【Port 28 warehouse ②(港の28番倉庫)】
しばらく待っていると、クリーフからの連絡が来た。
“ソノホカニ・テキ・ミアタラズ”
そうなれば罠の可能性が大きい。
どうする?
ずらかるなら早いほうがいい。
そう思ったとき、正面のドアが開く音がして、1人入って来た。
「よう、遅いじゃないか。いつまで小便してやがるんだ」
「いいじゃないか、小便くらい。どうせ暇なんだし」
「違ぇねえ」
「まったく、とんだ荷物番だぜ」
そう言うと、その男はカードゲームの輪に加わって座った。
これで敵の人数と銃の数が揃った。
俺はコンテナから降りて、ムサと一緒に一旦外へ出て作戦を練ることにした。
道端に石で線を引きながら、伝える。
ドアは3か所、それぞれに1人ずつ配置して敵の逃げ場を塞ぐ。
敵は用を足しに、正面のドアから外に出るとして、先ずは正面ドアから外へ出たものを片付ける。
裏のドアの2人は中に侵入しておいて、正面のドアから敵が出て1分後に作戦を開始する。
「敵の銃はどうする?銃が中央にある限り、こっちが取り付くよりも先に敵の誰かが、それを手にするぞ」
「それは、あらかじめ1人中央付近に侵入させておいて、それで開始と同時に武器を無効化してしまう」
「どうやって?」
「腕ずくで俺がやる」
「敵が用を足しに裏から出ようとしたら?」
「裏から出る奴は大丈夫だろう」
「なぜ?」
「そいつがするのは小便じゃないから、少しくらい戻ってこなくても誰も怪しまない」
「なるほど」
確認のためなのか、ムサが色々と聞いてくる。
「もしも、用を足しに出るのが1人じゃなかったら?」
「連れしょんはあるだろうな。でも連れうんはないから、それがあるとすれば正面の扉だけだろう」
「2人を相手に、声を出させずにノックアウトさせるのは難しいぞ」
「あんたなら、なんとかなるだろう」
ムサはクククと声を殺して笑い出して言った。
「面白い、乗った」と。
作戦の実行時間は相手任せ。
その前に、敵の応援が来れば、それまでだ。
しかし、今はまだ深夜。
夜明けまでには時間が充分あるし、それまでに敵は用を足しに出るだろう。
ムサ以外の3人は、倉庫の中に侵入した。
エマとクリーフは通路の脇にあるコンテナの陰に隠れ、俺だけがコンテナを上り、ゆっくりと音を立てないように中央のなるべく敵に近い位置まで忍び寄る。
1時間が過ぎ、それからまた30分が過ぎたころ、カードゲームをしていた5人が立った。
「おい。交代だ」
床に寝転んでいた3人と木箱の傍に居た2人が起き上がる。
「のんびり寝やがって、この野郎」
今起きたばかりの1人が、腹いせに縛られているエージェントを蹴った。
そして5人が正面のドアから出て行こうとする。
“5人はマズイ!”
いくらムサとはいえ5人に声を出させずに片付けるのは無理だ。
“どうする?直ぐ動くか?それとも作戦を中止するか?
「あっ俺は大の方だった」
そう言って5人のうち1人がクリーフの待機する裏のドアに向かって行った。
“しかし、まだ4人”
腹をくくって、敵の声がした瞬間を狙って決行するしかない。
幸い5人が銃を持たずに倉庫の外へ出てくれたということは、残った5人を俺たち3人で始末すればいいということだ。
ムサと争う声をじっと待つ。
ところが出て行った4人は、なんの音沙汰もない。
ムサが不利と見て、あえて戦わなかったのかも知れない。
戦わないのも良い判断だと思うが、そうすると、今ムサはどこに居る?
中か?
