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グリムリーパー  作者: 湖灯
A sniper called GrimReaper死神と呼ばれる狙撃兵
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【Iraq Jun2016.IRC Camp(2016年6月、イラク国際赤十字キャンプ)】

 爆撃に会い、瓦礫に埋められ、気を失った。

 そして次に目が覚めたのは、白いテントの中。

 場所は分からないし、知ったところで何の意味もない。

 腕にはチューブが挿してある。

 チューブを引き千切ると、刺さっていたところから血が出た。

 “逃げなければ!”

 しかし、起こそうとした体は思うように動かない。

 もがくと体中が痛い。

 だけど、このくらいは我慢が出来る。

 乗せられていたベッドから転げ落ち、ようやく上半身だけ起こすことが出来たとき誰かが俺を見つけて声を掛けてきた。

「ちょっと君、その体で何処に行くつもり?」

 白衣の女が俺を押さえた。

 見た事も無い“人種”

 肌の色は白いが、俺やヤザよりも橙色がかかっている。

 鼻は小振りで顔は平たくて、優しい印象の若い黒髪の女。

 女が俺の肩を掴む。

 白く柔らかい細い手。

 その手を噛んで、逃げようと考えて止めた。

 それは女の後ろに、逞しい大男が立っていたからだけではない。

 なにか、この女に逆らってはならない気がした。

「あなたは肋骨の半分以上が折れているのよ。それに極端な栄養失調も、だからベッドで安静にしていないといけないのよ」

「あんせい?」

 聞いたことのない言葉に戸惑う。

「安静とは、静かに寝る事よ」

”静かに寝る!? これは聞いたことがある、ヤザ達が負傷した敵の兵士を打つ時に、よく言っていた言葉だ! つまり、この女は俺にとどめを刺そうと言うのか?”

 悪あがきだとは分かっていたが、スンナリ殺されて堪るかと思い暴れた。

 だけど直ぐに横に居た大男に体を押さえられ、女が腕に注射針を刺した。


「なっ、なにを……」


 気持ちが遠くなって行く。

 仲間が何人も、薬の大量摂取で眠るように死んでいったことを思い出しながら、気持ちが暗闇に呑み込まれていった。


“とうとう俺も、死ぬのか”



 心地よい囁きが聞こえる。

 俺たちの言葉ではない、優雅な言葉。

 その言葉は、ゆったりとしたリズムと声の強弱と音程を持ち、まるでこの殺伐とした砂漠ではない別の楽園に住む小鳥の囀りのようだった。


“俺は、死んだのか?”


“ここは天国と言うところなのか?”


“いや、人を沢山殺した俺が、天国へなど行けるはずもない”


 次の瞬間、眩しい光に目が覚めた。

 俺は手足を縛られたうえ、変な器具を着けられて口を強制的に開けさせられていた。

 女の手には鋭利なピンのようなものが握られていた。


“拷問!”


 薬を撃った後は、拷問か?

 知りたいのは何だ?

 俺たちの隠れ家か?

 それとも俺が殺した兵士の数か?


