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グリムリーパー  作者: 湖灯
*****Is Paris burning?(パリは燃えているか)*****
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【Suspicious woman(怪しい女)】

「いよっ、上手く口説いてデートの約束は取り付けたかい? まあダメだったろうがな」

「ああ、取り付けたよ」

「それみろ。ウチの軍曹はな、オメー見てぇに玩具の的を外すような奴なんかと……えっ、いま何て言った??」

「だから、デートの約束は取り付けたぜ」

「なんてこったい! こりゃあいったいどういう事なんだ? ナトー、お前は隊内じゃ女扱いは無しなんだぜ! こんな事テシューブにばれたら――」

「馬鹿。トーニ勘違いするな、リベンジの約束をしただけだ」

「リベンジってなんの?」

「射撃の」

「射撃って言いながら、また夜店の的当てゲームを楽しむんじゃないだろうな。えっ、今度は景品でも出すのか?それとも本格的に金魚すくいや、綿菓子の夜店でも出してお祭りの雰囲気を盛り上げようか? 花火はどうする?120㎜迫撃砲をぶっ放すか?それで足りなきゃ国軍から155㎜でも借りてくるか?!」

 納得がいかない様子のトーニが、色々と突っかかってきていたが全てスルーした。

 

 次の休みの日、DGSEに行くために外出した。

 途中までは変装せずに、そして途中の大型スーパーのトイレで、いつもの眼鏡っ子に変装して出た。

 するとどうだろう。

 変装してから街を歩き始めて30分もすると、誰かが密かに後を着けてくる気配を感じた。

 変装の事を知っているのはエマとリズ、それにミューレとベルの4人だけ。

 ミューレとベルについては、すでに着けられている後に変装の事を知った訳だから、変装の事を追手に知らせた線は薄い。

 知らせたとすればエマかリズ。

 エマはDGSEだから味方のはず。

 リズは――リズはDGSEに出入りしている業者だ。

 しかも俺が何者かに着けられ始めたのは、そのリズの香水が替わってから。

 何者かに聞かれて気軽に答えたのか、それとも脅迫されて答えたのかは分からないが、情報を漏らしたのはリズなのか……。

 そう言えばベルと試合をした日にもリズは来ていた。

 一介の業者なのに。

 ひょっとしたら、リズはザリバンの人間なのかも知れない。

 丁度DGSEに着いた時、そのリズが出て行くのが見えた。

 俺は、追っ手を撒いて、リズをつけることにした。


 人を追いながら、追っ手を撒くのは面倒だったが、意外に早く追ってはいなくなった。

 リズはオフィスビルの中に入って行ったので、俺も中に入る。

“誰かに会うのだろうか?”

 そう思っていると、リズは人通りのない地下駐車場に続く非常階段の扉を開け、その中に入って行った。

 俺も続いて、その扉をゆっくりと開け中に入る。

 扉には、関係者以外立ち入り禁止の文字。

 暗い廊下に、リズの足音だけが響く。

 足音が聞かれないように、慎重に進む。

 鉄の扉が開き、そして静かに閉まる音。

 微かに金属のこすれ合う、悲鳴にも似たような音に混じってブーンと言う何かの機械が回転するような音が聞こえて、直ぐに消えた。

 俺も続いて、その扉を開けて中に入る。

 非常灯だけが照るそこには、空調関係の機械室なのだろう、人の背丈よりも高い大型の機械が何台も並びその大きな音にリズの足音が消されていた。

 普通の人間が入る場所ではない。

 護身用に携行していたワルサーP22を手に取り、機械の影から出るたびに、構えた。

 もしもリズが追跡を知っていて、ここを選んだとしたら、俺は常に後手に回る。

 一瞬の油断もならない。


 どこで待ち伏せているか分からない。

 もしかしたら仲間が居るかも知れない。

 機械音に掻き消されてしまっている気配に集中して、慎重に進む。

 風が動いた気配を感じて立ち止まる。

 ここよりも少しだけ涼しい風。

 微かに金属の軋む音も聞こえた気がした。

 リズが機械室を出たのか、あるいは仲間が入って来たのか……。

 ワルサーP22を構えたまま、壁の方に進むと、そこには3枚の鉄の扉があった。

 1枚は向こうの端。

 そして後の2枚は、90度違えてほぼ隣り合っていた。

 俺の立っている向きから言えば、正面と左。

 微かに聞こえた音の向きから、向こうの扉ではないことは確かだから、リズの開けた扉はこの2枚のうちのどちらかだ。

 むろん、カモフラージュのために開けただけという選択肢もあるので油断は出来ない。

 ただ扉を開けて出て行ったとすれば、開ける扉を間違うだけで、この追跡は終わる。

“どっちだ?”

 天井を見上げた。

 幾つもの太い配管が左のドアの向こうの壁に吸い込まれて行き、正面のドアの方には細い配管が90度曲げられて伸びていた。

 配管の並びから、左のドアの向こうはここと同じ機械室だろう。

 だとしたら、このドアを開けても涼しい風は入っては来ないはず。

 入って来るのは同じ機械室の熱気で、同じ機械の音が大きくなったはず。

 リズが空けたのは、正面の扉だ。

 鉄の扉に耳を当てる。

 微かにコツコツと言う足音が聞こえる。

 リズの物か、それとも他の誰かの物か。

 ドアノブをゆっくり回し手開くと、隙間から通路の向こうに消えようとするリズの後ろ姿が見えた。

 ドアを開けると、その裏には体格のいい男がいた。

“敵か!?”

 思わず蹴りそうになった足を止めた。

 男は、制服を着たガードマン。

「困りますねぇ、ここは立ち入り禁止と書いてあったでしょ」

「すみません」

 ガードマンは、まだ何かを言いたそうだったが、リズを見失ってしまうので慌てて走った。

 通路には、もうリズの姿が無かった。

“見失ったか!?”

 そのときT字路になった通路の左側のドアが閉まる音が聞こえた。

 リズが出たのに違いない。

 慌ててそれを追い、俺もドアを開けた。

 もう追いかけっこは終わりだ。

 リズを捕まえて理由を聞いてやる。

 ドアの向こうはガランとした駐車場。

 だが、そこに居るはずのリズが居ない。

 近くには止めてある車も無かったので、車の影に隠れているのも考えにくいし、走り去る車もない。

“何処だ!?”

 不意に頭上から何かの動く気配を感じて、頭を下げた。

 被っていたウィックが何かに当たり、外れる。

 背中の方に誰かが着地したような音が聞こえ、振り向こうとした瞬間、俺の顔に向けて回り込んで来るように黒いシューズが襲い、避けようと身を捩ると眼鏡が飛んだ。

“リズ!”

 リズは俺を待ち構えるように、天井の配管にぶら下っていたのだ。

 第1撃は、そこから降りざまのキック。

 2発目は降りてからの回し蹴り。

 そして3発目も、また回し蹴り。

 スウェーして、それを避けると、同じ向きからの連続の回し蹴り。

 頭を低くして蹴りをかわし、リズの胸元に飛び込もうとした瞬間、今度はそのリズ自体が地面に腰が付くぐらいの姿勢から足払いを仕掛けてきたので慌てて横に飛んで避けた。

 流れるような蹴りの連続攻撃。

 しかも、ひとつひとつの動作が早い。

 カンフー使いか――。

挿絵(By みてみん)

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