いずれにしても、外に出た4人が戻ってくる前に動かないとヤバイ。
「おっせえなぁ~、あいつら一体何してやがるんだ?」
そう言って、1人が正面のドアの方へ向かった。
こいつがドアの向こうに出たときが最大のチャンス。
先ず一番手前の敵に襲い掛かる。
折角後ろを向いてくれているので延髄蹴りで一気に倒し、傍に立てかけてあった銃を後方に払い除ける。
銃の傍に居た敵が銃を手に取ろうとしたので、その手を蹴りつけると銃を離して足を受け止められてしまった。
俺はそのまま体を回転させて、掴まれていないほうの足の踵でコメカミを蹴ると、敵は倒れた。
正面の敵が、銃を掴んだ。
俺は今倒した敵が取ろうとした銃の先端を握り、ブーメランのように投げつけた。
狙い通り銃床が敵の顎を捉えようとして、とっさに避けようとした敵の手から銃が離れた。
飛び込み前転の要領で一気に敵の懐に入ると、そのまま背筋を伸ばして頭頂部が敵の顎意を捉え、そのまま側転して敵に備えて身構えた。
しかし、もう敵はいなかった。
立っているのは、俺の正面にクリーフ。
クリーフの前には、彼が倒した男。
そして正面のドアからムサとエマが入って来た。
「凄いね、君。いったい何者?」
クリーフが驚いて、俺の手を掴む。
「今は、アマル・ハシュラム。エマの従妹だ」
外に出た4人は、ムサと、応援に出たエマの二人によって伸びていた。
エマは自慢そうに、携帯のスタンガンをパチパチと言わせていた。
なるほど、その手もあったな。と思った。
捉えられていたエージェントの縄を解き、今度は捕らえた10人の縄を結ぶ。
結びながらエマに話しかけた。
「エマが正面に回って、ムサを助けてくれたんだね」
「だって、ここに居てもどうせナトちゃんが敵を簡単にやっつけてしまうから、私の出番なんて無いでしょ」
「それだけじゃ、ないだろ」
俺がそう言うと、エマの顔が赤くなるのが分かった。
「さて、ここからどうする?」
「そうねぇ~。問題は、この倉庫にある品物ね」
「何がある」
「武器よ」
エマが、箱の一つを開き、中を見せた。
中にはRPGが綺麗に並べらえてあった。
「部隊を呼ぶか?」
「駄目よ。回収した武器は、いつか誰かがどこかに横流しして再び私たちを襲うの」
「本当なのか?」
「残念ながら、世界はそういう仕組みになっているみたいね」
「だったら、どうする?」
「燃やしましょう。そしたら誰ももう使うことは出来ないわ」
「捕虜たちは?」
「そうね、捕虜たちには申し訳ないけれど、火災に巻き込まれた事にでもしましょうか?これだけの武器が燃えるのだから、おそらく死体も残らないわ」
「それは駄目だ、依頼主との約束を破るようなことは出来ない!」
俺の睨む目を見て、エマがクスリと笑う。
「嘘よ。でも、そう言うことにしておけば、この人たちだって助かるのよ。開放なんかしてみなさい、直ぐに責任を取らされて10個の首が落ちるのよ」
そう言って、携帯でどこかに連絡をしいた。
直ぐに観光バスが来た。
「これを手配したのか?」
「そうよ。これから沢山のエージェントと共に、仲良く国外に出てもらうの」
「捕らえたエージェントの仲間に、今度は捕らわれるっていうことか」
観光バスの車内には大勢の外国人。
これが全員エージェント。
そして、この中に混じって捕虜も乗せられて観光バスが出発した。
行先はフランス。
「捕虜たちは、どうなるのだろう?」
「まあ、それは私たちの腕次第よ」
「と、言うと」
「ここの平和になんの問題もなければ、彼らは1年も経たずに戻れるでしょうね。でも内戦状態になれば、それが続く限り彼らを帰すことは出来ない。だって戦士なんだもの」
「そうか――そうだな……」
「さっ、私たちもそろそろ行かないと、行方不明になっちゃうわ」
そう言ってエマが起爆装置のスイッチを入れた。
慌てて車に乗り込み、急いで車を出した。
しばらくすると、パッと夜空が明るくなって、それからドンという爆発音。
その衝撃は、移動している車にも届いて、爆風で車が転倒しそうになるくらいだった。




