【Yuri(百合)】
床に脱ぎ散らかされた服。
クシャクシャになったシーツ。
そのシーツに包まっているエマと俺。
「レイラが宜しくって言っていたよ。だいぶ親身になってくれているみたいだね」
エマが俺を見てニヤッと笑う。
「やけるの?」
「まさか、俺はただ――」
「心配しなくていいよ、年上の女性には手は出さないから」
「心配だなんて……ただ、彼女変わったよね」
「ホント。今のレイラを見て、誰が元ザリバンのリビア方面軍副司令官だって思うでしょうね」
「もともと聡明で優しい人だったんだよ」
「そうね、それを戦争が変えてしまっただけ。調べた限りだけど、彼女は優秀で復讐心が人一倍強かったからかも知れないけれど、どうやら今回のリビア作戦が実戦部隊での配属は初陣みたいだったわ」
「と、言うと?」
「つまり、まだ戦争も経験していなければ、バラク以外誰も直接は殺してはいないの」
「直接殺していない?」
「そう、それまではザリバン内での在庫管理や輸送管理などの、主にシステム系の構築作業で実績を上げてきたようよ」
「事務方の管理職って事?」
「そう。それが復讐のためにリビアで初めて実戦部隊に加わったの」
「しかし、事務方が副司令官なんて、誰も承知しないだろう」
「それを承認したのは、あの大幹部のヤザよ」
”ヤザが何故……”
ベッドの上でゴロゴロしながら話をしていて、ある事を思い出し、寝返りを打ってエマの顔を覗き込む。
「なに?」
「ねえ、俺の事も調べているでしょう? どこまで分かった?」
「どこまで分かったと思う?」
「さあ……でも、バラクとハイファの事が分かった以上、大まかな生い立ちとか分かったんじゃない? 実は俺も、俺のことが知りたい」
「――それがね、バラク・アサールとハイファ・アサールについて調べても、なにも出てこないの」
「なにも出てこないって?」
「記録が削除されたか、プロテクトされているのかは分からないけれど、本当に何も出てこない。こんなことDGSEに入ってから今までなかったわ」
「そうか」
「ねえ、ナトちゃん。あなたは――」
それ以上聞かれたくなかったのか、心がムシャクシャしたからなのか分からなかったけれど、俺はエマに覆いかぶさるようにして、聞こうとするその口を自分の唇で塞いだ。
レイラにはエマとの関係を、そういう関係ではないと言ったものの、こうして抱き合ってキスをする関係というのは“そういう関係じゃない”と、否定できるのだろうか?
性的な行為と言えば服を脱いでいる事とキスをしていることだけだから、卑しい関係でもないと思うけれど、一般的にはこれもレズと言うのだろうか?
「ねえ、俺たちってレズなのか?」
「ううん。百合よ」
「百合? レズとどこが違うの」
「そうね……同じ同性の女の子同士だけど、快楽目的じゃなくて性的な垣根を越えて、お互いを認め合って好きでいるところかな」
「でも、興奮するよ」
エマの目を見つめて言うと、ニッコリと困ったような顔をして笑ってしばらく頭を撫でてくれた。
「だって、好きって言うことは胸がドキドキして興奮するってことでしょ“百合“良い響きだね」
「そういう真ん丸目で真剣に見つめられると、私、百合では我慢できなくなりそうよ」
「嫌!」
迫って来る真似をするエマから隠れるようにシーツを頭からスッポリと被ると、そのシーツの下からエマが潜り込んできた。
「そんなのじゃ逃げたことには、ならないわよ」
大きな濃いブラウンの瞳が、俺の瞳を捉える。
「エマの馬鹿!」
そうして俺たちは、またシーツの波の中に溺れて行った。




