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グリムリーパー  作者: 湖灯
*****Death fight! Zariban Plateau(死闘!ザリバン高原)*****
270/273

【Court martial②(軍法会議)】

「ナトちゃん大分不利ね」

 ユリアの言葉にハンスが返す。

「ああ、かなり形勢は悪そうだな」

「そもそも、あのナトちゃんについている弁護士、いったい何?やる気あんのかって聞きたくなるよ」

「打つ手がないんだよ」

 ニルスがボソッと言うと、ユリアが噛みつくように身を乗りだした。

「なんで?」

「全ての不利な状況が、ナトー自身によって作られているから」

「そうよねぇ~……一体なんで、あんな嘘をついて戦場を抜け出したのかしら」

「畜生!なんでこんな肝心な時にエマは居ねえんだよ!」

 最後にトーニが吐き捨てるように言った。

 午前中の審議が終わったあと、喫茶店で集まって作戦会議。

 ところが我々の証言は、ことごとくナトーの不利になるものばかり。

 何とか打つ手はないものか。

 トーニの言う通りエマが来れば何とかなるのか?

 いいや、エマが来ても何も変わりはしない。

 全てはナトーの不可解な行動と、あのザリバンの首領アサムや鬼のヤザ隊長がナトーを特別扱いしていたことで脱走罪と国家反逆罪の適応がかなりの確率で危ぶまれる。

 脱走罪でも、一番重い敵前逃亡は逃れそうだが、それでも1年程度の禁固刑は確実だ。

 更に罪の重い国家反逆罪が加われば、十数年から数十年の禁固刑が加算される。

「まあ、国家反逆罪の立証は難しいだろうね。とにかくナトちゃんは何故か敵に気に入られただけなんだから」

 ニルスが言った言葉に一同がホッと肩をなでおろした。

 とにかくナトーは何も情報を漏らしていないし、敵に加担した行動も取っていない。

 それは今回の全ての戦域で証明されている。

 問題になっている1人でアサムを追ったのかどうかと言う点に関しても、味方の損害が出ていない以上我々の側に不利益は生じていない。

 何故か敵のラスボス2人と仲がいいと言う疑問を除いては……。




 自分で蒔いた種だから何も言い訳出来ない。

 ヤザに復讐するために、そして自らの死に場所を求めて、これまで共に戦ってきた仲間を騙してまで行った単独行動。

 まさかこのような顛末が待っていようとは。

「なあナトー君、何か理由があるんだろ、そこの所を正直に打ち明けてくれないと、このままじゃ何の反論も出来ないうちに裁判が終わってしまうよ」

 弁護士からそう言われるまでもなく、そのくらいのことは分かっている。

 アサムの右腕とまで呼ばれるまでに信頼されているヤザが義父だった事を今更白状してしまうと、これまで世話になった人たちを全員巻き込んで大変な騒動に成り兼ねないばかりか、罪状もスパイ容疑主体に進められ終わりのない裁判が続くだろう。

 無論あの最後の狙撃依頼、殆ど関係はないから、どれだけ調べたとしても何も出ては来やしない。

 けれども、何も出てこない事を認めることのできない人たちにとって、それは許しがたい事。

 屹度彼らは俺だけじゃなくヤザまで捕らえようとするはずで、そうなればまた激しい戦闘が起きて、多くの人が巻き添えを喰らう。

 だからおれはヤザの事は話さない。

 彼らはありもしない事実を求めて永遠に裁判を続け、俺は拘置所から出ることが出来なくなる。

 終身刑と同じ境遇。

 まあ、それも俺が今までしてきたことを考えれば仕方がない事だ。

 サオリの事もそう。

 サオリが何をしているのか、また何をしようとしているのかは分からない。

 交渉人が何なのか。

 また、交渉相手が誰なのか。

 武器の取引の交渉なのか、戦の地域を交渉しているのか、あるいはその逆に和平の交渉を担っているのかは分からない。

 だがターニャは、ターニャとして、居てもらわなければならない。

 迂闊に交渉人の正体をバラしてしまうと、サオリの身に危険が及ぶ可能性は高いばかりか、交渉自体にも問題が生じるはず。

「ねえ、黙っていないでさあ。このままだと3年から5年の禁固刑は固いよ。まあ君の場合、輸送機を守った他にも数々の功績があるから、実質は恩赦と言う事にはなるだろうけど、除隊は避けられないと思うよ」

「除隊は嫌だな」

「だったら――」

 除隊は正直嫌だ。

 今まで苦労を共にしてきたLéMATの仲間たちと別れるのは寂しいし、何よりもハンスの傍に居たい。

 本当の事を隠したままでは、この裁判を乗り切ることは出来ない。

 自分1人の手柄としてアサムの命を狙ってみたものの、話してみるとわりと好い奴だったので友達になってしまった。

 これが、隠したピースを使わないで作ることのできる御伽話。

 一般的には、ちょっとアルアルな事だけど、実際の戦場ではあり得ない。

 結局除隊を覚悟するしかないと思いながら、午後の法廷に向かった。

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