【Evening party with President Poker②(ポーカー大統領との晩さん会)】
「ユリア中尉。君はどうしてここに?多国籍軍にウクライナ軍は参加していないはずだったと思うが」
俺と話した後、次はユリアに話しかける大統領。
「ナトー軍曹と約束しましたから」
「約束?」
「はい。ナトー軍曹が休暇でキエフを訪れてくれた時、チェルノワ大統領の晩さん会に呼ばれた後、お互いの身に危険が及んだ時に助けに行くと約束しました」
「軍曹、君はあの美人大統領として名の高いチェルノワの晩さん会にも呼ばれたのか。一体どういう経緯で?」
「……」
他国の内情を他所の国の大統領に気軽に話しても良いものだろうかと、気兼ねして返事をしないでいると代わりにユリアがポーカー大統領に話してくれた。
「キエフの観光客を狙った爆弾テロを、ナトー軍曹が未然に防いでくれました。それはポーカー大統領もご存知の通りですよね」
“知っているのか??”
ユリアが言った最後の言葉に驚いた。
「何故ワシが知っていると思う?」
「クリミアをロシアに取られたウクライナ情勢は、ザリバン、中東諸国、中国、北朝鮮と並ぶアメリカの“厄介な”関心ごとでしょう?」
「ハッハッハ。これは一本取られたわい」
ポーカー大統領も男だと思った。
笑いの質が俺と話した時とはまるっきり違い、警戒感が取れて心の底から面白がっている。
つまり美女には弱い。
ユリアは、控えめに見ようとしてもテレビか映画の女優に見える。
それもそのはずで、図書館で女優名鑑を見ていたらアリシア・ヴィキャンデルと言うスウェーデン出身の女優さんにソックリ。
素直そうで、誰にでも可愛がられる美人。
それがユリアの特徴。
背が高くて左右の眼の色が違い、まるでお婆さんの様な銀色の髪を持つ俺とは大違いで羨ましい。
大統領との謁見が終わると、ハリス少将に連れられて晩さん会の会場に向かうとき、ハンスに手を捕られ強引に引っ張られた。
「何かね?ハンス大尉」
「ちょっチョット、トイレ休憩を下さい」
「あっ、そうだな」
ユリアは何かを察したらしく付いて来ないが、俺には何のことだか分からない。
グイグイ引っ張られて、トイレの前に着いて、ハンスが取った俺の手を離した。
「いったいどういうつもりだ!」
「何が?」
ハンスは怒っている。
だけど、ハンスが怒る理由が見当たらない。
「相手が誰だと思っているんだ」
「アメリカ大統領のミッキー・ポーカーだろ」
「“だろ”って……お前なぁ、そのアメリカの大統領の前にして、堂々と“敵がアメリカでも戦う”は普通に言っちゃならんだろう!」
「どうして?ザリバン兵だったら普通に戦うだろ?」
「あのな、なんでもかんでも、正直に自分の気持ちのままに答えれば良いものではないんだぞ」
「――つまり嘘をつけと?」
「嘘は良くないが、あまりにも正直すぎるのも良くない」
「じゃあ、いったいどう答えればよかった? ザリバンだったら逃げたとでも? それともアメリカ軍には敵わないから降伏したとでも言えばよかったのか?」
ハンスは困って少し考えてから「話を濁せ!そのくらい分かるだろう!」と突っぱねられた。
会場と言っても、他国に設置された空軍基地なので洒落たホールなどは無く、ただの食堂。
食堂の前でハンスと俺は外人部隊の列に、ユリアはウクライナ軍の列に分かれた。
仲間が国別に分けられることに、違和感を覚え、少しだけ嫌だった。
「「軍曹!」」
部隊の列に戻るとき、懐かしい声が俺を呼んだ。
「ジム!ゴードン!」
あの輸送機で共に戦った仲間。
最後の戦域では分かれたが、共に死と隣り合わせの苦労をした仲間。
俺は人を掻き分けて2人を目指して進んだが、最後には掻き分けることが面倒になると言うよりも、一刻も早く2人の傍に行きたくて人の波を飛び越える様にしてダイブしたまま2人に抱き着いた。
「カナダ軍と一緒の戦いはどうだった?きつくはなかったか?怪我はしなかったか?帰国したレイやゴンザレスとは会えたのか?」
まだまだ聞きたいことは沢山あった。
「軍曹が教えてくれた場所に狙撃兵を集めて、割と簡単に敵を防げました」
「カナダ軍の将校は、俺たちの経験を認めてくれ、頼りにしてくれましたよ」
「そうです。嫌な思いは一つも有りませんでした」
「いや、俺は軍曹と離れたのが嫌だったぜ!」
「ひどいぞジム。それは俺も同じだ」
「軍曹はどうでしたか?」
「また派手に敵を蹴散らしたと噂で聞きましたが」
「なんでも逃げ出したアサム一味を、単身で追いかけたとか聞きましたが本当ですか?」
たった1日同じ戦場で一緒に戦っただけだが、もう何十年も一緒にいたような感覚になり、話は尽きない。
また勝手な行動をとり、怒り心頭のしかめ面をして人波を掻き分けながらハンスが到着するまで、こうして話していた。




