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グリムリーパー  作者: 湖灯
*****Opération“Šahrzād”(シェーラザード作戦)*****

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47/273

【Rescue operation of Baraq(バラク救出作戦)】

 店の戸が開けられる音で目が覚めた。

 いや、本当は戸が開けられる前に、人が近づいて来る気配を感じていた。

 やって来たのはエマが “ボーイフレンド” と言った人物。

 額面通り、それが本当のボーイフレンドなのか、それともボーイフレンドというのが、その人物を表すコードネームなのかは分からない。

 だけど、相手が来た以上、ここに横になってはいられない。

 階下に降りようとしたとき、階段を上がってくる足音が聞こえて慌てて服を整える。

 開けっ放しにしていたドアの前で、コンコンと壁を叩く音。

「どうぞ」

 普段、このくらいのことでは緊張も動揺もしないはずなのに、妙に心臓がドキドキして声が擦れた。


「やあ!」

 俺の返事を待って、そこから顔を出したのは清涼感のある白いスーツを着たハンスだった。

「ハンス!……でも、どうして」

「俺がお前のボーイフレンドとして、エスコート役に任命された」

 いつものように、感情をあまり表に出さないその喋り方に、何故か心が熱くなる。

「任務は?」

「まあ、俺たちは “夜勤” だから、昼は開いている。それに、リビアに来てからまだ一度も休暇を取っていないから、今日くらいは良いだろう」

「でも、遊びじゃないぞ」

「知っている」

 ハンスは表情ひとつ変えずにそう言った。

「相変わらずクールだな」

「そっちこそ」

 そう言って、お互いの顔を見合わせ、お互いに口角を上げた。


 少し間をおいてからエマが部屋に入って来た。

「どう、久し振りのボーイフレンドの、お味は?」

 見つめあっていた目を外し、下げた手がまだ触れ合っていたので慌てて引っ込めた。

「あら、御免なさい。まだこれからだったのね」

 俺の慌てた動きを見たエマが笑う。

「揶揄うな!」

 エマの言葉に反論するように返した俺とは正反対に、ハンスは落ち着いて俺の隣に腰掛けた。

「それでは、作戦を聞こうか」

「OK!」

 エマがテーブル上に地図を広げた。


「作戦はいたって簡単。ある夜、道に迷って悪魔の城に迷い込んだお姫様は、そこに住む魔王と出会う。死を覚悟したお姫様であったが、なんと魔王はお姫様を監禁するどころか逆に悩みを打ち明ける。魔王の立場を捨てて自由になりたいと。魔王は自分の悩みを打ち明けると、お姫様に地図を書いて帰り道を教えてくれた」

「なんか、芝居掛かってない?」

「いいの、ここからが本題だから」

 そう言ってエマは話を続ける。

「魔王が書いてくれた地図のおかげで、無事お城に戻ることが出来たお姫様は、それを王子様に話す。丁度、王子たちは魔王の城に攻撃を掛ける準備をしている所だったので、お姫様の地図を逆に辿れば面倒な悪魔どもに邪魔されずに、魔王のいる玉座の間まで辿り着けると喜んだ」