 女がピンを近づける。

 だが決して俺は拷問に屈して喋ったりはしない。

 女は俺の歯を、その固いピンで突いている。

 口の中に爆弾を仕掛けているのかと思い、嫌な記憶が蘇る。


 そう、あれは2年前。

 丁度、テロの鎮圧にイラク軍だけでは手に負えなくなり、多国籍軍が介入し始めた頃。

 捕まえた酔っ払いの体に、爆弾を巻き付けたことがあった。

 そして爆弾を外す鍵は、通りの角に止めてあるイラク軍の装甲車の中だと教えて放した。

 酔っ払いときたら、良い年をして涙と鼻水、それに小便を漏らしながらヨタヨタと装甲車に近づいて行った。

 警戒にあたっていた数人の兵士が、銃を構えて止るように命じるが、酔っ払いは「鍵をくれ」と泣き喚くばかり。

 足元に威嚇射撃されても、怯まず装甲車に近づいて行く。

 逆に怯んで後ずさりしているのはイラク軍の兵士達だった。

 その光景を俺はヤザ達と一緒に見ていた。

 ヤザ達は、なにが可笑しいのかクククと笑いながら、俺の作った起爆装置を握っていた。

 兵士の一人が、持っていたマシンガンではなく拳銃を使って、酔っ払いの足を撃ち、酔っ払いは俯せに倒れた。

 地面に蹲ったまま、酔っ払いは泣いている。

 暫らく離れて見ていたその兵士が、その酔っ払いに近づき、そのタイミングでヤザが起爆装置のスイッチに手を掛けた。

 耳鳴りがするほどの激しい爆発音と砂ぼこり。

 やがて幾つかの悲鳴が聞こえ、砂ぼこりが薄くなって見えたものは、居なくなった酔っ払いと横たわるイラク軍の兵士。


「はい終わったわよ」

 俺の口の中にピンを入れて、拷問しようとしていた女が笑った。

「歯磨きはチャンとしなさい。口中歯石だらけだったよ」

「歯石?」

「そうよ。ハイッ」

 拘束されていた縄が解かれて、自由になった手に渡されたのは小さなブラシ。

「これでチャンと歯磨きをしなさい」



 女の名前はサオリ。

 そして金髪の大男の名前はミラン。

 二人は国際赤十字に所属する医師。

 この難民キャンプには、その他にも様々な国から大勢のスタッフが来て働いていた。

 二人は何故か俺のことを気にかけてくれ、傍に置いた。

 配給の水くみから、井戸掘り、それに病人や老人、幼児の介護。

 働き終わると勉強も教えてくれた。

 サオリからは英語と社会、それに護身術を習い、ミランからはフランス語と数学と理科を習った。

 その他に言葉使いやマナーなど身の回りのことも。

 何故そんなに親身にしてくれるのか分からなったが、居心地は良く、二人はいつも俺に優しくしてくれた。

 そしてある時サオリに言われた。

「もっと女の子らしくしなさい」と。

「俺は女じゃない」

 そう思っていた。

 俺はハイファが死んだ後から粗悪な環境で育てられていたから、自分自身のことなんてまるで分かっていないかった。

 生きるのが精一杯だったから。

 だから、サオリに女と言われて驚いた。

 自分があの力の弱い、綺麗な服を着ていてお喋りな女だなんて、ひとつも思っていなかったから違うと反論した。

「ほら、だって、ちんちん無いでしょ」

「それは、大人になったら生えてくるんだろ?」

 同世代の男の子も知らなかったので、そう信じていて答えると、大笑いされた。

「男の子はね、最初から付いているのよ」

「でも、サオリみたいに胸はないぞ!」

 ムキになって言うと、チャンと栄養をとれば、もう直ぐ胸が膨らんでくると言われた。

「サオリみたいにか?」

「うーん。ナトちゃんは屹度、私よりもっと大きくなるかも」

 そう言って、また笑った。


 ここに来て三年が経った。

 今では、たいていのことは自分で出来るようになり、二人から覚えが早いと褒められる。

 そして、サオリが言ったように胸も膨らんできた。

 昔、俺を教育したヤザとは大違いだ。

 全く違う環境に最初は戸惑っていたが、今では褒められることが嬉しくて何でも率先してやる力を身に着けた。

 笑うことも覚えた。

 サオリとミランは恋人同士。

 仕事の時は、そんな関係を微塵も見せなくて、どちらかと言えばサオリの方が偉そうだけど、仕事が終わったあとのサオリは猫のように愛らしくミランに甘える。

 料理も上手い。

 いつも他のスタッフと一緒に夕食をとるけれど、サオリが調理当番の日が一番美味しくて楽しい。

 そして俺は必ずサオリが当番の日に、隣でお話をしながら、お手伝いをする。

 今夜のメニューは“肉じゃが”と言うジャパニーズシチュー。

 ポークと、ポテト、キャロット、オニオンの食材に、日本から持って来た黒いいゼリーと油で揚げたチーズのような物が入る。

 サオリからコンニャクと厚揚げだと教えて貰ったが、これがチョッと甘めのソイ・ソーススープの味を吸って美味い。

 特に面白いのはスープを作るときにブイヨンの代わりに使う、黒いプラスチックのような板と、木の削りカスのような物を入れるところ。

 その不思議なスープの素は、何度聞いても「魔法の調味料よ」と言って笑うだけで教えてくれない。

 そして、そのスープは、どんなブイヨンを使うよりも美味い。

 あと、サオリが何度か日本に帰ったときに、お土産として持ってくる海の匂いを染み込ませた黒い紙も美味しい。

 これはライスの時に上に被せて食べると凄く美味しかったけれど、これも日本に伝わる魔法の紙だと笑っていた。

 服装は作業のしやすいカーゴパンツにポロシャツと昔と余り変わらないが、この頃になると自然に自分の事を“わたし”と言えるようになっていた。

挿絵(By みてみん)

あらっ!

昨日まで暑かったと思ったら、今朝は意外に涼しい♪

明日からは全国的に気温が下がるそうです。

みなさん風邪などひかないように。

風の季節は、とにかく外出を避けて予防するのが私流の対策です!

さあ!読書の秋!

頑張るから、みなさんも沢山読んで下さいね♡

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