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グリムリーパー  作者: 湖灯
*****Hell Battlefield(地獄の戦場)*****
95/273

【Second Sergeant Vivaldi(ビバルディー二等軍曹)】

「いよう! 1等軍曹、今夜は愛しい彼女と喧嘩別れかぁ? まったくお盛んな事で!」

「あんにゃろ!」

「かまうな」

 トーニが怒るのを、俺は制止する。

 俺をからかってきたのは、普通科のビバルディー2等軍曹、一番脂がのり切った29歳の軍曹は10も歳が下の俺の昇進が気に入らないらしい。

 だから昇進するのは嫌だったのだ。

 2等軍曹が1等軍曹に上がったところで、戦場で弾が逸れてくれる訳じゃない。

 むしろ他の隊と連絡するために無線機を使う機会が多くなるので、敵の狙撃手からは的にされやすい。

 そのうえ同じ部隊内で嫉妬を受けたんじゃ割に合わない。

「ビバルディーの野郎、自分の技量不足を棚に上げて、俺たちLéMATを目の敵にしてやがるからな」

 席に着くと、先に喰っていたモンタナがビーフシチューを突きながら言った。

「知っているのか?」

「ああ、昔は俺も同じ普通科分隊に居たからな」

「同期か?」

「ああ、俺がアメフトで醜態を晒して逃げて来たとき、奴もまた同じような事をサッカーでやっちまってな……年も同じだったから、あの頃はよく連るんで遊んだもんよ」

「いつから、ああなんった?」

「コルシカの空挺訓練。俺たちは元スポーツ選手という自信もあって、どちらがトップで卒業するか賭けをしていた。当時は2人とも平隊員だったから、トップ卒業なら伍長に昇進できる。しかし結果的に俺たちはトップどころか、卒業も出来はしなかった」

「学科で落ちたのか、そりゃあ可哀そうに」

「馬鹿、そんなんじゃあねぇ」

 いつものように、からかってくるトーニにモンタナが珍しく素で答えた。

「高原のマラソンも奴が1位で俺が2位。良い調子だったんだ、本チャンの降下訓練まではな」

「事故か……」

「ああ、しかも最悪の……」

 僅か地上200メートル足らずの高さからパラシュート降下。しかも時速300キロで飛ぶ輸送機から。

 タラップから飛び出して3秒以内にパラシュートが開き切らなければ、直ぐに予備のパラシュートを出さなければならない。

 判断がコンマ5秒遅ければ減速できずに地上に叩きつけられるし、コンマ5秒早く予備のパラシュートを出すとパラシュート同士が絡まってしまい、それを直しているうちに地上に激突してしまう。

 毎回事故が起こるわけではないが、俺の時は超低空での降下訓練の際、ひとり死んだ。

 事故の詳細をモンタナが話してくれた。

 ビバルディーが飛び出すまでは、何の問題も無かった。

 だが問題は直ぐ次の隊員に起きた。

 通常パラシュート降下は、誘導員が安全なタイミングを見計らって降下の指示を出す。

 でないと、勝手に次々に飛び降りられたら、開いたパラシュートに次の隊員が突っ込んでしまうから。

 もう今となっては原因は分からないが、次の隊員は誘導員の指示を待たずに飛び出してしまった。

 そして先発したビバルディーのパラシュートに当たってしまい、パラシュート同士が絡み合う。

 両者とも直ぐに予備のパラシュートを開いたが、あとから来た奴の方は予備のパラシュートも同じように絡まってしまった。

 落下しそうになる相手の体をビバルディーは掴んだ。

 見捨てることが出来たなら、まだ着地出来たかも知れない。

 だが、ひとつのパラシュートに二人ぶら下ったのでは、殆ど減速は出来ないまま地上に叩きつけられる。

 相手は首の骨などを折り即死。

 そしてビバルディーも全身の骨を10数本もおる大怪我をした。

「2年間入退院を繰り返したあと、奴は復帰した。だがもうその時の奴は、俺が知っていた陽気なスポーツマンじゃなくて、全くの別人になっていたよ」

「でも、それでナトーや俺たちを恨むのは筋違いだろう」

「まあな、でも、何かにぶつけていなけりゃやっていけないんじゃないか?」

 俺の周りにトーニやモンタナ、そしてブラームが集まってきていると言うのに、ビバルディーの机の周りには誰も居ない。

 一人黙々と夕食を食べているその姿を見て、俺は妙に昔の自分を思い出していた。

挿絵(By みてみん)

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