱい飼っているし、みんな食いしん坊だからなぁ。
モンスターたちの死骸を『収納』スキルで回収した俺は、決意も新たにダンジョンから即時脱出する為の魔法『リターン・オブ・ダンジョン』を唱えてダンジョンの入り口へと転移する。
無事に転移が終わったところで、ダンジョン入り口前に建てられた管理局支部でたむろしていた他の探索者たちが騒めき出した。
「おい、『首刈』が帰って来たぞ」
「あれが『レッドジョー』か、おっかねぇな」
「『ジョー君』相変わらずフード被っててもイケメンよねぇ。フードを取ると途端にイケメンじゃなくなるけど……」
「いや、『レッド』は普通に顔立ち整っているぞ? ただ、フード外すと雰囲気がもっさりするんだよなぁ」
「いやいや、彼はダンジョンから出るともっさりし出すんですよ。僕は一度だけ『蓮上君』がダンジョン内でフードを取っている所を見ましたが、その時はきちんとイケメンでしたよ?」
「わかるぅ~。ダンジョン内限定のイケメンだよねぇ~『赤松くん』はぁ~」
「……あんたら、俺を弄って楽しいか?」
「「「「「もちろん!」」」」」
「ムカつく! この社会人たちムカつく!!」
そんな感じで、今日もダンジョン『四季巡礼の山地』は概ね平和です。
そしてここで自己紹介を一つ。
俺の名は『赤松 蓮上』。
『首刈レッドジョー』なんて物騒な呼び名がある事と、『日本国内最強の探索者の一人』何て呼ばれていること以外は、普通の高校生です。
……あ、後ちょっぴり人見知りです。
オリジナルには、二次創作とは違った難しさがあるなぁ。
まぁ頑張ります。