 急にエマが歌い始める。

 〽『待って!魔王は私のことを助けてくれたのよ』

『しかし、魔王は魔王。悪魔の首領だ!』

『でも、反省しているの。魔王はもう悪いことを止めて自由を求めているの、お願いだから魔王を許してあげて』

『許すなんて出来るわけがない。魔王のせいで沢山の人々が傷ついた』

『どうしても?』

『ああ、どうしても!』

『魔王は、生まれ変わろうとしているのに?』

『過去の過ちを許すわけにはいかない』

『私が、こんなに頼んでも?』

『姫、許しておくれ。魔王は君に優しかったけれど、僕にはそれが本当のことなのか信じられない。君は騙さているのかも知れない』

『そんな!酷いわ』

 泣き崩れるお姫様の肩に、地図を握りしめた王子の手が置かれる。

『分かっておくれ……』

 その時、雲の切れ間から一陣の光が差し込みアフロディーテの声が届く。

『二人で調べておいで』

『『二人で!』』

『『調べる?』』

『そう、本気で魔王を救うのなら、本気で魔王を倒すのなら、先ず二人の目で確かめるのがいちばんよ』

『『でも、私たち(俺たち)二人だけで、どうやって?』』

『あなたたちには、これを持たせてあげましょう』

 アフロディーテがそう言うと、手にブレスレットが付いた。

『『これは?!』』

『これは、あなたたちがどこに居ても、私たち神々にその場所を知らせる魔法のブレスレッドよ。あなたたちが危なくなったとき屹度役に立つことでしょう』

 エマの、一人ミュージカルが終わった。


「なんで自分だけアフロディーテなの? それになんでミュージカルなの?」

「それは、ナトちゃんがあんまり可愛いからなのよぉ~♪」

 そう言いながら手渡されたのは、GPS機能付きの腕時計。

 それと、立派な花束。

「時計は分かるけれど、この花束はなに?」

「これはハンスが持つの。道に迷った恋人に地図を書いてくれたお礼よ」

「えっ!じゃあ、いまの三文芝居って?」

「失礼ね。三文芝居じゃなくてミュージカルよ、そしてこれが作戦よ」


 “もーエマったら、どこから本気で、どこからが冗談なのかさっぱり分かんない”


 エマに手伝って貰い、いつもよりチャンとお化粧をした。

 それからハンスが買って来てくれた白いワンピースのドレスに、白いハイヒール、それに首には青色のスカーフを巻いて準備完了。

「あと1階に帽子があるから。私、先に降りているから、少しは恋人らしく出来るように練習してから降りて来てね!」

 そう言ってエマはバタバタと、階段を下りて行った。

「恋人らしくっていっても、困るよな」

 おどけた顔でハンスを振り返った。

「仕方ないだろ、任務なんだから」

「じゃっ、とりあえず手でも繋ぐか」

 ハンスの差し出した手を掴むと、瞬く間に俺はハンスの胸の中に収められた。

「手を繋ぐだけでは、恋人同士には見えんだろう」

 ハンスを見上げていた俺の顔に、ハンスの顔が覆い被さり、唇にもう一つの熱い唇が重なる。

 いつも紳士的なハンスの行動に戸惑い、その胸を強く押し、合わさった唇を離す。

「珍しいな、任務の準備を躊躇うなんて……」

 “そう。これは任務だ”

 ハンスの言葉に勇気が出て来た俺は、ハンスの胸に押し当てていた手を除けて、それを首に巻き付けて唇を押し当てた。

 ハンスも俺の腰に腕をまわし強く抱きしめ、俺たちは堰を切ったようにお互いの唇を求めあった。

 しばらく恋人同士の練習をして、下に降りた。

 前を降りりてゆくハンスが、ハイヒールの俺を気遣って手を握ってエスコートしてくれる。

 ムサが、それを見て「おぉ!」と感動してくれて、エマと2人で拍手して出迎えてくれ、こそばゆい。

「まるで新婚の夫婦みたいじゃ! これなら、誰にも疑われたりはしまい」

「だって、本物の恋人同士ですもの」

 エマが軽口をたたいたので、そこは「任務だからだ!」と全力で否定したが、隣のハンスは何故か涼しい顔。

「あらあら、練習が過ぎるわよ」

 そう言ってエマが口紅を塗り直してくれ、その時だけハンスが軽く咳払いをして、はにかんだ。

 塗り終わった口紅を、俺のハンドバックに仕舞う。

「それでは頼んだわよ。最終集合地点は、ニルス少尉たちの居るあのホテルだからね」

 

 白いスーツに、色鮮やかな花束を持つハンス。

 その横で、同じ白いワンピースのドレスを着た俺。

 まるで新婚旅行をしているような2人。

 街を歩く人たちが、ことごとく俺たちを見て振り返る。

 しかし、見た目の華やかさとは裏腹に、俺たちの任務は “敵前上陸” いや、それよりも “特攻” に近いかも知れない。

 この真っ白な服が真っ赤に染まることを覚悟して、ハンスと2人仲睦まじくバラクの居るアジトに向かって進む。

挿絵(By みてみん)

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