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深夜の不審者

作者: ぺるしゃ*

 夜遅く、窓の外を眺めている。どこかの家の窓を開ける音が微かに響いた。


 部屋の住人が換気のために開けたのか、と思ったのだがどうやら違うらしい。




 よく目を凝らしてみると、そろそろと窓のサッシをまたいで中へと入る男の姿が。不法侵入? 通報するべき? 迷っている間に男はさっさと部屋の中へと姿を消してしまった。


 ……あれ、そこの部屋ってまだ若い20代くらいの女の子の部屋じゃなかったっけ。え、どうしよう。警察に通報……、110番……。

 なんて考えていたら、びくっ! さっ。瞬時にしゃがんだ、窓の下に隠れるように。


 まさか男がいきなり窓の外を振り返るとは思わなかった……。こっちには気付いてないよね。不法侵入するような奴と目が合ったら、何が起こるか分からない。口封じ? 次の獲物? そんなことは考えたくない。そもそもじっと見なければよかったじゃないか、って? つい気になってしまったのだから仕方がない。だって窓の外を眺めていたら、おかしな様子のところがあったから……。




 さて、そろそろあの男も消えたかな……?


 えっ……。まだ居た。しかもこっちを見ている。完全に目があっている気がするのだけど……?

 ちょっと待て、落ち着こうか自分。端から見たら、不審な奴と見つめあっている状況だぞ、これ。よし落ち着こう。深呼吸、ふーっ。


 ん? 落ち着いてから改めて窓の外を見ると、そこにはもう男の姿はなかった。危険は去った、か。って、中の住人は大丈夫だったのだろうか。今からでも通報したほうがいいだろうか……。


 ?! 突然目の前に何かが現れた! そう、あの男だ。先程向かいの家に不法侵入していたあの男が、である。予想外過ぎて、ただ口をパクパクするしかなかった。


 待って、よく見るとこの男何やら大きな袋を持っている? 人が一人入りそうな大きさだ。何やら喋りかけてきているみたいだが、生憎家の中に入れるつもりはない。窓の鍵はきっちり締めてある。先程男が不法侵入しようとしているのを見た時点で締めておいたのだ。


 カラカラ。えっ? 男が侵入してきた、部屋の中に。先程のときとはまるで比べ物にはならないほどに素早く。ピッキングして開けたのか……! そんなまさか……。こんな短時間で……? もう逃げ場はない。




 男はにこやかな笑顔で、きっちりラッピングされた包みを渡してきた。


 一体なんだ?


 男が口を開いた。




 “Merry Christmas!!”




 ああ、今日クリスマスか。袋の中身は大量の贈り物のようだ。




「いやあ、参ったよぉ。不審者だっていう目であんなに見つめられたら」


 だって見るからに不審者でしたから。人の家に不法侵入する現場を目撃したんですよ?


「手厳しいねえ。ははは、おじちゃんも困っちゃうなあ」


 あれを見て誰がサンタだと思いますかー! しかも、この家に入るときは一瞬でしたし。口封じにきたとしか思えませんでしたよ……。


「最近は戸締まりしっかりしている家庭が多いからね。鍵を開けておいて泥棒に入られたら困る、ってね。だから今どきのサンタ養成所では、素早く鍵を開ける技も習うのさ。素早くかつ静かに開ける訓練さ」


 それにしては、ゆっくり開けていたような……。


「ああ、あれは起こさないように静かに開けようと最大限の注意を払っていたからさ。あの家の住人はほんの少しの音ですぐ起きてしまうからのう」


 なるほど?




 がくん。

 はりつめていた緊張感が無くなったからか、体に入っていた力が一気に抜けた。


「おっと、大丈夫かね」


 あんたのせいで大丈夫じゃなかったんだよ!

 と心の中で叫ぶ。


「わしのせいか。それ悪いことしたねえ」

 サンタは苦笑いしながら謝った。


 心の声が漏れてたか。


「いやあ、毎年何人かには目撃されてしまうんじゃよ。全く。こんな深夜3時に起きている悪い子が何人もいるせいで! 何しとんじゃい!」


 なんか聞いてはいけないものを聞いてしまったような?


「これでまた上司に怒られてしまうわい。あー、今年こそは誰にも見られずに終わらそうと思っとったのじゃが。あーあ」



 なんだかすごく空気が重たい。こちらを見てくる視線が痛い。分かったよ、もう。

“あのー、サンタ見たとは言わないでおきますよ?”


「お主が見たと言おうが言うまいが、もうばれておるのじゃ! 上司に! ボイスレコーダー搭載じゃからな」


 えっ、じゃあ今こうして喋っている記録も……?


「ああ、もちろんとっておるよ?」


 でもそれって、何も話さずに黙っておけばばれなかったんじゃ……。ここに寄るのも後回しにして。


「それじゃと、わしが不審者決定だったろ? それはあんまりじゃないか」


 つまり……、誤解されたままは我慢ならなかった、と。

 でも、いくらサンタとは言えども、不法侵入したという事実はなくならないんじゃー。


 ちらっ、とサンタの様子を伺う。


 サンタがわなわなと震えている。


「それは皆黙認しておるのじゃろー! 暗黙の了解じゃー!! ○△★●!!」


 待って待って、近所迷惑になるー!!




 なんとか声のトーンを落としてもらえた。ふう、やれやれ。


 静まったところで改めて聞く。

 でも結局は、締まっている鍵を勝手に無理やり開けて侵入するのは不法侵入ですよね?


 ぶちっ。あっ、切れた。


「じゃあなんじゃ、お主はプレゼントいらないんじゃなー!! もうここには絶対来てやらんぞ!!!」

 サンタ、大人げない。



 ごめん、もう突っ込まないから。プレゼントはほしいです。


「ふん、分かればよろしい」

「それにしても、ああー今年も失敗したー。うじうじぐだぐだ」

 サンタ、今度は落ち込みモードに突入。



「来年こそは、夜は寝るように徹底して言い聞かせておかないと、あーもう」






皆さんのところには、不審者……じゃなくて、サンタさん来ましたかね?

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