【Cocktails and secrets(カクテルと秘密事項)】
パリでのテロ騒動が全て終わったあと、参加した各組織が国から特別表彰を受けた。
もちろん俺たちLéMAT(フランス外人部隊の特殊部隊※架空)も。
そして部隊とは別に、俺は今回の騒動でオアズケになっていたリビアでの“Šahrzād作戦”の功績を称えられてDGSE(対外治安総局)から正式に勲章を授与され、それから今回の対テロ作戦の功績に対しても、部隊とは別に内務省からエマと共に勲章を与えられた。
この2つの受勲に、トーニが「この実績じゃあ、テシューブにも圧力が掛かるんじゃねぇか?」と言っていたが、その言葉を証明するように数日後に1等軍曹の辞令が来た。
「なんでぃ!勲章を2つも貰ったのに上がった階級はたったの1つかよ。まったくテシューブの奴しみったれてやがる!」
「いいよ、これでも充分過ぎる」
「ナトー、それじゃあ欲が無さすぎるぜ」
そうフランソワが言った。
「まったくだ。使えなくなっていたベルを蘇生させただけでも充分将校に値する働きだって言うのによ」
モンタナも、そう言ってくれた。
「将校になられると、この分隊から外れるって言うことになるから、俺的には少しホッとした気もするけれどな」
ブラームが、気遣ってくれた。
「何言ってんだよ、もうひとつ階級が上がっていれば“曹長”だぜ。曹長と言えば下士官の中で一番上の階級で、小隊長も任されるばかりか、実質は将校の中で一番下のクラスの准尉はおろか少尉より上に見られるんだぜ。しかも曹長なら分隊長に留まることだってできるし、専任曹長になれば部隊長にも接に意見できる権利迄つくんだぜ」
「ありがとう。俺にとっては、そう言ってくれる仲間がいると言う事が、何よりも嬉しい。これからも宜しく頼む」
こう挨拶することで、この話を強制的に打ち切った。
正直、階級なんて俺にとって何の意味もない。
それが上がっても下がっても、しなくてはいけないことは変わらない。
変わるのは、僅かな給料くらいなもの。
それとて、特別欲しい物がない俺にとっては、あまり価値がない。
そんな事より、今俺が一番気になっているのがハンスの事。
別に好きとかという感情ではない。
最近のハンスは訓練もニルス少尉や俺たち分隊長クラスに任せっきりで、会議ばかりに出ている。
何の会議なのかは極秘事項らしくニルスに聞いても教えてくれないが、次の作戦がいかに困難で大掛かりなものかはハンスの表情と会議に呼ばれたメンバーで分かる。
LéMATからはハンス中尉とマーベリック少尉、それに普通科中隊のペイランド少佐と部下の小隊長がたち、補給部隊からはニール中尉。
他にも国軍の偉い人や外務省の人間も来る。
そして会議が終わって帰る時の顔は、みんな泥のように暗い顔をしていた。
休みの日にDGSE(対外治安総局)のエマのアパートを訪ねた。
エマなら、ことの詳細を知っているかも知れない。
だけどエマも教えてはくれない。
どれだけ聞いても「知らない」の一点張り。
海外の情報を調査することが仕事の、対外治安総局が知らないわけがない。
しかも、エマはその中の北アフリカを担当する大尉で、自分のオフィスも持っている。
あくまでも、知らないと言い張るのなら、こちらにも考えがある。
「ねえ、そんな話よりもナトちゃん、カクテルは何にする?」
バーの前に立ったエマが、ソファーに座る俺に言う。
「Évian」
「OK、何で割る?」
「Volvic」
「……他には?」
「Vittel」
「……その他には?」
「Contrex」
エマが腰に手を当てて、俺を睨む。
「もう……ナトちゃん、なにそれ!?」
「だって、エマったら何を聞いても“知らない”の一点張りなんだもの」
「しょうがないでしょ、極秘事項なんだから!」
“極秘事項?!”
今まで知らないで通してきたエマが口を滑らせる……でも、これは屹度ワザとだ。
「ゴメン、じゃあエマ、オールド・パル頼める?」
オールド・パルは、同量のライ・ウイスキー、ドライ・ベルモット、カンパリ・ビターをステアして作るショートカクテル。
アメリカでは1920年に制定された禁酒法の前からある歴史の古い、そしてポピュラーなカクテル(世界各地で飲むことが出来るが、あいにく日本では馴染みが薄い)
しばらくしてエマは2人分のカクテルを持ってきて、俺の隣に腰掛けた。
俺の前には、赤いオールド・パル。
そして、エマの前に置かれたのは、透き通る液体の中にパールオニオンが美しいウォッカ・ギブソン。
エマのカクテルを見た瞬間、急に鼻がツンとしてエマの手を握った。
エマがその手を引き俺を誘う。
「ごめんなさい、でも言えないのよ。その代り……」
エマの手が俺のブラウスの中に入って来る。
ブラのホックを外すと、背中全体に指を這わす。
指は左の肩甲骨外側を上に向けてなぞると、そのまま右の肩甲骨上部を斜め下にショートカットするように脇腹に行き、そこからゆっくりと斜め下に背骨へと向かい背骨に達するとまっすぐに登り肩甲骨の下の部分で横移動して元の位置に戻る。
一旦離された指は、爪を立てた状態で背骨の真ん中に突き立てられた。
ハッと息を飲んだ。
「これが精一杯ヨ」
「ありがとう……」
「それにしても、もう覚えたのね」
起き上がりながらエマが言う。
そう。
俺がエマに頼んだオールド・パルのカクテル言葉は『思いを叶えて』
そしてエマのウォッカ・ギブソンのカクテル言葉は『隠せない気持ち』
俺は、それには答えないで赤いカクテルをクルクルと持て遊ぶようにしながら、背中に書かれた地図の事を考えていた。
「駄目よ、私は精一杯貴女の望みに応えたの。今度は貴方が私に応える番よ」
キツイ、ウォッカ・ギブソンをクイッと飲み干したエマが、まだ飲みかけの俺のカクテルにまで手を伸ばし一気に飲み干してしまい、そのまま俺を押し倒す。
見上げるとエマの瞳が激しくギラギラと燃えていた。
いつもより激しいキスの嵐。
執拗な愛撫。
秘密を打ち明けてしまった興奮が、いつも以上にエマを高ぶらせていた。




